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Part4 Starting Over
Chapter_03.苦いバレンタイン・デー(3)作戦会議
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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; February 14 and 15, 2001.
Thirdly, the narrator of this story is Yuta Terukina.
三番手のモノローグは照喜名裕太君です。
里香さんから話を聞くと、僕らはすぐに伊東先生を呼んだ。伊東先生は組合の書記長でもある。手短に経緯を説明して三人でカンファ室に入った。ここなら深夜は誰も近寄らない。
里香さんはICレコーダーを再生した。実に驚くべき内容だった。念のため、僕は医局へノートパソコンを取りに戻り、音声ファイルの複製を作った。
「どうしましょうか?」
僕は伊東先生に尋ねた。伊東先生はいつものくせで顎をさすっていたが、やがてこう切り出した。
「こっちには証拠がある。マスコミにリークさせるというのは、どうだ?」
マスコミという言葉で、僕は一人の人物を思い浮かべた。
「心当たりがいます。信用できる人です。連絡をとってもいいですか?」
一時間後、ダチビン出版の島袋さんが到着した。親友の上間先生の件と聞いて、那覇の職場から高速を飛ばしてきたのだ。
「こんな夜更けに、申し訳ありません」
「いや、こちらこそ」
島袋さんは伊東先生に名刺を渡して挨拶すると席に着き、ICレコーダーから流れる音声に耳を傾けた。瞬く間に彼の顔色がこわばっていくのがわかった。
「何者だ、こいつは?」
怒りに目が燃えるようだ。僕は自分のノートパソコンをLANに接続すると、サザン・ホスピタルのイントラネットにアクセスして院長代理のプロフィールを開いた。
「今年一月下旬から、院長の代理を務めています。あまり評判は芳しくありませんね」
島袋さんは僕のパソコンを覗き込み、首をひねった。
「……何処がな居てぃ見ちゃる顔やっさー?」
彼もまた、鞄からノートパソコンを取り出した。なにやら取材用のフォルダをクリックしていたが、やがて、くすくす笑い出した。
「あった、あった。これ、そうだろ?」
僕と里香さんと伊東先生は、島袋さんのパソコンの画面に釘付けになった。
A4サイズの画面いっぱいに、写真が拡大されている。どこかのスナック、いや、これはキャバレーか?
「これは、那覇市松山に五年前まであった‘スード・ラ・ズ’という、有名なゲイバーでの写真なんですよ」
島袋さんはイタズラっぽく微笑むと、マウスを右端近くへ寄せ、範囲を選択して拡大処理をした。
「ね。その代理とかいう男ちゃうの?」
驚いた。酔っ払っているのだろう。顔中が真っ赤で頭にねじり鉢巻しているが、間違いない。彼はお姉さん、いや、ゲイの店員と戯れていた。それだけならまだしも、院長代理は上着をはだけていて、隣人の片手はすでに彼のズボンの中。何をしようとしているのか、明らかだった。
「これは傑作だな」
伊東先生が笑い出した。里香さんは口に左手を当て、顔を真っ赤にしてうつむいている。女性には刺激の強すぎる写真だったかも。
「これだけあれば、奴を追い出せるな」
伊東先生はニヤリとしながら、再び顎先に手をやった。島袋さんが続けた。
「やるからには、味方を増やした方がいいですよ。もうちょっと、大規模にやったほうが。上間は患者さんの人気者だった。この病院が上間を追放すると知ったら、患者さんだって黙っちゃいないでしょう?」
「じゃ、ユミおばぁでも呼ぼうか?」
伊東先生が里香さんを見ていたずらっぽく笑った。
「それなら、知念さんも呼びましょうよ。上間先生には絶対の信頼を寄せてます」
里香さんも楽しそうだ。僕も口を挟んだ。
「僕にできることはないですか?」
「じゃ、照喜名先生には裏方をお願いしましょうか。ちょうど明日は十五日。一時から会議があります」
僕ら男三人は、それから一時間近く巧妙に計画を練った。里香さんが近くの自販機へ走って、缶コーヒーとスナックを買ってきてくれた。
一通り打ち合わせを終えると、僕はBMWで里香さんを送った。
「うまくいくかしら?」
里香さんは助手席で眠そうに目をこすりながら言った。
「大丈夫。みんな、上間先生の味方ですよ」
「そうよね。上間先生と、多恵子の」
里香さんの家が見えてきた。僕は路肩に車を停め、ライトを消した。
「とんだバレンタインでしたね」
「ほんとに」
僕らは顔を見合わせた。僕は里香さんに右手を伸ばし、彼女の体を引き寄せた。
「高級レストランで豪華ディナーのつもりだったのに」
「いいわよ。ディナーはいつでも」
里香さんは僕に顔を近づけた。僕らはしばし、黙り込んだ。
「裕太、あたしからのプレゼント、もらう?」
そういうと、彼女は僕のすぐ前まで顔を寄せ、目を閉じた。
僕は頷くと、ゴクンと唾を飲み込んだ。彼女の肩を抱き、顔を近づけ、そっと唇に唇を重ねた。((4)へつづく)
Thirdly, the narrator of this story is Yuta Terukina.
