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第一章 現代編(闇組織の存在)
10 クラブママ春美②
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その日の午後3過ぎ、春美が携帯に電話を掛けて来た。
『森下会長、朝はお見送りもしないで本当に申し訳有りません。私はあれからぐっすり寝て、今起きたところなの、会長もお休みになったのですか?』
『爺さんの心配や今朝の事は、気にしないで良い。あの状態の春美ママに見送られたら、私の方が恐縮してしまう。それで、体調が悪ければお店を休んで養生した方が良いと思うが?』
『今まで貯め込んでいた欲求不満が一気に解消した感じで、凄く快調ですから大丈夫です。それで、お電話を掛けたのは、今度の土曜日、ご都合が宜しければ、ご一緒にお食事をどうでしょうか?』
『午後の3時以降なら予定はありませんが、春美ママはお店があるのでは?』
『会長に承知して貰えたら、チーママに任せてお休みするつもりですから。それでは、夕方6時に銀座○○ホテルのロビー待ち合わせに致しませんか?』
『そのホテルの4階にとても美味しいステーキレストランが有りますよね』
『ご存知なのですね!』
少し残念そうな声に思えた。
『あの店なら大歓迎なのですが、今回は私にご馳走させて頂けませんか?男として最初のデートで、ご馳走になるのは生もないプライドが許さないと言うか何となく』
『何かお誘いしたつもりが、お強請りになって心苦しいのですけど、会長のお誘いなら』
『それなら決まりだな。土曜の午後4時丁度に春美ママのマンションへ迎えに行くので、エントランスで待っててください。あっ、それと何か相談が有ると仰っていましたよね?』
『そ、それはまた次の機会でも』
篠田君とか森下製作所の営業からある程度の事情を聞き、春美のクラブがかなり苦しい状態に追い込まれているのを隆之は既に掴んでいた。春美は遠慮しているが、悠長に構える段階ではないのは明らかで有る。
『この際なので、ホテルにでも泊まって、じっくり話してくれませんか。ママのお店は確か日曜日は定休日ですよね』
『はい、それでは当日、宜しくお願いします。それでは失礼致します』
春美が電話を切ろうとした時、
『ちょっと待ってくれるかな』
『えっ?』
『我が社の営業部長に春美ママの店を紹介しておいたのだが、今日の9時頃接待客を連れて行くと連絡をくれた。気に入って貰えれば、今後も接待で使うことも増えると思うので、チーママやホステス達にもしっかり頼んでおいてくれ。彼の連れは、引き抜かれたホステスの顧客など比較にならない紳士揃いなので、上手くすれば常連となってくれると思う』
『有難う御座います。お店の子全員に粗相の無いよう徹底しますので、ご安心ください。それと、あのぉぉ、会長はどうしてホステスが引き抜かれたことをご存知なのですか?』
『春美ママがパトロンに逃げられたと言ってたのを思い出して、ちょっと調べさせた。出来るだけ、後方支援は考えているが、言わなくても分かっているだろうが春美ママの頑張りが復活の鍵となる。あっ、それと内の営業部長は私など足元に及ばないくらいイケメンで当然ながら若い、呉々も誘惑したりしないで欲しい。万が一、春美ママと関係でも持たれたら、社員と穴兄弟になってしまうので』
『私は会長一筋と決めています。それでは失礼致します』
軽い冗談のつもりだったが、春美は少し怒ったような口振りで電話を切った。
土曜日、趣味の研究を早めに切り上げた隆之は、3時半過ぎに春美のマンション前に車を停めると、エントランスから二十代半ばくらいの女が走り寄って来た。助手席の窓を叩く女を良く見ると、なんと春美だった。
おそらくブランド品であろう、シルクのタンクトップに淡い水色のブレザーとミニスカートに無地のストッキング、足元は白のハイヒール。
胸元が広めに開き、黒のブラジャーが見え隠れしている。ミニスカートの下も黒のパンティなのだろうかと想像してしまうくらい刺激的な服装である。
