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部誌掲載
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家に帰って、わたしはパソコンに向き合った。
『発電天使相川彼方』というタイトルから氏名を削除して、『発電天使』に訂正する。
本文も推敲。『相川彼方』を『伊藤詩織』に、『森崎誠一』を『藤沢悠希』に、『知念風斗』を『中西大和』に直した。これでわたし自身とクラスメイトとは無関係な登場人物になった。これでも森口くんに読まれると思うと恥ずかしいが、前よりはマシだ。
小説を書いてみたらと言われ、書いてみたよ、と答えたいので、笑われてもいいと覚悟を決めた。
水曜日は文芸部の活動日。
放課後、わたしは森口くんと一緒に閉架書庫へ向かった。
「小説、書いてみたんだ。へたっぴで、とても短いものだけど……」
「そうなの? 早速書いてくれたんだ。すごいよ。ぜひ読ませてもらいたいな」
「本当に下手だよ。笑わない?」
「笑わないよ。1度も書いたことのない人が、がんばって書いた。尊い行為だと思う」
尊い……。そんなふうに言われたら、読んでもらうしかない。
閉架書庫に到着。まだ先輩たちはいなかった。
わたしはかばんから掌編小説『発電天使』を印刷した紙を取り出して、ドキドキしながら森口くん渡した。
彼は声をあげて笑ったり、バカにしたりはしないだろうけど、きっと内心では変な小説だなと思われる。恥ずかしい。
森口くんが紙に目を落として、真剣な表情で読んでいる。
わたしは緊張して彼が読み終えるのを待った。ほんの少しでいいから、良いところもあると思われますように、と祈った。
彼が顔を上げた。
「面白いよ! 百万人級っていうアイデア、ぶっ飛んでいるね! 話の流れも淀みがないし、初めて書いたとは思えない。素晴らしい作品だよ!」
べた褒めだった。かなりお世辞が入っているだろうし、初心者を励ましてくれているのだと思うけど、すごく嬉しかった。
ああ、やっぱり森口くんは素敵な男の子だ。つきあってくれないかな。
告白してほしい。こっちから告ろうかな。断られたらと思うと、ものすごく怖い。
瀬名先輩と唐竹部長が連れ立ってやってきた。このふたりも千歳とユナさんのように仲がいい。
「先輩、相生さんが小説を書いたんです。とても面白いですよ!」と森口くんが言った。
あ、先輩たちに言うのは、ちょっと待ってほしかった。万が一、これを部誌に載せるという流れになったら困る。
活字になって永らく残っていいような作品ではない。
「おお、書いたのか、相生さん。見せてくれ」
「ボクも読みたいな」
当然そうなりますよねー。
仕方がない。おふたりにも読んでもらった。
読み終えて瀬名先輩は笑顔になり、唐竹部長は首を傾げた。
「ボクも面白いと思うな。初心者にしてはよく書けているよ」
「うーん。これはまだ作品になっていないんじゃないか? ただのあらすじだ」
部長の感想を聞いて、わたしは頬を膨らませた。
「どうせ作品になんてなっていないですよ! わたし、もう書きません! 才能がまったくないんですう!」
「こら、直、なんてことを言うんだ! ボクはいいと思うぞ、『発電天使』!」
「あ、ごめん、相生さん。きみが初心者だということを忘れていた。いやあ、素晴らしい作品だよ。最高だ!」
「見え透いたお世辞はいりません。その紙、返してください。捨てます」
「部長、僕は部誌に載せても良いくらいよく書けている作品だと思いますよ」
森口くんがわたしの小説の弁護をしてくれてすごく嬉しい。でも部誌には載せられないよ!
「そうだな。相生さんが書いた記念すべき処女作だ。部誌に載せよう。この紙は俺が預かる」
「ちょっと、だめですよ! 部長、さっき酷評したじゃないですか! 部誌に載せるなんて、絶対にだめ!」
「他の作品を書いてくれる?」
「もう書きません!」
「じゃあこれは俺が持っておく。部長権限で、掲載するかどうかを判断させてもらう」
「部長権限って……。それ、わたしが書いたものですよ! 載せるかどうかはわたしが決めます。それは没です!」
「部員は最低でも1作品は部誌用の作品を書くべきなんだ。もしこれを載せられたくないなら、別の作品を提出したまえ」
「ええーっ、もう書けないですよお……」
「がんばれ」
「うう……。それは、川尻唯ちゃんの事故に触発されて、勢いで書けたものなんです。もう書ける気がしません……」
「そっか。あの事件に刺激されて書いたのか。そう言われると、ますます捨てるには惜しい気がしてきたな。掲載しよう!」
「嘘ですよね……」
大変なことになってしまった。
このままだとわたしの駄作が部誌に載ってしまう。
「部誌掲載作品の締め切りはいつですか?」
「印刷所とのやり取りがあるから、文化祭開催日よりかなり前になる。9月末だ」
「ひーっ、あと半月じゃないですか!」
「9月は文芸部員のがんばりどきなんだ。俺も毎日小説を書いている」
「ボクは漫画をがんばって描いてる」
「僕も同じく一生懸命書いているよ」
うわあ、わたしもがんばらないといけないじゃないか。
文芸に汗を流す気なんてまったくなかったのに……。
嫌だあ!
