私の眼を愛する男

ミナト碧依

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私の眼を愛する男

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「お願い! 結婚祝いと思って当日の写真撮って!」
 ぱんっと乾いた音を立てて、親友の飛鳥あすかが顔の前で合掌する。私は隠さずため息をついた。
「いーやーでーすー」
 わざと唇を尖らせて完全拒否の姿勢を見せる。アラフォーがやったって可愛くないのは知っているけれど、十代の頃からの親友の前では高校生に戻ったような気になる。好む飲み物は随分変わったけれど。
 ブラックコーヒーにミルクを落とし、混ぜずに口をつける。徐々に味が変わっていくこの飲み方が私は好きだ。
 火曜日の午後、昼下がりのカフェテラス。私たち以外はいかにもな有閑マダムやハイスぺ旦那持ちであろうママ友グループばかり。マタニティマークをバッグに着けた目の前の親友も、もうすぐあちら側。
 私はコーヒーカップを置いた。
「結婚祝いならなおさら縁起悪いでしょうが。こちとらバツイチよ?」
「そんなこと言ったらゲストとしても呼べないわよ。結婚式来てくれないの?」
「親友の結婚式くらい、ゲストとしてゆっくりタダ酒飲ましてよ」
「いくらでも飲んだらいいじゃない! ギャラだって値切るつもりなんかないわよ」
 飛鳥が妊娠で大きくなった胸を張る。と思ったら、急に不安そうな顔をした。
「そりゃあ、人気写真家のギャラなんて知らないけど。式場のカメラマンよりいいお値段くらいは出せるし」
 私はこれでも指名で依頼が来る程度には知られた写真家だ。写真集も何冊か出している。美容師の飛鳥は撮影のヘアメイクの仕事も受けているから、知らないと言いつつも決して安くはないと理解しているのだろう。まあ、結婚相手が人気美容サロンを複数経営するオーナーなんだからギャラを不安に思う必要もないと思うが、問題はそこじゃない。
「だから、やりませんて。私が人物撮らないって知ってるでしょ」
「昔は撮ってたじゃない」
「被写体も仕事も、選んでられなかっただけよ」
 私はさりげなく時計を見ながら答えた。どうしても話があると約束をねじ込まれたけれど、実はあまり時間がない。
 結局は堂々巡りになるだけだとわかっているので、そろそろ切り上げようとしたときだった。
「ねえ、あんたまだ元ダンナのこと」
「――ごめん、もう時間」
 遮るように言うと、飛鳥は一瞬口を噤んで「ごめん」と言った。
「失言だった」
「そんなんじゃないよ。本当に時間なの」
 飛鳥がそれを信じたのかはわからない。けれど私に合わせてくれる。
「打合せだっけ?」
「そう。来週からまた撮影旅行だから」
 フィルムに頼っていた頃ほどじゃないけれど、写真というのはコストがかかる。だからコストパフォーマンスを上げるために、綿密にスケジュールが立てられるのだ。好きに撮らせてよ、と思うことも多いけれど、これも仕事だ。
「そういえば、裕翔ゆうとが会いたがってたわよ」
 飛鳥が思い出したように言う。その名前はよく知ったものだったけれど、あまり興味がないふりをする。
「飛鳥の店からモデルに転身したイケメン君?」
「そ。あんたのファン」
 私は月に一度は飛鳥が店長を務める美容サロンに通っている。そのためスタッフも顔なじみが多く、かつてアシスタントだった彼とも面識があった。
 とはいえこれほど通っているにも関わらず、店で話したことはあまりない。新人の頃はシャンプーやドライを手伝ってくれたけれど、それもなくなっていったからだ。徒歩圏内に別の店舗があり、そちらのヘルプで不在にしていることも多かったらしい。
 それでも高身長で整った顔立ちの彼はたまに会うだけでも目についたし、私のファンだと飛鳥に紹介されたこともよく覚えている。
「この間カットに来て、うちの店にあったあんたの新しい写真集見て『俺もサイン欲しい!』って騒いでた」
「あー、じゃあ今度香坂こうさかさんにでも渡しとく」
 香坂さんは雑誌のグラビアや広告で活躍する写真家で、裕翔を発掘した人物でもある。今も同じ仕事は多いらしい。活躍する分野は違うが、香坂さんは私の師匠の友人だったこともあるし、カメラマン同士としての交流はあるのだ。
「直接渡してあげればいいのに」
「連絡先知らないもの」
 飛鳥の言葉にどきりとしたのを悟られないように、「本当に時間だから」と伝票を持って席を立った。

 その日の夜、ウイスキー片手に来週の日程を確認しているとインターホンが鳴った。時計を見るともう十二時を回っている。モニターには黒いパーカーが映っているだけで、顔は完全にフレームアウトしていた。
 聞く人もいないのでため息を隠さず、私は「開錠」ボタンを押した。二度目のインターホンが鳴るまでには十分ほどかかるだろう。私はこの中途半端な時間が嫌いだ。タワマンってエントランスから部屋までが遠くて嫌になる。
 住むだけならもっと家賃も階層も低いところにするけれど、半分仕事場でもある自宅のセキュリティレベルは上げざるを得なかった。機材も高額だし、扱っている情報も部外秘が多いからだ。フリーランスってそういうところは面倒だ。
 深夜ということもあってか、思っていたより四分早くインターホンが鳴った。玄関を開けると、黒いパーカーが目に入った。視線を上げると頭一個分以上高い位置に、堀の深い整った顔がついている。聞いた話だと外国の血が混ざっていて、クォーターらしい。
「へへっ、ただいま」
 自分の家じゃないんだから「ただいま」はやめろと何度言っても、裕翔は聞かない。
「『いらっしゃい』。今日もまた随分遅くまで頑張ってたのね?」
 やんわりとした拒絶を込めてそう言うと、嬉しそうに笑う。
「そうなんだよー。トレーニングの時間夜しか取れなくて」
 嫌味も通じないと呆れつつ、私は踵を返した。
 すると引き留めるように、長い腕が絡みついてくる。トレーニング後のせいか体温がいつもより高い。若い肌の匂いに、罪悪感を思い出した。親友はこの青年が私の家に出入りしていて、触れるのも触れられるのも慣れた関係であることを知らない。
「この格好、無防備過ぎない? 谷間見えてて超エロい」
 後ろから抱きすくめられて、耳元で拗ねたような声がした。
 シャワー後で涼んでいたため、ブラタンクトップにショートパンツというラフな格好だった。そのまま仕事の資料を読みふけってしまって、すっかり汗は引いている。
「自宅でくらい好きな格好させてよ」
「ほかの人に見せたくないの、わかってよ。インターホンも通話しないで開けちゃうし、俺じゃなかったらどうするの」
「そう思うならカメラにちゃんと映って」
 ちゃんとわかっていて開けたのだと主張するが、裕翔は納得しない。
「顔も見ないで開けたの? 余計ダメじゃん」
「はいはい。シャワーでも浴びる?」
「ジムで済ませてきたからいい。ってゆーか髪も濡れてるじゃん。冷たくなってるし、よくないよ。俺にドライヤーさせてね」
「好きにして」
 元美容師だ。この男にドライヤーされるのは、悪くない。
 裕翔そっちのけで、タブレットで仕事の資料をチェックする。服装そのままソファの前に胡坐をかいて座る私に、裕翔は呆れ気味にパーカーを着せてきた。
 私は締め付ける服装が嫌いで、自宅ではなるべくラフな格好をする。夏場なら裸族なこともあるくらいだ。裕翔のパーカーは当然オーバーサイズなので、おとなしく羽織る。これでもブラトップを使うようになっただけ気にしてるんだぞ、とは言わない。裕翔を気にしていると思われたくない。
 準備を済ませた裕翔がソファに座り、足の間に私を入れる。こうするとドライヤーするのに高さが丁度いい。
 裕翔は洗面所からドライヤーのほかにヘアオイルとブラシを持ってきていて、慣れた手つきでドライヤーを始めた。本職だったのだから当然だけれど。
 頭を裕翔に任せて、私は仕事の資料チェックを続けた。最中は音がうるさいから、無理に会話はしない。指の感触だけが心地いい。裕翔がまだ美容師だったころ、一度だけやってもらった彼のヘッドスパが気持ちよかったな、と思い出す。
 二十分ほどかけて丁寧にドライヤーとブローをしてもらうと、髪に艶が出てまとまりが良くなっていた。店ではなく自宅なのに、同じ道具を使ってもこれだけ違うのかと毎回感心する。調子に乗るから言わないけれど。
 グラスに残ったウイスキーを口に含む。普段はオンザロックかハイボールが多いけれど、今日は薄めるのがもったいない銘柄だったのでストレートにした。氷が解ける時間を気にしなくていい。
「それ、俺でも知ってるよ。ジャパニーズウイスキーの有名なやつでしょ」
