こがねこう

綿入しずる

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 冬の庭は好きだ。特に朝、霜が降りているのや氷が張っているのを確かめ、時に子供のように触れたり踏んでみたりするのは。此処は母屋のほうとは違い広くもないし庭師の手は最低限だが、昔からよく遊んでいた親しい庭で、誰も通らないから気兼ねしない。
 寒いが、それもまた。己の身が熱いのを感じられてよい。鼻や喉、肺腑が呼吸する度に冷える代わりに息が白く昇る。今日は風も無く穏やかだ。
 寒い日だというのに窓の開く音がする。見上げれば一瞬、寒さに怯んだ顔が見えて白い息が弾む。すぐ、目が合った。
「――アオギリ。おはようございます。やっぱり外に居た」
 寝起きでも綺麗に響く、澄んだ空気の朝にも似合いの声音。窓はごく細くだけ開けて、緩い寝巻の襟元を両手で引き上げながらススキは笑った。見るからに寒そうに肩を竦める。
「おはよう。なんだ、折角起こさぬよう上手く抜け出したのに」
 今日は俺のほうが早く目が覚めた。本当は少しこうして、彼が起きる時間を見計らい朝餉など用意するつもりだった。……用意と言っても、昨日食べたがっていた物を出てくる厨番に伝えに行くだけだが。菜漬けの入った春告粥が好物のひとつだとは昨夜にまた新しく知ったことだ。今日は他も出払っているのでこの離れで、二人で食べるつもりだった。
「私もそっちに行っていいですか」
 正直おすすめはできないくらいには寒い、のはもう分かっているだろう。それでも来たいなら止めはしない。
「着込んでこい。寒いぞ」
「はあい」
 朝から上機嫌の返事をして、しっかりと窓が閉ざされる。シチを連れてすぐ来るだろう。誰か見つけて、戻った後に飲む熱い湯か茶の支度も頼んでから。彼はそういうのに抜かりがない。
 冷えるのもその後体を温めるのも、二人ならば色々楽しくよいものだ。
 儀礼などでなくとも美しく歩む伴侶が踏む場所を残しておかねばと考えながら、霜の吹いた足元を見ると自然、口は笑みの形になった。
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