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73話 借金の代償
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セシルの過去を聞き、助け出すと約束したコウガ。
思いっきり泣いて、ようやく落ち着きを取り戻したセシルは、ゆっくりと俺の胸から離れた。
「すまない……服を濡らしてしまった」
「気にしないでいい、すぐ乾くさ」
泣きたくなって当たり前だ、聞けば聞くほど腹が立つような内容だったからな……
「セシル、借金は何処に返すんだ?」
「商業ギルドを通して返す事になっているが……」
「わかった、それじゃセシルが奴隷落ちする前に俺が借金を返す。その代わり、その金額分セシルには俺達と共に旅をして少しずつ返してもらう、いいな?」
セシルに向かってそういうと、少し驚いた顔をしていた。
「奴隷落ち前に……?だが、それだと私が逃げたりする可能性だって……!」
「そんな事するのか?」
俺はキッとセシルを睨む。
「い、いや……恩人であるコウガから逃げるだなんて事、する訳がない!しかしだな……コウガに時間掛けてでも返すとはいえ、一時的にでも大金を出して貰うんだぞ……?ただ返すだけって訳にはいかない、コウガの奴隷として尽くすくらいの事はしないと……私の気が済まないんだ!」
セシルは顔を下に向けたまま俺の手を握って訴える、僅かにだが……手が震えているのが分かる、奴隷とはどういう物か……よく分かっているのだろう。
まぁ、俺達にはそれは当てはまらないがな!教えてあげよう。
「……俺の奴隷になるって事、どういう事か分かるか?」
「えっ……?」
「メイラン、教えてやってくれ」
「わかったわ」
メイランはセシルに近寄り、俺の手を握っている手を取る。
「セシルさん、私達奴隷がコウガ様と何をしているか、教えましょう」
「……」
メイランの顔をじっと見つめるセシル、何を語られるのかと唾を飲む。
「サンビークで、ソルトを奴隷として迎え入れた日の話をしましょうか。
ソルトは奴隷として売られていたのだけれど、ソルトがコウガ様が良い!って駄々をこねて、コウガ様に買って頂く事になったのよ。
そしてソルトを迎え入れてから、まずは服や装備、野宿用道具を買いに行ったわ。
服を選ぶのも楽しかったわよ!私とカエデの2人で、ソルトを着せ替え人形にしてね!
その後、遅めの昼食をレストランに行って、みんなで一緒に食事をしたのよ。
お腹一杯になるまで食べた後、宿に戻ってお互いの詳しい自己紹介や、スキルの確認、そして旅の目的の話をしたわね。
その後は夕方になるまでゆっくり世間話をしたり夕飯の準備したりして交友を深め、最後にはみんなでコウガ様が作った豪華な夕飯……ブラックモウのステーキとスープを頂いたわ!とても美味しかったからまた食べたいわね!
そして、みんなでゆっくり布団に潜ってそのまま就寝……こんな1日だったわ」
凄く楽しそうな顔で、メイランはあの日の出来事を語ってくれた。
チョイスはソルトを迎え入れた日か、セシルに話すには1番良い場面をチョイスしたな、流石メイランだ!
「……」
セシルの反応は思った通りだ、ビックリを通り越しているようで固まっていた。
「……仲が良い、とは思っていたが……これじゃまるで、家族を迎えるかのような……奴隷らしいことなんて1つも……」
「そうだ、俺は奴隷を奴隷扱いしないんだよ、カエデは一緒に居たいと思ったから迎え入れた。そしてメイランはソルトと同様に自分から俺と一緒に行きたいと、奴隷商人にお願いして俺の元にやってきたんだ」
「……」
黙って俺の話を聞いているセシルだが、ずっと固まったままだった、覚悟していた事と違っていたのかもしれないな。
「だからな、訳あって俺と一緒に旅をするにしても、奴隷だろうと奴隷じゃなかろうと関係ないんだよ。カエデはカエデ、メイランはメイラン、ソルトはソルト、そしてセシルはセシルだ。勿論皆が思うような手を出したり、何かを強要したり、命令なんて1度もしたことは無い、よな?メイラン」
「ええ、無いわね。ほんの少しスキンシップがあるくらいね、あまりにも手を出されないから私達全員に魅力がないのかと不安になっていた所よ……もふもふ尻尾以外ね」
メイランは呆れて両手を広げた、何だ?襲って欲しいのか?
