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騎士の務め
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勇緋は週末の為に、平日の仕事を必死に戦い抜く。
自分にはあの聖域を守る義務がある。
その想いはさながら聖騎士のようだった。
今まで以上に仕事に真摯に向き合う。
どんな事があっても、彼に会える事を想えば何でも出来る気がした。
そんなとある平日の仕事終わり。
「へぇー。だから、最近やたらお前、張り切っているのか」
ある男性がテーブルいっぱいに並べられた豪勢な食事を囲みながら話をしている。
「こんな店まで予約して…お前。俺は特盛ランチで良いと言ったけど?」
「良いんです。いつも鴻上先輩にはお世話になっているので」
「顔に見合わずなかなか漢気があるんだな、神塚は」
「どういう意味ですか、それ」
勇緋は先日の一件で色々と工面してくれた彼の先輩、鴻上をディナーに誘っていた。
職場近くの少しお高めのフレンチだ。
「それで、あれからその彼は大丈夫なのか?」
彼は白ワインを嗜みながら話す。
左手薬指の指輪が照明にあたって輝いている。
「ええ。今まで通りの生活に戻るにはまだしばらく時間がかかるかと思いますけど」
「あんまり無茶するなよ?」
「ありがとうございます。俺は平気です」
勇緋も久し振りのお酒に酔いしれる。
誰かと飲むのはいつ振りだろうか。
嗚呼、早くアイツと一緒にあのワインを酌み交わしたい。
「あんまり遅くならないうちに帰らないと奥さんに怒られませんか?」
「…急に現実を言うなよ。今日くらい無礼を働かせてくれ」
「まあ、俺は終電で帰れれば問題ないので、付き合いますよ」
「お、それはありがたい。色々話、聞いてくれるか?」
「重たい話以外であれば喜んで」
それから二人は仕事の話や鴻上の馴れ初め話など久々の席で盛り上がる事が出来た。
次の日も仕事、且つ、鴻上の奥様から帰宅を促すお電話があったので、二人は20時を回る頃に解散した。
今日は四月の最終週の木曜日。
「そっか。今週末からゴールデンウィークか」
本当は夬皇と何処かプチ旅行に行こうと密かに考えていたが、それはまたいつかと心の奥にしまう事にした。
帰りの新幹線を降り、一人駅構内を歩きながらバスターミナルへ向かう。
何処かすれ違う人達は来る連休を感じているのか楽しそうな印象だ。
バスを待つ列に勇緋も並ぶ。
そう言えば時々、夬皇が迎えに来てくれる時があったっけ。
遠くの方からでも聞こえるくらい大きな声で自分の名を呼ぶ。
何故かその声を待っている自分が居た。
(そんな事、ある訳ないのにな…)
そんな時であった。
突然スマートウォッチの画面に 夬皇 の文字が浮かんだのだ。
彼から電話のようだ。
「えっ?」
思わず声が漏れ出た。
列に並ぶのをやめて、勇緋は急いでその電話に出る。
「も、もしもし。夬皇?」
しばらく無言のまま返答がなかった。
それから少しして、
「あ、えっと…。かみつか君、ですか?」
「え。うん、そうだよ」
あまりにも急だったので、変な受け答えをしてしまった。
「今、良いですか?」
「勿論」
「良かったー」
勇緋は近くにあったベンチに腰掛けた。
「それで、あれから何か楽しい事、思い出せた?」
「うん。少しずつだけど、PCや携帯にあった写真を見て思い出せた事があったよ」
「そうか。それは良かった」
「ありがとう。それと、なんか、早く、かみつか君と話がしたくて」
少し夬皇は照れるような口調で話し始めた。
思わぬ事に、勇緋も驚く。
「…お前の声が聴けただけで俺は嬉しいよ」
「やっぱり、かみつか君は優しいね」
「言っただろ? お前の隣は俺の生きる場所なんだって」
「うん。自分も、かみつか君じゃないと、嫌だ」
その言葉を聞いた時、勇緋はもう、名前で呼ばれなくても十分だと思った。
記憶が無くなっても、自分達はちゃんと絆で結ばれている気がしたから。
「早く土曜日になって欲しいね」
「ああ。そうだな。お前の考えたプラン、楽しみにしてるから」
「うん。それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ、夬皇」
通話を切った時、勇緋の目から自然と一筋の涙が零れていた。
【自分も、かみつか君じゃないと、嫌だ】
その一言で、何かが報われた気がした。
(やっぱりお前は俺にとって無くせない大切な存在なんだ)
素っ気ない電話だったかも知れないが、勇緋にとっては何にも変える事の出来ない尊い時間だったのは間違いない。
そんな中、
まるで彼らの電話が終わるのを待っていたかのようにバスがやって来たのだ。
「帰るとするか、俺達の聖域に」
