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怒鳴り付けた俺に、母ちゃんは困った顔で笑った。



「聞いちゃったんだ・・・。」



「聞いちゃったんだ、じゃねーよ!!
何で言わなかったんだよ!?
何で、何で俺に言わなかったんだよ・・・!?」



俺はそう叫び、それから小さく笑った。



「渡は・・・?」



小さな声しか出せなかった俺を母ちゃんは不思議そうな顔で見上げ・・・



「渡?
・・・あ~、うん、まあ・・・渡がいるから大丈夫だよ。」



そう言った・・・。



そう、俺に言ってきた・・・。



その言葉を聞いて・・・



そんな、母ちゃんの言葉を聞いて・・・



俺は母ちゃんの腕を思わず強く握った・・・。



聞きたくなかった・・・。



聞かなければよかった・・・。



渡のことなんて、聞かなければよかった・・・。



聞かなければよかった・・・。



天野さんから、あんな話聞かなければよかった・・・。



血の繋がらない母親と結婚することが出来た男の話なんて、聞かなければよかった・・・。



そんなの出来ない・・・。



そんなのあり得ない・・・。



母ちゃんと俺では、そんなのはあり得ない・・・。



そう思いながらも、母ちゃんの腕を強く握る・・・。



強く、強く、握る・・・。



「光一。」



母ちゃんから呼ばれ、俺は母ちゃんの顔を見下ろす。
嬉しそうに笑っている母ちゃんの顔を。



「今会社で呼ばれてる死神は、そこまで悪い気持ちはしないから。
昔みたいな・・・そういうのとはまた違うから・・・。
だから、大丈夫。
おじいちゃんも渡もいてくれるから、大丈夫。」



母ちゃんがそう言いながら、俺の右手に手を重ねてきた・・・。
少しだけ、重ねてきた・・・。



白くて細い、手をしている・・・。



細すぎるような手をしている・・・。



そんな手を俺の右手に重ねてきて・・・。



「光一、ありがとうね。
でも、本当に大丈夫だから。」



そう言って、笑った・・・。
笑っていた・・・。
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