こがねこう

綿入しずる

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十四歩 休らう(後)*

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 触れ合い幾度と口づけるうちに意識と共に体も熱くなり浴槽から座に上がったが、熱は散るどころか増していくようだった。
 座った上へと招き、先と同じような体勢で落ち着いて着衣を解く。今日はたった一枚、腰元の結び目を解いて開くだけでいい。それでしなやかな体躯が晒される。本当に何も隠されず、暗くもなく、仄かな陰を作る鎖骨の形や小さく色づく胸の先、細く締まった手足も、濡れて火照った肌の肌理までもがよく見えた。股を薄く覆ったその毛も金だ。
 裸になり、濡れそぼってなお輝く尾の水気を掌で払い――少し不安そうな顔をして窺うのにはたとする。
「すまない、見惚れた」
「……ん、まあ……存分に見てくださっていいですけど、見るだけはいやです」
 恥じらった小声で言って、こちらの着物の結び目は彼が解く。彼も少し眺めるかの間があり、それからもう一度胸に手を置いた。顔を寄せ唇が重ねられ、緩く舐めてくる舌先を齧ると小さく震える。
 より愛撫らしく擽るように指先が触れていくのを感じながら俺も腰骨を探り、足の付け根を辿って柔い毛を掻き分け下がったものを握る。既に芯を持っているそれを揉むと熱い息が零れる。接吻が小さな喘ぎに変わった。
 手が下りていき――少し迷った素振りで手を重ねて導かれる。陽物の膨らみを越して、足の間へ。指先に尾の毛並みが掠めた。
 顔を窺う。熱に潤んだ双眸がじっとこちらを見据えている。
「……こっちも、できますよ。今日は来てくださるかもと思って……それで最後に湯を浴びようとしてたんですけど、貴方がちょっと早かったな」
 こっちと言われるのは尻のほうで――彼はどうも此処に来る前からその気だったらしい。抱かれる準備をしていたと、そう言う。
 煽るのも程々にしてほしい。ただでも興奮しているのに、抑えが利かなくなるとまずい。
「挿れたいのか」
 以前触れたそこは、受け入れられる様子ではなかった。怯えていたし無理に使うこともないと諭したが、求められるなら少し違ってくる。彼の欲を軽んじたくはない。
「……体を繋げて気を交わすのは最上のものだと言うでしょう。貴方としてみたいんです。教えてくれませんか」
 ……確かに世間ではそう言う。欲を発散して気の巡りをよくするにも、体を捧げあって仲を深めるにも交合は一番よい、健康と円満の為には欠かせぬと。だから特に男児は方法作法も教えられるし、夫婦の初夜などは吉日にして体の調子を整えよりよく繋がろうとするものだ。
「じゃあ指だけ、試してみるか」
 ねだる声には理性をぐらぐらと揺さぶられる。このまま迷っていてはまた熱心に何か言い募ってきそうな様子だったので、余裕を損なう前にとりあえず頷いてそこまで譲った。指でもつらいようなら止めればいい。やってみれば具合も知れて、その先には諦めがつくだろう。
 ススキも無理に食い下がりはしなかった。こくりと頷き引き寄せられた手拭いの中に隠されていた房薬はこの前の市で買っていた物に違いない。使ったのか、これが初めてか――そこまで聞けはしないが。湿気るのも構わず取り出されて掌に乗った。乾いた感触が主張する。
 その糊に水気を含ませ溶かす間に、尾の先を彼自身の手が掴んで前へと引き寄せる。……どうも先日の反省をして邪魔せず尻を晒す為らしいが――仕草と言いその意図と言い、いけなかった。不安な子が服を握りしめるような雰囲気がいじらしくて可愛い。どうしていたらよいかと窺うその顔もいけない。余裕がなくなる。望んだのは彼の側だし、濡れた体や目を伏せる表情には色気もあるのにそういうところが初心でたどたどしい。
「っ……」
「触るぞ」
「はい――」
 抱き寄せて肩口から覗き込んだ。金色の豊かな尾が、背骨から一続きにすうと伸びている様がはっきりと見え――見てはいけないものを見ていると思うが、今更怖じることはなかった。愛おしく触れたい気持ちと欲求のほうが断然強い。
 房薬を指に絡め、小さく締まった尻を割る。柔い皮膚を揉んで押し広げる。待って身構えているのが分かった。あまり長引かせると悪いし震える尾がまた触れそうだった。
「俺に乗って構わん。任せていろ」