勇緋はワイシャツの袖で涙を拭ってから、意気揚々とバスに乗り込むのだった。
自分にはあの聖域を守る義務がある。
その想いはさながら聖騎士のようだった。
今まで以上に仕事に真摯に向き合う。
どんな事があっても、彼に会える事を想えば何でも出来る気がした。
そんなとある平日の仕事終わり。
「へぇー。だから、最近やたらお前、張り切っているのか」
ある男性がテーブルいっぱいに並べられた豪勢な食事を囲みながら話をしている。
「こんな店まで予約して…お前。俺は特盛ランチで良いと言ったけど?」
「良いんです。いつも鴻上先輩にはお世話になっているので」
「顔に見合わずなかなか漢気があるんだな、神塚は」
「どういう意味ですか、それ」
勇緋は先日の一件で色々と工面してくれた彼の先輩、鴻上をディナーに誘っていた。
職場近くの少しお高めのフレンチだ。
「それで、あれからその彼は大丈夫なのか?」
彼は白ワインを嗜みながら話す。
左手薬指の指輪が照明にあたって輝いている。
「ええ。今まで通りの生活に戻るにはまだしばらく時間がかかるかと思いますけど」
「あんまり無茶するなよ?」
「ありがとうございます。俺は平気です」
勇緋も久し振りのお酒に酔いしれる。
誰かと飲むのはいつ振りだろうか。
嗚呼、早くアイツと一緒にあのワインを酌み交わしたい。
「あんまり遅くならないうちに帰らないと奥さんに怒られませんか?」
「…急に現実を言うなよ。今日くらい無礼を働かせてくれ」
「まあ、俺は終電で帰れれば問題ないので、付き合いますよ」
「お、それはありがたい。色々話、聞いてくれるか?」
「重たい話以外であれば喜んで」
それから二人は仕事の話や鴻上の馴れ初め話など久々の席で盛り上がる事が出来た。
次の日も仕事、且つ、鴻上の奥様から帰宅を促すお電話があったので、二人は20時を回る頃に解散した。
今日は四月の最終週の木曜日。
「そっか。今週末からゴールデンウィークか」
本当は夬皇と何処かプチ旅行に行こうと密かに考えていたが、それはまたいつかと心の奥にしまう事にした。
帰りの新幹線を降り、一人駅構内を歩きながらバスターミナルへ向かう。
何処かすれ違う人達は来る連休を感じているのか楽しそうな印象だ。
バスを待つ列に勇緋も並ぶ。
そう言えば時々、夬皇が迎えに来てくれる時があったっけ。
遠くの方からでも聞こえるくらい大きな声で自分の名を呼ぶ。
何故かその声を待っている自分が居た。
(そんな事、ある訳ないのにな…)
そんな時であった。
突然スマートウォッチの画面に 夬皇 の文字が浮かんだのだ。
彼から電話のようだ。
「えっ?」
思わず声が漏れ出た。
列に並ぶのをやめて、勇緋は急いでその電話に出る。
「も、もしもし。夬皇?」
しばらく無言のまま返答がなかった。
それから少しして、
「あ、えっと…。かみつか君、ですか?」
「え。うん、そうだよ」
あまりにも急だったので、変な受け答えをしてしまった。
「今、良いですか?」
「勿論」
「良かったー」
勇緋は近くにあったベンチに腰掛けた。
「それで、あれから何か楽しい事、思い出せた?」
「うん。少しずつだけど、PCや携帯にあった写真を見て思い出せた事があったよ」
「そうか。それは良かった」
「ありがとう。それと、なんか、早く、かみつか君と話がしたくて」
少し夬皇は照れるような口調で話し始めた。
思わぬ事に、勇緋も驚く。
「…お前の声が聴けただけで俺は嬉しいよ」
「やっぱり、かみつか君は優しいね」
「言っただろ? お前の隣は俺の生きる場所なんだって」
「うん。自分も、かみつか君じゃないと、嫌だ」
その言葉を聞いた時、勇緋はもう、名前で呼ばれなくても十分だと思った。
記憶が無くなっても、自分達はちゃんと絆で結ばれている気がしたから。
「早く土曜日になって欲しいね」
「ああ。そうだな。お前の考えたプラン、楽しみにしてるから」
「うん。それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ、夬皇」
通話を切った時、勇緋の目から自然と一筋の涙が零れていた。
【自分も、かみつか君じゃないと、嫌だ】
その一言で、何かが報われた気がした。
(やっぱりお前は俺にとって無くせない大切な存在なんだ)
素っ気ない電話だったかも知れないが、勇緋にとっては何にも変える事の出来ない尊い時間だったのは間違いない。
そんな中、
まるで彼らの電話が終わるのを待っていたかのようにバスがやって来たのだ。
「帰るとするか、俺達の聖域に」
勇緋はワイシャツの袖で涙を拭ってから、意気揚々とバスに乗り込むのだった。
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