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一章 邂逅編
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「何を……」
そう言って書類を見た篤の動きが止まる。
「先ほど町中高嗣氏にお会いして、彼女の保護の為の婚約について了解をとりつけてきました。そちらがその書類ですのでご確認下さい」
いきなり父の名前が出る。
お会いして? 先ほど? 誰が、誰とお会いしたって?
篤だけじゃなく、私もポカンとして一賀課長を見る。
「円乗寺会長には一連の出来事の説明と守護から外れた件についても説明させていただきました。それがこちらの書類です」
円乗寺会長とは、何度か会った事のある篤の養父だ。
円乗寺家の総帥という割にはのほほんとしたおじさんで、ちょっとゆるキャラっぽいと思っているのは内緒だ。
けれど、滅多に会えないレアキャラなのに説明したって? いつ会ったの? どうやって会ったの? うちの父は一般人だからともかく、会長さんはちょっとやそっとじゃ会えない人ですよね?
どうやら今日の午前中に、その二人に会いに行って説明してわざわざ書類まで作ってきたらしい。間違いなくそれは篤を黙らせる為だけにだろう。
それにしても初めて会ったのによく篤の性格を理解している。
ーーーああ、そうか、私のデータ収集した時に調べて知っていたのかもしれない。
そうやって納得しているのは私だけで、篤は眉間に皺を物凄く寄せていた。
父だけじゃなくて会長さんの方にも先に話が行ってしまっていたら、篤の意見ひとつでどうにかするのは難しいだろう。
私は仕事のように淡々と話を進める一賀課長を見た。
話を進めるというより、勝手に詰められているような気がする……覚えがあるこのやり方。なぜかイエスしか選択肢が残されないんですよね……。
「それに円乗寺さん、術者が一般人を守護するのは協会の規約に反します。要人やその配偶者と後継者の方以外の守護は出来ません。先ほど別の方に保護させるような事をおっしゃいましたが、私のような強行手段をとらない限りは正しく契約が行われないでしょうし、それは逆に彼女を危うくするのではありませんか?」
それを聞いて、篤はぐっとつまる。
私は知らなかったけどどうやらそういうシステムらしい。
「なら今まで通り、守護の延長でもいい。あなたの元に置くよりはーーー」
その言葉を聞いて、一賀課長の口の端が少し上がったのを見た。
その言葉を待っていた、というように。
「ーーー貴方は妹さんが守護されて守られていればいいのですか?」
一賀課長が爽やかに笑う。仕事の時と同じ作りものに見えない、でも作りものの営業スマイル。
「どういう意味だ?」
「やり返したい、と思いませんか」
「……やり返す?」
爽やかなビジュアルと耳から入ってくる言葉が合致しない。この人、今なに言った?
篤は目を眇めて一賀課長の真意を探っている。
「無力な一般女性を卑劣にも狙う人間と、それを依頼する人間がいるんですよ。そんな人間、貴方は放っておいて平気ですか? 守護では反撃はできないでしょう? 契約外だから。
……私が調べた限りでは、貴方は穏便に済ます方ではないようですから、彼女が守護されている方がむしろ動きづらいのでは?」
確かに、篤は反撃する事を躊躇しない人間だ。
養子というだけで今まで色々言ってきた人もいるだろうし、実際パーティーでも篤に嫌味を言う人はいる。そういった類の人は小物だからと適当にあしらうけれど、篤の事で私に絡んでくるような人は二度とパーティーで見る事はなかった。
私は頻繁にパーティーに出てるわけではないから見ないのはたまたまかもしれないけど、取り巻きの子たちにそれとなく聞いたら、ほほほ~何のことでしょう~とにこやかながらも青い顔をしたので、たぶん……いや間違いなく、何かしたのはわかった。
彼女たちは何かを直接見たわけではなく、おそらく女性ならではの情報網で知って理解した感じなのだろう。
ちなみに私は篤のせいでパーティー仲間などいない、いわゆるぼっちなので、そういった情報網とは縁がない。なので嫌われてる取り巻きにそういったことを聞くしかないのだけど、そのときの気まずさといったらない。
「何を言うかと思えば。逆に聞きますが、穏便に済ます必要がありますか?」
篤の王子様顔に似合わない真っ黒い返答。
一賀課長はその返答に満足したように微笑みながら、一段と低い声で言う。
「芹沢家で婚約者として保護をすれば、彼女に向かう悪意はすべて私への悪意と同じ。倍にして……いえ、彼らにはそれ以上の報復をして差し上げます。
貴方にとっては悪くはない話だと思いませんか?」
悪魔がそう言って笑った。
そう言って書類を見た篤の動きが止まる。
「先ほど町中高嗣氏にお会いして、彼女の保護の為の婚約について了解をとりつけてきました。そちらがその書類ですのでご確認下さい」
いきなり父の名前が出る。
お会いして? 先ほど? 誰が、誰とお会いしたって?