店では髪をアップに纏め、和服を着ているので落ち着いた雰囲気の熟女的イメージだったが、今日の春美は二十代にしか見えない。化粧も関係しているだろうが本来は若作りなのかもしれない。車を走らせ高速に入ると
「この車はお煙草を吸っても大丈夫ですか?」
「構いませんよ。待ち合わせが無ければ、ダッシュボードに私のが入っているが」
春美は軽く微笑み膝上に置いたボストンバックからポーチを取出し、メンソール系の煙草を手に取り吸い出した。脚を組換え煙草を吸う春美を横目で覗くと、バックの下でスカートが幾分捲れ、綺麗な太腿とガーターベルトが見えた。
隆之は下りる予定のインター手前のサービスエリアに入り駐車スペースで車を止め
「私に背中を向けて、良いった言うまで目を瞑っていてくれるかな?変なことはしないから大丈夫だ」
「はい」
春美は身体を捻り隆之に背を向けるようにして目を閉じる。隆之はセンターボックスから細長いケースを取出し、中のネックレスを春美の首に掛け
「春美ママ、もう目を開いて良いよ。誕生日には数日早いが、私からの誕生日プレゼントだ」
春美は胸元のネックレスを手に取り目を白黒させながら、
「これって、ティファニーですよね。こんな高価な物を頂いて宜しいのですか?」
「時間が無くて、既製品の中から店員に選ばせたのだが、今日の春美ママには少し地味だったかな。安物で悪いが、来年の誕生日にはオーダーメードでもっと良い物を用意するから、今年は我慢してくれ」
「これって、1000万以上はするはずよ。私、ショーケースに飾られたレプリカの値段を見て買うのを諦めたので知っています。レプリカも素敵だったけど本物はダイヤの粒も大きく輝きが全然違うわ。でも、何で私の欲しい物や誕生日を会長はご存知なのですか?」
「簡単なことさ、春美ママに誕生日を尋ねて、その日に何をプレゼントしたら愛人になってくれるかと誘った男がいたはずだ。それに対して、ティファニーのカタログを見せ、これの本物を用意してくれるなら考えても良いと答えていたと、クラブ"花"の花江ママから聞いたのでね。私が昔から花江ママと親しい関係にある事は、同じ銀座で店を構える春美ママなら知っているはずだ。生憎、肉体関係は無いが顧客の個人情報を花江ママが私にリークするなどあり得ないのはわかるだろ」
「そう、確かにそう言ったわ。でもあれは三田副社長を諦めされる口実で」
「でも、欲しかったのだろ」
「諦めていましたけど・・・」
「じゃあ、素直に受け取ってくれるだろ」
「有難う御座います。でも私は会長を」
「大筋の事情は知っているが、その話は食事の後、ホテルの部屋で春美ママの口から聞かせてくれ。今は素直に喜んでくれるかな?」
「でも、会長は何で私にそこまで・・・」
隆之は何も答えず車を発進させる。春美は困惑した表情を見せながらも、それ以上は何も聞いてこなかった。インターを出て後10分程で目的のホテルに着く頃になって、隆之はようやく口を開く
「もう直ぐ到着するが、これから春美ママを春美さんと呼ぶので、私のことは森下さんと呼んでくれるかな。それと相談事については二人になってから聞かせて貰うから食事の間は忘れてくれるね」
ホテルに到着するとベルボーイに車のキーを渡し、春美には二階のレストランで待つように伝え、隆之はホテルのフロントでチェックイン手続きをした。チェックインを済ませ、隆之がレストランに行くとマネージャーが駆け寄って来た。
「森下様、何時もご利用頂き有難う御座います」
軽く頭を下げ、隆之は客席を見渡し
「私の連れが先に来ているはずなのだが、何時もの個室に案内してくれたのかな?」
マネージャーは慌てて案内担当に確認し
「若い女性がお一人、先程入店さらましたが、森下様のお連れの方はまだお見えになっていらっしゃらないようです」
「その女性が私の連れだと思うのだが」
マネージャーは慌てて奥のテーブルから春美を連れ戻って来た。
「森下様には何度もご利用頂いていますが、奥様がお亡くなりになって以降、女性を連れで来店頂いたのは初めてでしたので、大変失礼致しました」
などと春美にお詫びをしながら、春美と隆之を個室に案内し、席に着かせると、直ぐにウェイトレスがメニューを差し出してくれた。
「森下様、ひょっとして、こにらの女性と再婚なさるのですか?」
