4 / 23
3話 神殿
しおりを挟むギリスにあたえられた妻の部屋へゆくと、マリエルは急いで寝衣から普段着へ着がえる。
「ああ、もう… もう一度つめ直さないと!」
昼間出して綺麗に整理した、実家から持ってきた自分の荷物をぜんぶ集めて、カバンにつめ直す。
元々、マリエルの荷物は少なかったから、すぐに作業を終えることができた。
自分で荷物を玄関まで運ぶと、使用人部屋へゆく。
「ごめんなさい… おそくまで働かせて疲れているでしょうけれど、馬車を用意してくれるかしら?」
「奥様… こんな真夜中に馬車ですか?」
普通なら、夫の寝室で初夜をむかえるはずの夫人が、馬車を用意させ外出しようとしているのだから… 使用人は不安そうな顔をした。
「お願い! 今夜中に行きたい場所があるの!」
「旦… 旦那様は、このことを知っていますか?」
「ええ、ギリスさんにことわってから、寝室を出て来たから大丈夫よ?」
腹を立てて寝室を、飛びだしてしまったけれど……… 彼は『勝手にしろ』と言っていたから、大丈夫よね?!
「そうですか? どこへ行かれるのですか? ご実家ですか?!」
「いいえ、神殿へ行くの」
実家には迷惑をかけられないから、帰ることは出来ないわ… でも、女神様を祀る神殿なら、私のような女性を受け入れてくれる! 少しのあいだだけ、お世話になって… それからどこかで働き口を見つけるつもり。
ギリスの残酷な言葉で、マリエルは自立への道を、歩もうと決心した。
「神殿… こんな時間にですか?」
「女神カルミーン様に祈りを捧げたいの… だからお願い!」
祈りを捧げたいのは本当だわ… 他の人を愛している私が、目の前の結婚に飛びついたせいで、こんなに痛い目に、あっているんですもの… 女神様に懺悔しないとね…?
セインさまに… 私の初恋の男性、ガルフェルト侯爵様に、部下のギリスさんを紹介されて、これは運命かもしれないと… そんな夢に酔って、結婚にふみ切ったのが間違いだったわ……
「わかりました」
使用人はしぶしぶ、マリエルの願いを聞く。
マリエルはその日のうちにモリダール家を出て… 昼間、マリエルとギリスが婚姻の儀式をおこなった神殿へとむかった。
夜中にいきなりたずねたマリエルを、女神カルミーンを祀る神殿の女性神官たちは、何も聞かずにあたたかくむかえ入れてくれた。
「まぁ…! マリエルさん、どうしたのですか?」
最初に応対に出て来た女性神官が、マリエルの足元にならべられた、荷物がつめ込まれた、トランクケースをチラリと見下ろす。
「夜おそくに、申し訳ありません、神官様… 少しのあいだだけ、泊めていただけないでしょうか?」
ギリスの言葉で傷つき、疲れはてたマリエルの瞳から… ずっと我慢していた涙が、ポロリ… と一粒、頬をつたって落ちた。
「あらあら… どうぞ中に入って下さいな!」
「ありがとうございます…」
「お話はお茶を飲みながら聞かせて下さい」
「はい」
昼間、婚姻の儀をおこなったばかりの花嫁が、普通なら夫と初夜をむかえている時間に、神殿に戻ってきたのだ。
夫婦の間に何か問題がおきたのだろうと、女性神官たちがすぐに気が付くのも当然である。
「ありがとうございます… 神官様…」
女神カルミーンの神殿は、行き場をうしなった女性が避難する場所で… 助けを求める女性を、けしてこばむことは無い。
281
あなたにおすすめの小説
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
あなたとの縁を切らせてもらいます
しろねこ。
恋愛
婚約解消の話が婚約者の口から出たから改めて考えた。
彼と私はどうなるべきか。
彼の気持ちは私になく、私も彼に対して思う事は無くなった。お互いに惹かれていないならば、そして納得しているならば、もういいのではないか。
「あなたとの縁を切らせてください」
あくまでも自分のけじめの為にその言葉を伝えた。
新しい道を歩みたくて言った事だけれど、どうもそこから彼の人生が転落し始めたようで……。
さらりと読める長さです、お読み頂けると嬉しいです( ˘ω˘ )
小説家になろうさん、カクヨムさん、ノベルアップ+さんにも投稿しています。
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
諦めていた自由を手に入れた令嬢
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。
これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。
実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。
自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。
いくつもの、最期の願い
しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。
夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。
そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。
メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。
死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。
【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
“代わりに結婚しておいて” …と手紙を残して姉が家出したから
みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。
結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。
妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。
…初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる