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第二章

マリアベルの婚約

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5月、ウーラノスが領地に帰る。

この頃から秋までの間、ドゥラーク領は騒がしくなる。
隣接する砂漠のアキフューズ帝国より放牧民が涼を求めてドゥラーク領国境に近づいてくる。それと一緒にアキフューズのスパイが入国して来る。
警備を固めなければならないからだ。

領地を継いだ者としての初仕事である。

「はぁ、帰らん訳にもいかんだろう•••」

ウーラノスはため息をついた。

ウーラノスは心配だったのだ、あの姫を1人置いて帰るなどと•••

愛しき私のマリアベル姫

その[愛しき]の意味は自分でも、よくわからない

とにかく愛しいのだ
[目の中に入れても痛く無い]とはこの事だな!
かの姫の笑顔を思い出しウーラノスは、フフフと笑を浮かべた。


領地に戻ったら暫くは王都には戻れない。
王家とクラレンス侯(殆どはノーザンコート伯だが)との話し合いによって、領地に戻る前に婚約式をする事になった。

5月の最初の週、城に併設された教会で婚約式は行われる。

これは、王命で結ばれた婚約を意味するものである。
その反面、[王命で破棄も可能である]というトラビス王からの圧力を意味していた。


ウーラノスの心は既に決まっていた。彼女は私の妻になるのだ!

姫を我が家で預かって2か月
小さくて、よく笑い、よく喋り、よく動いて、、、、
これは 男女間の愛 ではないかもしれない
しかし••••
マリアベル姫のいない人生など考えられない。



ベレネーゼに言われてハッとした
あの、愛くるしい姫が、将来、美しく成長して 銀に輝く金の髪を晒して••••

その手を取るのは私だ、私でなくてはならない。

しかし、今暫くは、可愛らしい姫様を愛でておこう。
何故なら、、、私は、お小さくも気高く愛らしいあの方がとても好きなのだ!

「姫様、ゆるりと大きくおなりなさいませ。急がなくてもよい。お待ちしておりますから、、、」

ウーラノスは、マリアベル様の絵姿を見ながらそう呟いた。


*****************

婚約式当日

ノーザンコート邸はお通夜のようであった。

「私の娘が、、、
私は、何一つ満足にしてやれなかった。
あんなにコーネリアと約束したのに•••
頼む、マリアベル、行かないでくれ
私の側で一緒に暮らそう、な、な、」

ローガンはそう言いながらマリアベルのドレスを手に持ち離さない。

「ローガン様、いい加減聞き分けて下さいまし。
それに、何度娘と言えども女性のお支度中は部屋に入ってはいけません!と申し上げましたでしょう、」
ローラはローガンを嗜めた。

