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ハイキング
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堀切くんから休日デートに誘われた。
『土曜日、ハイキングに行かない?』というチャットを見て、わたしは考え込んでしまった。
またコードキスを迫られないで済むだろうか。
正直言って、あれは気が進まない。
まだ彼の人となりがよくわからないし、コードキスをされたとき、電気を盗まれたようで釈然としない気持ちになったから。
しかし、イケメンの彼と別れたくはないので、デートの誘いを断ることはできない。
『行く。でもハイキングってきつそうで心配』
『ケーブルカーで登れる山だから楽だよ』
『わかった。楽しみだな~』
実はさほど楽しみではない。彼は言葉数が少ない。見ている分には美しくていいが、ずっと一緒にいると疲れる。
うまくつきあっていけるのか、わたしは早くも不安を覚えていた。
ハイキングデート当日、お母さんに手伝ってもらって、わたしはふたり分のお弁当をつくった。彼と親密になり、打ち解けるための手段だ。
「デートなの? いいわねえ。彼氏はどんな人?」
お母さんから興味津々に訊かれてウザかったが、自分だけで上手にお弁当をつくれる自信がなかったので追い払えない。
「かっこいい人だよ」
「かっこいいの? すごいじゃない、奏多! どんなふうにつきあうようになったのよ?」
「告白してくれたんだよ」
「告白されたの? 素敵ねえ。どんな台詞だったとか、詳しく聞きたいなあ」
「嫌だよ、勘弁して。親と恋バナするの、ちょっとした拷問なんだけど」
「はいはい、わかりました。今日はいっぱい発電してきてね」
お弁当の中身は、桜でんぶがかかったごはん、ハンバーグ、シュウマイ、卵焼き、ミニトマト、ブロッコリー。
お母さんが桜でんぶでハートを描こうとしたので、それだけは全力で阻止した。まだつきあって間もないのだ。恥ずかしすぎる。
待ち合せは午前9時、高校の最寄り駅のプラットホーム。
遅れてはいけないと思って、わたしは10分前には到着していた。堀切くんは時間ちょうどに現れた。
わたしはリュックサックを背負っていたのだが、彼の持ち物はショルダーバッグだけだった。
「え? そんな格好でいいの?」
「今日登るのは、観光地化された山だよ。ケーブルカーを使うし、登山道も整備されているから、問題ない」
「そっか……」
山に登るのだから、多少はきついのかと思っていたのだが、まったくの杞憂だったようだ。
わたしたちは電車に乗った。
「いい天気で良かったねー」
「そうだね」
「登山日和だよね」
「うん」
「…………」
「…………」
車内で会話を盛り上げたかったけれど、無理だった。
山の麓の駅までの約1時間が、ものすごく長く感じた。
発電もほとんどできなかった。
なんのためにつきあっているのか、よくわからなくなってきた。
電車から降りたとき、わたしはすっかり気疲れしていた。
山頂へ行けばきっと楽しいだろうと予想して、気分を立て直す。
土産物店や蕎麦屋なんかが並んでいるにぎやかな道を少し歩き、ケーブルカー山麓駅に到着。
駅の周辺には高い杉の木が何本も生えている。
「うわあ、ケーブルカーに乗るなんて、久しぶり」
わたしは努めて明るい声を出した。
「そうだね。空気もいいし、気持ちいいね」
良い環境の場所に来たためか、堀切くんの声も弾んでいた。
わたしはうれしくなった。
彼はちょっと無口なだけで、素敵な人なんだ、と思おうとした。
できれば仲睦まじい恋人同士になりたい。
ケーブルカーで頂上近くまで一気に登った。
たくさんの人が降車する。
山頂駅の外には土産物店が軒を連ね、レストランまであって、本当に観光地なんだと実感した。
