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9話
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第9話 魔獣襲撃
森を抜けた開けた荒野で、それは起こった。
「グルルルゥ……ッ!」
地響きと共に現れたのは、巨大な猪型の魔獣『アイアンボア』の群れだった。
その巨体は鋼鉄のような剛毛に覆われており、鼻息だけで人を吹き飛ばすほどの迫力だ。
「ちっ、朝から元気なこって!」
真っ先に飛び出したのは、傭兵団長のジークだった。
彼は二本の短剣を逆手に持ち、風のように疾走する。
ヒュン!
アイアンボアの突進を、紙一重で回避する。
その瞬間、彼の身体が鞭のようにしなった。
(おおっ! あの背骨の可動域!)
僕は馬車の影から戦況を見守りつつ、感嘆の声を上げた。
ジークの動きは、筋肉の伸縮を最大限に利用したアクロバティックなものだ。
回避と同時に体を捻り、遠心力で刃を叩き込む。
そのたびに、彼の脇腹にある外腹斜筋が、爬虫類のように滑らかに収縮する。
「軽いねぇ! 止まって見えるぜ!」
ジークは笑いながら、敵を翻弄している。
確かに、あの柔軟性は素晴らしい。見ていて飽きないエンターテインメントだ。
だが――。
「ブモオォォ!!」
一頭のアイアンボアが、ジークの包囲を抜け、こちらへ突進してきた。
狙いは、非戦闘員である僕だ。
「しまっ……レオ!」
ジークの声が遠く聞こえる。
目の前に迫る、牙の壁。
死ぬ。
そう思った瞬間、視界が黒い影に覆われた。
ドォォォォォン!!
爆発音のような衝撃音が響き、地面が揺れた。
僕が恐る恐る目を開けると、そこには――。
真っ二つになったアイアンボアと、大剣を振り抜いた後の姿勢で静止しているガドリエルの背中があった。
「……俺の背中から離れるなと言ったはずだ」
低い声と共に、彼がゆっくりと振り返る。
その瞳は、獲物を屠った興奮で赤く輝いていた。
(……あぁ、これだ)
僕は息を呑んだ。
ジークの華麗な技も魅力的だった。
だが、ガドリエルのそれは「別格」だった。
見てくれ、あの一撃を放った直後の広背筋の膨張を。
軍服の上からでもわかる。背中の筋肉が、まるで鬼の顔のように隆起している。
そして何より、足腰だ。
数トンはある魔獣の突進を、一歩も引かずに受け止め、逆に叩き潰した土台。
おしりから太もも裏にかけての、鋼鉄の連鎖。
(圧倒的質量……! 小細工なしの暴力的なまでの筋肉量……やっぱり、これだ。これこそが王者の筋肉だ!)
ジークが「風」なら、ガドリエルは「山」だ。
動かざること山の如し。しかし動けば、全てを粉砕する。
「団長……!」
僕はふらふらと彼に近づいた。
ガドリエルは剣を納め、荒い息を吐いていた。
昨夜の欲求不満と寝不足が、すべて破壊力に変換されたような一撃だった。
「怪我はないか」
彼が僕の肩を掴む。
その手は熱く、戦闘の高揚感でわずかに震えていた。
「はい、平気です! それより団長、今の一撃! 振り下ろした瞬間の僧帽筋の収縮と、上腕三頭筋の張りが最高でした! 国宝に指定すべきです!」
「……なんの話をしている」
ガドリエルは呆れた顔をしたが、その口元は少し緩んでいた。
僕がジークではなく、自分だけを見ていたことに満足したようだ。
「へぇ、やるじゃねぇか」
戦闘を終えたジークが、口笛を吹きながら戻ってきた。
彼はガドリエルの足元に転がる巨大な死体を見て、肩をすくめた。
「パワー馬鹿かと思ったが、あの一瞬で急所を断つとはな。……完敗だ」
ジークは素直に負けを認めた。
ガドリエルはフンと鼻を鳴らし、僕を抱き寄せて宣言した。
「わかったら、二度と俺のものに手を出すな」
「はいはい、ご馳走様。……でもまあ、俺のテントならもっと静かに眠れるぜ?」
「……貴様」
再び剣を抜きかけたガドリエルを、僕は必死で止めた。
森を抜けた開けた荒野で、それは起こった。
「グルルルゥ……ッ!」
地響きと共に現れたのは、巨大な猪型の魔獣『アイアンボア』の群れだった。
その巨体は鋼鉄のような剛毛に覆われており、鼻息だけで人を吹き飛ばすほどの迫力だ。
「ちっ、朝から元気なこって!」
真っ先に飛び出したのは、傭兵団長のジークだった。
彼は二本の短剣を逆手に持ち、風のように疾走する。
ヒュン!
