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第7章
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しおりを挟む「一日中ふわふわしたまま過ごす日なんて、数えきれない程あった。でも、気付かれちゃった。___まさか大学を一年半で卒業しちゃうなんて、本当に有能過ぎて」
チラチラとこちらを見て、この後の言葉を言うか言うまいか悩んでいる様子だった。ここまで最低なことをしていて、今更驚くもことなどないだろう。安心させるために優しく微笑んで見せた。それを見てぱあっと明るくなる母親は、そのへんの女と同じだと思った。
「彼が欲しくなった。だから、重役になった貴臣を夜這いしたの」
「は・・・?」
「あ、もちろん断られたわ。あの時の諭すような口調が忘れられない。___私の事、死ぬ程憎んでいたはずなのに。”お母さんは、向日葵の様な存在でいなければならない。愛する息子たちの為に”って、そう言ったの」
正直、殺意が沸いた。母親との思い出よりも貴兄との記憶の方が遥かに多く、温かいものだった。汚いと、そう思った。同じ血が流れていることを、心の底から恥ずかしいと思った。
バーン
頭は落ち着く様にと何度も訴えているのに、身体がいう事を聞かない。テーブルの上に乗り上げんばかりに身を乗り出して、目の前の女の襟首を掴んでいた。今まで人に暴力をふるったことは無い。これからも振るう事は無いだろう、今、この瞬間以降は。
「待つんだ!」
大きな体の警備員たちに羽交い絞めにされた。それでも精一杯力を込めて足を動かした。蹴られたテーブルは大きな音を立てて床に倒れた。こんなことで気分は晴れるはずが無い。
「ふざけんな! 自分が何をしたのかわかっているのか!? お前なんて・・・母親なんかじゃない!」
興奮して上手く言葉が出なかった。それでも、思いっきり傷つけてやりたかった。貴兄が出来ないなら、僕がその役を代わりに果たす。
「そっ、そうよね・・・。あの人は、あまりにも出来過ぎている。私には理解出来ないくら「行きましょう」
職員の女性が泣き崩れている母親を連れて行こうと引っ張っている。力の弱い母親はそれに抵抗も出来ずに引きずれられながら、こちらを振り返った。
「彼はっ、貴臣さんは、こんな私の誕生日には必ず会いに来るの! 息子たちに会わせてあげられなくて悪いって、謝るの。そして・・・、たくさんの貴方達が写った写真をプレゼントして帰っていく。彼は、貴方たちのことを本当の兄弟の様にっ・・」
その先は聞けなかった。
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