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鳴らない電話
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次の日。
相変わらず夬皇は二十歳頃の記憶のまま話をしていた。
天真爛漫さは変わらず、自分の事は巽と呼ぶ。
だが、その話をなるべく合わせようとしている自分も居り、本来の自分を隠しながら接してしまう機会が増えてしまっていた。
どうしても嫌われたくない想いが溢れてしまうらしい。
あれだけ戦うと決めたのに。
そんな勇緋を見ていた夬皇の母親と凜は、そっと彼を病室近くの待合室へ連れ出す。
「勇ちゃん。これからの事、凜も含めて家族で話をさせて頂きました」
「はい。どんな結果でも俺は覚悟してます」
勇緋はそう言って、一度視線を二人から逸らす。
「結論から言うと。夬皇は一旦、私の家で預かります。今の状況ではとても仕事が出来る状態ではないこと。それと、勇ちゃんが仕事中は、彼は一人になってしまう。まだあの子には監視が必要なの。だからこそ、この結論に至りました」
苦渋の決断である。
だけど、勇緋は反論するつもりはなかった。
内容は正論であるし、自分の事を考えてくれた判断だったからだ。
数秒の間、沈黙に包まれた。
「…わかりました。それが一番、夬皇にとって良いと俺も思います」
「ありがとう。本当に勇ちゃんは立派で素敵な子よ」
そう言いながら、夬皇の母親は勇緋の頭を優しく撫でたのだった。
「でもね。勇ちゃんにはお願いがあるの」
彼女の言葉に勇緋は視線を合わせた。
彼のその目が少しだけ赤くなっている。
「勇ちゃんが休みの日は、夬皇と一緒に居て欲しいの。あの子の記憶で無くなってしまったのは、勇ちゃんと一緒に居た時の記憶。であれば、やっぱり記憶を思い出すには勇ちゃんの力が必要だと思うの。どうかしら?」
それってつまり、夬皇と一緒に俺はまだ居て良いって事?
頭の中でその文章が何度も反芻した。
「勿論です。俺が出来る事は何でもやります。やらせて下さい!」
勇緋は大きく頭を下げた。
その際に、涙が幾つか零れて床で輝くように弾けた。
隣に居た凜も顔を押さえて泣いていた。
ここから彼らは新しい生活様式を展開し、全力で夬皇の記憶と向き合う事となったのだ。
翌週からは、勇緋はいつも通り仕事に打ち込む事になった。
再来週の退院に向け、まずは自分が頑張らないとあの二人の聖域を維持する事が出来ないからだ。
平日は夬皇と話をする事が出来ないので、SNSで彼に近況を報告する事とした。
【神勇:夬皇、今日はお前が好きなアニメが放送される日だぞ。ちゃんと録画しておくからな】
そう文字を紡いでも、彼からの返信はなかった。
「嫌われても良いから、毎日俺の想いをアイツに送ろう」
きっかけが何かがわからないので、まずは手当たり次第やってみるだけだ。
勇緋は毎日、彼に向けて短いラブレターを送る事に決めた。
今日あった出来事、二人の好きな音楽の話、漫画の話。
どんな些細な事でも文章にする。
必ず最後に好きと言う想いを添えて。
来週末には夬皇も無事退院の予定だ。
また一から自分達の聖域を作って行こう。
お前が忘れてしまっている部分は全部、自分が覚えているから安心してくれ。
大好きな絵を描いたり、一緒にまた漫画を読んだりしよう。
それに、出来たらまたお前に名前を呼んで欲しい。
そして、その大きな手で俺に触れて欲しいんだ。
お前にだけにしか言わせない ユウ と言う言葉。
その声が聴ける事が、今の俺にとって生き甲斐なんだよ。
記憶があったとしても、こんな事、恥ずかしくてお前には言えないけど。
以前の当たり前を思い出す。
