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女友だち
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堀切くんとユナさんの両方から誘われた。
高校生活を送る上で、友だちとのつきあいは死活的に重要だ。千歳とユナさんと一緒に昼ごはんを食べるようになってから、学校の居心地が格段に良くなった。堀切くんからの誘いを断るのは心苦しいし残念だが、今日はユナさんを優先することにして、彼には『ごめんなさい。友だちとの約束があるの。デートはできれば明日にしてください』と返信した。
放課後、ユナさんと千歳と鏡石珈琲に行った。
絶品だとわかっているプリンアラモードを注文する。めずらしく、ユナさんもそれを頼んだ。
「ユナ、ダイエットはやめたの?」
「つづけてる。でも私だってたまには美味しいものを食べたいんだよ。ちょっとストレスたまってるし」
「たまってるのか」
「あなたたちがふたりとも楽しそうだからね。少し妬ましい」
「彼氏つくれよー」
「簡単に言わないで」
千歳とユナさんのやりとりをわたしは黙って聞いていた。もしユナさんの好きな人が堀切くんだとしたら、わたしはいま微妙な立場にいることになる。
「千歳はどういうふうに一色くんとつきあうことになったの? どっちから告白したのかとか、教えてよ」とわたしは訊いた。他人の恋の話でも発電できる。
「一緒に映画に行った日、彼が告白してくれたんだあ。おまえのこと、割と好きだからつきあってくれよってあいつが照れながら言ったから、いいよって言っちゃった」
「割と? 割とって言ったの?」
「そうだよ。失礼なやつだよねー。でも顔が真っ赤になってたから、あたしのことかなり好きなんだなーって思ってさー。数馬のこと、あたしも好きになってたから、断るという選択肢はなかったよ」
「何人めの彼氏なの?」
「いやー、実はつきあうのは初めてなんだ。ボーイフレンドは何人かいたことあるけど、恋人は初めて」
「おーっ、それはめでたいね」
「恋愛はいいねー、発電もできるし。発電は正義って、川尻唯も言ってるしねー」
「川尻唯ちゃん、そんなこと言ってるの?」
それは電力会社の人の台詞だと思っていた。
「うん。あそこのポスターにも書いてあるじゃん」
千歳がわたしの背後を指さした。
言われるまで気づかなかったが、喫茶店の壁に川尻唯の写真が貼ってあった。それは電力会社のポスターで、アイドルが右手と左手の人さし指と親指でハートマークをつくり、『恋愛発電は正義』というキャッチコピーが印刷されていた。その下に小さく『わたしたちはクリーンエネルギーを推進します』と書かれている。
恋愛発電は正義。その言葉はわたしの脳裡にますます深く刻まれた。
わたしと千歳が恋バナしてるのを、ユナさんはむすっとして聞いていた。
「恋愛発電は別に正義ではないでしょ。その風潮は恋愛至上主義や恋愛しない人への差別を生むと思う。発電が苦手な人だっているわけだし、私はその言葉が嫌い」
恋愛発電は環境にやさしくて、化石燃料を消費せず二酸化炭素を排出しないし、放射能漏れの危険もないから正義だとわたしは思っているが、黙っていた。ユナさんと対立はしたくない。
「ユナ、中学時代は彼氏がいたでしょ。3人くらいとつきあってたよね。あのときは発電してなかったの?」
「そりゃあ私だって恋人がいたときは発電したよ。でも誰とも長つづきしなかったから」
「次はうまくやれよー」
「だから簡単に言うなって!」
「奏多ちゃん、堀切くんとはうまくいきそう?」と少し無理のある微笑みをつくりながら、ユナさんが言った。
「どうだろうなあ。堀切くん、ちょっと無口なタイプなんだ。わたしもあんまりおしゃべりが上手じゃないから、わからないや。でもできるだけがんばるよ」
「そう。うまくつきあえるといいね。がんばって」
本心かどうかはわからないが、彼女は応援してくれた。
ユナさんはやはり良識派だ。
