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Part4 Starting Over
Chapter_08.明日は明日の風が吹く(2)すでに病室がラブラブな件
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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; March 20, 2001.
This time, the narrator changes from Tsutomu Uema into Kei Shimabukuro.
久々に島袋桂(しまぶくろ・けい)の登場です。
「……はあ?!」
俺は耳を疑った。上間はニコニコしている。
「また驚いて。島ちゃん、今先から、ちゃー驚ち(驚いてばかり)だね?」
あんた、そりゃ、驚くよ!
「け、結婚するの? まさか、多恵子と?」
「ほかに誰がいる?」
確かに、多恵子以外、いないよな。俺はどもりながら答えた。
「へえ! そ、そう、良かった、ねー?」
「ああ、退院したらすぐ、一緒に住むよ。もう宜野湾にアパート探してあるから」
あまりに話が急すぎて、何とコメントしていいかわからない。結婚、ね。多恵子がお前の子を流産したのは知ってたけどさ。いや、うれしいよ。まとまるべくしてまとまったんだから。でも、お前が帰ってきてまだ一ヶ月しか経ってないぜ? こんな急転直下に話がまとまるとは。ちょっと、早過ぎない?
コツコツコツ。病室のドアから白衣の人物が入ってきた。
「上間先生、血圧測りますよー。あい、島ちゃん、おひさ! 元気ねー?」
なんだ、多恵子か。もう復帰したんだな?
「よお、久しぶり。結婚するって?」
「そうみたいですねー」
多恵子は上間に体温計を渡し、血圧測定の準備をしつつ、つぶやいた。
「あたし以外、貰ってくれる人がいないみたいですよー」
「あれ、それはこっちのセリフだと思うんですけど?」
多恵子に腕を取られながら、上間が憎まれ口を叩いている。おいおい、早くも夫婦喧嘩か? こいつら、全然変わらんな?
「多恵子、見てごらん。松田さんたち、ここで踊ってたって」
「うそ!」
多恵子もまた、上間の手にある『とぅっくいぐゎー』を横から覗き込んでいる。
「あたしが家に帰ってからだね? へえ、こんなの、やってたんだ?」
「でもさ、あの院長代理が、芸能公演なんて、よく許可出したよな?」
多恵子は、上間の腕にマンシェット(血圧計の帯)を巻きながら言った。
「なんか最近さ、あの人、優しい小なってるってば。この特別室の料金も出してるってよ。何があったんだろうね?」
俺は、笑い出したいのを必死にこらえた。そうか。あの金、特別室代に化けたのか。
実はあの騒動の後、俺は院長代理にこっそり呼び出されたのだ。上間の雇用を確定させるために、念のため、‘スー・ド・ラズ’の写真をちらつかせておいたのさ。そしたら、俺に五十万包もうとしやがった。もちろん、断ったよ。正直、色気も出たけど、ここで変に妥協したら奴が上間に何をしでかすか、わかったもんじゃないからな。
「その金は、上間に渡せ!」
突っ返しながらそう叫んで、タンカ切って院長室を出たという訳。まあ、上間の部屋代になったんなら、良かったんじゃねーの?
「血圧測るんで、静かにしてくださいねー」
多恵子は血圧計と睨めっこしながら、マンシェットに空気を入れている。プシュッ、プシュッ、プシュッ……。
突然、上間が叫び声を上げた。
「痛い! 汝よ、二〇〇まで加圧するな! 殺す気か?」
「ごめんねー、静かにしてねー」
シューッと、少しずつ空気が抜ける音がした後、多恵子が朗らかな声で、にこやかにこう告げた。
「はい、一〇二の六十六、上等ですねー」
「どーもー」
上間も、満面の笑みで上機嫌で答えている。
「次は脈を測りましょうね?」
「はーい」
こ、こいつら、何を愛々と話してるばー? 気触れ立ちゃーする(鳥肌が立つ)ぜ!
「脈は七〇ちょうどですねー。いいんじゃないんですか?」
「そーだねー」
い、汝達よ、笑いかんてぃー(はにかみ笑い)っし、彼女のいない俺の目の前で、二人だけの世界を作るなー!
コホン。思わず、咳払いをしてしまいました。こう告げてみる。
「……なんか、この部屋、あつくないか?」
すると、こいつらは二人揃って、こんな会話を始めたのだ!
「そういえば今日、最高気温二十五度とか言ってたなー」
「朝から蒸し暑いよねー。また夕方雨降るってよー」
「島ちゃん、扇風機でも回そうか?」
「なんなら、部屋のクーラーつけようか?」
俺は、頭を抱えた。いや、そういう意味じゃないんですけど。
それにしても、多恵子が鈍いのは、まだわかるけどな。上間! 汝まで多恵子に似るな!
