ウェーレイキオルは微笑んでいる

綿入しずる

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十三 天使の服*

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 使用人の手が最後に首元のタイを締める。苦しいところはございませんか、と日頃の職務と同じ調子で彼らが訊ねるのに、ウェーレイキオルは短く答えた。
 代わりのように、エドアルドはほうと息を吐いた。
「……分かってはいたが」
 エドアルドの衣裳部屋、大きな姿見の前。着替えたのは主ではなく天使だ。襟や裾に星模様の刺繍の入った淡い灰茶色の長衣コートは、すらりと細い長身を引き立てる、彼の体に沿った特注品だった。クラウス家に代々衣装を作る職人たちがリベルヨルンの物とも同じに手がけたものだ。
 翼を仕舞って、着替えてしまうと尚更天使に見えなくなる。それだけが惜しかったが、それでも、自分の衣服よりあれこれと注文つけた服は似合っていたし、すこぶる、よかった。菓子に続き、自分も天使に綺麗な服を贈ってやるのだという夢の一つが果たされて、エドアルドは感極まった。ぐっと気難しげな顔して、促されてその場で回って背面まで見せるのを見届ける。全然やりなれていない一回転が愛らしかった。
 天使の服なので背は開いている。それが黒髪の下にちらりと覗いて、エドアルドはごく小さな動きで唇を引き結んだ。
 すぐ、正面に向き直るウェーレイキオルと目が合うのでさらに顔面を引き締めて、彼は訊ねた。
「気に入ったか」
「はい。何やら落ち着きませんが、嬉しゅうございます」
「それは何より」
 ウェーレイキオルはいつも笑っているのでこういうとき感情が分かりづらい――と見せかけて何と言うことはなく、彼は本当にずっと嬉しいのであった。服を貰えたのも、言葉どおりに嬉しい。着心地も、鏡で見る自分の姿もどこか浮つくが、とてもとても嬉しかった。エドアルドが嬉しそうなのも嬉しい。これで案外はしゃいでいた。
「……次は好きな色で仕立ててやろう。何色が好きだ」
「赤です」
 思ったより早く、明瞭に返事がある。色もどことなく意外に思っていると、すぐ付け足しがあった。
「エドアルド様の色です」
 エドアルドを見つめて――目を見るより少しずれた視線が何を見ているかは、明白である。名家の者らしく綺麗に編んで纏められた赤毛は彼の代名詞とも言えた。
 エドアルドは呆れて笑った。
「……俺のことばかりだな、お前は」
「天使は皆そうかと思います」
 ウェーレイキオルは言いきる。それはそうかもしれない。リベルヨルンも、こうもはっきりとは言わないが、オリヴァーを意識して物を選ぶことがあった。好きな果物は影響を受けてオレンジ。好きな色は、オリヴァーに似合うと言われたから空色。エドアルドは色々聞いたこともあるが、それは大変穏やかに語られるもので、今のウェーレイキオルのような押しの強さは無かったと思うが――昔、自分が知るより前にはもっと主張していたこともあったのかもしれないとも思う。
 天使は皆、主を慕っているのだ。
 ――そうだ、言ってない。
「まあ、ともかく、似合っている」
「ありがとうございます」
 素気ない一言でも告げればにこやかに明るい笑みが返った。じっ、と袖や裾を眺めて上機嫌でいる。そんな彼らの様子に、服を作り、着せた人々も安堵して笑みが零れた。
 赤はあまり似合わないと思われたが、そういうのは作る側、詳しい者がなんとでもしてくれるだろうとエドアルドは思った。着たばかりでもう次のことを考えている、と自嘲もするが、何せ十年分は与えたいのだ、一着二着ではとても足りない。――そしてまずは、急ぎのものもあった。
「婚儀の白服も準備が進んでおります」
「髪飾りも何点か見繕いました。お選びになりますか?」
「……いや、任せた」
 エドアルドとソフィアは、十日後に急ぎ婚儀を執り行うこととなった。ソフィアの大胆な行動は結果的に功を奏した。既に純潔を捧げて、子供ができている――かも知れないとなれば、ビヒ家ももう後には引けなかったのだ。長年の婚約は履行され、二人は夫婦になる。