まぁメイランは身体を捧げるわって言い出すような子だもんな……
「……もふもふな、尻尾?」
お、そこに反応するんだ……手を出されないって所じゃなくて。
「俺はもふもふした動物が好きなんだ。だからカエデやソルトの尻尾をたまにブラッシングしたりして、手入れしてあげてるんだよ」
「な、なるほど……」
セシルは自分の尻尾に触れる。
そう、その尻尾だよ!めちゃくちゃ気になるんだよな……もふもふしてみたい。
「本当に、奴隷にならなくても……良いのか?」
「ならなくてもいいよ、扱いは全く変わらんしな。まぁ、セシルがどうしても奴隷になりたいのなら話は別だが……」
「……」
セシルは少し考えているようだ、仮に奴隷になるって言われたとして、これ以上奴隷増やしてどうすんだ?って言われそうだが、みんな俺がいいって言って来るんだから仕方ないよね?……よね?
俺としては全員解放したっていいのに、メイランとソルトは断るからなぁ……
「私は、コウガの奴隷になる。
やっぱり、大金を借りる以上お咎めなしは私としても納得は行かない。
例え私に罪はないにしろ、コウガ達からしたら関係ない話……
だからこそコウガ達に恩を返しきるまで、私自身の覚悟として私を受け取って欲しい」
「……良いんだな?」
「あぁ」
俺の顔をしっかりと見て訴えてくる、その顔からも覚悟が伝わってくる。
「……分かった、お金を返した後に奴隷商館に行こうか、この街にあるのか?」
「ないな……コウガ達が知るサンビークか、ここから北西にあるガリスタ国だろうか……」
困ったな、一応サンビークには1日で行ける距離だが……ガリスタはどうだろうか?
「ガリスタは何日で行ける?」
「馬車で1日弱だな、道のりは街道を進むだけだから特に準備も要らない筈だ」
「なるほど、どうしようか……」
出来れば知り合いが居る奴隷商がいい、ガルムさんがサンビークに居るなら間違いなくサンビークに行くのだが……
「あの、コウガさん」
静かに成り行きを見守っていたミツキが口開いた。
「ん?どうしたミツキ」
「サンビークなら、例のアレで飛んで行けますよ?」
「本当か!?」
「はい、たまにサンビークへ野菜や肉を仕入れにいくので」
ミツキが言う例のアレは転移だ。
転移で飛べる範囲は、1度は行ったことのある場所の風景の記憶と座標が必要なんだそうだ。
なので、座標を適当に指定しても行ったことがない場所へは風景の記憶がない為に行けないという仕組みらしい。
「なら、必要ならミツキに協力してもらおうか」
「分かりました、いつでも言ってくださいね」
さすがミツキだ、頼りになる男だよ。
これからもずっと頼る事になりそうだな。
「コウガ……いや、コウガ様の方が良いのか……?ご主人様や主様……旦那様にマスター……うーむ」
俺の呼び方を考えているのか、ブツブツと呪文のように独り言を言っていた。
「……普通にコウガでいいぞ」
「いや、流石にそれは不味いだろう……マスターと呼ぶ事にする」
「そ、そうか……分かった」
呼びたいふうに呼ばせる事にした、少し考えるのも疲れてきた。
全員で応援席に戻ってステージを見ると、グリーンドラゴンのエリスタが丁度戦おうとしていた所だった。
「後2試合で俺達の番だな、1回カエデの様子を見てくるよ」
「私も行くわ」
メイランが付いてくるようだ、あれだけ心配していたからな……
「なら私も行こう、カエデと……ソルトだったか?にも挨拶しないとな」
確かに、これから一緒に行動する事になるのだから早めに言っといた方がいいな。
「分かった、一緒に行こうか」
「コウガさん、そういう事なら万が一早く試合が終わりそうなら、俺が呼びに行きますね」
「そうだな、ミツキ頼むよ」
「はい!」
俺はメイランとセシルを連れてカエデの居る医務室へと向かった。
思いっきり泣いて、ようやく落ち着きを取り戻したセシルは、ゆっくりと俺の胸から離れた。