 ドライヤーを終えて勝手にくつろいでいる裕翔は、テーブルのボトルを見てそう言った。
「なに? 飲みたい?」
「んー、飲みたいけどやめとく。明日撮影だし、今からアルコールはむくむから」
 以前飛鳥に呼ばれて三人で外食したときは食事に気を使っているようには見えなかったが、こういうところはちゃんとプロなのか。当然だけれども。
「普段こんなにいいの飲まないよね? なんかお祝い?」
「周年記念でラベルの仕事受けたの。それで差し入れてくださって」
「えー!」
 裕翔は女子みたいな黄色い声を上げた。いやまあ、低い男の子の声ではあるんだけど。
 こういうとき、裕翔は大袈裟なほどに興味を示す。最初はポーズかと思っていたが、本人はいたって本気で、彼は本当に私のファンなのだ。
「このウイスキーに貴女の写真がつくの⁉」
「一応まだオフレコだから。SNSとかはやめてね」
「発表いつ?」
「明日。っていうか今日」
「漏らす隙ないよ。漏らさないけど!」
 裕翔は笑ったが、ほんの数時間でも馬鹿にできない。情報解禁日時は厳守だ。とはいえあと九時間なのでこのくらいのフライングは許してもらおう。裕翔もプロだし、それくらいの信頼はある。
「めっちゃ欲しいんだけど! 俺でも買えるかな?」
「数量限定、多分予約で埋まるだろうって。ほかの商品もプレミアがついてるくらいだから、難しいんじゃない?」
「転売ヤーと競争か……! もうほんと、そういうやつらって絶滅すればいいのに」
 スマホをいじりながら、どのサイトから予約できるか尋ねられた。本当に参戦するのか、予約争奪戦。
 発売になったら何本かはもらえるはずだし、関係者として予約枠をいくつか抑えてもらった。というのは言わないでおく。
「ねー、どんな写真? 見たい」
「それは発表されてのお楽しみ」
「そーだよねー!」
 裕翔はソファに倒れこみ、子どものように手足をじたばたさせた。ナリはまったくもって子どもじゃないくせに。長い手足でばたばたされると正直邪魔だ。
「はあ、早く見たい。また楽しみが増えたよー」
 抱きしめたクッションに顔を埋めて、うっとりと笑う。
 この子私の写真好きすぎるだろ。
 おだてられているのかもしれないけれど、悪い気はしない。
 機嫌よく最後の一口を煽ると、飲み込む前に頭を引かれた。咄嗟に吹き出さないように引き結んだ唇を、薄い舌が誘うように舐める。口の中のものを飲み込んで唇を開くと、裕翔はすかさず舌を入れてきた。私の口をすっぽり塞ぐほど大きな口を開けて、私の口腔内を舐めまわす。キスというより口ごと食べられているみたいだった。
 鼻呼吸だけじゃ苦しくなってきて、胸を押す。着やせして見える体はびくともしなくて、むしろ私の背を抱きこんで密着してきた。さすがに限界で、手探りで耳を引っ張る。
 裕翔がびくりと体を震わせ、少し歯が当たる。
「調子乗んな」
 ようやく口が解放されて睨みつけるが、裕翔はにへらーっと笑った。なんだこの締まりのない顔。こんな表情でも相変わらずイケメンなんだからたちが悪い。親御さんに感謝しろ。
 裕翔がまた口を近づけてくる。犬のように口元をぺろぺろと舐められた。さっきの不意打ちキスのせいで少し零れたウイスキーがついていた。 
「むくむんじゃなかったの」
「このくらいの味見ならへーき。美味しいね。すごくいい香り」
 もう口の中も零れた分も全部舐め取られて残っていないけれど、裕翔は子犬がじゃれるようなキスを繰り返した。長い指が私の体を這う。抵抗せずにいると、裕翔は私をソファに引き上げた。自分の膝に座らせて鼻を私の首に擦り付ける。本当に犬のようだ。
「ねえ、あのウイスキー取っておいてね。今度一緒に飲も」
「自分のペースで飲むわよ、私は」
「貴女が飲み切る前に絶対また来るから!」
「期待しないでおくわ」
 裕翔とはこの部屋で何度も会っているけれど、約束をしたことはない。連絡先を知らないのも本当だった。
 私の言葉に、裕翔は少しむくれた。
「そういうのは期待したことがあるか、本当は期待したい人しか言っちゃいけないんだよ」
 この男は知っている。私が裕翔に執着していないことを。十も違う裕翔が、そう遠くない未来私に飽きるだろうと思っていることを。
 不安そうな裕翔の頬を撫でる。
「明日撮影なんでしょ? 早く寝なさいよ」
「だから、でしょ?」
 頬に触れていた手を掴まれて、胸に触れさせられる。鍛えられた胸筋の凹凸が服の上からでもよく分かった。知り合った頃はもっとひょろかったのに、成長するものだ。
「明日の撮影、下着なんだ」
「ああ、あの色っぽいシリーズ。香坂さんらしくていい写真よね」
 裕翔はとある下着ブランドと契約している。香坂によって演出された官能的な広告写真は、裕翔の人気の火付けにもなった。
「そう。だから、俺のこと『仕上げて』?」
「私がなにかするんじゃなくて、あんたが勝手に『仕上がる』だけでしょ」
「違うよ。だって貴女が『見て』くれないと、俺あんな顔できない」
 縋るような表情。スウェット越しに伝わる股間はとっくに熱を帯びていて、欲情しているのがわかる。けれどそれは、あの広告写真で見るものとは全く違う。迷子の子どものような情けない表情は、ともすれば十代にも見えた。
 あの写真のファンたちが知ったらがっかりするだろう。裕翔があの広告に出るために、十も年上の女を抱いているなんて。
「いいわ。……脱がせて」

 この男と最初に寝たのは、二年前。飛鳥のアシスタントとして撮影現場に出入りしていた裕翔が写真家の香坂に見初められ、モデルに転身して一年ほど経った頃だった。
 クォーターというだけあって日本人離れした体格と容姿を持つ裕翔は、学生時代からモテたしスカウトもあったそうだ。けれど本人にその気がなく、美容師の道に進んだ。
 そんな彼が撮影現場に出入りするようになると、当然多方面から再度スカウトがかかった。頑なに断り続けていると飛鳥から聞いたときはもったいないなと思ったものの、やる気のない人間が成功する世界ではないから、正しいとも思っていた。それに美容師として努力していると聞いていたし、単に将来のビジョンがモデルではないのだろうと解釈していた。
 それまでの私たちは美容院で会うとたまに挨拶する程度で、ほとんど会話したことがなかったし、会ってもあまり目が合わなかった。ファンだと紹介されていたけれど、リップサービスだと思っていたくらいだ。
 だから香坂さんから裕翔のことを相談されたときは、本当に驚いた。
「お前さ、飛鳥んとこのイケメン撮る気、ない?」
 ビール奢るからと言われて連れていかれた店のカウンターで、乾杯もそこそこに話を切り出された。もうちょっとクラフトビールを楽しんでからが良かったけれど、香坂さんがあまり強くないので仕方ない。
「飛鳥のとこのって、あの背の高い子ですよね? ハーフだかクォーターだかっていう」
 この頃は裕翔の名前もろくに憶えていなかった。
「そ。今口説いてんの」
「あれ、ああいう子好みでしたっけ?」
 香坂はゲイだ。本人がオープンにしているので、私もあっさりと話題にする。
「そういう意味じゃなくて、仕事でな。あんだけいいもん持ってたら撮りたくなるじゃんよー」
「香坂さんが言うとそういう意味だと思われますよ。みんなゴシップ大好きなんだから」
「お前しか聞いてないからいいじゃーん」
 香坂は仕事に恋愛や肉体関係を持ち込まない。性に奔放なのは否めないが、プロ意識も恋愛観も真っ当だ。
「真面目な話、今進行中の企画イメージにぴったりなんだわ。まあいきなりは使えねえから、別の仕事で場数踏ませたいんだけど」
「それで私ですか? 人物はもう撮らないって知ってるでしょう」
 つまみのピクルスを齧りながら言うと、香坂さんは無意味にナッツを皿から取ってカウンターテーブルに並べ始めた。もう酔っているのだろうか。
「だよなぁ。でもあいつがなぁ」
「イケメン君が?」
「撮られるならお前がいいって言ってる」
「それ断る口実なんじゃ」
 ファンというのはリップサービスだろうが、飛鳥の店のスタッフには私が人物を撮らないことは知られている。裕翔も知っているだろう。
「そうかなー? でもさあ」
「香坂さんの気持ちはわかりますよ。私ももったいないって思ったことあるし。でもやる気ない子にやらせても、今度は香坂さんの腕がもったいなくなっちゃいますよ」
「いや、あいつの場合やる気ないわけじゃなさそうなんだわ。お前を指名してるわけだし。お前の後でいいから撮ってみたいんだよなぁ」
「香坂さんにそこまで言わせて、ほかを指名って、モデルたちから恨まれそうだなぁ彼」
 普通は新人がカメラマン指名なんてできない。しかもそれが香坂さんより格下の私って、正直かなり命知らずなことを言っている。香坂さんが怒らなくてよかった。ほかの人だったら私の立場も危うくなる。今度飛鳥に釘差してもらおう、と心に決めた。
