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033 八王子ダンジョン(1)
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意外なことに、そこにいたのは知っている探索者だった。
「よう。ひでお」
「虎夫さん!」
神保町ダンジョンの狩りの季節で一緒に戦った『十二騎』の虎夫さんだ。
意外な人物に思わず声が出てしまった。
その声に数十人の探索者の視線が集まる。
「あいつ、ダンジョンヒーローだろ?」
「ひでおだっけ?」
「意外と普通だな」
探索者のささやき声が聞こえる。
やっぱり、有名になってるみたいだ。
だが、虎夫は気にする様子もなく、僕に話しかけてくる。
「あらためてお礼を言わせてくれ。あのときは助かった、ありがとう」
「いえいえ、頭をあげてくださいよ。あれは――」
「助けを求められたら、誰であっても必ず助ける。それがダンジョンヒーローだろ?」
「はい」
「それでもお礼を言わせてくれ。それに言葉だけじゃ足りねえ。そこはきちんとしておかないと『十二騎』として示しがつかねえ。今度、ウチの拠点に来てくれるんだろ?」
「ええ」
「そのときにたっぷりお礼させてくれ。あー、それとな、「さん」はいらない。呼び捨てにしてくれ」
「いや、それは……」
年齢も探索者としてのキャリアも彼の方が何倍も上だ。
そのような相手を呼び捨てにするのは、どうも気が引ける。
「俺とひでおは対等な探索者。敬語もいらねえよ」
「ですが……」
「じゃあ、こうしよう。探索者としての強さは俺よりひでおの方が上だし、助けられた恩もある。だから、俺が敬語を使った方がいいですか、ひでおさん?」
意地でも譲る気はないようだ。
さすがに、敬語を使われるわけにはいかないよ。
「あー、わかりま……わかったよ、よろしくね、虎夫」
「よろしく、ひでお」
彼が伸ばしてきた手をギュッと握る。
そういえば、ずっとソロでやってきたせいで、探索者の友人は虎夫が初めてだ。
どうもむず痒いが、彼と友人になれたのは、素直に嬉しい。
「それにしても――」
――ガチャリ。
僕が虎夫に話しかけようとしたところで、部屋のドアが開く。
「続きはまた後でな」
「うん」
協会職員がやってきたので、僕たちは椅子に座る。
「おはようございます。今日は依頼を受けていただきありがとうございます。えーと、今日の参加者は50名なのですが――」
「ごっ、ごめんなさい。遅れました」
息せき切って駆け込んできた女性。
彼女は咲花リリスさん。
僕がヒーローデビューするきっかけになった人で、ヒーローとして初めて人助けをした相手だ。
虎夫に続いて、またもや、意外な人物だ。
「よっ」
虎夫が手を挙げると、リリスさんも軽く返事する。
知り合いなのかな?
虎夫は配信者は嫌いだって言ってたけど……。
コホン。とわざとらしい職員の咳で、リリスさんはペコリと頭を下げて席に着く。
「では、あらためて。すでにご存じかと思いますが、依頼内容について説明させていただきます――」
彼女のことが気になったけど、協会職員が話し始めたので、彼女から職員に視線を移す。
職員が話していくが、依頼受注時に受け取ったDMと同じ内容。
間違いがないか確認するだけだった。
説明の最後にそれぞれが担当するエリアを伝えられた。
「――以上になりますが、ご質問はございますか?」
皆、首を横に振る。
「こちらが通信機になります。これは協会から貸与するものなので、なくしたり壊したりしないよう、ご注意ください」
職員は僕たちに通信機を手渡す。
ダンジョン内で協会と連絡がとれるガジェットだ。
まあ、僕には佑からもらったアレがあるから必ないんだけど。
「では、よろしくお願いします。それでは、また、五時にここで」
それだけ言って、協会職員は去って行った。
「うっし、行くか」
虎夫が席を立つ。
僕たちも続いて立ち上がり、部屋を後にする。
「ダンジョンヒーロー様」
「えっ!?」
リリスさんに『様付け』で呼ばれ、思わず変な声が出た。
「先日は助けていただい――」
「あー、そういうの後にしようぜ」
リリスさんの言葉を虎夫が遮る。
「ひでおはこの後、空いてるだろ?」
「うっ、うん。空いてる」
僕が暇なのは前提らしいが、その通りなのでそのまま返事をした。
「リリスと三人で呑みに行こうぜ?」
「いや、僕、未成年なので」
「ああ、そうだったか。すまんすまん。強えから学生だってこと忘れてたわ」
虎夫はポリポリと頭をかく。
どうやら、本当に失念していたようだ。
「呑めなくてもいいからさ、一緒にどうだ? 無理に呑ませたりしないからよ」
少し考えたが、僕にとって初めての探索者の友人。
ソロ時代から他の探索者と交流できたら良いなとずっと憧れていた。
せっかくのチャンスだ。断る理由はない。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「おう。リリスも来るだろ?」
「行く行く! ダンジョンヒーロー様が来るなら絶対行くよ!」
「なんか、俺がオマケみたいだな」
気にした様子もなく虎夫はあっけらかんと笑う。
やっぱり悪い人じゃない気がする。
「まあ、いいや。とりあえずは依頼をこなしちゃおうぜ」
協会施設を出ると、その先は八王子ダンジョン。
今日、依頼をこなす場所だ。
「ひでおは生配信か?」