 普通であれば、六氏族のような家の婚儀はかなりの準備をして臨むものであるが――エドアルドのスヴィエー砦行きの都合、何より迅速に戦力を整えるべしと国内外が動く今、そんな悠長なことは言っていられない。しかし、その辺りは未だ世間には秘匿されていることではあるが――エドアルドの事情、十年の歳月はここに来てよく作用した。訝しみ、他に急ぐ理由があるなど考える者は誰も居なかった。クラウス家成婚の噂が流れれば、それは早く結婚したいに決まっているなと人々は頷きあった。
 急ぐともある程度は張るべき見栄があった。相応に着飾って、宴も催す。後継者の結婚式としては質素に招待客も絞られたが、それでも相当の規模にはなる。エドアルド当人も、使用人も、家中大忙しだ。
 それで、常に主の隣に居続ける天使も着飾るべきだろうと様々な話し合いの合間を縫ってこのように試着をしているわけだった。エドアルドは勿論、他の装飾品も選んでやりたいくらいだったが、そんな欲を出していてはきりがない。未練を断ち切るようにはっきり言った。
 降臨した日に言いつけて作らせたこの初めての衣装も。周りにも見せびらかしたかったが、ウェーレイキオルの服はまだこれしか無いので、冷静に、汚さないように仕舞っておこうということになった。着せたのと逆の順序で脱がされて常のように純白の胞衣えなを纏うのを見ると、もう見慣れていて落ち着く。祭礼で定番の白服も似合うことだろうと思えば、エドアルドの機嫌は上向いたままだった。

 夜に参謀ツァハリーアスと会う約束があるエドアルドは、一度仮眠をとるべく私室に戻った。
 しかし寝ようにも忙しすぎて気が立っていた。寝台に腰掛け、脇でウェーレイキオルが薬草茶を注ぐのを眺める。その香りも今日は、落ち着くには足りない。
 室内は明るく、よく見えた。
 エドアルドは欲したままに手を伸ばした。
 一切の癖のない黒髪を指に流す。翼を広げる為に背が開いた着衣が見え、露わになる背は美しい。顔が上がる。構わず、つ、と指先で触れてみるとびくりと大袈裟なほどに体は動いた。
 衝動に従い、エドアルドは口づける。骨が押し上げる皮膚に唇で触れる。撓る。既に茶器を置いていたのは幸いだった。身を竦めて動転したウェーレイキオルはそれでも、一切逃げはしない。
 エドアルドはまた、指でも無垢な背を撫で上げた。驚くほど手触りがなめらかだった。翼の在り処を、辿る。そして服へと指先を引っかける。
 ――どこから脱がせるんだ。
 それは先程着た長衣より、淑女のドレスよりずっと簡素だったが、紐もボタンも無しに体に沿っていて難題と見えた。継ぎ目の一つも無く衣服が再現されている。しかし肌との隙間をエドアルドが指で探ってみる間に、不意に、白衣はそこから解けた。
 エドアルドの望みに沿って、解けて消えていく。裸体が露わになる。許された証のようで、エドアルドは酷く興奮した。
 滑らかな白い肌はしみ一つなく、肉は無駄なくすらりと手足が長く、胸も腹も薄く腰が細い。性別の分かりづらい姿態だが、ただ股に控えめに一揃いあるのが確かに男の体だった。
 ――美しい。
 着替えたときにも思ったことだが、容姿は他の天使に劣ると思われたウェーレイキオルも、体は違わず一級品と見えた。見慣れた同胞の戦士たちの体とはまったく違う中性的な裸身に、エドアルドは束の間見惚れた。
 これが自分のものなのだ。翼に触れたときのように、どこに、どのように触れても許される――
「ウェーレイキオル……」
 そっと手を這わせるだけで、色が滲む。エドアルドに触れられることの歓喜が、表情どころか体から発せられる。触れるほど強張るのは怯えではなく、ひとえに、呼び起こされる強い快感の為だった。
 寝台へと抱き寄せ、また背に口づけを落とし、エドアルドは夢中で肌を味わった。舌で辿り、甘く噛むだけでウェーレイキオルは身悶えた。俯き震える体を捉えて、ちゅ、ちゅと啄めば震えは一際に大きくなる。
「っぁ、は……あ、ぁ」
