大好きな母と縁を切りました。

むう子

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第一章

5話

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んんん…
目を開くとお母さまが私を膝枕して心配そうに覗き込んでた。

「ナーシャ!目が覚めたのね。ナーシャも大好きだったあの絵本を取りに来たらあなたがテーブルの奥で倒れてるのを見つけて、ここに来る時お義父さまも今お忙しそうだったからメイシーに部下のお医者様を呼ぶように頼んだところなのよ。」

そんなに時間が経っていなかったようで安心する。
シャンドラじゃなかったのか…とホッとする気持ちと
久しぶりにゆっくりお母さまと2人で話せて嬉しい気持ちが同時に溢れてくる。

「ナーシャ…泣くほど痛いところがあるの?それともどこかしんどい?」

心配してくれるお母さまに喜んでるなんて言える訳もなく
ふるふると首を振って抱きついた。

「少し怖い夢を見たの。ただそれだけよ。お母さま。」

「そうなの?大丈夫そうで本当に良かった。もしあなたに何かあったらお父様に顔向け出来ないもの。」

「お母さまは…今でもお父さまのこと好き?」
ふと何も考えずに聞いてしまった。

「もちろんよ。あなたのお父様とは政略結婚だったけれど
不器用だけど優しくて。いつも自分の事よりも人のことを優先して。
覚えては…いないかしらね。ナーシャが6歳頃だったかしらね。1度この辺に旅行に来たことがあってね。その時出会った男の子と仲良くなってその子と結婚する!!なんて言い出してね。お父さまったらそれだけで…ふふ。もちろん…今はシャンドラ様のこともとっても大切なお方だけどね。ナーシャはレティシャが生まれてお義父さまに心を開けなくなった気持ちも感じてたわ。でもね。お義父さまはいつもあなたのことを考えてくださってるわ。」
お母様は声を小さくして
「あなたの近くに落ちていた本を見たわ。だけどね。この婚約だって……体の弱いあなたのためにってとても悩んでらしたのよ…。」と呟いた。


お母さまとゆっくり話せてお父さまの話が聞けて嬉しい気持ちが一瞬で冷めていく…。
私は体も弱くないしそう仕向けられてるだけなの。
お母さまも騙されてるだけなんだよ?
何度伝えようとしたか…だけどシャンドラが怖くて言えなかっただけなのよ。お母様と2人の今、全て話したくなる。
だけどやっぱりお母さまがお父さまが亡くなった時に本当に顔色も悪くてご飯も食べられなかった日々も思い出すと絶対に伝えることは出来ない。
だけどこの婚約に対しての気持ちくらい話してもいいかな…
でもやっぱりシャンドラに伝えちゃうだろうか言わない方がいいのよね…。


ガチャ
「お姉さま…大丈夫だったのね!!」


「レティシャ。お義父さま…」

メイシーが申し訳なさそうにレティシャとシャンドラの後ろに立つのが見えた。

あっあの本はまだ近くに置いてあるのかしら
焦って目線を下に逸らす。


「ナーシャ。お義父さまが来てくれて良かったわね。さぁお義父さまにみてもらって」
お母さまは私の肩をポンポンっと叩きウインクした。
どうやらお母さまが隠してくれたようで私はホッとした。
 
「ナーシャが倒れたとレティシャに聞いてびっくりしたよ。今はどうだい?どこか痛むところはないかい?」
手つき良く普通のお医者様と同じ動きを見せるシャンドラに後ろから心配そうに覗き込むお母様とレティシャ。


「……どこも痛むところはありません。」


「うむ…ちょっとした貧血だろう。今は無理に動かずしっかり食事を取って2~3日は部屋でゆっくり過ごしなさい」


「本当に良かった。お姉さまが倒れたってメイシーから聞いて私いても立ってもいられなくて…急いでお父様を呼んだんです!」

「そうだったの。心配かけちゃってごめんねレティシャ。お母さまもお義父さまもありがとう。」


___________

部屋に戻り私は一息つきながら多分シャンドラは今晩また
罵声を浴びせに来るだろうな…。
とボーッと考えた。

お母さまは私のこの婚約を嫌がっている気持ちを察してくれている。

だけどもしお母様がシャンドラに私が婚約に大した不満があるなんて相談しちゃったら今日は多分一段と酷くなりそうな気がする…。


「あれがお前の敵のシャンドラか?」

「ソラン、ティエラ…見てたの?」

「ああ。どんな奴か見てみたけど胡散臭い顔つきだったな。あんなのにみんな騙されてるのか。あんなの俺が一瞬で消し去ってやるのに 」 
ティエラもうんうんと頷く

「ダメよ…お母さまとレティシャにとっては大事な人なんだから。それにシャンドラは私には酷いけど病気の方や怪我をしてる方にとっては必要なのよ…。だから私がここからどこかへ逃げられればいいの。」