「島ちゃん、今日は休みなの?」
「午後だけ年休取って、こっち来てくれたんだよ。明日からまた大変らしいよ」
ピピピッと、電子体温計が鳴った。多恵子が確認している。
「三十六度四分、上等だね」
彼女は血圧計をてきぱきと片付けた。
「島ちゃんも体壊さんでよー。年度末は担ぎ込まれる人が多いから。じゃ、あたし、これからリハビリの患者さんの送り迎えがあるからさ、失礼しよーね」
「頑張れなー」
「よろしくねー」
多恵子が去った後、俺は上間を軽く睨んだ。デレッとするなよ、この野郎!
「退院したら、遊びに来いな?」
「ああ、行くよ。新居は宜野湾のどこなの?」
「市役所の近く。どうせ、しばらくは俺が厨房係だから」
俺は吹き出した。
「そうかー、多恵子は料理できそうにないよなー」
上間が真顔でフォローしてます。
「いや、味噌汁とか、汁物だったら、まあうまいよ。ただこの間、ペペロンチーノ作ってたつもりが、なぜかソーミンチャンプルーに化けてたって」
俺は腹を抱えて笑ってしまった。なんじゃそりゃ? スパゲティに‘だしの素’でも入れたのか? 確かに、多恵子だったらやりかねんやっさー。
「上間、苦労しそうだね?」
「一人暮らしよりはずっといいよ。楽しいし」
それは、楽しいって言うより立派なマゾだよ。かかあ天下確実だな?
「それで、仕事は? その足で、医者続けるの?」
「うん、続けることにした。いろいろ考えたんだけどね。琉海大の医学部に研究助手で戻らないかって誘いも受けたんだけど、断った。四月から、ここのリハビリアドバイザーとして働くよ」
「リハビリアドバイザー?」
初めて聞く言葉だ。上間が説明を始めた。
「リハビリルームに常駐して、診療各科と、セラピストと、患者さんの調整窓口になるんだ。前例がないからまだ業務内容がよく見えてこないけど、とりあえず、自分もリハビリ続けながら患者さんやセラピストと話し合って意見を集約できればいいなと思ってる。俺自身、この足があるからこそ、見えてきたものもあるし」
先ほどまでとは打って変わって、上間の目は真剣味を帯びた。
「俺、医療スタッフと患者さんとの架け橋になりたい。患者さんが本当に望む医療を作っていける医者になりたい。だから、医者は続けるよ」
そうか。お前はやっぱり、生まれながらの医者なんだな。
「職場復帰したら、連絡くれな。取材に行くよ」
「うん、わかった」
「上間、お前、きっといい医者になるよ」
「サンキュ」
上間は頷いた。学生時代と変わらない、いい笑顔で。 ((3)へつづく)
This time, the narrator changes from Tsutomu Uema into Kei Shimabukuro.
久々に島袋桂(しまぶくろ・けい)の登場です。
「……はあ?!」
俺は耳を疑った。上間はニコニコしている。
「また驚いて。島ちゃん、今先から、ちゃー驚ち(驚いてばかり)だね?」
あんた、そりゃ、驚くよ!
「け、結婚するの? まさか、多恵子と?」
「ほかに誰がいる?」
確かに、多恵子以外、いないよな。俺はどもりながら答えた。
「へえ! そ、そう、良かった、ねー?」
「ああ、退院したらすぐ、一緒に住むよ。もう宜野湾にアパート探してあるから」
あまりに話が急すぎて、何とコメントしていいかわからない。結婚、ね。多恵子がお前の子を流産したのは知ってたけどさ。いや、うれしいよ。まとまるべくしてまとまったんだから。でも、お前が帰ってきてまだ一ヶ月しか経ってないぜ? こんな急転直下に話がまとまるとは。ちょっと、早過ぎない?
コツコツコツ。病室のドアから白衣の人物が入ってきた。
「上間先生、血圧測りますよー。あい、島ちゃん、おひさ! 元気ねー?」
なんだ、多恵子か。もう復帰したんだな?
「よお、久しぶり。結婚するって?」
「そうみたいですねー」
多恵子は上間に体温計を渡し、血圧測定の準備をしつつ、つぶやいた。
「あたし以外、貰ってくれる人がいないみたいですよー」
「あれ、それはこっちのセリフだと思うんですけど?」
多恵子に腕を取られながら、上間が憎まれ口を叩いている。おいおい、早くも夫婦喧嘩か? こいつら、全然変わらんな?