『発電天使相川彼方』というタイトルから氏名を削除して、『発電天使』に訂正する。
本文も推敲。『相川彼方』を『伊藤詩織』に、『森崎誠一』を『藤沢悠希』に、『知念風斗』を『中西大和』に直した。これでわたし自身とクラスメイトとは無関係な登場人物になった。これでも森口くんに読まれると思うと恥ずかしいが、前よりはマシだ。
小説を書いてみたらと言われ、書いてみたよ、と答えたいので、笑われてもいいと覚悟を決めた。
水曜日は文芸部の活動日。
放課後、わたしは森口くんと一緒に閉架書庫へ向かった。
「小説、書いてみたんだ。へたっぴで、とても短いものだけど……」
「そうなの? 早速書いてくれたんだ。すごいよ。ぜひ読ませてもらいたいな」
「本当に下手だよ。笑わない?」
「笑わないよ。1度も書いたことのない人が、がんばって書いた。尊い行為だと思う」
尊い……。そんなふうに言われたら、読んでもらうしかない。
閉架書庫に到着。まだ先輩たちはいなかった。
わたしはかばんから掌編小説『発電天使』を印刷した紙を取り出して、ドキドキしながら森口くん渡した。
彼は声をあげて笑ったり、バカにしたりはしないだろうけど、きっと内心では変な小説だなと思われる。恥ずかしい。
森口くんが紙に目を落として、真剣な表情で読んでいる。
わたしは緊張して彼が読み終えるのを待った。ほんの少しでいいから、良いところもあると思われますように、と祈った。
彼が顔を上げた。
「面白いよ! 百万人級っていうアイデア、ぶっ飛んでいるね! 話の流れも淀みがないし、初めて書いたとは思えない。素晴らしい作品だよ!」
べた褒めだった。かなりお世辞が入っているだろうし、初心者を励ましてくれているのだと思うけど、すごく嬉しかった。
ああ、やっぱり森口くんは素敵な男の子だ。つきあってくれないかな。
告白してほしい。こっちから告ろうかな。断られたらと思うと、ものすごく怖い。
瀬名先輩と唐竹部長が連れ立ってやってきた。このふたりも千歳とユナさんのように仲がいい。
「先輩、相生さんが小説を書いたんです。とても面白いですよ!」と森口くんが言った。
あ、先輩たちに言うのは、ちょっと待ってほしかった。万が一、これを部誌に載せるという流れになったら困る。
活字になって永らく残っていいような作品ではない。
「おお、書いたのか、相生さん。見せてくれ」
「ボクも読みたいな」
当然そうなりますよねー。
仕方がない。おふたりにも読んでもらった。
読み終えて瀬名先輩は笑顔になり、唐竹部長は首を傾げた。
「ボクも面白いと思うな。初心者にしてはよく書けているよ」
「うーん。これはまだ作品になっていないんじゃないか? ただのあらすじだ」
部長の感想を聞いて、わたしは頬を膨らませた。
「どうせ作品になんてなっていないですよ! わたし、もう書きません! 才能がまったくないんですう!」
「こら、直、なんてことを言うんだ! ボクはいいと思うぞ、『発電天使』!」
「あ、ごめん、相生さん。きみが初心者だということを忘れていた。いやあ、素晴らしい作品だよ。最高だ!」
「見え透いたお世辞はいりません。その紙、返してください。捨てます」
「部長、僕は部誌に載せても良いくらいよく書けている作品だと思いますよ」
森口くんがわたしの小説の弁護をしてくれてすごく嬉しい。でも部誌には載せられないよ!
「そうだな。相生さんが書いた記念すべき処女作だ。部誌に載せよう。この紙は俺が預かる」
「ちょっと、だめですよ! 部長、さっき酷評したじゃないですか! 部誌に載せるなんて、絶対にだめ!」
「他の作品を書いてくれる?」
「もう書きません!」
「じゃあこれは俺が持っておく。部長権限で、掲載するかどうかを判断させてもらう」
「部長権限って……。それ、わたしが書いたものですよ! 載せるかどうかはわたしが決めます。それは没です!」
「部員は最低でも1作品は部誌用の作品を書くべきなんだ。もしこれを載せられたくないなら、別の作品を提出したまえ」
「ええーっ、もう書けないですよお……」
「がんばれ」
「うう……。それは、川尻唯ちゃんの事故に触発されて、勢いで書けたものなんです。もう書ける気がしません……」
「そっか。あの事件に刺激されて書いたのか。そう言われると、ますます捨てるには惜しい気がしてきたな。掲載しよう!」
「嘘ですよね……」
大変なことになってしまった。
このままだとわたしの駄作が部誌に載ってしまう。
「部誌掲載作品の締め切りはいつですか?」
「印刷所とのやり取りがあるから、文化祭開催日よりかなり前になる。9月末だ」
「ひーっ、あと半月じゃないですか!」
「9月は文芸部員のがんばりどきなんだ。俺も毎日小説を書いている」
「ボクは漫画をがんばって描いてる」
「僕も同じく一生懸命書いているよ」
うわあ、わたしもがんばらないといけないじゃないか。
文芸に汗を流す気なんてまったくなかったのに……。
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