 堪えられず上がる声は微か。ウェーレイキオルは背後の主の気配を窺いながら、混乱した。
 ――うれしい、おかしい、うれしい、うれしい。
 ――どうしたらいいのでしょう。体が言うことをききません。これではいけない、エドアルド様の為……為に……
 しかし愛撫にどう反応するのが正解かまでは、彼の知識にはなかった。余裕もまったくなかった。エドアルドは遠慮なく没頭するものだから刺激はひっきりなしで、そのいちいちがウェーレイキオルを追い詰めた。寝台に腰掛けたところから身を崩さぬように保つのが精々だった。
 エドアルドの手が体をまさぐり、薄い腹を撫でてそこを握る。最早、硬く兆して濡れていた。
「っう、」
 ウェーレイキオルはまた窮した。その現象も、人の身の構造として理解はしていても、己が身に起きると理解がついていかなかった。以前、美味と喜びが判らなかったように、快楽と喜びの区別もまだついていない。喜びが快楽に直結してもいた。エドアルドが触れると途轍もなく嬉しくて、気持ちがよい。
 溢れたものは足の間に垂れてシーツを濡らすほどだった。人と同じように――それ以上に、エドアルドが欲を持って触れるだけでもう達さんばかりに感じている。体は熱を持ち汗ばんで、息が弾む。
「――これだけで?」
 エドアルドは擦れた声で呟いた。ウェーレイキオルは委縮する。
「もうしわけ、ございません」
「何を謝る」
「私がこうなっても仕方がありません。エドアルド様にお仕えしておりますのに」
「俺は喜んでいる」
 ウェーレイキオルは呻くが、エドアルドは自分が少し触れるだけで感じる生き物が愛しくて愛しくて仕方がなかった。二人きりの今、取り繕う体裁も無く喜びを率直に伝え、また背に口づけて陰茎の根を探り滴るものを掬い上げる。
「だが今からこうでは、これからどうなるか」
 ぬめりを指に纏わせて、奥へ。こんなことに耽っている暇はないとも思うのに、もう引き戻せはしない。
 皮膚の厚く硬い指先がそこを探るのは、確かに痛みも生んだが、ウェーレイキオルにはそれさえよかった。エドアルドの与えるものすべては歓喜に結びつく。受け入れなければと体を制して身の内に入る意識をすると、その事実にまた気が昂る。
「あ」
 指の形を締めつけ感じるほどによかった。
 エドアルドの指は性急だった。もう、ソフィアを抱いたときのような紳士的な振る舞いはできなかった。暴いて深く、拡げる。天使の体は排泄や生殖をしない。人を真似て作った肉の茎や穴はただこうして主と睦むときのみ使われる純粋な性器である。エドアルドの指が動くほど具合がよいように濡れて、僅かにだけ緩んだ。
 外側より熱い体温が触れるのにエドアルドの熱も上がった。愛おしく間近の肩に口づけて、流れる黒髪に頬擦りする。
 エドアルドがいっとき手を引き身を離すと、ウェーレイキオルは傾がる体を留めた。どうしたらよいものかまったく考えつかないほどに頭が働かなかった。ただ懸命に堪えて待った。エドアルドは褒めも叱りもしない。――彼にも、そんな余裕はなかった。邪魔臭い上着を脱ぎ捨て、一切触れずとも反り返ったものを取り出して、擦りつける。小さな尻は納まるか心配なほどだったが、それがまた興奮を齎した。目が青いほどに昂っている。
 指とは違うその熱の意味に、ウェーレイキオルの高揚も極まった。主に仕えることこそ守護天使の喜びだ。欲されて、嬉しくないわけがない。
「ああ、あ、あ」
「っ」
 ぐ、とゆっくり押し込まれた。互いの声と、息が漏れる。入りづらいほどにきついが、その初々しさもひたすら興奮を助長するものでしかない。エドアルドは無理に押し入った。
 同時に、子供めいた無垢さも感じさせる陰茎から溢れだしたものが滴った。突いてやるまでもない。挿れただけで、ウェーレイキオルの身は悦びに爆ぜた。衝撃に崩れそうな体を留めて、必死に姿勢を保つ。
「――は、」
 きつさに眉を寄せ息を吐くエドアルドは、また薄く笑った。深くまで、捻じ込んで突き上げると裸体が跳ねた。押さえつけるように細い腰を引き寄せ、腰を合わせる。悶える背が美しい。