勇緋は静寂に包まれたリビングで一人、テーブルワインを嗜みながらそんな事を考えるのだった。
相変わらず夬皇は二十歳頃の記憶のまま話をしていた。
天真爛漫さは変わらず、自分の事は巽と呼ぶ。
だが、その話をなるべく合わせようとしている自分も居り、本来の自分を隠しながら接してしまう機会が増えてしまっていた。
どうしても嫌われたくない想いが溢れてしまうらしい。
あれだけ戦うと決めたのに。
そんな勇緋を見ていた夬皇の母親と凜は、そっと彼を病室近くの待合室へ連れ出す。
「勇ちゃん。これからの事、凜も含めて家族で話をさせて頂きました」
「はい。どんな結果でも俺は覚悟してます」
勇緋はそう言って、一度視線を二人から逸らす。
「結論から言うと。夬皇は一旦、私の家で預かります。今の状況ではとても仕事が出来る状態ではないこと。それと、勇ちゃんが仕事中は、彼は一人になってしまう。まだあの子には監視が必要なの。だからこそ、この結論に至りました」
苦渋の決断である。
だけど、勇緋は反論するつもりはなかった。
内容は正論であるし、自分の事を考えてくれた判断だったからだ。
数秒の間、沈黙に包まれた。
「…わかりました。それが一番、夬皇にとって良いと俺も思います」
「ありがとう。本当に勇ちゃんは立派で素敵な子よ」
そう言いながら、夬皇の母親は勇緋の頭を優しく撫でたのだった。
「でもね。勇ちゃんにはお願いがあるの」
彼女の言葉に勇緋は視線を合わせた。
彼のその目が少しだけ赤くなっている。
「勇ちゃんが休みの日は、夬皇と一緒に居て欲しいの。あの子の記憶で無くなってしまったのは、勇ちゃんと一緒に居た時の記憶。であれば、やっぱり記憶を思い出すには勇ちゃんの力が必要だと思うの。どうかしら?」
それってつまり、夬皇と一緒に俺はまだ居て良いって事?
頭の中でその文章が何度も反芻した。
「勿論です。俺が出来る事は何でもやります。やらせて下さい!」
勇緋は大きく頭を下げた。
その際に、涙が幾つか零れて床で輝くように弾けた。
隣に居た凜も顔を押さえて泣いていた。
ここから彼らは新しい生活様式を展開し、全力で夬皇の記憶と向き合う事となったのだ。
翌週からは、勇緋はいつも通り仕事に打ち込む事になった。
再来週の退院に向け、まずは自分が頑張らないとあの二人の聖域を維持する事が出来ないからだ。
平日は夬皇と話をする事が出来ないので、SNSで彼に近況を報告する事とした。
【神勇:夬皇、今日はお前が好きなアニメが放送される日だぞ。ちゃんと録画しておくからな】
そう文字を紡いでも、彼からの返信はなかった。
「嫌われても良いから、毎日俺の想いをアイツに送ろう」
きっかけが何かがわからないので、まずは手当たり次第やってみるだけだ。
勇緋は毎日、彼に向けて短いラブレターを送る事に決めた。
今日あった出来事、二人の好きな音楽の話、漫画の話。
どんな些細な事でも文章にする。
必ず最後に好きと言う想いを添えて。
来週末には夬皇も無事退院の予定だ。
また一から自分達の聖域を作って行こう。
お前が忘れてしまっている部分は全部、自分が覚えているから安心してくれ。
大好きな絵を描いたり、一緒にまた漫画を読んだりしよう。
それに、出来たらまたお前に名前を呼んで欲しい。
そして、その大きな手で俺に触れて欲しいんだ。
お前にだけにしか言わせない ユウ と言う言葉。
その声が聴ける事が、今の俺にとって生き甲斐なんだよ。
記憶があったとしても、こんな事、恥ずかしくてお前には言えないけど。
以前の当たり前を思い出す。
勇緋は静寂に包まれたリビングで一人、テーブルワインを嗜みながらそんな事を考えるのだった。
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