サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく

文字の大きさ
128 / 152
Part4 Starting Over

Chapter_03.苦いバレンタイン・デー(3)作戦会議

しおりを挟む
At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; February 14 and 15, 2001.
Thirdly, the narrator of this story is Yuta Terukina.
三番手のモノローグは照喜名裕太君です。

里香さんから話を聞くと、僕らはすぐに伊東先生を呼んだ。伊東先生は組合の書記長でもある。手短に経緯を説明して三人でカンファ室に入った。ここなら深夜は誰も近寄らない。
里香さんはICレコーダーを再生した。実に驚くべき内容だった。念のため、僕は医局へノートパソコンを取りに戻り、音声ファイルの複製を作った。
「どうしましょうか?」
僕は伊東先生に尋ねた。伊東先生はいつものくせで顎をさすっていたが、やがてこう切り出した。
「こっちには証拠がある。マスコミにリークさせるというのは、どうだ?」
マスコミという言葉で、僕は一人の人物を思い浮かべた。
「心当たりがいます。信用できる人です。連絡をとってもいいですか?」

一時間後、ダチビン出版の島袋さんが到着した。親友の上間先生の件と聞いて、那覇の職場から高速を飛ばしてきたのだ。
「こんな夜更けに、申し訳ありません」
「いや、こちらこそ」
島袋さんは伊東先生に名刺を渡して挨拶すると席に着き、ICレコーダーから流れる音声に耳を傾けた。瞬く間に彼の顔色がこわばっていくのがわかった。
「何者だ、こいつは?」
怒りに目が燃えるようだ。僕は自分のノートパソコンをLANに接続すると、サザン・ホスピタルのイントラネットにアクセスして院長代理のプロフィールを開いた。
「今年一月下旬から、院長の代理を務めています。あまり評判は芳しくありませんね」
島袋さんは僕のパソコンを覗き込み、首をひねった。
「……何処まーがなをぅてぃんーちゃるかーぎやっさー?」
彼もまた、鞄からノートパソコンを取り出した。なにやら取材用のフォルダをクリックしていたが、やがて、くすくす笑い出した。
「あった、あった。これ、そうだろ?」

僕と里香さんと伊東先生は、島袋さんのパソコンの画面に釘付けになった。
A4サイズの画面いっぱいに、写真が拡大されている。どこかのスナック、いや、これはキャバレーか?
「これは、那覇市松山に五年前まであった‘スード・ラ・ズ’という、有名なゲイバーでの写真なんですよ」
島袋さんはイタズラっぽく微笑むと、マウスを右端近くへ寄せ、範囲を選択して拡大処理をした。
「ね。その代理とかいう男ちゃうの?」
驚いた。酔っ払っているのだろう。顔中が真っ赤で頭にねじり鉢巻しているが、間違いない。彼はお姉さん、いや、ゲイの店員と戯れていた。それだけならまだしも、院長代理は上着をはだけていて、隣人の片手はすでに彼のズボンの中。何をしようとしているのか、明らかだった。
「これは傑作だな」
伊東先生が笑い出した。里香さんは口に左手を当て、顔を真っ赤にしてうつむいている。女性には刺激の強すぎる写真だったかも。

「これだけあれば、奴を追い出せるな」
伊東先生はニヤリとしながら、再び顎先に手をやった。島袋さんが続けた。
「やるからには、味方を増やした方がいいですよ。もうちょっと、大規模にやったほうが。上間は患者さんの人気者だった。この病院が上間を追放すると知ったら、患者さんだって黙っちゃいないでしょう?」
「じゃ、ユミおばぁでも呼ぼうか?」
伊東先生が里香さんを見ていたずらっぽく笑った。
「それなら、知念さんも呼びましょうよ。上間先生には絶対の信頼を寄せてます」
里香さんも楽しそうだ。僕も口を挟んだ。
「僕にできることはないですか?」
「じゃ、照喜名てるきな先生には裏方をお願いしましょうか。ちょうど明日は十五日。一時から会議があります」

僕ら男三人は、それから一時間近く巧妙に計画を練った。里香さんが近くの自販機へ走って、缶コーヒーとスナックを買ってきてくれた。
一通り打ち合わせを終えると、僕はBMWで里香さんを送った。
「うまくいくかしら?」
里香さんは助手席で眠そうに目をこすりながら言った。
「大丈夫。みんな、上間先生の味方ですよ」
「そうよね。上間先生と、多恵子の」
里香さんの家が見えてきた。僕は路肩に車を停め、ライトを消した。
「とんだバレンタインでしたね」
「ほんとに」
僕らは顔を見合わせた。僕は里香さんに右手を伸ばし、彼女の体を引き寄せた。
「高級レストランで豪華ディナーのつもりだったのに」
「いいわよ。ディナーはいつでも」
里香さんは僕に顔を近づけた。僕らはしばし、黙り込んだ。
「裕太、あたしからのプレゼント、もらう?」
そういうと、彼女は僕のすぐ前まで顔を寄せ、目を閉じた。
僕は頷くと、ゴクンと唾を飲み込んだ。彼女の肩を抱き、顔を近づけ、そっと唇に唇を重ねた。((4)へつづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...