「だからさぁ、撮らねぇ? 俺のために」
 結局そこに話が戻るのか。
「撮りません。……撮れないです」
「お前いつまであの男に操立てんの」
 あの男、というのは元夫のことだ。馬鹿みたいに好きで学生結婚した。売れないカメラマンだった私を嫌な顔ひとつせず支えてくれた人だった。
「操とかじゃないです。人を撮ろうとすると、まだファインダー越しにあの人に見られてる気がするんです。そしたら、シャッター切れなくて」
「俺お前の人物写真好きなんだけどなぁ。お前が撮ってくれた写真、今も宝物だよ。俺もあいつも若くて髪ふっさふさだったしな」
 香坂さんとかつてのパートナーの写真を撮ったのは、このときから更に十年前のことだ。私は二十四で、まだ師匠のアシスタントとして必死になっているときで、夫ともお金はないなりに幸せに暮らしている頃だった。
「お前、再婚しねえの」
「香坂さん」
「ん?」
「私、そんなに不幸に見えますか」
 その質問に、香坂さんは答えてくれなかった。
「いやすまん。お節介が過ぎたな」
「いえ。ありがとうございます」
 それからしばらくして、裕翔がモデルに転身すると聞いた。香坂さんがどうやって口説き落としたのかは知らないが、私より香坂さんの見立てが正しかったということだろう。
 転身してもいきなり仕事があるわけじゃない。香坂さんの仕事がある程度確保されてはいただろうけれど、いきなりモデル一本で生活できるようにはならない。しばらくは店にも出ながらレッスンやトレーニングをしていたらしい。
 最初の仕事はファッション雑誌のスチールだった。読者モデルレベルの仕事だったが、あのルックスで業界人の反響は大きかったらしい。すぐに雑誌が何本か決まった。二十四でモデルデビューというのは正直遅い方だが、そこは香坂さんの力が動いたようだ。
 ほどなくして裕翔は、飛鳥の部下じゃなくなった。
 それからは見かけることもなくなった。けれど二年前、裕翔は唐突に私の前に現れた。
 それは私の何冊目かの写真集が出版された直後で、出版記念パーティを内輪でやった日のことだった。
 内輪といってもホテルの宴会場で、宴会場にしては小さい部屋とはいえ関係者にそれなりに声をかけていて、香坂さんも招待していた。香坂さんからは事前に裕翔にも声をかけると聞いていたが、裕翔は来なかった。代わりにホテルを出たところで、小さな花束を持って待っていた。
「あの、おめでとう、ございます」
 大きな背を丸めて、歯切れ悪く裕翔は言った。相変わらず目が合わない。お祝いをしないと不義理になるというほどの関係性でもないし、わざわざパーティ終わりに花束まで用意した理由が心底わからなかった。
「ありがとう。パーティに来てくれたら、料理食べれたのにね」
 美容師を辞める程度の仕事はあるとはいえ、まだ大した収入にはなっていないはずだった。業界人に顔を売るチャンスも逃しているし、本当になんでこの時間に来たんだか。
「もう遅いけど、電車ある? タクシー代出そうか?」
 裕翔が喋らないので、適当に心配する素振りを見せる。裕翔に対する個人的な感情はなかったが、飛鳥の元部下で香坂さんの仕込みなのだから、タクシー代くらい出しても惜しくはなかった。
「あああの、あの、俺!」
「うん?」
「俺のこと、撮って、くれませんか⁉」
 ――撮られるならお前がいいって。
 このときまで、私は香坂さんの言葉を忘れていた。
「ごめんね。人は」
 撮らないのと言いかけて口を噤む。裕翔が思いの外思い詰めているように見えたからだ。承諾はできないが、このまま追い返すのも違う気がした。
「ねえ、お腹空いてる?」
「えっ」
「ラーメン食べに行こっか」
 アラサー(当時はギリ三十代前半だった)にもモデルにも、深夜のラーメンほど罪深いものはない。その罪深さが二人を共犯者にし、親近感を持たせる。ラーメン屋を出るころには、裕翔のおどおどした雰囲気は幾分かましになっていた。
「ねえ、モデルしんどい?」
 店を出て歩きながら、私は裕翔に尋ねた。
 裕翔は予想外に首を横に振る。
「いいえ。自分でも驚くくらい、楽しいです」
「じゃあどうしたの? なにかあったんでしょ?」
「あの、今、撮影上手くいってなくて」
「うん」
「あの俺、ED、なんです」
 予想の斜め上の言葉が出てきて耳を疑った。
「EDっていうか、性的なものに拒絶反応みたいなのがあって、なんていうか」
「性的なイメージの撮影があって、それが上手くいかないってこと?」
「そう、です」
 AVに出るわけではないし、別にEDでも困らないだろう。問題は性的なものに拒絶反応がある、という点だ。そういった些細な感情もカメラには出てしまう。特に香坂の仕事でそれは致命的だろう。彼は人間の内面を撮るのに長けている。それだけに一切のごまかしがきかない。
「切羽詰まってるのはわかったわ。それで、なんで私?」
「俺、あの」
「うん」
「引かないで欲しいんですけど」
「わかった」
 業界にいるといろいろあるし、大抵のことには偏見がない自信があった。さっきの告白も、驚きはしたが落とし込むのは早かった。
「俺、貴女の眼に俺が映っていると思うと、すごく興奮するんです」
「はい?」
 聞き返すと、裕翔は涙目で喚いた。
「引かないって言ったじゃないですか!」
「いや引いてはないけど」
 というか引けるほど理解できていなかった。
「えーと、私、そんなにじろじろ見てた?」
 確かに見る度イケメンだなぁとは思っていたけれど。
「そうじゃなくて、すみません」
 裕翔はますます背中を丸めた。暗いからわからないけれど、多分顔も真っ赤だ。というかモデルが背を丸めるんじゃない。
「俺、貴女の写真が好きです。俺が見てきたものが、貴女の目にはこんなに綺麗に見えてるんだって思ったら、すごく感動して、許された気がして。だからずっと、貴女に撮ってもらいたいって。貴女に撮ってもらったら、貴女の写真みたいに綺麗になれる気がして」
「君、本当に私のファンだったの」
「嘘でこんなこと言いません!」
「いや、お店で全然そんな素振り……嫌われてるのかと思ってたわよ」
「俺、何か失礼なことしてましたか!」
 本当に泣きそうだ。
「失礼じゃないけど、全然近寄ってこないし、目も合わないから、なんとなく。サインだって頼まれたことないし」
 相手が著名人と知ると、ファンじゃなくてもとりあえずサインや握手を強請る人間もいる中で、裕翔は近寄ってすらこなかった。
「店長も飛鳥さんも、お客様にあんまりミーハーなところを見せて迷惑をかけちゃいけないって! でも俺、貴女の前じゃ全然普通にできなくて、舞い上がっちゃって! 絶対ただのファンになっちゃうから、そんなんじゃ駄目だって思って」
 それは正しい。飛鳥の店や系列の店舗は、芸能人や著名人もよく利用するからだ。
 けれど飛鳥もまさか、顔出ししてない上に人物も撮らない、一般人にはさほどの知名度もない私にまでそれが「迷惑」であると思わなかっただろう。私に「ファンだ」と紹介したということは、それなりにファンサービスを期待していたはずだ。それだけに、愛想のない彼を不思議に思っていたけれど。
 なにこの子。真面目か。
 190センチ近い青年が、急に可愛く見えた瞬間だった。
「最初は貴女の予約日は絶対出勤日にしたり、シャンプーやドライヤーのヘルプ入ったりしてました。サインが欲しくて写真集持って行った日も何回もあります」
「持ってるんだ、私の写真集」
「持ってます、全部五冊ずつ!」
「多いな」
「でも段々貴女と目が合うと、こ、興奮しちゃうってなって、びっくりしました。もう何年もこんな感じなかったのにって。あんな綺麗な写真を撮る人を前にして、自分が心底嫌になりました。だから貴女の施術には入らないようにしました。敢えて他店のヘルプ行ったりして」
 飛鳥の店のスタッフとはみんな顔なじみだ。その中で不自然なくらい裕翔とは会話したことがなかった。だから嫌われているのかと疑っていたけれど、その逆だったとは。
「香坂さんに言われました。俺は性的なものを否定してるって。ポーズだけじゃ色気は出ないって。EDのことだと思いました。香坂さんの写真は綺麗だって思います。でもいくら写真を見てもAVとかエロいコンテンツを見ても、俺がそこにはまらないんです。貴女に見られたときだけだったんです」
 裕翔の事情の、深いところまではわからない。けれど裕翔は私の写真を好いてくれていて、その撮り手である私の眼にこだわっていることはわかった。
「分不相応なこと言ってるってわかってます。でも一度でいいんです。俺、貴女に撮られたい」
 ここまで熱烈なラブコールを受けて、写真家として心が揺らがなかったわけじゃない。
 けれど。