 齎される快感より先に、行為自体に満たされて堪らなかった。己の天使が今、身を供している。
 ウェーレイキオルは腰砕けでわけが分からなくなりながらも、全霊でエドアルドに従った。過ぎた快感を与えられていたが、拒否も制止も、微塵もない。すべてを許し、すべてを尽くす。
「っあ! あ、っ、ぅ、あぁ……!」
 ――ああ、我が天使は美しい声をしている。
 動けば上がる声は甘く。尚更にエドアルドを酔わせた。
「ぁ、ん、ふ、えどあるどさま……っ、ぁ」
 突き上げるほど必死に縺れる舌が合間自分を呼ぶのに、強かに腰を打ちつける。
「っ……」
「あっ、あ、っ――っ……!」
 また気をやってきつく締めつける中に眉を寄せ、熱く湿った息を吐いた。腹の底に注ぎ込む。それさえ感じて、ウェーレイキオルは身震いした。
 二人でたっぷりと余韻を味わってから抜き、エドアルドが引っくり返すとその身は容易く転がった。快感に出来上がった体はより魅力的に熱を放ち、濡れた瞳はエドアルドを見上げて――エドアルドしか見ていない。目の前の主の存在に縋るその顔が、エドアルドにはどんな天使よりも美しく愛おしく見えた。身を寄せ口づけると唇はこの上なく柔らかい。舐って、差し出される舌とつたなく舐め合うのも甘く感じられるほど甘美だ。エドアルドが勢い込んで吸いつくと、その下でウェーレイキオルの体はまた震えた。奉仕でありながら褒美のような時間に、思考はまるで追いつかない。ただ懸命についていくだけだ。
 色のついた胸が快感に尖っている。ここも、快楽の為の器官でしかない。かりと引っ掻いて跳ねる身を見下ろし、腹まで辿る。窪んだ臍を撫でるとそこまで感じるようで、エドアルドは愉快で仕方がなかった。薄い胸を吸いながら一度犯した尻を掻きまわすと敏感な体がシーツの上で泳ぐ。エドアルドの精液が滲み出て音を立てる。前から後ろから溢れるウェーレイキオルの体液と共にぐっしょりと濡れていた。また勃っているそこを握って擦ると、彼の精液までもがすぐ噴き出した。勢いは弱く、薄い。
 ウェーレイキオルは喘いで声を紡いだ。
「っそ、こを、あまり擦られると、いけないかも知れません」
「何だ」
「みっともないところをお見せしますし――あなたさまに仕える余裕が、っあ――」
 ようやく発される物言い、その中身に、エドアルドは笑った。
 際限ない快感と己の至らなさに恥じて唇をわななかせるウェーレイキオルに、優しく扱いてやりながら囁く。
「お前が一擦りごとに果てても呆れることはない」
 結局、ウェーレイキオルはその言葉どおり主の手を喜ぶしかなかった。エドアルドが思うままに、受け入れる。
 エドアルドの興奮も冷めることがない。大した時間もかけずに復活するものを擦り、足を開かせ、再び突きつける。窄まりは欲するように吸いついた。
 最初より楽に入った。深く、満たして、喜びの息を吐く。
 明るいから裸体も顔もよく見え、実によい眺めだとエドアルドは思う。シーツに散らばった黒い髪が金の光を撒いている。かつて幾度と夢想した色ではないが、これもまったく悪くはなかった。
 また、たらたらと快楽の証が滴るのも見えた。触れるまでもない、男の体の割によく濡れる。エドアルドがそのつもりで押し上げると腰が跳ねた。与えられる絶頂に、目を見開いて惑っている。そこをまた揺すって、体を堪能した。先に放った白濁を泡立てながら、絞りとるような締めつけに程無く二度目の射精をする。奥にと押しつけて彼もまた呻く。
 全力で果てた心地よさに倒れ込む。濡れた目元に口づけを落として、エドアルドは満足感に目を閉じた。

 ウェーレイキオルは眠りを知った。確かに束の間意識が飛んでいた。はっ、と目を見開き起き上がりかけて、エドアルドの寝台の上、エドアルドに抱えられていることに気づいて止まる。横を見ればエドアルドは目を閉じて、眠っていた。満ち足りた健やかな寝顔だった。ウェーレイキオルはじっと見つめて思案した。
 起きて主の身繕いなどすべきではとの考えと、その主がこうしているのだからまだ大人しくしておくべきかとの考えが交差して、結果留まった。