千歳は明るくて楽しいし、ふたりとの友だちづきあいを大切にしたいとあらためて思った。
高校生活を送る上で、友だちとのつきあいは死活的に重要だ。千歳とユナさんと一緒に昼ごはんを食べるようになってから、学校の居心地が格段に良くなった。堀切くんからの誘いを断るのは心苦しいし残念だが、今日はユナさんを優先することにして、彼には『ごめんなさい。友だちとの約束があるの。デートはできれば明日にしてください』と返信した。
放課後、ユナさんと千歳と鏡石珈琲に行った。
絶品だとわかっているプリンアラモードを注文する。めずらしく、ユナさんもそれを頼んだ。
「ユナ、ダイエットはやめたの?」
「つづけてる。でも私だってたまには美味しいものを食べたいんだよ。ちょっとストレスたまってるし」
「たまってるのか」
「あなたたちがふたりとも楽しそうだからね。少し妬ましい」
「彼氏つくれよー」
「簡単に言わないで」
千歳とユナさんのやりとりをわたしは黙って聞いていた。もしユナさんの好きな人が堀切くんだとしたら、わたしはいま微妙な立場にいることになる。
「千歳はどういうふうに一色くんとつきあうことになったの? どっちから告白したのかとか、教えてよ」とわたしは訊いた。他人の恋の話でも発電できる。
「一緒に映画に行った日、彼が告白してくれたんだあ。おまえのこと、割と好きだからつきあってくれよってあいつが照れながら言ったから、いいよって言っちゃった」
「割と? 割とって言ったの?」
「そうだよ。失礼なやつだよねー。でも顔が真っ赤になってたから、あたしのことかなり好きなんだなーって思ってさー。数馬のこと、あたしも好きになってたから、断るという選択肢はなかったよ」
「何人めの彼氏なの?」
「いやー、実はつきあうのは初めてなんだ。ボーイフレンドは何人かいたことあるけど、恋人は初めて」
「おーっ、それはめでたいね」
「恋愛はいいねー、発電もできるし。発電は正義って、川尻唯も言ってるしねー」
「川尻唯ちゃん、そんなこと言ってるの?」
それは電力会社の人の台詞だと思っていた。
「うん。あそこのポスターにも書いてあるじゃん」
千歳がわたしの背後を指さした。
言われるまで気づかなかったが、喫茶店の壁に川尻唯の写真が貼ってあった。それは電力会社のポスターで、アイドルが右手と左手の人さし指と親指でハートマークをつくり、『恋愛発電は正義』というキャッチコピーが印刷されていた。その下に小さく『わたしたちはクリーンエネルギーを推進します』と書かれている。
恋愛発電は正義。その言葉はわたしの脳裡にますます深く刻まれた。
わたしと千歳が恋バナしてるのを、ユナさんはむすっとして聞いていた。
「恋愛発電は別に正義ではないでしょ。その風潮は恋愛至上主義や恋愛しない人への差別を生むと思う。発電が苦手な人だっているわけだし、私はその言葉が嫌い」
恋愛発電は環境にやさしくて、化石燃料を消費せず二酸化炭素を排出しないし、放射能漏れの危険もないから正義だとわたしは思っているが、黙っていた。ユナさんと対立はしたくない。
「ユナ、中学時代は彼氏がいたでしょ。3人くらいとつきあってたよね。あのときは発電してなかったの?」
「そりゃあ私だって恋人がいたときは発電したよ。でも誰とも長つづきしなかったから」
「次はうまくやれよー」
「だから簡単に言うなって!」
「奏多ちゃん、堀切くんとはうまくいきそう?」と少し無理のある微笑みをつくりながら、ユナさんが言った。
「どうだろうなあ。堀切くん、ちょっと無口なタイプなんだ。わたしもあんまりおしゃべりが上手じゃないから、わからないや。でもできるだけがんばるよ」
「そう。うまくつきあえるといいね。がんばって」
本心かどうかはわからないが、彼女は応援してくれた。
ユナさんはやはり良識派だ。
千歳は明るくて楽しいし、ふたりとの友だちづきあいを大切にしたいとあらためて思った。
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