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92話 メイランの涙

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 騎士団に連れられ、ノイシュの冒険者ギルドにやって来た。
 ノシュタールは受付嬢に一室借りても良いかい?と問い掛けて許可を貰ってきた。
 周りに居た受付嬢や受付をした本人も、ノシュタール達は良く知る人物らしく、特に問題なく部屋を借りてきた。

「よし、行こうか」

 大きめの応接室らしい部屋へ移動した。
 ソファーの幅が少し足りなかったが、ティナとレインとツバキ、そしてセシルとミツキは立ったままで良いとの事、そしてシェミィもカエデの膝上に座ってくれたのもあってその他全員は座る事が出来た。

「さて、始めようか」

 全員が騒ぐこと無く、静かにノシュタールの言葉を待つ。

「昨日、こちらに届いた情報と共にこれが送られてきた」

 ノシュタールが机に置いた物、それは縦長い結晶的な物だった。

「……これは?」

 机に置いた物が何なのか、見た事がないアイテムだった。

「コウガさん、これは記憶結晶と呼ばれる物ですよ。コウガさんが分かるように言うならば、ビデオカメラだと思ってください」
「なるほど、これを使えば撮影や録音が出来るって事か」
「そうです」

 ミツキがどんな物なのか説明してくれた、この世界にはこういう物があったんだな。
 お店には置いていたりしていないので、貴重な物なのかもしれない。

「どんな物か分かって貰えた所で、こちらに届いた情報を話そう。情報によると、トカラミア山脈の麓にある村……カナリア村が、ドラゴンの集団に襲われ壊滅したとの報告があった」
「……なっ!」
「……っ」

 メイランとエリスタが各々反応を示した。

「カナリア村に覚えは?」
「……ええ、良く知っているわ。私達ドラゴン族と交流があった人族の村ね……」
「各種ドラゴンとも交流して、人族の物を流通してくれた村の1つだったよね……ドラゴン同士でも、あの村は不可侵だと取り決めて、あの村を私達ドラゴンが護るとしていた所なの……」

 メイランとエリスタがカナリア村の説明をしてくれた。
 トカラミア山脈の奥地で暮らす彼女達は、人族の国に行くのに時間が掛かってしまうし、多くの荷物を持ち帰る事も出来ない、ドラゴンの姿になれば、魔物と間違えられて攻撃を受けてしまう。
 そこでカナリア村に人族の物資を取り寄せ、カナリア村から物を購入して持ち帰る……その代わりにカナリア村はドラゴン族が護る、と取り決めていたらしい。

「なるほど、こちらの聞いていた通りの話だ。間違いはないようだね、ならこれを見てもらおう」

 ノシュタールが情報が合っていた事を確認し、記憶結晶を起動させる。
 すると、起動した記憶結晶の上に、記録されていた動画が映し出される。
 そこには……カナリア村を破壊する、赤いドラゴンの集団が映し出された。

「……っ!」

 映し出された動画を見たカエデは、とあるドラゴンを見て激しく身体を震わせた。
 そのドラゴンの背には、フードを被った男が映っており、そのドラゴンの片目は閉じられていた。
 その男を見たシェミィも、険しい顔をしている。
 そして……メイランも、顔を真っ青にさせていた。

「ご、ご主人様……このドラゴンとフードだよ……私の村を破壊したのも……お父さんとお母さんの命を……奪ったのも!」

 カエデが声を震わせつつも、力強く指をさす。
 そのカエデの声に過剰反応を示したのは……メイランだった。

「あっ……あ……」

 目から大量の涙が溢れ出す、近くに居たエリスタは事情を知っているのか、膝に置いていた手を握り締めて俯いていた。
 メイランは涙をボロボロと流しながら、どうにか振り絞って小さく声を出す。

「おか……さん……」
「お母さん!?」
「「「「っ!?」」」」

 メイランのどうにか振り絞って出した言葉に、その場に居たエリスタ以外のみんなは驚いた。

「め、メイランちゃんの……お母さん……?」

 カエデも、このドラゴンは操られているのでは?とシェミィの過去を覗いて思っていたのだが、まさかメイランのお母さんだとは思っていなかったようだ。
 ドラゴンの見た目は殆ど同じように見えるが、メイランには個人個人の見分けがついているらしい。