「すまない……服を濡らしてしまった」
「気にしないでいい、すぐ乾くさ」
泣きたくなって当たり前だ、聞けば聞くほど腹が立つような内容だったからな……
「セシル、借金は何処に返すんだ?」
「商業ギルドを通して返す事になっているが……」
「わかった、それじゃセシルが奴隷落ちする前に俺が借金を返す。その代わり、その金額分セシルには俺達と共に旅をして少しずつ返してもらう、いいな?」
セシルに向かってそういうと、少し驚いた顔をしていた。
「奴隷落ち前に……?だが、それだと私が逃げたりする可能性だって……!」
「そんな事するのか?」
俺はキッとセシルを睨む。
「い、いや……恩人であるコウガから逃げるだなんて事、する訳がない!しかしだな……コウガに時間掛けてでも返すとはいえ、一時的にでも大金を出して貰うんだぞ……?ただ返すだけって訳にはいかない、コウガの奴隷として尽くすくらいの事はしないと……私の気が済まないんだ!」
セシルは顔を下に向けたまま俺の手を握って訴える、僅かにだが……手が震えているのが分かる、奴隷とはどういう物か……よく分かっているのだろう。
まぁ、俺達にはそれは当てはまらないがな!教えてあげよう。
「……俺の奴隷になるって事、どういう事か分かるか?」
「えっ……?」
「メイラン、教えてやってくれ」
「わかったわ」
メイランはセシルに近寄り、俺の手を握っている手を取る。
「セシルさん、私達奴隷がコウガ様と何をしているか、教えましょう」
「……」
メイランの顔をじっと見つめるセシル、何を語られるのかと唾を飲む。
「サンビークで、ソルトを奴隷として迎え入れた日の話をしましょうか。
ソルトは奴隷として売られていたのだけれど、ソルトがコウガ様が良い!って駄々をこねて、コウガ様に買って頂く事になったのよ。
そしてソルトを迎え入れてから、まずは服や装備、野宿用道具を買いに行ったわ。
服を選ぶのも楽しかったわよ!私とカエデの2人で、ソルトを着せ替え人形にしてね!
その後、遅めの昼食をレストランに行って、みんなで一緒に食事をしたのよ。
お腹一杯になるまで食べた後、宿に戻ってお互いの詳しい自己紹介や、スキルの確認、そして旅の目的の話をしたわね。
その後は夕方になるまでゆっくり世間話をしたり夕飯の準備したりして交友を深め、最後にはみんなでコウガ様が作った豪華な夕飯……ブラックモウのステーキとスープを頂いたわ!とても美味しかったからまた食べたいわね!
そして、みんなでゆっくり布団に潜ってそのまま就寝……こんな1日だったわ」
凄く楽しそうな顔で、メイランはあの日の出来事を語ってくれた。
チョイスはソルトを迎え入れた日か、セシルに話すには1番良い場面をチョイスしたな、流石メイランだ!
「……」
セシルの反応は思った通りだ、ビックリを通り越しているようで固まっていた。
「……仲が良い、とは思っていたが……これじゃまるで、家族を迎えるかのような……奴隷らしいことなんて1つも……」
「そうだ、俺は奴隷を奴隷扱いしないんだよ、カエデは一緒に居たいと思ったから迎え入れた。そしてメイランはソルトと同様に自分から俺と一緒に行きたいと、奴隷商人にお願いして俺の元にやってきたんだ」
「……」
黙って俺の話を聞いているセシルだが、ずっと固まったままだった、覚悟していた事と違っていたのかもしれないな。
「だからな、訳あって俺と一緒に旅をするにしても、奴隷だろうと奴隷じゃなかろうと関係ないんだよ。カエデはカエデ、メイランはメイラン、ソルトはソルト、そしてセシルはセシルだ。勿論皆が思うような手を出したり、何かを強要したり、命令なんて1度もしたことは無い、よな?メイラン」
「ええ、無いわね。ほんの少しスキンシップがあるくらいね、あまりにも手を出されないから私達全員に魅力がないのかと不安になっていた所よ……もふもふ尻尾以外ね」
メイランは呆れて両手を広げた、何だ?襲って欲しいのか?
