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第19話 褐色の美少女

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 和気藹々と騒がしい一行が向かったのは、先程まで命のやり取りをしていた煙狼フェンリルの住処。

「とっても速いです!」

 獣道をフェンリルの背に乗って駆け抜けるヨハネスたちは、あっという間に山頂にたどり着く。

 山頂には巨大な長方形の岩を合わせただけの洞穴――煙狼フェンリルの住処があった。

「ここが神さまの住まいですか。随分と古風なお家ですね」
「すぐに食事を用意するでござるから、お主らは家の中に入って待っているでござるよ」

 穴の中は意外にも生活感があり、獣の絨毯に木製テーブルが置かれている。壁には松明も掛けられていた。

「――――っ!?」

 行儀よく部屋の中で座って待っていると、ヨハネスの前に突として黒髪美少女が現れた。
 謎の人物の出現に慌てふためくヨハネス。

「……?」

 少女はこてっと首を傾けながらヨハネスに微笑みかけ、何事もなかったように宴の準備を始めだす。

「あなたは誰ですかっ!? 不法侵入ですよ!」
「なにを申すか。先ほどまで散々いらしい手つきで拙者をなで回していたではござらぬか。それにここは拙者の家でござる」
「ごっ、誤解です! って……えっ!? 神さまなんですか!?」

 アメ色にいぶされたバナナの葉を乾燥したお皿――バナナリーフに肉や果物を大胆に盛りつけていく、気の強そうなつり目がちな少女をまじまじと見つめるヨハネス。

 エスニック柄のポンチョマフラーはどこか民族的な雰囲気を感じさせ、健康的な褐色の肌は表情豊かな少女のイメージにマッチしていた。ショートパンツから形よく伸びた脚は引き締まっており、漆黒の尻尾と鋭い牙、それに頭部から生えたケモ耳が地を駆ける煙狼であることをわずかに物語っている。

「拙者以外に誰がいると申すのでござるかぁ?」
「え……だって狼でしたよね?」
「左様。拙者は煙狼の民でござるからな。無論、擬態化できぬ未熟者ではござらんよ。なんたって拙者は魔王さまにこの山を任されたのでござるからして!」
「フェンちゃん、嬉しそう」

 カーッカッカッカッと大袈裟に大きな胸を突きだし笑うフェンリルを見やり、『まったく思い出せん』言いながらソファに腰かけるフラム。

『――って、あんたどさくさに紛れてなに座ってんのよ!』
『貴様は本当に性格が悪いやつだなッ! 俺がここ1000年ずっと立っていたのを知っているだろォッ!』
『だったらなによ?』
『いい加減座らないかと声をかけるのがマナーであろうッ! それを貴様は、なんと薄情な奴なのだッ。それが1000年ともに過ごした者に対する態度かァッ! 恥を知れ恥をッ!!』
『なっ!? どこの世界に元勇者と元魔王が一つのソファに仲良く腰かけるってのよ! 頭おかしいんじゃないのっ!』
『世界から拒絶されたやつがなにを吐かすか、馬鹿馬鹿しい』
『あ、あんたもでしょっ!? よく人のこと言えたわね。つーか早く退いてよ!』

 ソファに腰かけた元魔王を手で押し返すユイシスだが、その巨体ゆえにびくともしない。

『退きなさいよ!!』
『断るッ!』
『あんた元魔王なんでしょ? 元魔王の矜持とかないわけぇ?』
『あるッ! だが断るッ!』
『あんた言ってることもやってることも無茶苦茶じゃない!?』
『無茶と書いて「魔」と読み、苦茶と書いて「王」と読むのだ。二つ合わせて魔王だッ!』
『うそつけ!』

 二人がいつもの言い争いをしている間にも、宴という名の食事会は進み、やがて一行はフェンリルの案内で秘湯へとやって来ていた。

「獣臭くならぬよう、拙者これからは聢と毎日風呂に入ることにするでござるよ」

 意気揚々と全裸になり、笑顔でタオルを肩に引っかけ湯船に向かうフェンリルの後方で、

「や、やめてくださいっ!」

 ロザミアに身ぐるみを剥がされるヨハネスの姿があった。


「脱がなきゃ入れない。天使さま、シャイ」
「そういう問題じゃないんですよ! 僕は男の子なんですから女の子と一緒になんて入れないんですよ!」
「子供が気を遣うのはよくない。お師匠が言ってた」
「やっ、ダメ!? み、見ないでぇぇええええええええええええええええええええ!?!?」

 真っ二つに割れた山から世にも恐ろしい絶叫がこだますると、「祟りじゃ!?」麓のシルナ村の人々は恐怖に震えあがったという。


「ふぅー、極楽ですね」
「カーッカッカッカッ、拙者の見事な泳ぎを見るのだ!」
「フェンちゃん、元気」

 諦めがついたのか、それとも女性との混浴に元々慣れていたのか、ヨハネスは先ほどまでの絶叫が嘘のように秘湯を満喫している。

『ちょっ、ちょっと! なんで聖魔剣あたしを置いて行くのよ! これじゃ何も見えないじゃない。おまけになんなのよこの鬱陶しい湯気はっ!』

 せめて戻ってきた時の着替えだけでも拝めないものかと、仏頂面のユイシスが外を投影する空間に『ふぅーふぅー』全力で息を吹きかけて煙を霧散させようと奮闘していた。

『アホか貴様はッ! 貴様のようなアホに閉じ込められたと思うと虚しくなるわァッ!』

 こうして温かくも騒がしい夜は過ぎていく。


 しかし別の頃、村の納屋から脱獄したアブレットが特殊な魔具を使い、怪鳥ワイバーンを召喚。山を飛び越え遥か西に位置する港街――カオストロスへとやって来ていた。
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