 囁き空いた手で背を叩けば縋ってきて、体温と重みが増す。しっかりと受け止め、改めてぬめりを掬った小指を押し込む。ひくつき開いて受け入れる努力をしているのも感じながら、抵抗を縫ってつぷりと進めれば温泉の効能もあってか中はより熱い。
「ぁ――」
 雨音に消えそうなか細い声。糊で滑りはいいがやはり指だけでもきつい。こうしたことに慣れてはいないだろう手応えだ。興奮は押し殺し、傷つけぬようにと殊更慎重に動いた。
 体温を移し合って、徐々に呼吸も重なっていく。こんなところも別に小さくは出来ていない俺の指を呑み込む体を褒めて、肩に口づける。中が動くのを指一つでもまざまざと感じる。
 他に薬など用いずともこれくらいは行けたようだ。潤んだ内側は次第に蕩けて馴染んできた。腹の中を探って――びくと体が跳ねる。小突いてやるとまた。
「ぁん、う」
 抑えきれない色めいた声が漏れて腹に硬い物が当たっている。
 そうやって尻を擦ってやるほどに陰茎も押しつけ擦りつけられた。大分解れてきて彼の反応もよいので、動きを大きくすると房薬が濡れた音を立てる。
 艶めかしく腰が揺れる。腹に擦りつけられる陰茎は張りつめて濡れ始め、耳元の息も乱れて今にもと思えたが。
「……いけないか?」
 よさそうにはしているが、やはり慣れぬ刺激を受けて達するのは難しいだろうか。窺って愛撫を緩めると首が振られる。
「っ……だ」
 喘ぐ声に混じる催促。縋る手が浅く肌を掻いた。
「……まだ……い、もっと――」
 応じてぐと指先を押しつけると身が跳ねた。もう一度、二度、小刻みに叩いて促す。
「っあ、あ……あっ――!」
 腹に挟んだ物が爆ぜて熱いものが溢れた。中がうねって締めつける。思わず喉を鳴らしてしまったのは彼に聞かれただろうか。この中に挿れて欲を注いでしまいたいと考えるのを抑え込み、きつく抱き締めた。
 やや置いて指を引き抜くとくたりと力が抜けて凭れてくる。首筋を甘噛みして吸いついてくる小さい口が、さらに少し経って何か呟いた。
「……もっとしてほしいのに……」
「ん?」
「……もっと沢山触ってほしかったのに、……貴方に触られると全然我慢できない……」
 聞き返すと明瞭な言葉になる。――もっととは、強くとか激しくとかではなく、沢山。快楽を追っていたのではなく逆に、堪えていたと。快感ではなく俺の指を求めていたのだと。駄目だ、頭が大分茹だってきた。
「……気持ちよかったか?」
「ん――気持ちよかった、嫌じゃないです。……もっと広げてみていいんですよ。貴方のが入るくらい」
「うーん……」
 熱っぽい顔を上げて、どこか気怠く緩い声でまた煽る。たしかに今ので俺の物もがちがちになっているし欲はあるが――鈍る思考の中で曖昧に濁した。指一本入ったところで比べ物にならない。無理だ。こればかりは流されるわけにはいかない。
 抱えた身をひっくり返して、湯浴み着を下敷きに横たえて覆いかぶさる。それだけで息を詰め窮したように体が緊張するのに、これを手籠めにはできない。できないが、したい。
 体を繋げてみたいと思う。欲と同時に、確かにそういう気持ちがある。同じ気持ちなのだろうが。
「ススキ」
 噛むように口づけた。息を奪い乱れていく様を楽しむ。抱き寄せられるままに深く口を食い、硬く反り返った物を足の間の柔い肉へと擦りつけた。また強張ったが逃げないでいる健気な体に、ここに押し入って繋がることができたらきっと満ち足りて心地いいだろうと想像しながら、先の彼のように腰を振って俺もススキの肌を汚した。
 少しは落ち着いた心地で起き上がると、一度果てたはずの陽物が再び兆して上向いてるのが見えた。白いものが滲むのはさっきの残滓だろうが。
「また勃ってる」
「……だってこんなの興奮しますよ。好きな、人が目の前で」
「まだ触っていられそうだな。よかった」
 赤い顔のススキは決まり悪そうに言うが、一度で終わる決まりはない。今日はまだ、急がずともいいだろう。もっとと求められて悪い気がする男はいない。
 緩く、勿体つけて扱いてやる。薄い腹がひくと動いた。精液を広げて鈴口を捏ねる。
「んっ……――あお、っアオギリ、」
 包み込むほどの弱さで柔く、要望どおりに焦らして胸を吸う。彼はここもよく感じるようだから、硬くなったその先を舌や歯で弄んだ。悶えて俺の頭を掴んできても止めずにいれば身が撓って、泣き声に近く上擦った声が甘い。少しくらい声が大きくなったところで雨音が隠してくれるだろう。丁度雨脚が強まったかも知れない。
 やがてぐと腿を押しつけられ、彼のことを揶揄できぬほどすぐ勃ち上がった自身の体に気づく。顔を上げると請うように見つめる視線と交わる。どちらともなく唇を重ねて体を寄せなおした。硬くなった陰茎を押しつけ合い、扱いて、夢中で動いた。湯からは上がっていたのに興奮しすぎて少し眩んだ。