 ――起き上がれません。
 仰向けた胸に、エドアルドの腕の重みが嬉しい。ぴったりとくっついて最高に幸せだった。しかし動けなかった。
 エドアルドに抱えられていては。それに、体がおかしい。由々しいことだと思ったが、今回理由ははっきりしているので惑わなかった。天使の丈夫な体が、過ぎた快感でくたくただった。
 本当に、かなり頑丈なはずだったが、間違いなく疲れていた。エドアルドの性欲と、すべてを快感に繋げるウェーレイキオルの敏感さが天使の肉体を凌駕したのである。
 しかし主に欲され、またとないほどの熱烈な寵愛を受け、ウェーレイキオルは嬉しかった。嬉しくて、先の出来事の記憶を辿るだけでぞくんと身が震えた。精液を貰った腹が嬉しい。
 ――沢山触られました。
 ――沢山触られました。ウェーレイキオルは幸せです。とても。
 ――……しかし上手くできたのでしょうか? エドアルド様は満足しておられるのか。
 ふつと疑問が湧く。すべての奉仕がまだ手探りの若い天使だが、特にこの性行為というものは正解が判りかねた。髪は結って出来上がる。服や鎧は留め方がある。教わった職務も大体正解や終わりがある。
 けれど、こういった行為は男も女も快楽を得る為にするものだという認識があったが、果てがなかった。実際エドアルドは一度では終わらなかった。
 ウェーレイキオルには満足どころではない完全に過剰の出来事だったが、彼にとって何より肝心なのは己の体ではなくエドアルドの満足である。
 物思う間に、傍らの呼吸が変わる。目を開けたエドアルドはその先にウェーレイキオルが居るのを見て、夢の続きのように瞬いた後、どうにか意識を現実へと引き戻した。
「……何時だ、今」
「そろそろ四時半です」
 エドアルドはすぐ、気合いを入れて起き上がった。予定より遅いがしっかり寝られてすっきりした。とうに冷めた薬草茶を一気に飲んで、軋む体を起こしたウェーレイキオルがまず服を纏うのを見た。何処からともなく現れた白い布が、天使の体の上で瞬く間に元どおりの服の形を成す。
「便利なものだな……」
「これは天使の胞衣なのです。胎母たいぼより賜ります」
「別の形にもできるのだったか」
「はい。ですがこれが落ち着きます」
 簡素なシャツとズボンに似た形を示して、ウェーレイキオルは呟いた。
「なんとなく」
 即座の着替えを済ませた彼は次に甲斐甲斐しくエドアルドの体を拭い、着衣を整え上着を持つ。常どおりの働きぶりを見せる彼に、エドアルドは少し迷いながら口にした。
「……体は平気なのか」
 欲を――この一時のものではなく、十年溜まっていた欲望を取り繕わずぶつけてしまったと思った。すべてを受け入れてくれる安心感はあったが、思えば初めてに違いない肉体に無理をさせた。大抵の人間であればすぐには起き上がれまいというほどに、付き合わせたように思われた。
 けれど天使は瞬いて、一見には何事も無かったかのような顔をする。
「――はい。支障ありません」
 彼もまた少しだけ迷ってから、しかし言いきった。くたびれて、酷使された尻や幾度と達した性器は若干の悲鳴を上げてもいたが、動けはするので。全力で回復に努めながらこの後の予定にもついていこうという判断だった。
 そうか、と頷いて、エドアルドはもう一つ気合いを入れた。立ち上がると伺う顔が間近になる。今度はウェーレイキオルが控えめに問うた。
「私はお役に立ちましたか?」
「――ああ。存分に」
「ようございました」
 色気を損なう確認も、こうまで懸命さが見えれば愛らしいものだ。エドアルドが偽らずに言えば、やはり安心して緩む顔が、また。
 そのように、汚れた体は寝起きのむくみを取る為に用意されていたタオルでどうにか始末ができたが、結局シーツの汚ればかりはどうしようもなくて使用人を呼ぶことになった。部屋に来るような者は何が起きたかは悟ったとして詮索はしない。よくできたものだった。
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