「ごめんね。私、人物は撮らないの」
 裕翔は絶望を浮かべた。
 私は人物は撮らない。撮れない。
 とはいえ裕翔をそのままにもできなかった。
性的なものへの拒絶、ED,綺麗になる――。
 裕翔が抱えているものが気になった。このままではこの子は、性的な作品でなくともモデルを続けられなくなる。
 私は裕翔を自宅に連れ帰った。
 自宅には小さなスタジオがある。小物の物撮り程度ならできるようにしているのだ。普段そこに人は入れないけれど、撮ってあげられない罪悪感から、私は裕翔をその部屋に招き入れた。
 戸惑っている様子の裕翔に言った。
「私は人物を撮らない。君を撮ってあげられない。でも君にとって私が『見る』ことに意味があるのなら、少しは協力できるかもしれない」
 私は椅子に腰かけ、裕翔をスクリーンの前に立たせた。
「まず言っておくわ。私は君の上司じゃないし、今日聞いたことは誰にも言わない。香坂さんにもね。君の不利益になることはしない。だから気が向かないことはしなくていいし、途中で帰ってもいい」
「何をすればいいですか」
「何も。してもいいし、しなくてもいい。見ていてあげる」
「緊張します」
「そうだね。緊張も悪くはないけど、少し話そうか」
 緊張しているのは私も同じだった。私はこの子に、どこまで踏み込むべきだろう。
「そうだなぁ。ラーメン、美味しかったね。いつも醤油味?」
「いえ。今日は、貴女と同じものが食べたくて」
「じゃあいつもは何味が多いの?」
「味噌とか。家系も好きです」
「こってりしたのってことか。『家系』ってなんで『家系』なのか、よくわからないのよね」
「俺も、意味はよく知りません」
「知らないけど好きなんだ」
「はい」
 裕翔がぎこちなく笑う。
 それからしばらく、世間話を何往復かした。
 目を合わせられる回数が増えてきて、私は切り込むことにした。
「君は私に見られると興奮すると言ったけど、今もそうなのかな?」
 裕翔は少し動揺したけれど、頷いた。
「はい。興奮、してます」
「興奮って具体的にはどんな感じ? EDということは勃起はしないんでしょ?」
「えっと」
「答えたくないなら答えなくていい。ここでやめてもいいよ」
 裕翔は少し迷う素振りを見せた。話題を変えた方がいいかなと考えていると、つい目線を逸らしてしまった。すると彼は焦ったように声を上げた。
「心臓が」
 私が視線を戻すと、裕翔は深呼吸して続けた。
「心臓が、すごく、どきどきしてます。服の上からでもわかりそうなくらい。緊張で手が震えて、身体が熱くなります。勃起はしないけど、オナニーをしてみたい、って思ってしまいます」
 思って「しまう」。この年齢の男性なら普通のことなのに。
「してもいいよ?」
「えっ」
「おっと、セクハラか。って今更だな?」
 自問自答した私に、裕翔が笑う。
「今更、ですね」
 笑みが消えた後、少しの沈黙。
 緊張に戸惑う瞳に、期待と欲情が混ざった気がした。
「本当に、してもいいんですか」
「いいよ」
「服を、脱いでも」
「うん。見ててあげる」
 喉仏が上下し、裕翔が唾を飲み込んだのがわかった。
 裕翔は震える手でゆっくりと衣服を脱いだ。どこまで脱ぐのかは裕翔に任せる。
 ジャンパーを脱ぎ、Tシャツをまくり上げ、もたつきながら襟首を引き抜く。そこにはほどよく筋肉のついた芸術品のような上半身があった。
「よくここまで仕上げたわね」
「気に入ってもらえますか」
「上背もある分全体的にちょっと薄く見えるけど、一年前まで素人だったとは思えない。素直に、綺麗だと思うわ」
 率直な感想を述べただけだった。
 裕翔は一瞬恍惚とした表情を浮かべ、直後焦ったように前屈みになった。バランスを崩し、膝をつく。正直ここまで上手くいくと思わなかったけれど、少し安心した。
「いいよ、触っても」
「ちが、あ、あっ」
 裕翔はほとんど四つん這いの姿勢で、身体を震わせた。最初は何が起こったのかわからなかった。
 裕翔は真っ青になって震え始めた。間違ってしまったかと焦った。立ち上がって様子を見に行くと、 裕翔はついにぼろぼろと泣き始めた。
「ごめん、なさ……見ないで」
 ジーンズの前を手で押さえながら、子どものように涙を流す。でもどことなく直感があって、私は股間を抑える手に触れてみた。裕翔は泣きながら首を振ったけれど、手にはまるで力が入っていなかった。股間から手を放させ、ジーンズのボタンを外す。前を寛げると独特な匂いがして、裕翔がさっき射精したのだと知った。そしてペニスはまだ下着を押し上げている。
「ごめんなさい、俺、ごめんなさい」
 謝り続ける裕翔の唇に指をあてて黙らせる。
「もう見なくていいの?」
 裕翔は少しの間黙っていたけれど、やがて唇が動いて、喉の奥から絞り出したような声で私に願った。
「見て、ください。俺を、見て。全部……!」
 スタジオの照明の中で、裕翔の瞳が少し緑がかっているのに気づいた。そのとき初めて、裕翔と本当に目が合った気がした。
 この日、裕翔は三回射精した。二度目は自分の手の中で、三度目は私の膣の中だった。EDは治ったのだ。
 その後劇的に何かが変わったわけではなかったけれど、裕翔はどこか吹っ切れたようだった。
 そうして発表されたのが例の下着ブランドの広告だった。自分の両腕を抱いて自信なさげに座る裕翔の姿は、確かにあの夜の彼に重なって、けれどどこか違った。
 ――俺を見て。
 裕翔はそう言えるようになったのだ。私以外にも、レンズを通して。
この初回広告は女性たちの庇護欲を掻き立て、自分を強く見せたくても見せられない男たちの共感を誘った。SNSなどで話題を呼び、裕翔は下着ブランドとの契約更新を勝ち取ったのだ。
 十も下のモデルと関係を持ったことに多少の罪悪感はあったけれど、若い才能に貢献できたと思えば少し誇らしい気持ちになれた。もう会うこともないだろうから、若い男とセックスできてラッキーとでも思っておこう。そう片付けたつもりだった。

 寝苦しさを感じて目を覚ます。男の長い腕が絡みついていて、腕の重さに息苦しくなったらしかった。
 もうすぐ夜明けだけれど、起きるにはまだ早い時間。なのに妙に目が冴えてしまった。
 裕翔の腕をどかし、ベッドの抜け出す。もう何度もこうして夜を過ごしたけれど、自分以外の人間と眠ることに、まだ慣れない。慣れる日はこないのかもしれない。
 洗面所で顔を洗うと、棚の中に男物のピアスを見つけた。捨ててやろうと思ったけれど、持ち主がまだベッドにいるので思い止まる。リビングに置いてあったバッグに雑に放り込んだ。気づいたのが帰宅後だったら捨てている。
 裕翔がどうして今もこの部屋に通うのか、よくわからない。色っぽい撮影の前は必ず私のところにきて仕上げて欲しいという。もうそんな必要ないと思うが、最初に成功したときの追体験というか、願掛けに近いものなのだろうか。
 連絡先を教えないから何度か無駄足を踏んでいるだろうし、気が向かなくて居留守を使うことだってある。痕跡を残すことすら許していない。この部屋に裕翔の私物は一つもない。
「おはよう」
 いつの間にか裕翔がリビングの戸口に立っていた。寝起きの気だるさを残した様子は、むせ返るほど色っぽい。彼が求める「仕上げ」はこういうことなのかなと、セックスした翌朝にいつも思う。その度に、密かな優越感に浸っている自分がいる。同時にほかの女とは試したのだろうかとも考える。私じゃなければならないとは思えない。
「またそんな格好して。風邪引くよ」
 全裸でソファに腰掛ける私に、裕翔が困ったように言った。もう見慣れたものだろうに、裕翔は今も私が裸になると恥じらいのようなものを見せる。それが少し、可愛い。
「脱がせたのあんたでしょ」
「脱がせてって言ったの貴女だよ」
 またパーカーを着せようとする男からやんわりと逃げて、キッチンに立つ。二度寝する前にコーヒーでも飲もうと、電気ケトルに水を汲んだ。
 裕翔は私の腰を抱き寄せて距離を詰めると、瞼にキスを落とした。いつから始めたのか忘れたけれど、裕翔が帰るときの習慣になっている。自分を「仕上げ」た女に対する裕翔なりの礼なのだろう。
巡礼者のキスのようだと思ったことがある。流石に自分を美化しすぎだと笑えたけれど、それくらい裕翔の仕草は綺麗で、祈りのようだ。
「またね」
 そう言う裕翔は、いつもどこか寂しそうだ。置き去りにされる子犬のように見えることもある。
「そうね」
 何気なく同意すると、玄関に足を向けていた裕翔が嬉しそうに振り向いた。私は次の約束をしないから。
「飛鳥の結婚式で顔合わせるでしょ」
来週から撮影旅行で東京を離れる。戻ってきたらすぐ飛鳥の結婚式だ。
「じゃあ俺にエスコートさせてよ。迎えに来るから」
「嫌」
 被せ気味で私が即答すると、裕翔は恨めしそうな顔をして不満げに帰っていった。