マネージャーは春美を再婚相手だと勘違いしているようで
「春美さん、君がそんな服を着て来るから、別のテーブルに案内されたのだよ。ねぇ、そうだろうマネージャー」
「森下様、その件については完全に私どもの手違いですから、それでは本日のオーダーをお願い致します」
「何時ものコース料理を頼む」
ちらっと春美に視線を向けたマネージャーは
「あのコースですと、ご婦人には少々重過ぎるので、カロリーを抑えて作るよう料理長に指示しても宜しておきましょうか?」
「春美さんを連れて来たのは、あの味を楽しんで欲しかったのだが」
「お客様に味を落とした料理など、間違ってもお出し致しません。信じてお任せください」
「マネージャーがそこまで言うのなら、料理長を信じて待つとしよう。それと、例のホワイトワインと巷で噂のオリジナルカクテル、それとつまみの前菜を直ぐに持って来てくれないか?」
「畏まりました!」
マネージャーが立ち去り、10分もしない内に数皿の前菜と飲み物が運ばれて来る。
「友人の奥さんから聞いたのだが、さのカクテルは口当たりが最高でついつい飲み過ぎてしまい限度を超えると足にくるらしい。まあ、春美さんは大丈夫だと思うが」
目の前に置かれたカクテルを一口飲んだ春美の頬がポッと赤く染まる。
「お、美味しいわ。でも、アルコール濃度が高そうだから女を落とす道具にされそうね」
それでも春美は、高級な雰囲気に呑まれたらしく、最初の一杯を軽く飲み干した。追加のカクテルが春美の前に届くと
「ちょっと、食事が出るまで私の話を聞いてくれないか?」
春美が頷くと隆之は
日本国内、数ヶ所に奴隷販売所と呼ばれる女性に卑猥な調教を施しマニアに販売する組織が存在し、その上位組織が快楽島と呼ばれる施設を保有し、そこでは身体を改造して男に弄ばれるだけの女性を特別会員と呼ばれる政財界の重鎮達に提供している。その組織を陰で操っているのが、戦後の混乱期に莫大な財を成し、未だに闇の政商として政財界に強いパイプを持つ磯辺隆三である。
その磯辺の孫娘が三田の後妻となった旧姓四井美沙で、森下製作所との取引に失敗して長く執行役員に留まっていた三田が一気に副社長まで昇進出来たのは四菱商事の個人筆頭株主である磯辺の強い威光あってのことであり、目的までは判らないが、何れ時期がくれば三田を社長に据え、陰から四菱商事を操る計画らしい。
その組織の存在を知ったのは、死亡した事になっている三田の前妻、詩織が闇組織で奴隷として売られそうになっていたところを助け出し、彼女の口からその闇組織の存在を知ったと話した。
「三田さんは、出世の為に邪魔な奥さんを闇に葬り、再婚して現在の地位を得たと言うことですね。それで花江ママがあの男だけはパトロンにしない方が良いと言ってた理由が分かったわ。まあ、元からその気はなかったのだけど」
「それで、三田の線からもっと詳しい情報を得られないか花江ママのクラブ経営者ネットワークを使って調べて貰うつもりだったのだが、ホステスの引抜きなどで経営が思わしくなく、それどころでは無いと断られたしまったのだよ。その花江ママに援助を申し出たところ、自分は近い内に引退を考えているから同じ理由から経営の厳しい"グランデ"を助けてやってくれと頼まれた。今まで黙っていて悪かったとは思うが許してくれ。春美さんが私とコンタクトを取ろうとしたのも花江ママから何か言われたからだと思っているが、どうかな?」
「花江ママから森下会長にコンタクトすれば、何とかしてくれるかもとアドバイスを受け、藁にもすがる思いで肉弾攻勢をかけ見事に自爆した自分が恥ずかしいです。あの日から私は森下さんを心から・・・」
「おっと、そろそろ食事が運ばれてくる時間なので続きは食事を終えてからにしようか」
春美の話に割り込み強引に終わらせると、数分後に食事が運ばれて来た。
「さあ、温かい内に食べようか」
コース料理が順次運ばれ、春美は"美味しいです"と繰り返し言いながら全てを平らげた。その合間にカクテル3杯とワインも2杯飲み、ほんのり頬を赤くしていた。食事が終わり席を立つ際、さすがにウェストが緊つくなったらしく、恥ずかしそうにスカートのホックを一つだけ緩め、既に会計を終えた隆之に寄り添うと小声で、