 昂りが治まるまで休んで、汗と体液を流すのにもじっくりと肌に触れ、豊富な湯を惜しまず使って冷めた体を温めた。抱え上げると一瞬驚いた後に抱き着きしがみついてくる。
「――んふ、ふふ、ほんと、私なんて軽々ですね。子供みたいな気分です」
 愉快そうに笑う声が耳元でして、それから身を離される。珍しく見下ろす位置で彼は柔く笑んだ。
「大丈夫、自分で動けます。乾かさないと……」
 脱衣所に入ればすぐに岩偶が寄ってくる。下ろしたススキは慣れた様子で差し出された布を受け取り体を包んで、水を飲んで一息吐いてから意を決したように言った。
「待っててください、すぐ乾かしますから」
「いや俺も拭くからな、急がんでいい」
 湯浴み着や手拭いを絞って、俺は自分で行李から布を取り出した。
 横目に見ると、上から拭き始める彼の背後で岩偶がせっせと動き尾を包んで揉んでいる。水気をとっているんだろう。あの立派な毛並みでは乾かすのは大変そうだ。
 短い髪や、体のほうはすぐに拭き終わった。それから尾のほうを自分でも、岩偶と手分けして揉み始め……成程、長髪の俺が済ませて服を身に着けてももう少しかかりそうだ。
「大変そうだな」
 とりあえず腰掛けて水を飲みつつ、間を埋めるために呟くと大層実感の籠もった頷きがされた。
「ええ本当に。尾だけでも面倒なのに髪なんて伸ばしてられません」
 豊穣や富を齎す瑞祥の尾の話をしているというのに、何たる言い草。あまりにも現実的な言葉に笑ってしまった。金色の尾も髪も神秘のものだと思ったが、実際そこにあるのだからそうだろう。煙髯エゼンの髯より確かだ。
 しかし暫し経ってよく揉まれた尾が、美しい稲田や麦畑の色で艶を持ちふかふかとするのを見ると感嘆の息が漏れた。尾の根、継ぎ目なく腰に繋がったそこの肌のところも淡く刷いたように金に光るのを知った。行脚でよく歩く分か、見事に引き締まった足も白くなめらかな背も本当に美しい……
 眺めていると不意に、彼の動きが慌ただしくなる。肌を隠そうと焦って物を身に着け始めた。体を重ねた後とはいえ無遠慮な視線だったと反省しながらもまた笑ってしまった。
「さっきは好きに見ていいと言ったのに」
「見すぎです!」
「はは、悪い悪い。どこを見てもあまりにも綺麗だからつい、な」
「――あんまり見ると将軍ももう一度脱がしますよ」
 熱が引いて恥じらいが強くなったようだ。言い訳するとそんな妙な脅しをかけてくる。肩を竦めて応じた。
「俺は慣れている。軍人など、皆人前で脱ぎ着するんだ」
 ススキは服を着てから尾の毛並みを梳り整えた。それも最後は裾の下に隠してしまう。なんと勿体ない、とも、そうしていなければ居れまいとも思う。あまりにも美しいから、何か悪心を抱いたり魅入られたりする者が出そうだ。
「……見回りが来る前にお茶でも貰いに行きましょうか」
 綺麗なものを眺めていたのでまったく待たされた気はしなかった。ぼんやり考える間に身繕いは全て済んだらしい。呟きに頷いて、立ち上がる。
「ああ。――いい湯だったな」
「――ええ、本当に」
 窺って目を合わせれば、ススキは瞬き小さく綻ぶように微笑んだ。満ち足りた気分で行李を抱えてまずは二階へと歩き出す。
 ――それからようやく、昨日の食事は凄かった、朝餉まであんなに贅沢な物が出るとは、と他愛のない話が始まった。例の蕃茄は少し青い味がしたが、瓜のほうはなかなか甘くて嬉しかった、卵は昔食べたのとは違ったがあれはとても美味しかった、広間の燭台は立派すぎて近くだと少し熱いと、役人の前ではなかなかできなかった本音の話を小声でする。揉み師の男がいい腕だからやってもらうといいとか、実は今日は絵を見に来いと誘うつもりだったとも教えて、行李を置くついでにお互いの部屋を覗き見た。やはり同じくらいに広く豪華な部屋で、彼の部屋にも掛け絵があり、そちらは鷲ではなく燕の舞う様が描かれていた。恐らくは武人の引率とたおやかな金の尾とそれぞれの雰囲気に合わせたものだろうと考察する。
 降りて適当な人に声をかけ、金の尾とはたまたま行き会った風を装い茶を求めればまた瓜など切って出してくれる。同じように飲み食いしに来た、休日を満喫する同輩たちと卓を囲み――俺もススキも何食わぬ顔をして、皆とのいつもの流れに戻っていった。
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