篤だけじゃなく、私もポカンとして一賀課長を見る。
「円乗寺会長には一連の出来事の説明と守護から外れた件についても説明させていただきました。それがこちらの書類です」
円乗寺会長とは、何度か会った事のある篤の養父だ。
円乗寺家の総帥という割にはのほほんとしたおじさんで、ちょっとゆるキャラっぽいと思っているのは内緒だ。
けれど、滅多に会えないレアキャラなのに説明したって? いつ会ったの? どうやって会ったの? うちの父は一般人だからともかく、会長さんはちょっとやそっとじゃ会えない人ですよね?
どうやら今日の午前中に、その二人に会いに行って説明してわざわざ書類まで作ってきたらしい。間違いなくそれは篤を黙らせる為だけにだろう。
それにしても初めて会ったのによく篤の性格を理解している。
ーーーああ、そうか、私のデータ収集した時に調べて知っていたのかもしれない。
そうやって納得しているのは私だけで、篤は眉間に皺を物凄く寄せていた。
父だけじゃなくて会長さんの方にも先に話が行ってしまっていたら、篤の意見ひとつでどうにかするのは難しいだろう。
私は仕事のように淡々と話を進める一賀課長を見た。
話を進めるというより、勝手に詰められているような気がする……覚えがあるこのやり方。なぜかイエスしか選択肢が残されないんですよね……。
「それに円乗寺さん、術者が一般人を守護するのは協会の規約に反します。要人やその配偶者と後継者の方以外の守護は出来ません。先ほど別の方に保護させるような事をおっしゃいましたが、私のような強行手段をとらない限りは正しく契約が行われないでしょうし、それは逆に彼女を危うくするのではありませんか?」
それを聞いて、篤はぐっとつまる。
私は知らなかったけどどうやらそういうシステムらしい。
「なら今まで通り、守護の延長でもいい。あなたの元に置くよりはーーー」
その言葉を聞いて、一賀課長の口の端が少し上がったのを見た。
その言葉を待っていた、というように。
「ーーー貴方は妹さんが守護されて守られていればいいのですか?」
一賀課長が爽やかに笑う。仕事の時と同じ作りものに見えない、でも作りものの営業スマイル。
「どういう意味だ?」
「やり返したい、と思いませんか」
「……やり返す?」
爽やかなビジュアルと耳から入ってくる言葉が合致しない。この人、今なに言った?
篤は目を眇めて一賀課長の真意を探っている。
「無力な一般女性を卑劣にも狙う人間と、それを依頼する人間がいるんですよ。そんな人間、貴方は放っておいて平気ですか? 守護では反撃はできないでしょう? 契約外だから。
……私が調べた限りでは、貴方は穏便に済ます方ではないようですから、彼女が守護されている方がむしろ動きづらいのでは?」
確かに、篤は反撃する事を躊躇しない人間だ。
養子というだけで今まで色々言ってきた人もいるだろうし、実際パーティーでも篤に嫌味を言う人はいる。そういった類の人は小物だからと適当にあしらうけれど、篤の事で私に絡んでくるような人は二度とパーティーで見る事はなかった。
私は頻繁にパーティーに出てるわけではないから見ないのはたまたまかもしれないけど、取り巻きの子たちにそれとなく聞いたら、ほほほ~何のことでしょう~とにこやかながらも青い顔をしたので、たぶん……いや間違いなく、何かしたのはわかった。
彼女たちは何かを直接見たわけではなく、おそらく女性ならではの情報網で知って理解した感じなのだろう。
ちなみに私は篤のせいでパーティー仲間などいない、いわゆるぼっちなので、そういった情報網とは縁がない。なので嫌われてる取り巻きにそういったことを聞くしかないのだけど、そのときの気まずさといったらない。
「何を言うかと思えば。逆に聞きますが、穏便に済ます必要がありますか?」
篤の王子様顔に似合わない真っ黒い返答。
一賀課長はその返答に満足したように微笑みながら、一段と低い声で言う。
「芹沢家で婚約者として保護をすれば、彼女に向かう悪意はすべて私への悪意と同じ。倍にして……いえ、彼らにはそれ以上の報復をして差し上げます。
貴方にとっては悪くはない話だと思いませんか?」
悪魔がそう言って笑った。
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