「幾ら化粧で誤魔化して若く見せても、所詮は小母さんなの、幻滅しちゃ嫌よ」
隆之が、無言のまま春美の頭をそっと胸に抱くと、甘えるように凭れ掛かってくる。
『森下会長、朝はお見送りもしないで本当に申し訳有りません。私はあれからぐっすり寝て、今起きたところなの、会長もお休みになったのですか?』
『爺さんの心配や今朝の事は、気にしないで良い。あの状態の春美ママに見送られたら、私の方が恐縮してしまう。それで、体調が悪ければお店を休んで養生した方が良いと思うが?』
『今まで貯め込んでいた欲求不満が一気に解消した感じで、凄く快調ですから大丈夫です。それで、お電話を掛けたのは、今度の土曜日、ご都合が宜しければ、ご一緒にお食事をどうでしょうか?』
『午後の3時以降なら予定はありませんが、春美ママはお店があるのでは?』
『会長に承知して貰えたら、チーママに任せてお休みするつもりですから。それでは、夕方6時に銀座○○ホテルのロビー待ち合わせに致しませんか?』
『そのホテルの4階にとても美味しいステーキレストランが有りますよね』
『ご存知なのですね!』
少し残念そうな声に思えた。
『あの店なら大歓迎なのですが、今回は私にご馳走させて頂けませんか?男として最初のデートで、ご馳走になるのは生もないプライドが許さないと言うか何となく』
『何かお誘いしたつもりが、お強請りになって心苦しいのですけど、会長のお誘いなら』
『それなら決まりだな。土曜の午後4時丁度に春美ママのマンションへ迎えに行くので、エントランスで待っててください。あっ、それと何か相談が有ると仰っていましたよね?』
『そ、それはまた次の機会でも』
篠田君とか森下製作所の営業からある程度の事情を聞き、春美のクラブがかなり苦しい状態に追い込まれているのを隆之は既に掴んでいた。春美は遠慮しているが、悠長に構える段階ではないのは明らかで有る。
『この際なので、ホテルにでも泊まって、じっくり話してくれませんか。ママのお店は確か日曜日は定休日ですよね』
『はい、それでは当日、宜しくお願いします。それでは失礼致します』
春美が電話を切ろうとした時、
『ちょっと待ってくれるかな』
『えっ?』
『我が社の営業部長に春美ママの店を紹介しておいたのだが、今日の9時頃接待客を連れて行くと連絡をくれた。気に入って貰えれば、今後も接待で使うことも増えると思うので、チーママやホステス達にもしっかり頼んでおいてくれ。彼の連れは、引き抜かれたホステスの顧客など比較にならない紳士揃いなので、上手くすれば常連となってくれると思う』
『有難う御座います。お店の子全員に粗相の無いよう徹底しますので、ご安心ください。それと、あのぉぉ、会長はどうしてホステスが引き抜かれたことをご存知なのですか?』
『春美ママがパトロンに逃げられたと言ってたのを思い出して、ちょっと調べさせた。出来るだけ、後方支援は考えているが、言わなくても分かっているだろうが春美ママの頑張りが復活の鍵となる。あっ、それと内の営業部長は私など足元に及ばないくらいイケメンで当然ながら若い、呉々も誘惑したりしないで欲しい。万が一、春美ママと関係でも持たれたら、社員と穴兄弟になってしまうので』
『私は会長一筋と決めています。それでは失礼致します』
軽い冗談のつもりだったが、春美は少し怒ったような口振りで電話を切った。
土曜日、趣味の研究を早めに切り上げた隆之は、3時半過ぎに春美のマンション前に車を停めると、エントランスから二十代半ばくらいの女が走り寄って来た。助手席の窓を叩く女を良く見ると、なんと春美だった。
おそらくブランド品であろう、シルクのタンクトップに淡い水色のブレザーとミニスカートに無地のストッキング、足元は白のハイヒール。
胸元が広めに開き、黒のブラジャーが見え隠れしている。ミニスカートの下も黒のパンティなのだろうかと想像してしまうくらい刺激的な服装である。
店では髪をアップに纏め、和服を着ているので落ち着いた雰囲気の熟女的イメージだったが、今日の春美は二十代にしか見えない。化粧も関係しているだろうが本来は若作りなのかもしれない。車を走らせ高速に入ると
「この車はお煙草を吸っても大丈夫ですか?」