まぁメイランは身体を捧げるわって言い出すような子だもんな……
「……もふもふな、尻尾?」
お、そこに反応するんだ……手を出されないって所じゃなくて。
「俺はもふもふした動物が好きなんだ。だからカエデやソルトの尻尾をたまにブラッシングしたりして、手入れしてあげてるんだよ」
「な、なるほど……」
セシルは自分の尻尾に触れる。
そう、その尻尾だよ!めちゃくちゃ気になるんだよな……もふもふしてみたい。
「本当に、奴隷にならなくても……良いのか?」
「ならなくてもいいよ、扱いは全く変わらんしな。まぁ、セシルがどうしても奴隷になりたいのなら話は別だが……」
「……」
セシルは少し考えているようだ、仮に奴隷になるって言われたとして、これ以上奴隷増やしてどうすんだ?って言われそうだが、みんな俺がいいって言って来るんだから仕方ないよね?……よね?
俺としては全員解放したっていいのに、メイランとソルトは断るからなぁ……
「私は、コウガの奴隷になる。
やっぱり、大金を借りる以上お咎めなしは私としても納得は行かない。
例え私に罪はないにしろ、コウガ達からしたら関係ない話……
だからこそコウガ達に恩を返しきるまで、私自身の覚悟として私を受け取って欲しい」
「……良いんだな?」
「あぁ」
俺の顔をしっかりと見て訴えてくる、その顔からも覚悟が伝わってくる。
「……分かった、お金を返した後に奴隷商館に行こうか、この街にあるのか?」
「ないな……コウガ達が知るサンビークか、ここから北西にあるガリスタ国だろうか……」
困ったな、一応サンビークには1日で行ける距離だが……ガリスタはどうだろうか?
「ガリスタは何日で行ける?」
「馬車で1日弱だな、道のりは街道を進むだけだから特に準備も要らない筈だ」
「なるほど、どうしようか……」
出来れば知り合いが居る奴隷商がいい、ガルムさんがサンビークに居るなら間違いなくサンビークに行くのだが……
「あの、コウガさん」
静かに成り行きを見守っていたミツキが口開いた。
「ん?どうしたミツキ」
「サンビークなら、例のアレで飛んで行けますよ?」
「本当か!?」
「はい、たまにサンビークへ野菜や肉を仕入れにいくので」
ミツキが言う例のアレは転移だ。
転移で飛べる範囲は、1度は行ったことのある場所の風景の記憶と座標が必要なんだそうだ。
なので、座標を適当に指定しても行ったことがない場所へは風景の記憶がない為に行けないという仕組みらしい。
「なら、必要ならミツキに協力してもらおうか」
「分かりました、いつでも言ってくださいね」
さすがミツキだ、頼りになる男だよ。
これからもずっと頼る事になりそうだな。
「コウガ……いや、コウガ様の方が良いのか……?ご主人様や主様……旦那様にマスター……うーむ」
俺の呼び方を考えているのか、ブツブツと呪文のように独り言を言っていた。
「……普通にコウガでいいぞ」
「いや、流石にそれは不味いだろう……マスターと呼ぶ事にする」
「そ、そうか……分かった」
呼びたいふうに呼ばせる事にした、少し考えるのも疲れてきた。
全員で応援席に戻ってステージを見ると、グリーンドラゴンのエリスタが丁度戦おうとしていた所だった。
「後2試合で俺達の番だな、1回カエデの様子を見てくるよ」
「私も行くわ」
メイランが付いてくるようだ、あれだけ心配していたからな……
「なら私も行こう、カエデと……ソルトだったか?にも挨拶しないとな」
確かに、これから一緒に行動する事になるのだから早めに言っといた方がいいな。
「分かった、一緒に行こうか」
「コウガさん、そういう事なら万が一早く試合が終わりそうなら、俺が呼びに行きますね」
「そうだな、ミツキ頼むよ」
「はい!」
俺はメイランとセシルを連れてカエデの居る医務室へと向かった。
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