劉備が勝つ三国志

みらいつりびと

文字の大きさ
46 / 61

宣戦布告

しおりを挟む
 劉璋を暗殺し、劉備を蜀郡の成都に迎えれば、張松と法正の陰謀は完成する。
 法正は龐統に働きかけた。
「龐統殿、劉璋様が涪城へ来たときが千載一遇の機会です」
「どういう意味でしょうか」
「張松が、劉備様を成都城にお迎えする準備を整えております。劉璋様を殺せば、一命を取るだけで、一州を取ることができます」
「なるほど。よさそうな策ですが、殿がうんと言うかどうか……」
 龐統は自信がない。劉備が暗殺を好むとは思えない。
「一番民に被害を与えない手段だと思います。劉備様を説得してください」
「やるだけやってみましょう」

 龐統は劉備と密室で話し合った。
「法正殿が、涪城で劉璋殿を斬ってくれと言っております。張松殿が、殿を成都城に迎える準備を整えているそうです」
「劉璋殿をだまして、暗殺しろと言うのか……」
「殿は益州を取るおつもりでここへ来たのでしょう?」
「そのとおりだが、暗殺という手段はいかん。そのようなことをしては、信義にもとる」
「戦争です。信義もくそもありません」
「だが……」
「殿、ご決断を。これがもっとも被害を少なくして、益州を取る策なのです」
「少し考えさせてくれ。劉璋殿を斬るときは、おれが直接指示する。手出しをしてくれるなよ」
 劉備は腕を組み、目を瞑った。
 主君の決意に従うだけだ、と龐統は思った。暗殺は手っ取り早い方法だが、もし殿が正々堂々たる戦いを望むのなら、その方針で作戦を立てよう……。

 劉備軍が涪県に到着し、劉璋も五千の兵を従えて、涪城に入った。
 城主は劉璋の娘婿、費観である。
 彼は主の劉璋と客の劉備を迎え入れた。
 ふたりは城主室で面会した。

「劉備殿、よく来てくださった。感謝する。漢中郡の張魯を討ってください。五千の兵をあなたに提供する。孟達という将に率いさせている。孟達を部下だと思って使ってください」
「承りました。同じ劉氏同士、助け合っていきましょう」
「おお、漢帝室に連なる者同士、力を合わせましょうぞ」
 劉璋は、劉備が益州を取りに来たとは露ほども疑っていない。
 劉備もそのことは微塵もにじませずに、この面会をこなした。
 さて、どうやってこの州を取ろうか、とこの時点でもまだ考えている。卑怯なことはしたくない。天下万民に恥じないやり方をしたいと思っている。

 面会の後は、酒宴になった。
 宴会場は涪城の広間。
 劉備と劉璋が並んで上座にすわり、下座に部下たちが並んだ。
 劉璋の支配下にある城だが、いまそこには黄忠、魏延、関平、張苞などの劉備軍の猛将がいて、劉備がその気になれば、劉璋の首を取るのはむずかしくない。
 法正は、そのときをいまかいまかと待った。

 酒宴が終わった。
 劉備はとうとう、劉璋を斬らせなかった。
 酒宴の直後、龐統は主君に確認をした。
「まだ間に合います。劉璋殿を殺さないのですか」
「暗殺はせぬ」
 劉備ははっきりと告げた。

 劉璋は成都城に戻った。
「わが君は、暗殺を選ばなかった。戦って益州を取るおつもりです」と龐統は法正に言った。
 そういう方か、と法正は思った。男らしいが、歯がゆくもある……。

 劉備軍は孟達隊を加えて二万五千の軍勢となった。
「孟達殿、よろしく頼む」と劉備は言った。
「孟達と呼び捨てにしてください」と孟達は答えた。
 劉璋は益州牧以上にはなれそうもないが、この人はもっと大きくなりそうだ、と直感的に思った。このまま劉備に仕えてしまおう……。

 龐統と法正が相談して、行軍進路を決めた。劉備軍は広漢郡を北上し、梓潼県、葭萌県を経て、白水関に至った。
 そこを越えれば、漢中郡に入る。
 劉備軍は白水関にとどまった。漢中郡を睨んだまま、進軍をやめた。そこで軍事訓練だけを行った。

 劉備軍の動きを見て、焦ったのは成都にいる張松である。
 涪城で劉璋を殺さなかったばかりか、愚直に漢中郡へ向かっている。
 劉備の真意がわからなくなり、彼は情緒不安定になった。

 劉璋は、張松のようすがおかしいことに気づいた。
 内密に調べさせてみると、果たして張松と法正が劉備を手引きし、益州を取らせようとしていることが判明した。自分を暗殺しようとしていたことまでわかった。
 劉璋は激怒し、張松を処刑した。
「李厳、三万の兵を授ける。劉備軍を討て」
 彼はもっとも信頼している部下に命じた。

 李厳軍が成都城を出て、広漢郡を進み、白水関へと迫った。
 劉備はようやく機会が来たと感じた。
 白水関でときを待っていたのである。
「敵となったな。宣戦布告だ。倒させてもらうぞ、劉璋殿」
 劉備軍は南に向きを変え、李厳軍に向かって猛進した。    
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~

佐倉伸哉
歴史・時代
 その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。  父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。  稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。  明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。  ◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』でも同時掲載しています◇

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる …はずだった。 まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか? 敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。 文治系藩主は頼りなし? 暴れん坊藩主がまさかの活躍? 参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。 更新は週5~6予定です。 ※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...