 音が減った部屋に一人、お湯が沸く音が響く。急に眠気がきて、コーヒーは諦めてベッドに戻った。寝過ごしたらそれはそれだ。

 飛鳥の結婚式は都内の老舗ホテルで盛大に行われ、続く披露宴はガーデンパーティだった。招待客が多い上に飛鳥が妊婦のため、あまりスケジュールが決めこまれていない。途中入退場OKのカジュアルな会となった。
 飛鳥の体調が心配だったけれど顔色もよさそうで、秋晴れの庭園に赤いカラードレスが映えてとても綺麗だった。親友の晴れ姿に、柄にもなく込み上げてくるものがある。
「よお」
 シャンパンを傾けていると、香坂さんに声をかけられた。なんとなく適当な世間話をしていた男性ゲストに断り、香坂さんに歩み寄る。
「思った通りすごい数だな」
「そうですね」
「お前、飛鳥と話せたの?」
「いえ。さとるさんに挨拶したい人が多すぎて、なんか今日は無理かなって」
 親友の結婚相手は、美容サロンを複数店舗経営する実業家だ。最近はアパレルや化粧品にも手を広げているという。美容師の飛鳥はかつて同僚として彼と出逢った。悟さんが独立したあとに引き抜かれて、十年ほどになる。
 招待客は悟さんの仕事関係がほとんどで、同業者や経営者、それにモデルも多い。飛鳥も一部携わっているしメイクアップアーティストとしての活動もあるから、共通のゲストもそれなりにいるらしい。夫婦そろっての挨拶に忙しそうだ。
 私は似た業界に身を置いているものの、人物は撮らないし直接仕事はしていない。飛鳥の高校の同級生枠というのはこの場では少数派で、顔見知りはそれなりにいるが親しいというほどの人はおらず、宣言通りタダ酒を楽しんでいた。
 とはいえそれにも飽きてきていて、ここらで帰りたい気持ちもあるが飛鳥と一言も話していないので気を遣わせたくない――という、惰性の時間になっていた。その辺にいた男性に話しかけられて付き合っていたものの猫被りにも疲れてきていたから、香坂さんに会えたのは助かった。
「今いらしたんですか?」
 結婚式に香坂さんの姿はなかった。
「ああ。撮影で海外に行っててな。トランジットで待たされて、今朝成田。本当なら一昨日着いてるはずだったんだけどなー」
 言いながら、香坂さんは欠伸をした。直前まで寝ていたのだろう。
「お疲れ様です」
 心底同情した。そういうトラブルは私にも覚えがある。
「お式が見られなくて残念でしね」
「そうでもねえよ。来る気なかったし」
「そうなんですか?」
 じゃあどうしてきたんだろう。
「俺、結婚式って苦手なんだよな。自分のときのこと思い出しちまうから」
 私が昔撮ったのは、結婚式の写真だった。同性カップルの挙式が理解され始めた頃だったと思う。
「いいお式だったじゃないですか」
「お前は思い出さねぇ? 自分のときのこと」
「学生だったので、式はしなかったんですよ」
「俺からすると羨ましいね。できない誓いなんかするもんじゃない」
「私と違って、香坂さんはまっとうしたじゃないですか」
「俺はちょっと後悔したよ。次に結婚するとしたら、病めるときは逃げてもいいぜって言ってやるね」
 香坂さんのパートナーは、結婚式から一年もしないうちに病気が見つかった。香坂さんは最期まで献身的に看病していたけれど、治療の副作用で髪が抜け、痩せこけていく彼を見るのが辛そうだった。
「お前は?」
 何を問われたのかわからなかった。
「あいつのことどうすんの?」
「質問の意図がわかりませんが」
「とぼけんなよ。お前、あいつと寝てるだろ」
 名前を出さなかったのは配慮なのか、カマかけなのか。
「誰のことです?」
 あくまでシラを切ると、香坂さんは「そういうことにしといてやる」と言った。
 香坂さんに隠し通せると思っていなかった。それでも確証はないはずだから、話を濁しておく。香坂さんはともかく、ほかに知られると裕翔のモデル活動に少なからず関わるかもしれない。
「結婚してるときじゃあるまいし、堂々としてろよ。俺は感謝してるぜ? 共同製作者だと思ってるくらいだ」
 裕翔が香坂さんに話したとは思えないけれど、この人はどこまで察しているのだろう。
「なんのことかはさておき、私なんかが香坂さんに並べませんよ」
「並んでるだろ、今」
「自分で撮ったわけじゃないなら、私の意味なんて大したことありません」
 香坂さんが何か言いかけたけれど、会場がざわついて掻き消された。
 二人同時に視線を移すと、長身のモデルが注目を集めている。
「あいつ、主役より目立つなっつーの」
 香坂さんが口元を歪める。ちょっと悔しそうなのは、カメラを持っていないからだろう。気落ちはわかる。
 スリーピースのスーツを着た裕翔は憎らしいくらい決まっていて、目の肥えた業界人ですら色めく。
 女性たちに囲まれてなかなか進ませてもらえない裕翔は、やがてこちらを見て目を丸くした。私と香坂さんの組み合わせは、そんなに意外だったろうか。ともあれ口実を見つけた裕翔は、なんとか彼女たちを振り切ってくる。
「香坂さん、お疲れ様です」
 仮にも披露宴の場にそぐわない挨拶に、香坂さんが苦笑いする。
「もてもてじゃねーの」
「茶化さないでください」
 裕翔は私に目を止めると、すぐに逸らしてしまった。妙な空気が流れて、気まずさを払拭しようとからかってみることにした。
「随分遅い登場ね?」
 私が言うと、裕翔はいきなり頭を下げた。
「すみません」
「え、ちょっと。私に頭下げてどうすんの」
 謝るとしたら飛鳥たち夫妻だろう。それにしたって途中入退場OKなこの場では大したことではない。
 顔を上げさせると裕翔は妙に落ち込んでいるようだった。叱られた飼い犬のようだ。
 なんかあったっけと少し考えて、そういえば迎えにくると言われていたことを思い出した。美容院の予約やらなにやらで、完全に忘れていた。
「言い訳になっちゃうけど、帰国が遅れた分の撮影があったんです。雑誌の校了近いからってこれ以上ずらせなくて。だから迎えに行けなくてすみません」
「ちょっと」
 いろいろ感づかれているとはいえ、香坂さんの前で関係をほのめかすようなこと言わないで欲しい。てゆーか海外に行ってたのも初耳だ。
 少しだけ焦る私に、香坂さんは笑ってひらひらと手を振った。
「あー、もういいから、そういうの。実を言うと同じ仕事で海外行っててな。今朝成田に着くなり、リスケされた仕事あるってマネージャーに引っ張ってかれたんだよ、こいつ。そんときに頼まれたんだわ。お前の虫よけ役」
「虫よけ?」
 前言撤回。よくわからないけれど、裕翔が香坂さんに話したのか。私たちの関係を。
「バツイチの色気ってやつなのかねぇ。お前、そこらのモデルよりよっぽど男を寄せるからな。こいつに頼まれんでも、俺今まで結構気を遣ってたのよ? お前がまたしょーもない男に引っかかったら嫌だからさあ」
 ますます意味がわからない。
「説明はそれに聞け。じゃ、用は済んだから帰るわ」
 颯爽と帰っていく香坂さんに、「それ」呼ばわりされた裕翔が深々と頭を下げる。
「ねえ、本当になんの話?」
「貴女がもてるから、俺は心配がつきないって話」
「別にもてないけど」
 私の言葉に、裕翔が盛大にため息をつく。
「香坂さんから連絡もらった。妙な男にちょっかいかけられてたって」
「妙な男?」
 確かに声はかけられたけれど、世間話をしていただけだ。
「美容院のスタッフだって貴女にたらされた奴何人もいたし、飛鳥さんの親友だからみんな我慢してただけだよ。あの人怒らすと怖いし。あと、俺」
「あんたが、なに」
「貴女って時々、妙に鈍いよね。卑屈なくらい。それともわざとなの。まあ、わからせるからいいけど」
「うん?」
 急に距離を詰められて戸惑う。反射的に後ずさろうとした腰を抱き寄せられた。抵抗しようとしたけれど、男の力にかなうはずがない。
「今日の貴女、すごく綺麗です。ちょっと妬ける」
「裕翔、離れ……っ」
 抗議の声は唇に奪われる。周囲の動揺と女性の悲鳴のような声が耳に届いた。それでも裕翔はやめなかった。飛鳥たちの誓いのキスよりよほど長い。
 ようやく解放されて、新鮮な空気を吸い込んだ。裕翔がいつになく真剣な表情で、ちょっと怖い。
「これでもう逃げられないね。マスコミは入ってないけど、多分誰かがSNSとかで流すだろうし」
「なに、なんで」
「俺に愛されてるって、そろそろ自覚してほしくて」
 手を引かれる。招待客の中をずんずん進んでいく裕翔に、小走りについて行く。足の長さが違いすぎる。ちょっと足がもつれたところで裕翔が振り向き「ごめん」と歩調を合わせてくれた。けれど手は放してくれなくて、触れ合った肌が熱い。
私たちは主役の前に立った。気まずくて顔がまともに見られない。