「構いませんよ。待ち合わせが無ければ、ダッシュボードに私のが入っているが」
春美は軽く微笑み膝上に置いたボストンバックからポーチを取出し、メンソール系の煙草を手に取り吸い出した。脚を組換え煙草を吸う春美を横目で覗くと、バックの下でスカートが幾分捲れ、綺麗な太腿とガーターベルトが見えた。
隆之は下りる予定のインター手前のサービスエリアに入り駐車スペースで車を止め
「私に背中を向けて、良いった言うまで目を瞑っていてくれるかな?変なことはしないから大丈夫だ」
「はい」
春美は身体を捻り隆之に背を向けるようにして目を閉じる。隆之はセンターボックスから細長いケースを取出し、中のネックレスを春美の首に掛け
「春美ママ、もう目を開いて良いよ。誕生日には数日早いが、私からの誕生日プレゼントだ」
春美は胸元のネックレスを手に取り目を白黒させながら、
「これって、ティファニーですよね。こんな高価な物を頂いて宜しいのですか?」
「時間が無くて、既製品の中から店員に選ばせたのだが、今日の春美ママには少し地味だったかな。安物で悪いが、来年の誕生日にはオーダーメードでもっと良い物を用意するから、今年は我慢してくれ」
「これって、1000万以上はするはずよ。私、ショーケースに飾られたレプリカの値段を見て買うのを諦めたので知っています。レプリカも素敵だったけど本物はダイヤの粒も大きく輝きが全然違うわ。でも、何で私の欲しい物や誕生日を会長はご存知なのですか?」
「簡単なことさ、春美ママに誕生日を尋ねて、その日に何をプレゼントしたら愛人になってくれるかと誘った男がいたはずだ。それに対して、ティファニーのカタログを見せ、これの本物を用意してくれるなら考えても良いと答えていたと、クラブ"花"の花江ママから聞いたのでね。私が昔から花江ママと親しい関係にある事は、同じ銀座で店を構える春美ママなら知っているはずだ。生憎、肉体関係は無いが顧客の個人情報を花江ママが私にリークするなどあり得ないのはわかるだろ」
「そう、確かにそう言ったわ。でもあれは三田副社長を諦めされる口実で」
「でも、欲しかったのだろ」
「諦めていましたけど・・・」
「じゃあ、素直に受け取ってくれるだろ」
「有難う御座います。でも私は会長を」
「大筋の事情は知っているが、その話は食事の後、ホテルの部屋で春美ママの口から聞かせてくれ。今は素直に喜んでくれるかな?」
「でも、会長は何で私にそこまで・・・」
隆之は何も答えず車を発進させる。春美は困惑した表情を見せながらも、それ以上は何も聞いてこなかった。インターを出て後10分程で目的のホテルに着く頃になって、隆之はようやく口を開く
「もう直ぐ到着するが、これから春美ママを春美さんと呼ぶので、私のことは森下さんと呼んでくれるかな。それと相談事については二人になってから聞かせて貰うから食事の間は忘れてくれるね」
ホテルに到着するとベルボーイに車のキーを渡し、春美には二階のレストランで待つように伝え、隆之はホテルのフロントでチェックイン手続きをした。チェックインを済ませ、隆之がレストランに行くとマネージャーが駆け寄って来た。
「森下様、何時もご利用頂き有難う御座います」
軽く頭を下げ、隆之は客席を見渡し
「私の連れが先に来ているはずなのだが、何時もの個室に案内してくれたのかな?」
マネージャーは慌てて案内担当に確認し
「若い女性がお一人、先程入店さらましたが、森下様のお連れの方はまだお見えになっていらっしゃらないようです」
「その女性が私の連れだと思うのだが」
マネージャーは慌てて奥のテーブルから春美を連れ戻って来た。
「森下様には何度もご利用頂いていますが、奥様がお亡くなりになって以降、女性を連れで来店頂いたのは初めてでしたので、大変失礼致しました」
などと春美にお詫びをしながら、春美と隆之を個室に案内し、席に着かせると、直ぐにウェイトレスがメニューを差し出してくれた。
「森下様、ひょっとして、こにらの女性と再婚なさるのですか?」
マネージャーは春美を再婚相手だと勘違いしているようで
「春美さん、君がそんな服を着て来るから、別のテーブルに案内されたのだよ。ねぇ、そうだろうマネージャー」