「ナーシャがそう言うなら俺たちは消しはしない。けどもうあんな奴にビビる必要はないんだぞ」

私に力があることを知ったらどうなるのかしら…。
だけど皆には言わない方が騒ぎにはならないと思うし
最低でもここから逃げ出すまでは隠した方がいい気がする。

「ソラン…私まだ私が精霊使いだってことは秘密にしようと思うの。シャンドラに力を使ったらその後がどうなるかわからないから…。お母さま達にも誤解されちゃうだろうし…」

「まぁナーシャのお母さまへの気持ちは置いといて、力を隠しておくことにはわたしも賛成よ。安易にバラせば敵も増えるしね。」

「力がバレたところで俺たちが着いてたら怖いもの無しだろ?」

「人間界はそんな簡単じゃないことソランも経験したことあるでしょう?」

「……人間は大変だなあ」


「…だから今夜…多分ジャンドラから…罵声を浴びせられたり…暴力を振るわれると思うの…。だけど…お願い。ソランとティエラは何もしないで…。」

「……分かったわ。だけど本当に無理だと思ったらその時は私達を呼ぶのよ?あ、ソランはやり過ぎるから私の方がいいわよ♪」

 俺だって制御くらい出来るぞ。と怒り2人で言い合いながら帰って行った。

私、本当に精霊と契約したのね。
今までは何も出来ないし逃げることも難しいと思ってた私に
力になってくれる2人が仲間になってくれてありがたく思う。


夜になって…シャンドラが部屋に来た。
「おい。お前が倒れたことでどれだけ私の仕事が遅れたか分かるか?それにお前。レアロナにお前の父親の話をしただろう。俺という父親がいて…。それにどれほどレアロナが奴の死の苦しみを吹っ切るのに時間がかかったと思ってるんだ!!」

ザバーン!!
この寒い真冬のなか頭から水をかけられる。
…いつもならブルブル体が震え冷たくて痛いはずなのに
何故かそんなに冷たくない。

あ、ソランの力かしら…頭の中でボーッと考えながら
いつものように震えるフリをする。
「それにやってくれたな…この話を俺が知ってるということはどういうことか分かるか?」

バシン!「レティシャも聞いてたんだぞ」
ビンタされ私はそのまま床に倒れ、お腹を蹴られる…。
バス!「レティシャはお前と純粋な姉妹だと思っていたのに父親は俺じゃないと知ったんだ。お前なんかのことを慕っていたレティシャが可哀想だと思わないのか」

反射的にうずくまる。だけど水が叩かれる瞬間に上手く弾いていつものように苦しむ程の痛みがない。
私は目をギュッと瞑り
"ソランよね…?ありがとう…"と心の中で伝えた。

"見てられないからな…悪いがこれくらいはさせてくれよ?"

"はぁ。本当なら私の力でナーシャを固くしてアイツの手や足の骨が砕けたらいいのに。はぁ…ナーシャ。ごめんね本の少しだけ痛むわよ"

ティエラが尖った岩でほんの少し私の口の中を切ったようだ。

本当に叩かれたり蹴られてる時に出る本物の血とは違い体に負担がない。
いつも一人で耐えなければいけなかったことが
2人がいてくれるおかげで体への負担も無く気持ちもスーッと楽になる。
涙が出そうになるけれど今ここで涙を流せばシャンドラの怒りは酷くなるために堪えるしかない。

「俺という父親がいて。そして俺の屋敷でよくもそんな話をしたもんだ。レアロナはお前にああいうしか無いことくらい頭で理解できないのか?お前は本当に馬鹿でグズだ。身の程を弁えろ!!」バスッ

私は口が開き口の中に溜まっていた血を吐いた。


シャンドラはその姿を見て満足したように部屋を出ていった。

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