「どう……して……」

 メイランは現実を受け入れる事が出来ていないように見える。

「この記憶結晶は村の村長が保管していたらしくてな、襲撃にあった際に起動させて記録を残してくれた、残念ながら生き残りは居なかったみたいだけどね……。これにより、このドラゴンは何処から来たのか、種類はなんなのか、既存であるドラゴン族の人達と繋がりがあるのか、そしてドラゴンに乗っている人物は誰なのか、それを調べる事になったんだ」
「……」

 メイランの手が細かく震えているのを感じた俺は、メイランの手を握りながら落ち着かせる。

「それについて……良いですか」

 小さく手を挙げたのはエリスタだった。

「エリスタ君だったね?いいよ、話して」
「はい、私達グリーンドラゴンは、ブルードラゴンとレッドドラゴンの衝突を遠くから見ていたんです」

 エリスタが語り始めたのは、メイランが奴隷に落とされる時の小競り合いの話だった。

「ふむ……そのブルードラゴンが、急に強くなってレッドドラゴンを制圧した、と」
「はい、そしてその後……私達グリーンドラゴンの索敵部隊である1人が、レッドドラゴンが幽閉されたという牢や、そのフードが居るであろう研究室に忍び込み情報を集めてたのですが……あのフードの男が、人や魔物を操る研究をしていたのを目撃したそうです」
「「「っ!」」」

 俺とカエデ、シェミィが揃って反応する。
 シェミィの件とトレントの件……これで繋がった。

「やっぱり……あのトレントもアイツが操ってたんだな」
「だね、シェミィも操られてたんだよね」
「……ん」
「……何やらあの男には余罪がありそうだね、話してくれるかい?」
「分かりました」

 カエデの村が滅ぼされた事、シェミィの元はストームキャットで、フードの男に魔法で操られていた事、そして異常行動を起こすようになったトレントを討伐した事、メイランが酷い扱いをされて苦しんだ事……
 この話をノシュタールに話し、トレントの実物をノシュタールへ見せる。

「これは……思った以上に大変な事になっているね」

 ノシュタールはその話を聞いて思う所があるのか、険しい顔をしている。

「なぁシェミィ、あの時のシェミィはどんな感覚だったんだ?」
「ん……あの時は、苦しかったよ。私の『人』としての自我は……パパとママ2人と戦ってる時に、ママの魔力を感じて覚醒した、でも……操られた時の感覚は今でも覚えてる、心臓が握られるような感覚……そして脳が書き換えられるような感覚……2度と経験したくない」

 シェミィはカエデの膝の上でクルンと半周回転し、ママであるカエデにぎゅっとする。
 シェミィにとって良い記憶ではないからな……仕方ない。
 カエデはシェミィの頭を撫でて安心させる。
 てか、シェミィの人としての自我はあの時に目覚めていたのか、知性が高いなとは思っていたが……そうだったんだな。

「なるほどね、情報提供ありがとう。エリスタ君、1つ聞きたいのだが、君たちの一族は大丈夫だったのかい?」
「いえ、私達も襲撃を受けました。しかしながら、事前に情報は仕入れていたので、散り散りにはなりましたが私と同じように各自逃げ切れたと思います」
「なるほどね」

 ノシュタールは今まで聞いた話を整理しているのか、少し黙り込む。
 その間に、エリスタはまだ話しきれていない内容を語り始めた。

「メイランちゃんが奴隷として売られる前後なんですけど、ドラゴンとして覚醒を果たしてる人は、操る魔法の実験台にされ……恐らく魔法は完成したのでしょう、あのレッドドラゴンの大群は……全てメイランの一族で間違いないです。あの記録を見る限り……フードの男が直接操るドラゴンがメイランのお母さんです、レッドドラゴンの中で村長に次ぐ2番手の強さでしたから」
「……」

 メイランはまだ震えたままで、涙もまだ止まらないようだ。 
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