嵐の足あと

hanahui2021.6.1

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別れ ~鯉太郎 視点~

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ビックリした。
同時に…泣き出しそうだった。
「今夜から、家には戻ってくるな!
他の…皆のところにでも 泊めてもらえ‼」
遊び疲れて ほら穴に戻ると おじさんにそう言われた。

++++++++++++++

最初の頃 なにを言われてるのかわからず、しばらく 棒立ちのまま固まっていた。
ズリズリズリ…やや強制的に ほら穴から押し出され…
パタン。
ドアの閉まる音で 我に帰り、はじめて なにを言われたのか理解した。
『なにが、いけなかったんだろう?』
『ぼくのなにが そんなにおじさんを怒らせたのかな?』
『もしかして、【毎日 遊んでばかりだった】のが、ダメだったとか?』
『おとなしく おじさんに寄り添っていなかったから…怒っちゃった?』
疑問にした一方で、それに違いないと確信していたぼくは
「明日から、ぼく、いい子にするから!」
「もう、遊びになんて行かない!ずっと、おじさんと一緒にいるから。
おねがいっ! ココ…開けて‼」
泣きながら、ドアを叩いてお願いするけど…・
そのドアは開くことはなかった。
それどころか、おじさんの声 一つ、聞こえない。

++++++++++++++
どのくらい経ったのだろう?やがて涙も枯れ果てた。
しかし、最後に もう一度と
「開けてよぅ~」 頼んでみたけど…かたくなに ドアの開くことは なかった。

鯉太郎は、今度こそ諦め その場を後にする。
気を抜くと ヘロヘロに崩れてしまいそうな体を、励ましながら泳ぐ。
といっても、さほど進んではいなかった。
ほら穴から 一番近い家に、助けを求める。
事情を打ち明け、「とりあえず今夜 泊めてほしい」とお願いしてみる。
ところがーーー
「あら?今晩と言わず、いつまでも 居てくれて、良いわよ」
おかみさんは、あっけらかんと 言った。 
「うちは 見ての通りの大所帯。
だから 大したことできないけど それで構わなければ…いつまで居てくれても良いわよ!
ウチにとって、一人増えることくらい 大したことじゃないから、安心しなっ‼」
そう言って、ガハハ…と笑った。
「ありがとう ございます」 言葉と同時に、深々と頭を下げる。
『本当に 助かった…』
鯉太郎は、心の内で感謝しながらも、挨拶を早々に切り上げた。

++++++++++++++

早速、手近な部屋にかけ込み、その部屋の隅に陣取る。
さすが 言ってたとおり、それぞれの個室など与えられるはずもなく
部屋の中央では 自分と同じくらいの稚魚たちが 追いかけっこをして 遊んでいた。
ドタバタと 土ほこりをあげ 泳ぎ回るさまは、
まるで 学校の教室を、思い起こさせた。

鯉太郎は、キャーキャーと上がる黄色い声をバックに、 考えに没頭したくて ソッと目をとじる。

++++++++++++++
【離れる】なんて 一ミリも考えたことなかった。
大好きだった。
スゴく感謝もしていた。
ヘタをしたら、少しの期間しか 共にすごさなかった【本当の親】以上かもしれない。
増水した川で 同じように流されていった仲間の顔が、次々に浮かんでくる。例外なく ぼくも巻き込まれ、運良くぼくは助け出された。おじさんの手によって。
少し考えただけで、背中に悪寒が走り、鼓動を刻む心臓は、その動きを速くする。
だから…。
今後は、その恩返しをしながら 一生おじさんについていくつもりだった。
なのに…それすら、ぼくには許されないのか?
悔し涙が、頬を伝い ズボンを濡らしていく。


++++++++++++++
~ゼベットside~

最近、悩みというか わりと困っていることがある。
元はといえば、【自分のせい】だとも言えるのだが。
悩みの種は…鯉太郎。

台風の時に助けた魚は、鯉の稚魚で名を【鯉太郎】といった。

鯉太郎は、みるみる間に元気を取り戻し、今は楽しそうに外で皆と遊んでいる。
それについては、なにも文句はない。 
むしろ、子供は元気に外を泳ぎ回っている方が良いとさえ思っている。
だから、外出している昼間は なにも問題は無い。
問題は夜なのである。
鯉太郎が帰宅していても、まだ私の意識もハッキリしている間、要するに 起きている間は 私が気を張っていれば良いのだが。
問題は、朝の寝起き時分や真夜中、寝ぼけた頭で 行動する場合である。
現に、もう数度、鯉太郎を食べてしまいそうになったことがある。
鯉太郎の身の安全を考えたら、私から離れた方が良いことは明白。
ただ…なけなしの私の我儘が…、決心を鈍らせる。
『もう一人は嫌だ』と…『私が気をつけていれば何とかなるはず』と、愚かな夢をつむいでしまう。
『しかし…』
「ハァーーっ」
「わりと、ギリギリ…なんだよな~?」
弱々しく呟くと
そのまなじりから キラリと光るものが、こぼれ落ちた。

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