「悟さん、飛鳥さん。ご結婚おめでとうございます。それとすみません。この場を利用させてもらいました」
 頭二個分くらい違う裕翔を、飛鳥が睨みつける。花嫁さんがそんな顔で腕汲みしないの。そして悟さん、なんで楽しそうなの。
「本当よ。で、どういうこと? ただのパフォーマンスだったら許さないけど」
「パフォーマンスではあると思います。でも本気です」
 飛鳥の目がさらに吊り上がる。怒鳴りそうになる飛鳥を悟さんが「まあまあ」と宥めた。
「何のためのパフォーマンスか聞こうか」
「この人を口説くのに二年かけました。まだ落ちてくれないので、いっそもう外堀から埋めようかと」
「女口説くためのパフォーマンスかぁ。お前、恩人の結婚式使ってやる? 普通」
 悟さんの視線がすっと冷える。穏やかに見えてやり手の経営者だ。こういうところは普通に怖い。
裕翔はまっすぐに答えた。
「恩人だからです。俺の決意表明でもあるので」
 裕翔の言葉に、悟さんが笑い出す。
「いいわぁお前。そういう思い切りのいいところ大好き」
 ひとしきり笑って、悟さんが私を見た。
「こいつさ、そのスーツ作ったとき、プロポーズするときに着るって言ってたんだよ。そのために目いっぱい注文増やしよって。時間もないっつーのに」
「ちょ、悟さん。先にバラすのやめてください!」
 言われてみて、悟さんのブランドで仕立てたものだと気づいた。確かオーダーなんてやってなかったはず。
「いいだろ、これで貸し借りチャラだ」
「アンバサダー受けた時点で俺の借りなんてないでしょう」
 それは初耳だ。
 自分が広告塔になることが貸しになるだなんて、裕翔も出世したものだと思った。今それどころじゃないけれど、現実逃避しなければ正気を保っていられない。それくらい私は混乱していた。
「お前が店辞めたときのだよ」
 思い当たることがあったらしい裕翔は、ぐっと押し黙った。
 裕翔が店を辞めたのは入店から三年経った頃で、ようやくスタイリストとしてデビューする、という頃合いでもあった。アシスタントも重要なスタッフだが、教育期間という側面も大きい。アシスタント期間は店からすると言わば投資で、それを回収できずに退店の運びとなったのだ。不義理といわれても仕方のないことだった。それについての確執はないと聞いていたけれど、悟さんにも思うところはあるし、裕翔としても罪悪感があるのだろう。
「裕翔」
 飛鳥が低くかつての部下を呼んだ。裕翔も覚悟を決めた様子で返事をする。
「はい」
「この子を、また人が撮れるようにして」
 裕翔が戸惑う。私はもうすでに、裕翔の「撮って欲しい」という願いを退けているから。
 少し言葉を探して、裕翔は言った。
「俺も、世界で二番目にそれを願ってます」
「一番じゃないのかよ」
 飛鳥、口が悪くなってる。
「一番って言ったら、彼女の親友に絞められそうなので」
「よくわかってんじゃん」
 飛鳥はようやく少し笑って、裕翔の腹を小突いた。そして私を見る。式の時も笑ってたのに、ちょっと目が赤い。
「だって本当は撮りたいんでしょ? よく一人で撮影旅行に行ってるのも、何度も試してるからだよね」
「知ってたの」
 結婚式前に撮影旅行に行ったのは本当に仕事だったけれど、一人行動の時間を長めに取っていた。けれど撮れなかった。親友の願いを叶えられないことが悔しかった。
「いつか撮ってよ。金婚式くらいまでにはさ」
「飛鳥ぁ、そんとき俺九十超えてるぞ。生きてるかな?」
「余裕でしょ。どうせ稼ぐんだから健康に使いなさい。百歳まで未亡人は嫌だから」
 悟さんが「わー俺大変」と楽しそうに笑った。
 散々注目を浴びてしまって正直帰りたかったけれど、結局お披楽喜までいることになった。裕翔が許してくれなかったからだ。どこへ行くにもぴったりとくっついてきて、腰まで抱いてくるので困った。周囲にはすっかり裕翔のパートナーとして認識されて、「結婚はいつですか」と言ってくる人もいる始末だ。
 おめでたい場でこれ以上騒ぐのも嫌だったし、本当の関係をいう訳にもいかず、裕翔を真似て曖昧に笑っておいた。こっちはモデルじゃないんだから、表情作るのなんて慣れてないのに。顔が筋肉痛になったら裕翔のせいだ。
 お披楽喜になってやっと帰れると思ったら、すっかりいつもの調子を取り戻した飛鳥に
「今度詳しく話してもらうから。裕翔とのこと」
 と言われ、それは勘弁してほしいと思った。二十代のモデル視姦してセフレ関係とか、親友に言いたくない。

 会場を出てからも、裕翔は手を放してくれなかった。
「裕翔、放して」
「嫌だ」
放せば私が逃げるとわかっているからだろう。いつになく頑なだった。
「二年もあったら十分でしょう? 逃げる余地はあったのにそうしなかったのは貴女だ」
「それは」
「俺が離れていくのを待ってたんだよね。だから俺も、貴女が離れていかないなら、拒絶されないならこのままでいいかと思ってた。踏み込んで拒絶される方が怖かったから。だけど」
 裕翔は足を止めて振り向いた。ホテルの庭園を出て、エントランス側に連れてこられた。といっても往来で、ただの道だ。
「この間俺が『またね』って言ったとき、初めて同意を返してくれた」
「それは今日のことが決まってたから」
「うん。でも俺、それだけですごく嬉しかった。最初の夜以来ずっと約束なんてしてくれなかったから。ようやくくれた約束が、今日だったから。覚えてる? 今日で丸二年だよ」
「え……」
 私は驚いた。成り行きで始まった関係で、裕翔が日付まで覚えているとは思わなかったから。確かに二年前の今日だったから。
「この場所で貴女に声をかけた。『俺を撮ってください』って。人生で一番緊張した」
 裕翔は急に跪いた。深夜で人気のなかったあのときとは違う。地下鉄の駅が近いこともあってそれなりに往来があるのに。
 バッグから小さな紙の箱を取り出す。まさかと怯んだ私に、裕翔は笑いかけた。
「指輪じゃないよ。迷ったけど、貴女は嫌がると思ったから。だからチョコレートにした。ベタだけど、愛情表現にはもってこいかなって」
 裕翔は「バレンタインはまだ先だけど」と言って笑う。午後の柔らかな光の中で、薄い緑色の瞳が私を映した。
「俺と結婚してください」
 結婚。
 十も若い裕翔からその言葉が出ると思わなかった。
「嫌、よ」
 声が震えた。NOを突きつけたのに、裕翔はやっぱり笑っている。
「うん、そう言うと思ってた」
「矛盾してる」
「いいんだ。とりあえず俺の気持ちをちゃんと受け取ってもらうのが目的だから」
 ずっと気づかないふりをしてきた。裕翔の気持ちに。私たちにあるのは利害関係だけだと。そうやって二年、怠惰な関係を続けてきたのに、急に逃げ道を塞がれた。裕翔のまっすぐな愛情と向き合わざるを得なくなる。
「貴女が俺を『見て』くれた最初の夜、期待とは違って、びっくりするぐらい俺の世界は変わらなかった。俺は綺麗になれないし、自分の欲望に嫌悪感も消えない。でもすごく安心できたんだ。貴女にはそれを見せていいんだって、貴女はきっと全部知っても『見て』くれるって思えた。俺も世界も変わらないけど、それでいいんだってやっと自分を許せた」
 裕翔の過去に何があったのか、私は今も知らない。でもあの夜に、罪悪感で迷いすらあったあの行為に、意味を見出してくれていた。それは私の功績じゃない。裕翔が踏み出したからだ。それでも裕翔は、私に巡礼者のようなキスをして、跪くのだ。
「貴女が好きだよ。貴女が俺を見てくれたあの夜から、俺は貴女のものだ。そのことだけはちゃんと受け取って」
 恩人の悟さんに頼んだスーツも、衆人環視の中でのこの言葉も、冗談でできることじゃない。指輪を買うことは今の裕翔には簡単だろうに、それをしなかったことも含めて全部、私のため。
 ここまでされて揺らがないほど、私は裕翔に無関心じゃない。
「結婚は、まだ、怖いの」
 裕翔が差し出したチョコレートの箱に触れる。
「怖くなくしてくれたら、考える」
 箱を受け取ると、裕翔は大きな目をもっと丸くして私を見つめた。求婚したくせに「嫌」と言ったときよりも驚かないでほしい。やがて理解が追い付いたのか、チョコレートごと私の手を取り、甲にキスをした。映画のワンシーンのような光景。道行く人にスマホを向けられているのは知っていたけれど、もういいやと開き直ることにする。
 裕翔の頬に触れて上向かせる。跪く男に自分からキスをすると、裕翔はますます目を丸くして頬を赤らめた。
「裕翔。したい」
 私はたぶん初めて、自分から裕翔をセックスに誘った。

 私たちはホテルに部屋を取った。エレベーターで二人きりになった瞬間、時間を惜しむようにキスをした。
 目的の階について扉が開くと、意識が現実に引き戻される。唇が離れたことが寂しくて見上げると、裕翔が慰めるように私の唇を親指で拭った。裕翔の唇に私の口紅が移っているのに気づいて、独占欲が少し満たされる。