缶ビールを飲んでいる人もいた。
山頂の手前に立派な山門を備えた寺院があり、わたしたちはお参りした。
「すごいね。こんな山の中なのに、大きなお寺だねえ」
「創建は奈良時代なんだよ」
「奈良時代? 古いねー」
「確か8世紀半ばくらいに、天皇の勅命で開山されたんだ」
「ふわあ、伝統ある寺なんだね」
やっとまともな会話ができて、わたしの気分はあがってきた。発電機が動き出す。
舗装された山道を歩いて、難なく頂上に到着した。
そこからは脈々と連なる山々と、ひと際高くそびえ、白い雪を頂く富士山が見えた。
素晴らしい景色で、ここまで来た甲斐があったと思えた。
「ありがとう堀切くん、ここまで連れてきてくれて」
「どういたしまして」
彼は微笑んだ。いびつではなく、自然な笑みだった。
わたしは胸がきゅんとなって、どっかーんと発電した。
「昼ごはんを食べよう」
堀切くんはショルダーバッグからブルーシートを取り出して、地面の上に広げた。
「食べる物はある? おれはコンビニおにぎりを買ってきたんだけど」
「えっと、お弁当をつくってきた。堀切くんの分もあるんだけど……」
「本当? ありがとう!」
彼がいたいけな少年のように笑ったので、わたしはときめき、発電が加速した。
こちらこそボボボのタネをありがとうだよ。
「相生さんの手づくり弁当?」
「うん、いちおう。お母さんに手伝ってもらったけど」
「うれしいよ」
堀切くんはパクパクガツガツとお弁当を食べながら、何回も「美味しいよ」と言ってくれた。
そのいい食べっぷりを見て、わたしもうれしくなり、発電がつづいた。
彼はお弁当を軽々と完食し、自分で持ってきたコンビニおにぎりも3つ食べていた。高校生男子の食欲を見せつけられて、びっくりした。
ハイキングデートは楽しいものになった。
ちょっと心配だったけど、来てよかったなあ。
わたしは心の底から安堵し、これからの彼との交際に希望を抱いた。
山を下りたときには、十人級蓄電機はすっかりフルチャージされていた。
『土曜日、ハイキングに行かない?』というチャットを見て、わたしは考え込んでしまった。
またコードキスを迫られないで済むだろうか。
正直言って、あれは気が進まない。
まだ彼の人となりがよくわからないし、コードキスをされたとき、電気を盗まれたようで釈然としない気持ちになったから。
しかし、イケメンの彼と別れたくはないので、デートの誘いを断ることはできない。
『行く。でもハイキングってきつそうで心配』
『ケーブルカーで登れる山だから楽だよ』
『わかった。楽しみだな~』
実はさほど楽しみではない。彼は言葉数が少ない。見ている分には美しくていいが、ずっと一緒にいると疲れる。
うまくつきあっていけるのか、わたしは早くも不安を覚えていた。
ハイキングデート当日、お母さんに手伝ってもらって、わたしはふたり分のお弁当をつくった。彼と親密になり、打ち解けるための手段だ。
「デートなの? いいわねえ。彼氏はどんな人?」
お母さんから興味津々に訊かれてウザかったが、自分だけで上手にお弁当をつくれる自信がなかったので追い払えない。
「かっこいい人だよ」
「かっこいいの? すごいじゃない、奏多! どんなふうにつきあうようになったのよ?」
「告白してくれたんだよ」
「告白されたの? 素敵ねえ。どんな台詞だったとか、詳しく聞きたいなあ」
「嫌だよ、勘弁して。親と恋バナするの、ちょっとした拷問なんだけど」
「はいはい、わかりました。今日はいっぱい発電してきてね」
お弁当の中身は、桜でんぶがかかったごはん、ハンバーグ、シュウマイ、卵焼き、ミニトマト、ブロッコリー。
お母さんが桜でんぶでハートを描こうとしたので、それだけは全力で阻止した。まだつきあって間もないのだ。恥ずかしすぎる。
