恋愛発電

みらいつりびと

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コードキス

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 堀切くんとの2回目のデート。
 校門から出発し、彼は駅とは反対方面へ歩き出した。
 わたしはなんとなく心配になり、「どこへ行くの?」と尋ねた。
 彼は微笑もうとして失敗したようないびつな笑みを浮かべて、「良いところを知っているんだ。着いてみてのお楽しみ」とだけ答えた。

 わたしたちの高校は、大きな商店街の中心にある駅から、歩いて15分ほどのところに建っている。
 わたしは何回も駅と高校を往復しているが、駅から離れる方向へは行ったことがなく、なにがあるのか知らない。
 駅から遠ざかると、高いビルやマンションはなくなって、閑静な住宅街になった。
 神社やテニスコート、草茫々でアゲハチョウが飛んでいる空き地なんかもあったりして、歩いていると意外な発見があった。
 道中、相変わらず会話は弾まなかった。
 千歳やユナさんといて楽しいのは、彼女たちがよくしゃべってくれるからなのだと痛感した。
 わたし自身には会話力がなく、話しかけてもらえないとうまくしゃべれない。
 せっかくイケメンの彼氏と一緒にいるというのに、なんだか居心地が悪く、発電も不調だった。
 20分くらい歩いて、『かわしろ親水公園』という看板のある広々とした公園にたどり着いた。
 公園の中ほどに池があり、遊歩道が巡らされていて、緑豊かで、確かに良いところだった。

「どう?」
「素敵な公園だね」
「気に入ってくれたなら良かった」
 堀切くんが遊歩道を歩き出し、わたしは後につづいた。
 平日だからか、駅から遠いからかわからないが、ひとけはなく、公園内にいるのはわたしたちふたりだけだった。
 池の水は澄んでいて、鯉の群れが泳いでいた。

 堀切くんが自動販売機で缶コーヒーをふたつ買い、ひとつをわたしにくれた。
 親切にされて、わたしの発電機はようやく調子を取り戻し、ポポポポポと途切れなく鳴った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 池の畔にあずまやがあって、彼はその中に入ってベンチに座った。わたしも隣に腰掛けた。 
 彼が缶のプルタブを開け、コーヒーを飲む。
 わずかに上下するのどぼとけを見ながら、わたしは発電しつづけた。彼がコーヒーを飲み終えるまで、ちらちらとそのきれいな顔や男にしては細い首に目を向けていた。
 美男子はやはり発電のタネになる。
 もしかしたらわたしと堀切くんの相性は良くないのかもしれないが、離れたくないと思った。

 あずまやでも会話はなかった。
 話題を提供できないわたしをつまらない人間だなあと思い、不甲斐なかったが、堀切くんもなにか話してくれたっていいじゃないの、と恨めしくなった。
 発電が途切れがちになってしまう。

 彼はしばらく池を眺めていたが、おもむろに「今日はこのコードで遊ぼうと思う」と言って、かばんから1メートルくらいの黒いコードを取り出した。
 わたしは不思議に思った。コードなんかで遊べるのだろうか。
「そんなものでどう遊ぶの?」
 彼はいきなりシャツのボタンを上からふたつはずして、あまり筋肉がついていない胸板を露出させた。
 わたしは男性の肌を間近に見て、ドキッとした。発電機が急起動して、ボボボボボッと大きく鳴った。
 堀切くんの胸の真ん中にある小さくて丸い発電端子があらわになっている。
 彼はコードのプラグをそこに挿入した。

「コードキスっていう遊びなんだよ。相生さんも端子を出してよ」
 堀切くんはコードのもう一方のプラグを右手に持ち、いびつな笑みをわたしに向けていた。
「えっ、わたしも……?」
 コードキス。少し変態的な行為のような気がしたけれど、恋人としかできないことにも思えた。
 わたしはごくりとつばを飲み込んだ。
 恥ずかしかったけれど、彼がじっとわたしを見ているので、わたしもブレザーの下に着ているシャツのボタンをひとつだけはずした。
 胸の谷間にあるわたしの差し込み口がぎりぎりで彼にも見えるようになった。

「おれと相生さんを接続するよ」
 堀切くんはプラグをズトッとわたしに挿入した。とても淫靡な行為に思えて、わたしは激しく発電した。
 挿入直後、わたしの電気が流れ出すのが微かに感じられた。
「もしかして、わたしの電気、堀切くんに吸い取られてる……?」
「多い方から少ない方に流れるんだ」
 彼は少し不気味ないびつな笑みをまだ浮かべていた。

 堀切くんはコードキスを何回もしているのかもしれない、とわたしは思った。手慣れていて、落ち着いている。
 わたしはと言えば、初めてのコードキスに驚き、興奮し、発電しながら吸電されていた。
 ボボッ、ピッ、ボボボッ、ピッ、ボッピッボッ、ボボンピッボンッ。
 わたしの発電ユニットが複雑な音を立てている。
 不安になってきた。
「こんなことして、発電ユニットは壊れないのかな?」
「そう簡単には壊れないよ」
「どうしてそう言い切れるの?」
 彼はそれには答えず、「フルチャージされたみたい」と言って、自分の胸に突き刺さっているプラグを抜いた。
 わたしの端子に突き立てられているプラグも抜き取り、コードを大切そうにかばんに仕舞った。

 わたしはいけないことをしたような、恋人と大切な行為をしたような、電気を盗まれただけのような、なんとも言えない複雑な気分を味わっていた。激しい発電がつづいていた。
 シャツのボタンを閉めてから、スマホで発電ユニット生成ナノマシンメーカーのホームページを開いた。
『発電ユニットは決められた機器とだけ接続し、むやみに他の機器と接続しないでください。故障する場合があります』という情報があった。
「コードキス、やったらだめみたいだよ」
「平気さ。この程度で壊れたりはしないよ」
「堀切くん、わたしの電気を取ったんだよね……?」
「電気代、払おうか?」
「いらない。いまも発電してるし、きっとすぐフルチャージになるから」
「よく発電する子は好きだよ」
 彼はまたその台詞を言った。

 コードキスで盗電するために、彼はわたしを恋人にしたのだろうかという疑惑が浮かび、わたしは急いで打ち消そうとした。いくらなんでも、そんなはずはないよね。
 興奮と疑惑が渦巻き、好意と不信が半ばして、心臓がしめつけられた。わたしの発電機はまだ高鳴っている。
「またしようね」と彼は言った。
 わたしはうなずかなかったけれど、断りもしなかった。
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