三番手のモノローグは照喜名裕太君です。
里香さんから話を聞くと、僕らはすぐに伊東先生を呼んだ。伊東先生は組合の書記長でもある。手短に経緯を説明して三人でカンファ室に入った。ここなら深夜は誰も近寄らない。
里香さんはICレコーダーを再生した。実に驚くべき内容だった。念のため、僕は医局へノートパソコンを取りに戻り、音声ファイルの複製を作った。
「どうしましょうか?」
僕は伊東先生に尋ねた。伊東先生はいつものくせで顎をさすっていたが、やがてこう切り出した。
「こっちには証拠がある。マスコミにリークさせるというのは、どうだ?」
マスコミという言葉で、僕は一人の人物を思い浮かべた。
「心当たりがいます。信用できる人です。連絡をとってもいいですか?」
一時間後、ダチビン出版の島袋さんが到着した。親友の上間先生の件と聞いて、那覇の職場から高速を飛ばしてきたのだ。
「こんな夜更けに、申し訳ありません」
「いや、こちらこそ」
島袋さんは伊東先生に名刺を渡して挨拶すると席に着き、ICレコーダーから流れる音声に耳を傾けた。瞬く間に彼の顔色がこわばっていくのがわかった。
「何者だ、こいつは?」
怒りに目が燃えるようだ。僕は自分のノートパソコンをLANに接続すると、サザン・ホスピタルのイントラネットにアクセスして院長代理のプロフィールを開いた。
「今年一月下旬から、院長の代理を務めています。あまり評判は芳しくありませんね」
島袋さんは僕のパソコンを覗き込み、首をひねった。
「……何処がな居てぃ見ちゃる顔やっさー?」
彼もまた、鞄からノートパソコンを取り出した。なにやら取材用のフォルダをクリックしていたが、やがて、くすくす笑い出した。
「あった、あった。これ、そうだろ?」
僕と里香さんと伊東先生は、島袋さんのパソコンの画面に釘付けになった。
A4サイズの画面いっぱいに、写真が拡大されている。どこかのスナック、いや、これはキャバレーか?
「これは、那覇市松山に五年前まであった‘スード・ラ・ズ’という、有名なゲイバーでの写真なんですよ」
島袋さんはイタズラっぽく微笑むと、マウスを右端近くへ寄せ、範囲を選択して拡大処理をした。
「ね。その代理とかいう男ちゃうの?」
驚いた。酔っ払っているのだろう。顔中が真っ赤で頭にねじり鉢巻しているが、間違いない。彼はお姉さん、いや、ゲイの店員と戯れていた。それだけならまだしも、院長代理は上着をはだけていて、隣人の片手はすでに彼のズボンの中。何をしようとしているのか、明らかだった。
「これは傑作だな」
伊東先生が笑い出した。里香さんは口に左手を当て、顔を真っ赤にしてうつむいている。女性には刺激の強すぎる写真だったかも。
「これだけあれば、奴を追い出せるな」
伊東先生はニヤリとしながら、再び顎先に手をやった。島袋さんが続けた。
「やるからには、味方を増やした方がいいですよ。もうちょっと、大規模にやったほうが。上間は患者さんの人気者だった。この病院が上間を追放すると知ったら、患者さんだって黙っちゃいないでしょう?」
「じゃ、ユミおばぁでも呼ぼうか?」
伊東先生が里香さんを見ていたずらっぽく笑った。
「それなら、知念さんも呼びましょうよ。上間先生には絶対の信頼を寄せてます」
里香さんも楽しそうだ。僕も口を挟んだ。
「僕にできることはないですか?」
「じゃ、照喜名先生には裏方をお願いしましょうか。ちょうど明日は十五日。一時から会議があります」
僕ら男三人は、それから一時間近く巧妙に計画を練った。里香さんが近くの自販機へ走って、缶コーヒーとスナックを買ってきてくれた。
一通り打ち合わせを終えると、僕はBMWで里香さんを送った。
「うまくいくかしら?」
里香さんは助手席で眠そうに目をこすりながら言った。
「大丈夫。みんな、上間先生の味方ですよ」
「そうよね。上間先生と、多恵子の」
里香さんの家が見えてきた。僕は路肩に車を停め、ライトを消した。
「とんだバレンタインでしたね」
「ほんとに」
僕らは顔を見合わせた。僕は里香さんに右手を伸ばし、彼女の体を引き寄せた。
「高級レストランで豪華ディナーのつもりだったのに」
「いいわよ。ディナーはいつでも」
里香さんは僕に顔を近づけた。僕らはしばし、黙り込んだ。
「裕太、あたしからのプレゼント、もらう?」
そういうと、彼女は僕のすぐ前まで顔を寄せ、目を閉じた。
僕は頷くと、ゴクンと唾を飲み込んだ。彼女の肩を抱き、顔を近づけ、そっと唇に唇を重ねた。((4)へつづく)
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