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6.卑屈弟/探る指
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◆ ◆ ◆
駅前の和定食屋に入った。
夕飯時前で客の少ない中、向かい合って座る。俺は煮魚の定食を頼み、響はホッケの定食を頼んだ。
注文のあと、俺は黙って響の話が始まるのを待った。
待ち続けた。
だが、彼は自分から何も話そうとはしなかった。
退屈そうにお品書きを眺めては、何を納得しているのか、一人でフンフンとうなずいている。
料理が運ばれてきても同じ。ただ黙々と食べるだけ。
ホッケの骨がうまく身から離れないらしく、ボロボロに崩しまくっている。
しばらくはその悪戦苦闘を見守っていたが、次第に耐えきれなくなっていった。
覚悟を決め、ハシを置く。
「おい」
「んー、なに?」
心臓はバクバクした。膝の上に置いた手は汗ばみ、震えている。
「俺に話したいことって、なんだ」
このまま何も聞かず、なにも知らぬまま、帰るという選択肢もあった。
俺にとってはきっとその方がいいのかもしれない。
しかし、ただならぬ空気にどうしても聞かずにはいられなかった。
緊張のせいで味をまったく感じない煮魚のためにも、このまま聞かずに店を出ることはできなかった。
すると響もハシを置き、手でホッケの骨を無理やり剥がしながら、
「たっくんさ、好きな人できた?」
などと問いかけてきた。
「──は?」
まったく予想していなかった言葉。思わず眉間にシワが寄る。
「この前の神社のご利益あったかなーと思って」
「別に」
「なにその言い方。どっちか分からないじゃん」
「どっちだっていいだろ。お前には──」
“関係無い”と続けようとしたが、心にもないことは口にできなかった。
「──そんなことより、……告白してきたヤツとはどうなったんだよ」
代わりに出てきたのはそんな言葉だった。
本当はこんなこと、自分から聞きたくはなかったのに。
「う、うまく、いってるのか?」
そのせいか、口が回らない。
まるで娘の恋愛事情にヤキモキする父親だ。頭を抱えたくなったが、どうにも言葉が見つからない。
響は「んー」っと唸り、首をかしげる。
「それがさあ、なんていうか……」
言いかけのまま彼は口ごもった。
どう続けたら良いのか分からず迷っているらしい。
その目が言葉の先を求め、うろうろと俺の胸元あたりを彷徨っている。
やがて、
「なんだか……、誰かの代わり、みたいなんだよね」
そう言い終えると深いため息をつき、目を閉じた。
駅前の和定食屋に入った。
夕飯時前で客の少ない中、向かい合って座る。俺は煮魚の定食を頼み、響はホッケの定食を頼んだ。
注文のあと、俺は黙って響の話が始まるのを待った。
待ち続けた。
だが、彼は自分から何も話そうとはしなかった。
退屈そうにお品書きを眺めては、何を納得しているのか、一人でフンフンとうなずいている。
料理が運ばれてきても同じ。ただ黙々と食べるだけ。
ホッケの骨がうまく身から離れないらしく、ボロボロに崩しまくっている。
しばらくはその悪戦苦闘を見守っていたが、次第に耐えきれなくなっていった。
覚悟を決め、ハシを置く。
「おい」
「んー、なに?」
心臓はバクバクした。膝の上に置いた手は汗ばみ、震えている。
「俺に話したいことって、なんだ」
このまま何も聞かず、なにも知らぬまま、帰るという選択肢もあった。
俺にとってはきっとその方がいいのかもしれない。
しかし、ただならぬ空気にどうしても聞かずにはいられなかった。
緊張のせいで味をまったく感じない煮魚のためにも、このまま聞かずに店を出ることはできなかった。
すると響もハシを置き、手でホッケの骨を無理やり剥がしながら、
「たっくんさ、好きな人できた?」
などと問いかけてきた。
「──は?」
まったく予想していなかった言葉。思わず眉間にシワが寄る。
「この前の神社のご利益あったかなーと思って」
「別に」
「なにその言い方。どっちか分からないじゃん」
「どっちだっていいだろ。お前には──」
“関係無い”と続けようとしたが、心にもないことは口にできなかった。
「──そんなことより、……告白してきたヤツとはどうなったんだよ」
代わりに出てきたのはそんな言葉だった。
本当はこんなこと、自分から聞きたくはなかったのに。
「う、うまく、いってるのか?」
そのせいか、口が回らない。
まるで娘の恋愛事情にヤキモキする父親だ。頭を抱えたくなったが、どうにも言葉が見つからない。
響は「んー」っと唸り、首をかしげる。
「それがさあ、なんていうか……」
言いかけのまま彼は口ごもった。
どう続けたら良いのか分からず迷っているらしい。
その目が言葉の先を求め、うろうろと俺の胸元あたりを彷徨っている。
やがて、
「なんだか……、誰かの代わり、みたいなんだよね」
そう言い終えると深いため息をつき、目を閉じた。
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