 手を繋いで部屋に入って、扉の内側に入るとまたキスをした。裕翔に追い詰められて壁が背に触れる。髪留めがゴツンと鈍い音を立てて、裕翔がキスを中断して私の後頭部を撫でた。
「痛かった?」
「髪留めが壁に当たっただけよ」
「ごめん。大事にしたいのに」
 私たちは立ったまま抱き合っていた。裕翔の足が私の足の間にあって、身体は密着している。お腹のあたりに熱いものが当たっていることに気づいていた。
 裕翔はジャケットを脱ぎ捨てた。折角のオーダーメイドらしいのに雑に扱われてしまって少し可哀そうに思っていると、裕翔に顔を上げさせられる。
「俺を見て。よそ見しないで」
 自分の一張羅にすら嫉妬する裕翔が可愛くて、自分からキスをする。高いヒールを履いているおかげでいつもよりキスが近い。
 裕翔はベストとシャツのボタンをはずし終えると、私のスカートをたくし上げて太ももに触れた。薄い布地があると思っていたらしい裕翔は、素肌に触れてあからさまに動揺した。そのまま手を上に滑らせ、股やお尻をまさぐる。裕翔にしては珍しく乱雑な愛撫に、私の体も反応する。
「何これ」
 タイトなドレスに影響しないよう、Tバックの下着をつけていた。ニーハイタイプのストッキングにガーターベルトをつけている。
「誰かに見せるつもりで選んだんじゃないよね?」
 嫉妬心をあらわにする裕翔が可愛くて、いたずら心が顔を出す。
「選ぶとき、ちゃんと裕翔のこと考えてた」
 耳に口を寄せてそう言うと、裕翔がまた噛みつくようなキスをした。激しいキスに反して、手は焦らすように私の肌をなぞる。もどかしい。
「ねえ、もう欲しい」
 キスの合間にそう懇願すると、裕翔は嬉しそうな笑みを浮かべた。口紅と唾液で汚れた唇が、酷くいやらしい。
「まだだめ。これ持って」
 裕翔は私にまくり上げたスカートの裾を持たせると、自分は膝をついた。
「ちょっ」
 何をしようとしているのかわかって止めようとするけれど、手を握りこまれてしまう。もう片方の手で下着のIラインにあたる部分をずらされた。陰部が露出することへの羞恥心よりこれから与えられる快楽への期待が勝って、裕翔の行動を見つめる。
 裕翔は様子を伺うようにゆっくりと舌を触れさせた。もう十分に潤っていたそこは、簡単に口を開いてそれを受け入れる。濡れすぎてかえって鈍感になっていて、もどかしさすらある。それに気づいた裕翔がニヒルに笑う。
「もう少し足開いて、片方俺の肩にかけて。大丈夫、体重かけていいから」
 こんな体勢したことがない。最初は不安に思うものの、裕翔が強く手を握ってくれて安心できた。
 滴りを舐め取られ、露出したクリトリスが刺激される。自分でも驚くほど反応して、腰が逃げそうになる。でも壁と裕翔に挟まれて、いくらも抵抗できない。
「だめ、感じすぎる」
「少し我慢して。きっと気持ちいいよ。ほら、スカートちゃんと持って、俺のことちゃんと見て」
 裕翔は私に指示をすると、握っていた手を放した。不安に思う私の目を見ながら、見せつけるように指を舐める。そしてその指で膣口を探った。長い指がゆっくりと私の中に押し入ってきて、背筋がぞくぞくする。細く見えて男の人の指だ。一本でも結構質量を感じる。加えてこの二年で私の体に慣れた裕翔は、確実に私の感じるところに触れてきて。
 もういきそう、と思ったとき、指が二本に増えた。
 我ながら中がきつくなっているのがわかる。指の関節の位置さえも感じ取れそうな気がした。クリトリスへの刺激もますます強くなって、吸い付かれたそのとき、言う間もなく体が絶頂を迎えてしまう。
「やだ、ゆうとぉ」
 いってるのに舐められると、刺激が強すぎてもうだめだ。腰を震わせながら呼ぶと、我ながらかなり情けない声が出た。愛撫に夢中になっていた裕翔が顔を上げる。
「もしかしてイっちゃった?」
 涙目になって頷くと、裕翔は指を抜いて私の足をおろさせる。私はもうほとんど足に力が入らなくて、立ち上がった裕翔に倒れこむように抱き着いた。裕翔はそれを危なげなく抱き留めてくれる。
「ごめん、気づかなくて。俺、今日全然余裕ない」
 声は確かに切羽詰まっていた。はだけた胸に触れると汗がにじんでいて、興奮が伝わってくる。手を下に滑らせると、スラックスを押し上げる股間が予想以上に熱かった。ベルトを緩めてズボンを落とすと、雄の匂いがする。
下着越しにペニスをなぞると、裕翔が息を乱す。顔を見ると余裕のない、ともすると睨むような視線とぶつかる。なるべく視線を合わせながら、裕翔の肌にキスをした。徐々に下へ落としていき、膝をついて膨らんだそこにも唇をつける。
下着に手をかけて裕翔を見ると、彼は促すように小さく頷いた。自分は丁寧にしてもらったのに性急に進めようとして情けないけれど、一秒でも早く欲しかった。主張するペニスに引っかからないように、ボクサーパンツのゴムを強めに引いて下着をおろす。
 もうとっくに上向いているそれを口に含む。裕翔の吐息に声が混じって、優越感が湧き上がる。いくらもしないうちに、裕翔は音を上げた。
「もうつけて。鞄に入ってるから」
 その辺に放っていたバッグからコンドームを取り出す。新品の箱が入っていたのが笑えた。私が裕翔を思って下着を選んだように、裕翔も私と抱き合うつもりでいたのだと思った。
興奮しすぎて手が震えた。もたつく私に焦れた裕翔が、自分で手早くゴムをつける。
「来て、こっち」
 裕翔に短く命じられて立ち上がる。裕翔はスカートをまくり、私の下着に触れた。けれどガーターベルトを外すのに手間取っている。顔を見ると、気まずそうに顔を赤くした。最初の夜のことを思い出す。
「格好わる……」
 裕翔がポツリと漏らす。私としては女性用下着に慣れすぎていても嫌なのでむしろ嬉しいのだけれど、裕翔はそうじゃないらしい。私は自分でショーツをおろした。
「ガーターベルトって、外さなくても下着は脱げるんだよ」
まくったスカートを自分で持って、片足をショーツから抜く。誘うように膝を上げたまま見せつける私に、裕翔がつばを飲み込んだのがわかった。
「ねえ貴女、今までで一番エロい顔してる」
 お互い様だ。
 裕翔は私の片足を持って壁との間で支えると、膣口にペニスを押し当てた。興奮して締まり過ぎている中が、それを押し返そうとする。そんなちぐはぐなことをする自分の体に焦れて、少し強引に腰を突き出した。亀頭が入るときに少し痛む。
 いつもなら、少しでも痛そうな反応をすると裕翔はすぐに身を引く。今だってすぐ気づいただろう。裕翔は腰を止めている。けれど今日は離れたくない。そう思って首にしがみつくと、裕翔は私の首筋にキスをした。
「あっ」
 思わず声が漏れる。皮膚の薄い部分は弱くて、すぐに感じてしまう。裕翔はそれを知っている。膣口の痛みが散らされて、私の体は裕翔を受け入れた。
 一番太いところが入ってしまえば、欲しがっていた中はむしろ奥へと飲み込んだ。もういってるのかもしれない。自分の中が悦び、動いているのがわかる。裕翔も気持ちいいのか、動かしていないのに少し腰が震えた。そうしているうちに奥に届く。
 裕翔は私の体を気遣って、最初はあまり動かない。私の体が馴染むまで待ってくれる。けれど今日はその優しさがもどかしい。私に欲情して、もっと余裕のない姿が見たい。
「ねえ、それわざと」
 裕翔が低い声で尋ねる。怒っているのかと思った。
「な、に」
「動いてないのに、中が締まる」
 怒っているのかと思ったのは単に余裕がないだけだとわかる。それが嬉しくて私は強請った。
「もう動いて」
 私が言うと、裕翔は私の腰を抱えたまま揺さぶった。奥が刺激されて気持ちいい。外国の血が入った裕翔はいろんな部分が日本人男性としては規格外で、セックスのとき内臓を圧迫して痛いことがあった。でも今日は同じくらい深いのに気持ちがいい。まるで裕翔のための体に変わってしまったみたいだ。
「裕翔、ゆうとぉ」
 気持ちよくて何も考えられない。頭がふわふわと痺れて、身体が自分のものじゃないような感覚に陥った。けれど快感は強すぎるほどで、それが怖くなって裕翔の名を呼んだ。
 うわ言のように呼び続けていると、裕翔が私の体を一度下ろした。ペニスを引き抜かれ、気に入らなかったかと不安になる。
 不安になったのは一瞬で、後ろを向かされるとすぐにまた入ってきた。さっきよりももっと奥に届く。気持ちいい。
 挿入と同時に後ろから抱きすくめられた。顔が見えない体位なんてほとんどなかったから、裕翔の温もりを背中で感じて安心する。
「見なくても、いいの?」
「見て欲しい。でも今は、俺が貴女を見たい」
 うなじや背中にキスが落とされる。慣れない場所にキスされて、体は敏感に反応した。
「ごめん、激しくする」
