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021 神保町ダンジョン(6)

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「探索者を脅かす、悪しきモンスターよ。ダンジョンヒーローが相手だ。覚悟しろッ!」

 ぐるるるるぅ。

 唸り声を上げて、クアッドスケルトンが立ち上がる。
 強めに蹴っ飛ばしたのだが、たいしたダメージは与えてないようだ。

 クアッドスケルトンが持つ四本の剣。
 太い骨を削り出したかのような禍々しい大剣だ。

 あの剣がこの戦いの鍵となる――。

 ちら、と虎夫に視線を向ける。
 命にかかわる怪我だが、探索者はタフだ。
 見たところ5分、10分で死ぬことはあるまい。
 それまでに終わらせれば良い。

 クアッドスケルトンの胸部には赤黒く悍《おぞ》ましい核が埋まっている。
 スケルトンの核が拳大だとすれば、クアッドスケルトンのはバスケットボール大だ。
 これを破壊すれば倒せるのだが――。

 四つの剣に巨大な核――さて、どう戦うか。

 クアッドスケルトンは完全に俺を敵と定めたよう。
 俺に向かってくる。
 まずは様子見。

 クアッドスケルトンは両腕、二本の剣を交差するように振り下ろす。
 狙いは俺の頭部。
 後ろに下がって回避するが、もの凄い風圧だ。

 さすがは深層モンスター。
 俺も一瞬の気も抜けない。

 クアッドスケルトンの連続攻撃。
 四本の剣を絶え間なく振り回す。

 俺の狙いは、全回避。
 ひとつもかすらせない。

 1分。
 2分。

 動きを止めず、荒れ狂う剣撃を躱し続け。
 その瞬間を待つ。

 俺は回避するばかりで、攻め手がない。
 しかも、どの攻撃もギリギリで避けている。
 いつ、攻撃を喰らってもおかしくない状況。

 外から見ている視聴者にはそう見えるだろう。

 3分。
 4分。
 5分。

 だが、俺自身はピンチだと思っていない。
 冷静にその瞬間を待っているだけだ。

 そして――今だッ!!

 俺はギリギリで剣を避け、クアッドスケルトンの腕に飛び乗る。
 その手首に向かって――。

「ヒーローパアアアアンチィィィ!!!」

 ヒーローパンチを叩きつけ。
 クアッドスケルトンの手首が砕け、一本の剣が飛んでいく。

 ヤツは臆することなく三本の剣を振り回すが、俺は飛び降りて距離を取る。
 よし、一段階クリア。

 後は、これを三回。

 二本目。

 剣が減ってるのでさっきよりも簡単だ。

 三本目。
 四本目。

 立て続けにクアッドスケルトンの手首を砕く。
 四本の剣は離れた場所に飛んでいった。

 さあ、後がガチンコの殴り合い――につき合う気はない。

 クアッドスケルトンは殺意を振り向きながら、突進してくる。
 スピードと威力はたいしたもの。
 まともに喰らったら、大怪我だ。

 しかし、考えなしの直線攻撃は――容易く躱せる。

 俺は背後に回り、クアッドスケルトンの腰を蹴って駆け上る。

 背中に両足を踏ん張り。
 首に両腕を回して。
 後ろに引き抜く。

「ヒーロークラァァァッチィィィ!!!」

 ――ボギリ。

 首の骨を砕き、外れた頭部を投げ捨てる。
 あばらの隙間から胸に両腕を伸ばし。

「ヒーロープルアァァァァウトォォォ!!!」

 クアッドスケルトンの大きな核を引き抜いた。
 核を失ったクアッドスケルトンはバラバラになって崩れ落ちる。

「ダンジョンにヒーローがいる限り、悪のモンスターが栄えることはない。正義の味方ダンジョンヒーローここにありッ!」

 戦いを終えた俺は変身を解かず、虎夫たちのもとに向かう。
 最初に吹き飛ばされた三人は、腕とあばらの骨折くらい。
 中級ポーションで治せる程度、大した怪我ではない。

 問題は残りの二人だ。
 徹哉は腕を切られ、右腕の肘から先がなく、まだ出血も止まっていない。
 それ以上に酷いのが虎夫だ。
 ヤツは血まみれで横たわり、仲間が必死に治療しているが、このままでは死んでしまう。

「虎夫、大丈夫か? いま、ポーション使うからな」

 仲間が取り出した一本のポーション瓶。
 透き通った水色の上級ポーションだ。

 これなら一命は取り留められるかもしれない。
 だが、虎夫は仲間が差し出したポーションを――。

「ああ、俺はいい。徹哉《てつや》に使ってやれ」
「だけど!」

 どうやら、ポーションは一本しかないようだ。

「俺はもう間に合わねえよ」
「ごめん……」

 男は泣きながら、徹哉にポーションを飲ませる。
 それを見て、虎夫は弱々しく微笑んだ。
 俺は虎夫のもとに向かう。

「虎夫。よく戦った。立派だったぞ」
「死ぬときくらいはカッコ良く死にたいからな」

 苦しそうに首を向けて、俺に言う。

「どうだ、悪くなかっただろ?」

 俺は頷いて、ポーションを取り出す。

「これを飲め」
「これは……おい、マジか!?」
「モタモタしてたら、手遅れになるぞ」
「あっ、ああ……すまん」

 俺は黄金色のポーションを虎夫に飲ませる。
 見る見るうちに虎夫の傷が癒え、十秒後には完治していた。

「これが最上級ポーションの効果か。すげえな」

 虎夫は元気そうに立ち上がる。
 どんな傷でも、死んでいなければ立ち所に治してしまう。
 それが最上級ポーションだ。

「ありがとう、そして、すまなかった」

 虎夫が深々と頭を下げる。

「ひでおは命の恩人だ。この借りは絶対に返す」
「気にするな。助けを求められたら、誰であっても必ず助ける。それがダンジョンヒーローだ」
「バカにして悪かった。お前は本物の探索者だ」
「分かってくれれば、それでいい」
「なあ、ダンジョンヒーロー。ウチのクランに入らねえか? 『十二騎』って大手クランだ。お前なら、高待遇で歓迎するぞ」
「気持ちは嬉しいが、俺はどこにも属すつもりはない」
「そうか、気が変わったら連絡してくれ」

 『十二騎』のみんなが帰っていったのを確認して、俺は変身を解除する。

「ふうぅ」

 肌に触れる空気が気持ちいい。

「今回の戦い、楽しんでいただけたでしょうか?」

”おおおおお”
”とっても楽しかった”
”すげー、手に汗握った”
”ヒーロー、カッコ良すぎ”

「今日はコメント見られずに申し訳ありませんでした」

”気にすんな”
”戦闘に集中してる感じが良かった”
”ヒーローのガチバトルすごかった”

「なので、今日は帰ってから振り返り配信をしたいと思います」

”やった!”
”絶対見る!”
”バイト休む”
”デートキャンセルした”
”↑リア充爆発しろ”

「皆様、おつき合いありがとうございました。今日の配信はこれでお終いにします。お楽しみいただけましたら、高評価、チャンネル登録お願いします」

【後書き】
《補足説明》
ダンジョンのポーションはダンジョン内で負った怪我にしか効きません。
怪我人や病人をダンジョンに連れてきても、ポーションで治療できません。

シリアスなシーンでコメントオフにしてみましたが、どうでしょうか?
コメントあった方がいいかな?

次回――『振り返り配信(1)』
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