「森下様、その件については完全に私どもの手違いですから、それでは本日のオーダーをお願い致します」
「何時ものコース料理を頼む」
ちらっと春美に視線を向けたマネージャーは
「あのコースですと、ご婦人には少々重過ぎるので、カロリーを抑えて作るよう料理長に指示しても宜しておきましょうか?」
「春美さんを連れて来たのは、あの味を楽しんで欲しかったのだが」
「お客様に味を落とした料理など、間違ってもお出し致しません。信じてお任せください」
「マネージャーがそこまで言うのなら、料理長を信じて待つとしよう。それと、例のホワイトワインと巷で噂のオリジナルカクテル、それとつまみの前菜を直ぐに持って来てくれないか?」
「畏まりました!」
マネージャーが立ち去り、10分もしない内に数皿の前菜と飲み物が運ばれて来る。
「友人の奥さんから聞いたのだが、さのカクテルは口当たりが最高でついつい飲み過ぎてしまい限度を超えると足にくるらしい。まあ、春美さんは大丈夫だと思うが」
目の前に置かれたカクテルを一口飲んだ春美の頬がポッと赤く染まる。
「お、美味しいわ。でも、アルコール濃度が高そうだから女を落とす道具にされそうね」
それでも春美は、高級な雰囲気に呑まれたらしく、最初の一杯を軽く飲み干した。追加のカクテルが春美の前に届くと
「ちょっと、食事が出るまで私の話を聞いてくれないか?」
春美が頷くと隆之は
日本国内、数ヶ所に奴隷販売所と呼ばれる女性に卑猥な調教を施しマニアに販売する組織が存在し、その上位組織が快楽島と呼ばれる施設を保有し、そこでは身体を改造して男に弄ばれるだけの女性を特別会員と呼ばれる政財界の重鎮達に提供している。その組織を陰で操っているのが、戦後の混乱期に莫大な財を成し、未だに闇の政商として政財界に強いパイプを持つ磯辺隆三である。
その磯辺の孫娘が三田の後妻となった旧姓四井美沙で、森下製作所との取引に失敗して長く執行役員に留まっていた三田が一気に副社長まで昇進出来たのは四菱商事の個人筆頭株主である磯辺の強い威光あってのことであり、目的までは判らないが、何れ時期がくれば三田を社長に据え、陰から四菱商事を操る計画らしい。
その組織の存在を知ったのは、死亡した事になっている三田の前妻、詩織が闇組織で奴隷として売られそうになっていたところを助け出し、彼女の口からその闇組織の存在を知ったと話した。
「三田さんは、出世の為に邪魔な奥さんを闇に葬り、再婚して現在の地位を得たと言うことですね。それで花江ママがあの男だけはパトロンにしない方が良いと言ってた理由が分かったわ。まあ、元からその気はなかったのだけど」
「それで、三田の線からもっと詳しい情報を得られないか花江ママのクラブ経営者ネットワークを使って調べて貰うつもりだったのだが、ホステスの引抜きなどで経営が思わしくなく、それどころでは無いと断られたしまったのだよ。その花江ママに援助を申し出たところ、自分は近い内に引退を考えているから同じ理由から経営の厳しい"グランデ"を助けてやってくれと頼まれた。今まで黙っていて悪かったとは思うが許してくれ。春美さんが私とコンタクトを取ろうとしたのも花江ママから何か言われたからだと思っているが、どうかな?」
「花江ママから森下会長にコンタクトすれば、何とかしてくれるかもとアドバイスを受け、藁にもすがる思いで肉弾攻勢をかけ見事に自爆した自分が恥ずかしいです。あの日から私は森下さんを心から・・・」
「おっと、そろそろ食事が運ばれてくる時間なので続きは食事を終えてからにしようか」
春美の話に割り込み強引に終わらせると、数分後に食事が運ばれて来た。
「さあ、温かい内に食べようか」
コース料理が順次運ばれ、春美は"美味しいです"と繰り返し言いながら全てを平らげた。その合間にカクテル3杯とワインも2杯飲み、ほんのり頬を赤くしていた。食事が終わり席を立つ際、さすがにウェストが緊つくなったらしく、恥ずかしそうにスカートのホックを一つだけ緩め、既に会計を終えた隆之に寄り添うと小声で、
「幾ら化粧で誤魔化して若く見せても、所詮は小母さんなの、幻滅しちゃ嫌よ」
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