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32 電話の声に・1

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「も、もしもし?」


なるべく普段通りの声になるよう気を付けたつもりだったけれど、少し噛みそうになってしまった上に、やっぱり声が掠れている気がして顔が熱くなる。

まじで、早く終わってくれ。

祈るような気持ちで耳を澄ませていると、スマホの向こうから蒼井の声が聞こえてきた。


『……っまじかよ……はぁ、颯太のえっち』


「は!? ななっなんだよっ!?」


まさか、バレたのだろうか。

俺はあたかも何もしていなかったような態度を装いつつも、内心焦りまくる。

いや、落ち着け。

おそらく、蒼井は今の俺の声を聞いて、勝手に想像してしまったのかもしれない。

それであんな事を言ってしまったのだ。

そうに違いない。

だから、バレてはいないはずだ。

どちらにせよ、絶対に ″オナニーしてた″ なんて、白状するもんか。

大混乱しながらもそう意気込んでいると、蒼井はなぜかため息をついてから話を進めた。


『ま、それはさておき……颯太さ、まじで駅前のケーキ屋行かね? 店ん中カフェみたいになってるから、お茶出来るぞ
? 明日とか時間ある?』


「へ……?」


そういえば、蒼井は昼間もそんな事を言って連絡してきたのを思い出し、俺は一瞬オナニーの事を忘れてキョトンとする。

基本、俺は部屋に引きこもっている為、外の変化にはかなり疎い。

しかし、美味しいケーキというのは、甘党の俺としてはちょっと興味が湧いてしまう。

俺はすっかり "美味しいケーキ" の響きに魅了され、話に食いついた。


「そんな店が出来たなんて全然知らねーし。てか、そんなに美味しいのか?」


『ああ、うまいらしい。あくまでも噂だけど、女友達からの情報だから確かだと思うぜ?』


「女、友達……」


……そうだった。

蒼井は元々、女友達と一緒にその店に行く予定だったのに、ドタキャンされたので俺を誘ってきたんだった。

昼間の事を思い出し、なんだかまた気持ちがモヤモヤしてくる。

蒼井なら女友達ぐらい山ほどいるだろうし、気にする必要なんて全く無い筈なのに、なんでこんなにモヤモヤするのだろうか。

モヤモヤの正体が分からず押し黙っていると、クスッと笑う声が聞こえてきた。


『あれぇ? もしかして、ヤキモチ?』


「は……はぁ!? ちっげーよ! 誰が妬くかっ!!」


なんだか図星をつかれた気がして反発すると、蒼井は更にクスクス笑う。

ああもう、まじで早く通話を切り上げて続きしたい。

と、そんなことを思ったらまた股間がうずうずしてきて、俺はバレないよう平静を装って通話を終わらせようと蒼井に言った。


「じゃーな、もう切るぞ」


「ふぅん……」


「な、なんだよ?」


意味深な返事にドキリとして、スマホを持つ手に力が入る。

すると少しして、ワントーンほど下げられた蒼井の艶めいた声が耳に響いてきた。


『かーわい。なぁ颯太……ぶっちゃけ、今オナってたんだろ?』


「え……っ」










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