「さあ、旦那様、私と一緒に下へ行きましょう」
ローガンはクララに引きずられ下へ向かった。

私は、この晴れ姿をクララに見せたかった。
幼少の頃から私を見守ってくれていた人。
私の中では育ての母だと思っている。

今日はわざわざこの日のためにクラレンスから来てもらったのだ。

「旦那様、大旦那、大奥様、
私の様な者に、この様な格別なご配慮いただき ありがとうございます。」
クララは頭をさせた。

「クララ、お前がいてくれたからマリアベルがここまで来れたのだ。
あの様に朗らかに育てくれて、お礼をいいます。」

伯爵と夫人はクララに労いの声を掛け逆に頭を下げだ。

「大旦那様、勿体のうございます。」
クララは恐縮して、土下座してしまった。

「お支度が出来ましたよ!」
ローラの掛け声と共に一斉に皆が階段の踊り場に目をやった。

生成りのシルクのドレスを身に付けた私は、馬子にも衣装とばかりに、「どうよ!」と得意面で階段を降りた。

みんなが私を見る。

「コーネリア•••」父が呟いた。

「コーネリア様ぁ、ぁ、ぁ、」クララが嘔泣する。

皆の目に涙が浮かぶ

短命だった私の母、彼女の残したモノはとても大きく、今でも、まだ、皆の記憶の中で息づいている。

母、コーネリア様 お会いしたかったな、

ふと、年越しの夜に会った女神様を思い浮かべた。


「さあ、出かけるぞ!」

祖父の掛け声で周りが動き出した。

「 あれ?伯父様とガブリエルは? 」

「モーリスは先に城に行っておる。
ガブリエルなら、ほれ、そこだ!」

祖父の目線の先には、某歌劇団男役がいた

いや、違う、ラスカル(それはアライグマ)
いやいや、違う、、、

ガブリエルは、金のモールの飾緒が付いた白い軍服を見に付けていた。

巻いた赤茶の髪を後ろでまとめ、桜色の唇、キリリとした意思の強そうな眼差し、優しい私の騎士、、、

ガブリエル♡♡♡

余りの麗しさに、ポォーとして声を失った

「お祖父様、、私、ガブリエルと結婚したいです。」

「おお、そうしなさい。それが良い!!!」

祖父にそう言われ、周りから笑い声が響いた。


******************

城に着いたらモーリス伯父様が待っていた。

数人の宮廷侍女に案内され城内の神殿に入室した。

既にウーラノスとドゥラーク家は入室していた。

見届け人として、お馴染み四家当主、法務大臣が同席している。

女神像の前で神殿長が婚約の文面を読み上げる。
私とウーラノス様は、首を垂れ、その文面の問いに「ハイ」と答える。

これで婚約は成立である。

「さあ、姫、参りましょうか、」
私は、ウーラノス様の腕を取って歩き、父に引き渡された。

ちらっとウーラノスを見上げた私は•••
(ガブリエルの方がカッコいい)
そう思った事はナイショにしておこう。




しかし、この後の食事会がカオスになるとは•••
全く想像もしていなかった






陛下と王妃様、四家とクレイ法務大臣、祖父、父、ウーラノス様、私

城内で昼食会である。

会話をしながらの砕けた食事会。

コンソメのスープ、うん、美味しい。
パンが運ばれて来て

魚料理の皿が前に置かれた。

私のテーブルを挟んで間向かいにいたウーラノス様が立ち上がり、私の後ろに来た。

そして、サササッと目にも止まらぬ速さで魚の小骨を取ってくれた。

「さあ、姫、これで大丈夫です。」

「ありがとう!」ニッコリと笑って食事を再開する。

次は肉料理である。

ウーラノスはまた席を立ち、私の後ろに立つと、ポケットからマイナイフを取り出し、当たり前のように、サササッと肉を捌いた。

目の前の肉は1.5cm×1.5cm、サイコロサイズにカットされてあった。

「さあ、お召し上がりを」ウーラノスの言葉にニッコリと笑ってお礼を言う。

そして、食事を再開した。

皆の視線が私の皿に注がれた。

あれ?おかしい? ドゥラーク家ではいつもの事だけど、、、

お祖父様を見たら、目線を逸らせられてしまった。

あれ? あれれ?? なんか変???

「綺麗な切り口ですな、上手いもんですなぁ、、」

ハワード侯が沈黙を破った

ウーラノスは答えた。
「あれが姫のお口に丁度よい大きさなのですよ!
2cm角ですと、一口では無理でしてなぁ
我が家では食べやすくカットしてお出ししておりましたゆえ、、、

魚も小骨がありましたので、お怪我されてはと思いお取りいたしました。」

参加者は言葉に詰まった
「離乳食か!!!」
しかし、誰もがそれを言い出す事は出来なかった。

食事も終わりデザートと紅茶が運ばれて来た。
デザートはチョコガナッシュだった。

チョコクッキーを大変気に入られた王妃様に、チョコのケーキも作れるとお教えしたのだった。

王妃様は「してやったり!」と、満遍の笑みで私を見た。

フォークに手を掛けようと手を伸ばしたところ、不意に、後ろからヒョイと持ち上げられた。

「椅子が低くて食べ難いだろう。
さあ、お父様の膝に乗りなさい。」

父はいきなり私を膝に乗せた。

私はギョッとして父を見たが、父はニコニコと笑って私を抱き締めている。

皆の視線が突き刺さる、いたたまれない。

陛下が席を立った。私の方に歩いてくる。

これは父を叱ってくれるのだな!と安堵した

ところが、、、陛下は私の隣、空席になっている父の席に腰を下ろした。

「さあ、マリアベル、紅茶が熱いから伯父さんがフーフーしてやろう」

えっ、、、誰か、助けて、、、

祖父は私と目を合わせてくれない

真向かいのウーラノス様と目が合った
(助けて•••)
心の中で助けを呼ぶ

しかし彼は私の意に反してこう言った。

「陛下、それはよいお考えです。
姫、火傷すると大変ですので陛下にフーフーしてもらいなさい。」

はあ?なんで??
なんで、現在15歳で生前80歳の私が、フーフーしてもらわなきゃいけないの?

誰も助けてくれない。
皆んな、下を向いている。

辛い、、、

私は王宮で、父の膝に乗り、陛下にお茶をフーフーしてもらいながら、婚約様に見守られ、チョコケーキを食べた。

張り詰めた空気の中で食べたデザートの味はまるで砂を噛んでいるかのように感じた。

早く時間が過ぎるように、、心を無にしてケーキを食べた。


*************

領地に帰られるウーラノス様にミサンガをプレゼントした。

メインカラーを紺にして、茶と黒の糸に、私の髪を入れて編みこんだ ちょっと手の込んだ物だった。

「これが、フレディが言っていたお守りか!」

ウーラノス様は大層喜んでくれた。

「私の姫様は世界一だ!」

そう言うと、私を[高い高い]するように持ち上げクルクルと回った。

喜んでもらえたのはよいが、目が回ってしまった。

**************

屋敷に帰って直ぐ、私を[高い高い]するのだ!と言い張った父。

持ち上げて、一週回ったところでギックリ腰を出したのは言うまでもない。

**************


注: ウーラノスはロリコンではありません!











































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