記憶の中に僕は居ますか

遭綺

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好きになる程怖くなるんだ

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夬皇わこと知り合ったのは、大学二年生の時だった。
二人は都内の大学に通っていた。
同じ経済学部のとあるゼミを履修した際に、たまたま席が隣だった。
はじめましてからの探り合い。
第一印象は共に悪くはなかった。
それから話が進むに連れて、だんだんと共通点が多い事に気が付く。


好きなロックバンドも同じ。
ゲームもサブカルも好き。
どんなヲタ話を振られてもとりあえず拾えるくらいの知識あり。
若干インドア派。
でも旅行とか出掛ける事は好き。
おいおい。
これって、もはや同士じゃんか!


そんな二人が友達(それ以上)になるのに時間はかからなかった。


「おーい、起きてる?」


遠くの方で声がする。
ぼんやりする視界。
ちょっと飲み過ぎたか。
「…と言うか。お前、近過ぎ!」
すぐに酔いが覚めるくらい夬皇の顔が目の前にあった。
息が当たる。
「だって、これだけ近づいても気が付かないんだよ? お酒弱くないのに珍しいなって」
夬皇はケラケラ笑いながら自分の椅子に戻る。
「ワイン1本開けたら少しは酔うだろ、普通。全然お前は吞まないしさ」
明日が休み+料理が旨く、箸が進んだ影響で、結構な酒量を頂くことになった。
「でもこっちは、じっくり勇緋ゆうひの気の抜けた顔を眺めていたから退屈はしなかったけど」
そう言いながら、携帯の画面を見せつけてきた。
そこには普段以上に不細工になっている自分の間抜けな顔写真が映っていた。
悲鳴を上げたい。
「おまっ! 何、撮ってるんだ! 絶対消せよ、それ!」
「えっ、なんで?」
「なんで、じゃねーよ。キモ過ぎるだろ!」
「キモくないよ。だってどんな表情でも勇緋には変わりないじゃんか」

そう言って夬皇はまるで愛でるように携帯の画面を見つめている。

「お互い大切なヒト、でしょ?」

その綺麗な目でこっちを見る。
何だよ、急に。調子が狂う。

「…それは、そうだけど」

何だか、上手く言い包められている気がする。
向こうはほぼ素面のはずだ。

「俺はどんな勇緋も好きだよ。これからもずっと」
その顔で、その声で、そんな台詞を言うな。

自分は本当に幸せ者だと思った。
夬皇のスペックなら、自分よりもっと良い人と巡り合えても良いはずなのに、こんな自分を選んでくれた。
でも、自分も同じくらい夬皇が好きなのだ。

他の誰かを好きになるなんて考えたくもなかった。

「俺も、夬皇の事が好きだよ。好き過ぎて怖くなるくらいに」

勇緋は少し目を赤くしながら叫ぶように言った。
お酒のせいか分からないが、涙腺が弱くなっているのか。
「俺の前から勝手に居なくなったりするなよな」
そのセリフを言う頃には、何故か勇緋は涙を流していた。
「急に何言っているのさ。それに、大人なんだから、泣くなよ」
「う、五月蠅い! 俺だって何で泣いてるかわかんないんだ」

とっさに思ってしまったのだ。
目の前から夬皇が消えると言う最悪の光景を。
それが悲し過ぎて怖くなった。

そんな時、

フワッと夬皇の香水が香った。
背中越しに夬皇が抱き締めていた。
いつの間に俺の背後に。

椅子に座ったままの勇緋を優しく包み込むようにハグをされる。

「何処にも行くわけないでしょ? ずっと一緒に居るのにまだ心配?」
夬皇の髪が頬に触れる。
夬皇の声が耳元で反響する。
「そうだよな。ごめん。お前はそんな事、しないってわかってるのにさ」
勇緋はとっさに彼の腕に手を添えた。
「でも、それだけ心配してくれてるって事は、俺を考えてくれているって事でしょ?それは嬉しいよ」
夬皇も何度も勇緋の頬に自分の頬を摺り寄せる。
「やめろ、くすぐったい」
そう言って勇緋が顔を避けようとした時、顎に夬皇の手が伸び、グッと顔を横にされた。

至近距離で目が合う。
「やっとこっち見てくれた」
甘い声で夬皇がそう言うと、勇緋はすぐに視線を逸らした。

何故だか悔しくなった。

「ホント、勇緋は素直じゃないよね」
「なんだよ、それってどういう」

勇緋の言葉を遮るように、夬皇の唇が重なった。
触れるだけの優しいキス。

それだけなのに、勇緋は動けなくなった。

唇が離れ、再び二人の視線がぶつかると、夬皇がフッと笑った。
「顔、真っ赤じゃん」
「うっ…。こっち見んな!」
今日は全然主導権が取れない。
全部夬皇のペースに飲まれてしまう。
「照れてる勇緋も押さえておかなくちゃ」
カシャッと言うシャッター音が響いた。
また撮られた。
「おい! どんだけ写真撮るんだよ!」
勇緋がすぐさま立ち上がって夬皇の携帯を掴もうと手を伸ばしたが、空を切ってしまう。
そのまま体制を崩して勇緋は夬皇に抱き締められる形でもたれ掛かってしまった。
「ゴ、ゴメン。受け止めてくれてサンキュ」
やっぱり今日は飲み過ぎている。

勇緋は心の中で反省していた。
それからすぐに夬皇から離れようとしたが、再び彼に抱き締められた。

「夬皇?」

「ちょっとだけ、こうしてていい?」

正直強くギュッとされているので息が苦しい。
でも、

「…うん」

普段だったらやめろよ、と言ってしまうところであるが、今日は自分が弱っているのか素直に頷いた。

自分の方が夬皇を強く抱き締めたかったなんて言いたくなかった。
ちょっとだけじゃ嫌だ。
ずっと抱き締めていて欲しい。
それ以上にもっと…。

この心の声を本当は上手く伝えたい。
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