ダンジョンに入るところで虎夫が尋ねてきた。
【後書き】
次回――『八王子ダンジョン(2)』
「よう。ひでお」
「虎夫さん!」
神保町ダンジョンの狩りの季節で一緒に戦った『十二騎』の虎夫さんだ。
意外な人物に思わず声が出てしまった。
その声に数十人の探索者の視線が集まる。
「あいつ、ダンジョンヒーローだろ?」
「ひでおだっけ?」
「意外と普通だな」
探索者のささやき声が聞こえる。
やっぱり、有名になってるみたいだ。
だが、虎夫は気にする様子もなく、僕に話しかけてくる。
「あらためてお礼を言わせてくれ。あのときは助かった、ありがとう」
「いえいえ、頭をあげてくださいよ。あれは――」
「助けを求められたら、誰であっても必ず助ける。それがダンジョンヒーローだろ?」
「はい」
「それでもお礼を言わせてくれ。それに言葉だけじゃ足りねえ。そこはきちんとしておかないと『十二騎』として示しがつかねえ。今度、ウチの拠点に来てくれるんだろ?」
「ええ」
「そのときにたっぷりお礼させてくれ。あー、それとな、「さん」はいらない。呼び捨てにしてくれ」
「いや、それは……」
年齢も探索者としてのキャリアも彼の方が何倍も上だ。
そのような相手を呼び捨てにするのは、どうも気が引ける。
「俺とひでおは対等な探索者。敬語もいらねえよ」
「ですが……」
「じゃあ、こうしよう。探索者としての強さは俺よりひでおの方が上だし、助けられた恩もある。だから、俺が敬語を使った方がいいですか、ひでおさん?」
意地でも譲る気はないようだ。
さすがに、敬語を使われるわけにはいかないよ。
「あー、わかりま……わかったよ、よろしくね、虎夫」
「よろしく、ひでお」
彼が伸ばしてきた手をギュッと握る。
そういえば、ずっとソロでやってきたせいで、探索者の友人は虎夫が初めてだ。
どうもむず痒いが、彼と友人になれたのは、素直に嬉しい。
「それにしても――」
――ガチャリ。
僕が虎夫に話しかけようとしたところで、部屋のドアが開く。
「続きはまた後でな」
「うん」
協会職員がやってきたので、僕たちは椅子に座る。
「おはようございます。今日は依頼を受けていただきありがとうございます。えーと、今日の参加者は50名なのですが――」
「ごっ、ごめんなさい。遅れました」
息せき切って駆け込んできた女性。
彼女は咲花リリスさん。
僕がヒーローデビューするきっかけになった人で、ヒーローとして初めて人助けをした相手だ。
虎夫に続いて、またもや、意外な人物だ。
「よっ」
虎夫が手を挙げると、リリスさんも軽く返事する。
知り合いなのかな?
虎夫は配信者は嫌いだって言ってたけど……。
コホン。とわざとらしい職員の咳で、リリスさんはペコリと頭を下げて席に着く。
「では、あらためて。すでにご存じかと思いますが、依頼内容について説明させていただきます――」
彼女のことが気になったけど、協会職員が話し始めたので、彼女から職員に視線を移す。
職員が話していくが、依頼受注時に受け取ったDMと同じ内容。
間違いがないか確認するだけだった。
説明の最後にそれぞれが担当するエリアを伝えられた。
「――以上になりますが、ご質問はございますか?」
皆、首を横に振る。
「こちらが通信機になります。これは協会から貸与するものなので、なくしたり壊したりしないよう、ご注意ください」
職員は僕たちに通信機を手渡す。
ダンジョン内で協会と連絡がとれるガジェットだ。
まあ、僕には佑からもらったアレがあるから必ないんだけど。
「では、よろしくお願いします。それでは、また、五時にここで」
それだけ言って、協会職員は去って行った。
「うっし、行くか」
虎夫が席を立つ。
僕たちも続いて立ち上がり、部屋を後にする。
「ダンジョンヒーロー様」
「えっ!?」
リリスさんに『様付け』で呼ばれ、思わず変な声が出た。
「先日は助けていただい――」
「あー、そういうの後にしようぜ」
リリスさんの言葉を虎夫が遮る。
「ひでおはこの後、空いてるだろ?」
「うっ、うん。空いてる」
僕が暇なのは前提らしいが、その通りなのでそのまま返事をした。
「リリスと三人で呑みに行こうぜ?」
「いや、僕、未成年なので」
「ああ、そうだったか。すまんすまん。強えから学生だってこと忘れてたわ」
虎夫はポリポリと頭をかく。
どうやら、本当に失念していたようだ。
「呑めなくてもいいからさ、一緒にどうだ? 無理に呑ませたりしないからよ」
少し考えたが、僕にとって初めての探索者の友人。
ソロ時代から他の探索者と交流できたら良いなとずっと憧れていた。
せっかくのチャンスだ。断る理由はない。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「おう。リリスも来るだろ?」
「行く行く! ダンジョンヒーロー様が来るなら絶対行くよ!」
「なんか、俺がオマケみたいだな」
気にした様子もなく虎夫はあっけらかんと笑う。
やっぱり悪い人じゃない気がする。
「まあ、いいや。とりあえずは依頼をこなしちゃおうぜ」
協会施設を出ると、その先は八王子ダンジョン。
今日、依頼をこなす場所だ。
「ひでおは生配信か?」
ダンジョンに入るところで虎夫が尋ねてきた。
【後書き】
次回――『八王子ダンジョン(2)』
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