アイアンボアの突進を、紙一重で回避する。
その瞬間、彼の身体が鞭のようにしなった。
(おおっ! あの背骨の可動域!)
僕は馬車の影から戦況を見守りつつ、感嘆の声を上げた。
ジークの動きは、筋肉の伸縮を最大限に利用したアクロバティックなものだ。
回避と同時に体を捻り、遠心力で刃を叩き込む。
そのたびに、彼の脇腹にある外腹斜筋が、爬虫類のように滑らかに収縮する。
「軽いねぇ! 止まって見えるぜ!」
ジークは笑いながら、敵を翻弄している。
確かに、あの柔軟性は素晴らしい。見ていて飽きないエンターテインメントだ。
だが――。
「ブモオォォ!!」
一頭のアイアンボアが、ジークの包囲を抜け、こちらへ突進してきた。
狙いは、非戦闘員である僕だ。
「しまっ……レオ!」
ジークの声が遠く聞こえる。
目の前に迫る、牙の壁。
死ぬ。
そう思った瞬間、視界が黒い影に覆われた。
ドォォォォォン!!
爆発音のような衝撃音が響き、地面が揺れた。
僕が恐る恐る目を開けると、そこには――。
真っ二つになったアイアンボアと、大剣を振り抜いた後の姿勢で静止しているガドリエルの背中があった。
「……俺の背中から離れるなと言ったはずだ」
低い声と共に、彼がゆっくりと振り返る。
その瞳は、獲物を屠った興奮で赤く輝いていた。
(……あぁ、これだ)
僕は息を呑んだ。
ジークの華麗な技も魅力的だった。
だが、ガドリエルのそれは「別格」だった。
見てくれ、あの一撃を放った直後の広背筋の膨張を。
軍服の上からでもわかる。背中の筋肉が、まるで鬼の顔のように隆起している。
そして何より、足腰だ。
数トンはある魔獣の突進を、一歩も引かずに受け止め、逆に叩き潰した土台。
おしりから太もも裏にかけての、鋼鉄の連鎖。
(圧倒的質量……! 小細工なしの暴力的なまでの筋肉量……やっぱり、これだ。これこそが王者の筋肉だ!)
ジークが「風」なら、ガドリエルは「山」だ。
動かざること山の如し。しかし動けば、全てを粉砕する。
「団長……!」
僕はふらふらと彼に近づいた。
ガドリエルは剣を納め、荒い息を吐いていた。
昨夜の欲求不満と寝不足が、すべて破壊力に変換されたような一撃だった。
「怪我はないか」
彼が僕の肩を掴む。
その手は熱く、戦闘の高揚感でわずかに震えていた。
「はい、平気です! それより団長、今の一撃! 振り下ろした瞬間の僧帽筋の収縮と、上腕三頭筋の張りが最高でした! 国宝に指定すべきです!」
「……なんの話をしている」
ガドリエルは呆れた顔をしたが、その口元は少し緩んでいた。
僕がジークではなく、自分だけを見ていたことに満足したようだ。
「へぇ、やるじゃねぇか」
戦闘を終えたジークが、口笛を吹きながら戻ってきた。
彼はガドリエルの足元に転がる巨大な死体を見て、肩をすくめた。
「パワー馬鹿かと思ったが、あの一瞬で急所を断つとはな。……完敗だ」
ジークは素直に負けを認めた。
ガドリエルはフンと鼻を鳴らし、僕を抱き寄せて宣言した。
「わかったら、二度と俺のものに手を出すな」
「はいはい、ご馳走様。……でもまあ、俺のテントならもっと静かに眠れるぜ?」
「……貴様」
再び剣を抜きかけたガドリエルを、僕は必死で止めた。
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