「多恵子、見てごらん。松田さんたち、ここで踊ってたって」
「うそ!」
多恵子もまた、上間の手にある『とぅっくいぐゎー』を横から覗き込んでいる。
「あたしが家に帰ってからだね? へえ、こんなの、やってたんだ?」
「でもさ、あの院長代理が、芸能公演なんて、よく許可出したよな?」
多恵子は、上間の腕にマンシェット(血圧計の帯)を巻きながら言った。
「なんか最近さ、あの人、優しい小なってるってば。この特別室の料金も出してるってよ。何があったんだろうね?」
俺は、笑い出したいのを必死にこらえた。そうか。あの金、特別室代に化けたのか。
実はあの騒動の後、俺は院長代理にこっそり呼び出されたのだ。上間の雇用を確定させるために、念のため、‘スー・ド・ラズ’の写真をちらつかせておいたのさ。そしたら、俺に五十万包もうとしやがった。もちろん、断ったよ。正直、色気も出たけど、ここで変に妥協したら奴が上間に何をしでかすか、わかったもんじゃないからな。
「その金は、上間に渡せ!」
突っ返しながらそう叫んで、タンカ切って院長室を出たという訳。まあ、上間の部屋代になったんなら、良かったんじゃねーの?
「血圧測るんで、静かにしてくださいねー」
多恵子は血圧計と睨めっこしながら、マンシェットに空気を入れている。プシュッ、プシュッ、プシュッ……。
突然、上間が叫び声を上げた。
「痛い! 汝よ、二〇〇まで加圧するな! 殺す気か?」
「ごめんねー、静かにしてねー」
シューッと、少しずつ空気が抜ける音がした後、多恵子が朗らかな声で、にこやかにこう告げた。
「はい、一〇二の六十六、上等ですねー」
「どーもー」
上間も、満面の笑みで上機嫌で答えている。
「次は脈を測りましょうね?」
「はーい」
こ、こいつら、何を愛々と話してるばー? 気触れ立ちゃーする(鳥肌が立つ)ぜ!
「脈は七〇ちょうどですねー。いいんじゃないんですか?」
「そーだねー」
い、汝達よ、笑いかんてぃー(はにかみ笑い)っし、彼女のいない俺の目の前で、二人だけの世界を作るなー!
コホン。思わず、咳払いをしてしまいました。こう告げてみる。
「……なんか、この部屋、あつくないか?」
すると、こいつらは二人揃って、こんな会話を始めたのだ!
「そういえば今日、最高気温二十五度とか言ってたなー」
「朝から蒸し暑いよねー。また夕方雨降るってよー」
「島ちゃん、扇風機でも回そうか?」
「なんなら、部屋のクーラーつけようか?」
俺は、頭を抱えた。いや、そういう意味じゃないんですけど。
それにしても、多恵子が鈍いのは、まだわかるけどな。上間! 汝まで多恵子に似るな!
「島ちゃん、今日は休みなの?」
「午後だけ年休取って、こっち来てくれたんだよ。明日からまた大変らしいよ」
ピピピッと、電子体温計が鳴った。多恵子が確認している。
「三十六度四分、上等だね」
彼女は血圧計をてきぱきと片付けた。
「島ちゃんも体壊さんでよー。年度末は担ぎ込まれる人が多いから。じゃ、あたし、これからリハビリの患者さんの送り迎えがあるからさ、失礼しよーね」
「頑張れなー」
「よろしくねー」
多恵子が去った後、俺は上間を軽く睨んだ。デレッとするなよ、この野郎!
「退院したら、遊びに来いな?」
「ああ、行くよ。新居は宜野湾のどこなの?」
「市役所の近く。どうせ、しばらくは俺が厨房係だから」
俺は吹き出した。
「そうかー、多恵子は料理できそうにないよなー」
上間が真顔でフォローしてます。
「いや、味噌汁とか、汁物だったら、まあうまいよ。ただこの間、ペペロンチーノ作ってたつもりが、なぜかソーミンチャンプルーに化けてたって」
俺は腹を抱えて笑ってしまった。なんじゃそりゃ? スパゲティに‘だしの素’でも入れたのか? 確かに、多恵子だったらやりかねんやっさー。
「上間、苦労しそうだね?」
「一人暮らしよりはずっといいよ。楽しいし」
それは、楽しいって言うより立派なマゾだよ。かかあ天下確実だな?
「それで、仕事は? その足で、医者続けるの?」
「うん、続けることにした。いろいろ考えたんだけどね。琉海大の医学部に研究助手で戻らないかって誘いも受けたんだけど、断った。四月から、ここのリハビリアドバイザーとして働くよ」
「リハビリアドバイザー?」
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「リハビリルームに常駐して、診療各科と、セラピストと、患者さんの調整窓口になるんだ。前例がないからまだ業務内容がよく見えてこないけど、とりあえず、自分もリハビリ続けながら患者さんやセラピストと話し合って意見を集約できればいいなと思ってる。俺自身、この足があるからこそ、見えてきたものもあるし」
先ほどまでとは打って変わって、上間の目は真剣味を帯びた。
「俺、医療スタッフと患者さんとの架け橋になりたい。患者さんが本当に望む医療を作っていける医者になりたい。だから、医者は続けるよ」
そうか。お前はやっぱり、生まれながらの医者なんだな。
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