待ち合せは午前9時、高校の最寄り駅のプラットホーム。
遅れてはいけないと思って、わたしは10分前には到着していた。堀切くんは時間ちょうどに現れた。
わたしはリュックサックを背負っていたのだが、彼の持ち物はショルダーバッグだけだった。
「え? そんな格好でいいの?」
「今日登るのは、観光地化された山だよ。ケーブルカーを使うし、登山道も整備されているから、問題ない」
「そっか……」
山に登るのだから、多少はきついのかと思っていたのだが、まったくの杞憂だったようだ。
わたしたちは電車に乗った。
「いい天気で良かったねー」
「そうだね」
「登山日和だよね」
「うん」
「…………」
「…………」
車内で会話を盛り上げたかったけれど、無理だった。
山の麓の駅までの約1時間が、ものすごく長く感じた。
発電もほとんどできなかった。
なんのためにつきあっているのか、よくわからなくなってきた。
電車から降りたとき、わたしはすっかり気疲れしていた。
山頂へ行けばきっと楽しいだろうと予想して、気分を立て直す。
土産物店や蕎麦屋なんかが並んでいるにぎやかな道を少し歩き、ケーブルカー山麓駅に到着。
駅の周辺には高い杉の木が何本も生えている。
「うわあ、ケーブルカーに乗るなんて、久しぶり」
わたしは努めて明るい声を出した。
「そうだね。空気もいいし、気持ちいいね」
良い環境の場所に来たためか、堀切くんの声も弾んでいた。
わたしはうれしくなった。
彼はちょっと無口なだけで、素敵な人なんだ、と思おうとした。
できれば仲睦まじい恋人同士になりたい。
ケーブルカーで頂上近くまで一気に登った。
たくさんの人が降車する。
山頂駅の外には土産物店が軒を連ね、レストランまであって、本当に観光地なんだと実感した。
缶ビールを飲んでいる人もいた。
山頂の手前に立派な山門を備えた寺院があり、わたしたちはお参りした。
「すごいね。こんな山の中なのに、大きなお寺だねえ」
「創建は奈良時代なんだよ」
「奈良時代? 古いねー」
「確か8世紀半ばくらいに、天皇の勅命で開山されたんだ」
「ふわあ、伝統ある寺なんだね」
やっとまともな会話ができて、わたしの気分はあがってきた。発電機が動き出す。
舗装された山道を歩いて、難なく頂上に到着した。
そこからは脈々と連なる山々と、ひと際高くそびえ、白い雪を頂く富士山が見えた。
素晴らしい景色で、ここまで来た甲斐があったと思えた。
「ありがとう堀切くん、ここまで連れてきてくれて」
「どういたしまして」
彼は微笑んだ。いびつではなく、自然な笑みだった。
わたしは胸がきゅんとなって、どっかーんと発電した。
「昼ごはんを食べよう」
堀切くんはショルダーバッグからブルーシートを取り出して、地面の上に広げた。
「食べる物はある? おれはコンビニおにぎりを買ってきたんだけど」
「えっと、お弁当をつくってきた。堀切くんの分もあるんだけど……」
「本当? ありがとう!」
彼がいたいけな少年のように笑ったので、わたしはときめき、発電が加速した。
こちらこそボボボのタネをありがとうだよ。
「相生さんの手づくり弁当?」
「うん、いちおう。お母さんに手伝ってもらったけど」
「うれしいよ」
堀切くんはパクパクガツガツとお弁当を食べながら、何回も「美味しいよ」と言ってくれた。
そのいい食べっぷりを見て、わたしもうれしくなり、発電がつづいた。
彼はお弁当を軽々と完食し、自分で持ってきたコンビニおにぎりも3つ食べていた。高校生男子の食欲を見せつけられて、びっくりした。
ハイキングデートは楽しいものになった。
ちょっと心配だったけど、来てよかったなあ。
わたしは心の底から安堵し、これからの彼との交際に希望を抱いた。
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