恋愛発電

みらいつりびと

文字の大きさ
48 / 50

部誌掲載

しおりを挟む
 家に帰って、わたしはパソコンに向き合った。
『発電天使相川彼方』というタイトルから氏名を削除して、『発電天使』に訂正する。
 本文も推敲。『相川彼方』を『伊藤詩織』に、『森崎誠一』を『藤沢悠希』に、『知念風斗』を『中西大和』に直した。これでわたし自身とクラスメイトとは無関係な登場人物になった。これでも森口くんに読まれると思うと恥ずかしいが、前よりはマシだ。
 小説を書いてみたらと言われ、書いてみたよ、と答えたいので、笑われてもいいと覚悟を決めた。

 水曜日は文芸部の活動日。
 放課後、わたしは森口くんと一緒に閉架書庫へ向かった。
「小説、書いてみたんだ。へたっぴで、とても短いものだけど……」
「そうなの? 早速書いてくれたんだ。すごいよ。ぜひ読ませてもらいたいな」
「本当に下手だよ。笑わない?」
「笑わないよ。1度も書いたことのない人が、がんばって書いた。尊い行為だと思う」
 尊い……。そんなふうに言われたら、読んでもらうしかない。

 閉架書庫に到着。まだ先輩たちはいなかった。
 わたしはかばんから掌編小説『発電天使』を印刷した紙を取り出して、ドキドキしながら森口くん渡した。
 彼は声をあげて笑ったり、バカにしたりはしないだろうけど、きっと内心では変な小説だなと思われる。恥ずかしい。
 森口くんが紙に目を落として、真剣な表情で読んでいる。
 わたしは緊張して彼が読み終えるのを待った。ほんの少しでいいから、良いところもあると思われますように、と祈った。
 彼が顔を上げた。

「面白いよ! 百万人級っていうアイデア、ぶっ飛んでいるね! 話の流れも淀みがないし、初めて書いたとは思えない。素晴らしい作品だよ!」
 べた褒めだった。かなりお世辞が入っているだろうし、初心者を励ましてくれているのだと思うけど、すごく嬉しかった。
 ああ、やっぱり森口くんは素敵な男の子だ。つきあってくれないかな。
 告白してほしい。こっちから告ろうかな。断られたらと思うと、ものすごく怖い。

 瀬名先輩と唐竹部長が連れ立ってやってきた。このふたりも千歳とユナさんのように仲がいい。
「先輩、相生さんが小説を書いたんです。とても面白いですよ!」と森口くんが言った。
 あ、先輩たちに言うのは、ちょっと待ってほしかった。万が一、これを部誌に載せるという流れになったら困る。
 活字になって永らく残っていいような作品ではない。

「おお、書いたのか、相生さん。見せてくれ」
「ボクも読みたいな」
 当然そうなりますよねー。
 仕方がない。おふたりにも読んでもらった。

 読み終えて瀬名先輩は笑顔になり、唐竹部長は首を傾げた。
「ボクも面白いと思うな。初心者にしてはよく書けているよ」
「うーん。これはまだ作品になっていないんじゃないか? ただのあらすじだ」
 部長の感想を聞いて、わたしは頬を膨らませた。
「どうせ作品になんてなっていないですよ! わたし、もう書きません! 才能がまったくないんですう!」
「こら、直、なんてことを言うんだ! ボクはいいと思うぞ、『発電天使』!」
「あ、ごめん、相生さん。きみが初心者だということを忘れていた。いやあ、素晴らしい作品だよ。最高だ!」
「見え透いたお世辞はいりません。その紙、返してください。捨てます」

「部長、僕は部誌に載せても良いくらいよく書けている作品だと思いますよ」
 森口くんがわたしの小説の弁護をしてくれてすごく嬉しい。でも部誌には載せられないよ!
「そうだな。相生さんが書いた記念すべき処女作だ。部誌に載せよう。この紙は俺が預かる」
「ちょっと、だめですよ! 部長、さっき酷評したじゃないですか! 部誌に載せるなんて、絶対にだめ!」
「他の作品を書いてくれる?」
「もう書きません!」
「じゃあこれは俺が持っておく。部長権限で、掲載するかどうかを判断させてもらう」
「部長権限って……。それ、わたしが書いたものですよ! 載せるかどうかはわたしが決めます。それは没です!」
「部員は最低でも1作品は部誌用の作品を書くべきなんだ。もしこれを載せられたくないなら、別の作品を提出したまえ」
「ええーっ、もう書けないですよお……」
「がんばれ」
「うう……。それは、川尻唯ちゃんの事故に触発されて、勢いで書けたものなんです。もう書ける気がしません……」
「そっか。あの事件に刺激されて書いたのか。そう言われると、ますます捨てるには惜しい気がしてきたな。掲載しよう!」
「嘘ですよね……」

 大変なことになってしまった。
 このままだとわたしの駄作が部誌に載ってしまう。
「部誌掲載作品の締め切りはいつですか?」
「印刷所とのやり取りがあるから、文化祭開催日よりかなり前になる。9月末だ」
「ひーっ、あと半月じゃないですか!」
「9月は文芸部員のがんばりどきなんだ。俺も毎日小説を書いている」
「ボクは漫画をがんばって描いてる」
「僕も同じく一生懸命書いているよ」
 うわあ、わたしもがんばらないといけないじゃないか。
 文芸に汗を流す気なんてまったくなかったのに……。
 嫌だあ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...