 耳に唇が触れて、短く宣言された。壁に手をつかされ、返事をする前に腰の動きが激しくなる。浅いところから深いところまで、全部がこすれて気持ちいい。快感に耐えようとすると自然と腰を突き出す格好になった。耐えていたはずが体はもっと貪欲になって、気づけば裕翔に合わせて腰を動かしていた。
 不意に、足元に散乱する服や荷物に目がいった。裕翔がくれた小さい紙箱が床に転がっている。バッグから飛び出してしまったらしい。ドレスや裕翔の服がどうなっても気にならないのに、あの箱だけは早く拾わなきゃと思った。
そのときはもうほとんど理性なんて飛んでいて、チョコレートへ伸ばした左手が無意味に宙を彷徨った。裕翔の大きな手がそれを捕らえ、指を絡める。
「もういく、出る」
 裕翔が独り言のように言って、私は頷いた。腰の動きがまた激しくなる。裕翔が私のこめかみや耳にキスをした。唇にキスがしたいのだと思ったけれど、快感が強すぎて振り向く余裕がなく、壁に縋りつく。裕翔も察したのか、代わりに左手に何度もキスをした。手や指さえも感じてしまって、薬指に軽く噛みつかれたとき、私はいってしまった。
 私がいったあとすぐ、裕翔はえぐるように腰を強く打ち付けた。私の体を抱きしめ、密着したまま全身を震わせる。射精したのだとわかった。
 裕翔が私の肩口に顔を埋める。大きく呼吸をしているのが伝わってくるけれど、絶頂の余韻で耳が遠い。足にも力が入っていない気がする。体が倒れないように、額を目の前の壁につけた。
 何度か呼吸して音が戻ってくると、またあの紙箱が気になった。
「ゆうと」
 なんだか舌が回ってない気がする。それでも何度か呼ぶと、裕翔は「待って」と言った。
「もう少し中にいたい」
 情緒のあることを言われた気がしたけれど、理性が戻らない私は駄々っ子のように裕翔を呼んだ。何度目かで諦めたらしい裕翔が、呆れたように言う。
「もう、賢者タイム早すぎない?」
 賢者タイムどころかあんまり頭回ってない。というより視界に入ったあれがあのままは嫌、という感情だけで喋っている。
「だって、あれ。拾いたい」
「後でいいじゃん。中身無事だろうし」
「でも、せっかく裕翔がくれたのに。指輪の代わりでしょう? このままじゃなんかやだ」
「わかったから。OKしたわけじゃないのに、ずるいなあもう」
 裕翔が私の中から自分を引き抜く。それにすら感じて声が漏れた。足腰に力が入らなくなっていて、その場にへたり込んでしまう。そんな私を見て裕翔は小さく吹き出した。
「おいで。運んであげる」
 そう言って抱き上げようとしたが、中途半端に乱した服装が邪魔をする。特に足元は靴を脱ぐどころかズボンも下着も下ろしただけだったので、身動きが取れない。それを見て、今度は私が吹き出した。
 着るのか脱ぐのかどっちだろうと思っていると、裕翔は恥ずかしそうに全部服を脱いだ。「ちょっと待ってて」と言ってバスルームに引っ込むと、コンドームを手早く処理して出てきた。全裸があれだったのか、バスローブを着ている。互いになんとも間抜けな時間だったけれど、それも愛おしかった。
 裕翔は私をお姫様抱っこした。普段だったら抵抗しただろうけれど、もうそんな恥じらいはなかった。
 裕翔が取ったのはダブルルームだった。今結構激しいセックスをしたばかりなのに、ダブルベッドを見るとこのあともこの男に抱かれる予感がした。体の奥が疼いたのがわかる。
 裕翔は私をベッドに下ろすと、チョコレートの箱を拾いに行ってくれた。最初に渡してくれたときのように跪いて、私に献上する。バスローブ姿なのがちょっと締まらない。
 私は箱のリボンを解いた。
 高級なチョコレートは宝石のようだ。幸せな気分でそれを眺めていると、裕翔がそれを一個つまんで自分の口に運んだ。あんたが食べるのと思っていると、口移しで食べさせられる。チョコレートの濃厚な香りが鼻に抜けた。
 そのキスは口の中のチョコレートがすっかり溶けるまで続けられた。甘ったるい舌が離れるころには酸欠になっていた。いつの間にベッドに沈んでいたのか、ぼうっとする頭で思い出そうとする。
「食べ物で遊ばないの」
「遊んでないよ。俺の気持ち、ちゃんと飲み込んで欲しくてハート形にしたんだ。こうした方が気持ちが伝わるかなって」
「あんたって時々、すごく重い」
「今更気づいたの?」
「知ってたけど」
 むしろ自覚があったのかと呆れた。
 いつかの再現のようだ。あのときはウイスキーを、今はチョコレートを、私ごと味わわれている。だからおなじことを言ってみた。
「ねえ、脱がせて」
 乱されているものの、私はまだドレスを着たままだ。
「今日の貴女、本当にエロくて可愛い」
 裕翔の顔もまた欲情していた。その顔にまた興奮する。撮ってみたかったと、思った。

 若い裕翔の体力に付き合い切れず、私は途中で意識を飛ばした。気づいたとき窓の外は暗くて、室内はオレンジの間接照明に鈍く照らされていた。長い睫毛が目の前にあって、裕翔の体温と息遣いを感じる。体に残る気怠さが妙に幸福を感じさせて、泣きたくなった。
 そんな自分を見せたくなくて、裕翔は眠っているはずだけれど、寝返りを打って背中を向ける。少し体を離そうとすると、腕が絡みついてきた。裕翔は抱き枕が必要なたちなのか、眠っていてもよく抱きしめられる。
「貴女が人物を撮らなくなったのって」
 眠っていると思ったのに、急に声がして驚いた。
「起きてたの?」
「目が覚めた」
 寝起きの声は少し掠れていて色っぽい。寝起きというより、セックスのあとだからか。
「それで、あれって前の旦那さんのせいなの」
 少し考えて、私は言った。
「ベッドでほかの男の話が聞きたいの?」
 裕翔はすぐには答えなかった。もしかして寝落ちたかなと疑い始めた頃、ようやく唸るように言った。
「……ちょっと嫌」
「素直でよろしい」
「俺はいつも素直ですー」
 開き直った声とともに、もっと抱き寄せられて密着する。背中が温かい。
「でもさ、貴女言ってくれたじゃん。結婚を怖くなくできたら考えるって。それってやっぱり前の結婚のせいなのかなって。俺、どうしたら貴女の不安をなくせる?」
「裕翔は私に話せる? EDになった理由」
「話せるよ。でも、ほかの女の話することになっちゃうけど」
「ほら。そんなの今聞きたくない」
 予想通りだった。裕翔はたぶん十代の頃からその悩みを抱えていて、ともすれば童貞でもおかしくない年齢だったけれど、最初にセックスしたときから女の体を知っていると察した。そのこと自体は構わないけれど、幸せなセックスの余韻がある中で聞きたい話ではない。
「今はもう少し、裕翔だけに浸らせてよ。ほかの女の話なんて聞きたくないし、私もほかの男のことなんて考えたくない」
「貴女今日可愛すぎない? 推しがデレすぎて怖いんだけど」
「私が素直だと嫌?」
「最高です」
「なんで敬語」
「じゃあもう一個だけ聞くけど」
「なに?」
「今泣いてるのって、俺のせい?」
 一瞬返事が遅れた。確かに泣いていたから。
「気づくなよー」
「ねえ、こっち向いて」
 迷っていると、裕翔に体をひっくり返された。てゆーかメイク落としてない寝起き顔を見られたくないんだが。
 そんな私の心情を知ってか知らずか、私の目尻を拭って覗き込む。裕翔の目に、不細工な私が映っている。
「不安? 怖い?」
 そういうこととは違う。けれどなんで泣いているのか、自分でもよくわからない。
 首を振ると、裕翔はほっとしたように笑った。
「俺、いい男になるから。貴女が安心できる男に必ずなるから。ずっと俺のこと見ててね」
 そう言って裕翔は、私の瞼にキスをした。甘い気分に浸っていたのに、急に不安になる。
「帰っちゃうの?」
「え、なんで」
「だって裕翔、いつも帰る前にそのキスする」
「あー、ばれてたか」
 裕翔がいたずらを見つかった子どものように笑う。
「俺にとっては儀式みたいな感じかな。貴女の目が特に尊いって思ってるから。帰るときは次も会ってくれますようにって願掛けで」
 私たちは約束もなにもしなかったから、毎回それきりになってしまう可能性があった。私も次に裕翔がこなかったらと思ったことがあるけれど、裕翔も次に私が拒絶したらと怖かったのだろうか。
「そうだ。もう連絡先、教えてくれるよね」
「そうね」
 頷くと、裕翔がスマホどこだっけと言い始める。多分散乱した荷物の中で、玄関のすぐそばだ。このままベッドを出ていきそうな裕翔を引き留める。
「あとで」
 私がそう言うと、裕翔は嬉しそうに「あとで」という言葉をかみしめた。
「そっか、あとでか。うん。あとでね」
 そう約束して、私たちはまた眠りについた。
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