記憶の中に僕は居ますか

遭綺

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ただいまとおかえり

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少し人気の少ない通りにやって来た二人はようやく立ち止まった。
「全く。急にどうしたんだよ、勇緋」
状況が分からない夬皇は彼の手を少し雑に振り解いた。
さっきから何も話さす、こちらを見ようとしない勇緋。
何故か彼の両肩が震えていた。
だんだん不安になって来た夬皇は、彼の肩を掴んで身体と視線をこちらへ向けさせた。

「ッ! 勇緋、お前…」

今まで見た事もない程ぐちゃぐちゃの顔で勇緋が泣いている。
夬皇は言葉を失った。
と同時に余りにも健気で消え入りそうな彼の姿がどうしようもなく愛しく感じてしまった。
束の間、黙ったまま涙を見せ続ける彼を眺めてしまう。
「み、見んなよ」
勇緋は自分の顔を手で覆う。
そんな彼の手に夬皇は自らの手を重ねる。一度勇緋の身体がビクンと跳ねる。

「お前が泣いている理由は、俺のせい、なんだろ?」

低いトーンでそう話すと、勇緋は静かに一回だけ頷く。
そのまま夬皇は震える彼をそっと抱き締めた。
何も言わずにグッと抱き寄せる。

迷惑をかけてごめん、そしてありがとう。

それが触れ合う体温にリンクして勇緋の心の中に夬皇の声が飛び込んで来た気がした。
勇緋は静かに目を閉じて、その温もりを余すことなく受け取る。
このハグで全てが報われた気がした。
諦めなくて本当に良かった。
神様は自分達を見限った訳ではなかったらしい。

「記憶、ちゃんと戻ったんだろう?」
「…うん。おかげさまで。おでこ、滅茶苦茶痛いけど」
夬皇はそう言いながら、赤く腫れたそこを手で何度か触れた。
「しっかり腫れてる」
トロンとした目で勇緋は彼を見つめる。
「マジかよ。恥ずかしい」
かあっと顔が赤くなった夬皇の姿を見た勇緋は少しだけ笑みを見せた。
自然と周りの空気をふんわりとさせるあの雰囲気を久し振りに感じて、とても懐かしく感じた。
そしてこの感覚を自分はずっと渇望していた。
ようやくそれが叶った。
もう何も要らない。
目の前に居る彼を、俺は絶対に手放さない。
離してたまるか。
「せっかくなら、観覧車の頂上で記憶取り戻せよ」
「そんな事、俺に言うなよ。取り戻し方なんて俺が知るかって」
「あれで記憶が戻るなら、俺、もっとお前の頭、ガンガン殴ればよかったかも」
「それだけはやめてくれ。変な気は起こすなよ」
「次、お前の記憶が飛んだ時は覚悟しておけよ?」
そんな話をしてすぐ、二人は再び目を合わせるとフッと笑い合った。

「勇緋、本当にありがとな。大好きだよ」
「俺も。お前じゃないと、やっぱり駄目だ」

そして、二人は人目を憚らず唇を交わし合った。

少し落ち着きを取り戻してから、二人は最後にもう一度あの観覧車の近くまで戻って来た。

「俺達の想い出が無くなっちゃうなんてな」
夬皇は悲しそうな顔をしながら、観覧車をじっと見つめる。
「確かに寂しい、けど」
「けど?」
夬皇の問いに、勇緋はスッと視線を彼に向ける。
「俺にはお前が居るから」
気障っぽく勇緋がそう言うと、夬皇は少し顔を赤らめた。
「今日の勇緋、アニメの主人公みたいにカッコいい」
「俺がお前を想うパワー、舐めるなよ?」
そう言う勇緋であったが、彼のおでこの腫れた部分を見てプッと笑ってしまった。
「ちょ、あんま見んなよ! そんなに腫れてる?」
「腫れてないよ?」
「嘘つけ」
そう言って夬皇は勇緋の事を優しく羽交い締めするのだった。

すると、突如観覧車がパッとライトアップし、美しいイルミネーションに包まれた。
二人の目にキラキラとした光が飛び込んで来た。
思わず動きを止めてしまった。
「綺麗だな」
「最後に俺達へのサプライズプレゼントみたいだ」
すると、夬皇が勇緋の手にちょんと触れた。
んっと思い、彼の顔を見てみると、笑みを見せながら勇緋を愛しく見つめていた。
それから勇緋も笑みを見せ、そのまま二人は手を繋いだ。
互いの温もりを感じながら、二人はその秀麗な景色をしっかりその目に焼き付けるのだった。

ホワイトクリスマスにはならなかったが、二人の吐息に光が反射して最後に二人の想い出を彩った。
俺達の特異点ターニング・ポイント
今まで本当にありがとう。


そこで勇緋の記憶は途切れていた。


次に目を覚ました時、彼は自分の部屋のベッドに寝ていた。

(えっ…俺)

今まで楽しかった思い出は夢だったのか。
突然不安に駆られてきた。
グッと上体を起こすと同時に、おでこから何かタオルが落ちた。
そして、視線を少し横にずらしてみると、ベッドの横でウトウトと寝ている夬皇の姿があったのだ。
「夬皇?」
彼の声にピクッと耳が反応したと思うと、ゆっくりと目を開けた。
「おはよう。良かった、やっと起きた」
そう言って、彼は大きく欠伸をした。
「え、えっと。これは一体…」
「途中で倒れたんだよ。風邪だったみたい。丸一日寝てたよ。もう夜だし」
「倒れた? 俺が?」
「憶えてないの?」
「うん。観覧車のイルミネーションを一緒に見た辺りから」
それからすぐ勇緋は青ざめた顔をしながら、慌てて夬皇を見た。
「なあ、夬皇。俺の事、呼んで!」
「は?」
「いいから!」
「変だね。熱まだあるんじゃない? 勇緋」
その台詞に勇緋は何も言わないまま、静かに目を閉じてその言葉を噛み締めているようだった。
「夢じゃなかった」
「えっ?」
「いいんだ。こっちの話だから」
「なんで笑ってるの、こわっ。一発、頭に刺激入れる?」
「怖い言うな。あと、そんな刺激要らぬ」
それからすぐ、夬皇は立ち上がった。
「おかゆでも作ってくるよ」
「あ、ありがとう」
「早く元気になってくれないと困るからね」
「なんでさ」
部屋の扉を開けながら、背中越しで言葉が聴こえて来た。

「風邪がうつるから、キス、ちゃんと出来ないじゃん?」

そして、顔をゆっくり勇緋に向けると、夬皇はフッと笑ってから、部屋のドアが静かにしまった。

「な、何だよ。今のは」
勇緋は顔を赤らめながら、もう一度ベッドに身体を預けた。
熱がさらに酷くなりそうです。

勇緋は天井をぼんやり眺めながら、この幸せを噛み締めていた。
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