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第2章 ◆ 見えるものと見えないものと
7. 魔宝石の器④
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「ええと、ルミナさん、魔宝石って媒体にもできるんですか?」
びっくりしてルミナさんに訊き返すと、何でもないように答えてくれました。
「できる。主は、魔宝石のいくつかに精霊を宿したものを人間に渡しておられる。その中の1つがわらわである」
「そうだったんですね、ルミナさんが…って、ええっ!!?」
ちょっと待って。なんかまたものすごい情報を言われた気がするのですが。
隣に座っているフォルトは、「なるほど」と納得した顔をしていて全く動じていません。
2人は何でもないような顔をしているので、びっくりしている私がおかしいのでしょうか?
いやいや、衝撃の事実だったよ!?
とりあえず、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をします。
うん、まずは整理しよう。
「ルミナさん、人間がもらった魔宝石は1つだけじゃなかったんですか?」
そう、絵本の中では石が1つずつしか描かれていなかったから、複数とは思いませんでした。
ルミナさんはその問いに顔をしかめましたが、何かに気がついて頷きました。
「ふむ。だいぶ昔の話だからな。人間達にどう伝わっていったのかは知らぬが、主はいくつもの魔宝石を渡しておられる。その時だけではない。その後もときどき人間に何の前触れもなくぽんっと渡しておられたようだ。クリスの時のようにな」
それは知らなかった事実です。
は!そう言えば、フォルトも魔宝石を見せた時『懐かしいもの持ってんなー』って言ってた。
それはつまり、私が持ってるもの以外を見たってことです。精霊王さんが持っているのを見たって言ってたのがそういう事。
気づくのが遅いよ、私…!
言葉を失っていると、ふともう1つ気がついてしまいました。とてもいまさらなことを。
ライゼンさんはどうして見ただけで魔宝石ってわかったんだろう?あの時はちょっと見ただけで触ってもいなかったし。
知識として特徴を知ってたのかな?それともどこかで見たことがあった?
ライゼンさんとの会話をところどころ思い出すと、どこかに違和感を感じました。
でも、それが何に対してなのかわかりません。
首を傾げていると、フォルトが鼻を寄せてきました。
『クリス、俺はいいと思うぜ、魔宝石。クリスの魔力にも合ってるしな』
その目は好奇心でいっぱいで、長い尻尾もふわふわと揺れています。
フォルトは魔宝石にすごく興味があるみたい。
存在を知ってるだけで、実際使っているところは見たことが無いって言ってたもんね。
「フォルト…でも、勝手にいいのかな?精霊王様に許可をもらわなくても大丈夫?」
「その点は心配いらぬ。あの方はいつでもどこにでもおられる。クリスが一言祈れば受け入れてくださるであろう。フォルトにとってもよいことでもある。むしろ喜ばれるであろう」
私の疑問にルミナさんが答えて、心配ないと頭を撫でてくれました。
ルミナさんって頭撫でるの好きなのかな?今日はずっと撫でられっぱなしだよ。
ルミナさんに頭を撫でられながら、フォルトを見つめます。
親友も頷いてくれたので、決めることにしました。
「わかりました。フォルトにとっていいことなら、魔宝石を媒体にします」
媒体があればフォルトとずっと一緒にいられるし、何よりフォルトを守ることができる。
精霊獣を守るだなんて恐れ多いことだけど、親友の休む場所の1つになればいい。
ポケットの魔宝石をもう一度取り出します。
魔宝石は、さっきと変わらず虹色が揺らめいていました。
その輝きを包み込むように両手で握って、心からの祈りを言葉にします。
「精霊王様、この魔宝石を私の親友の媒体にさせてもらいますね」
その時、柔らかな風が頬を撫でました。
あの優しい声で「いいよ」って言われた気がして、なんだか涙が出そうになりました。
次また出会えた時、たくさんお話しできたらいいなと願いました。
「さて、それでは早速媒体契約をしようか。クリス、そのまま魔宝石を握りしめておれ」
ルミナさんはそう言うと、私とフォルトの前に立ちます。お互いが手を伸ばせば届く位置です。
ルミナさんが私の握りしめた手を優しく撫でると、紋章術が私の手を中心にして展開されました。私の手と言うより、魔宝石からかもしれません。
そのまま紋章術はまるでレース編みのようにどんどん広がっていって、私とフォルトを包んでいきました。
その温かい感覚に心もぽかぽかになってきます。
「クリス、そのままフォルトを取り込むイメージだ」
フォルトとお互いに頷いて、ルミナさんに言われたとおりにイメージしてみます。
魔力を自分の中に取り込むように、フォルトを魔宝石の中へと誘導するイメージをしました。
すると、フォルトの体が光りだしてキラキラと光の粒に変わります。そして、そのまま手の中の魔宝石へと吸い込まれていきました。
「せ、成功したのかな?」
恐る恐る手の中の魔宝石を見てみたら、夕焼け色の光が強く輝いていました。これはフォルトの「色」だとわかります。
その様子を見たルミナさんは、微笑んで頷きました。
「うむ。うまくいったようだな。媒体に入っても魔法会話でフォルトと話せるからやってみるといい」
「あ、はい!」
ルミナさんに言われて、魔法会話でフォルトに呼びかけます。
するとすぐに返事が返ってきて、ほっとしました。
『魔宝石の中は何にもねーけど、広いし、すっげーあったかくて安心できるぞ。眠るにはいい場所だな!』
その弾んだ声に、魔宝石を媒体にしてよかったと思いました。
寝る時やお昼寝も離れなくても済むし、何かあってもすぐに合流できる。
あ、媒体ってフォルトだけのお部屋になるってことなのかな?
媒体に入ってしまえば私もフォルトもお互い見えないし、フォルトも誰の目にも触れない自分だけの時間とか必要だよね。
「フォルトが気持ちよく過ごせる場所になっているなら私もうれしいよ」
『おう。気に入ったぞ!』
2人でくすくす笑い合っていると、ルミナさんが優しい目で見つめてきます。
そして、再び私の手に触れてきました。
「媒体から解放する時は、中に入れた時と逆の流れを思い浮かべればよい。おめでとう、これで立派な精霊魔術師だな」
「いろいろと教えてくれてありがとうございます。精霊魔術師になるつもりはないですけど、これで寮生活は寂しくなくなりました」
「ふふふ。寂しくなくなった、か。フォルトを出し入れできるようになった今ならクリスの評価は高くなるであろう」
そう言って楽しそうに笑うルミナさんは、私が海組で微妙な立場だという事を知っていたみたいです。
確かに、フォルトを出し入れできれば評価は上がるかもしれないけど…それってそんなに重要なことなのかな?
先生や先輩達にだってできていることです。誰にでもできていることに首を傾げていると、ルミナさんが答えを導く先生のように微笑みます。
「クリス、誰にでもできていることだと思っておるのか?精霊魔術師というのはな、数も少ないし魔術師の中でも上位クラスなのだ。王宮魔術師にも匹敵するのだぞ?」
「え、ええっ!?そうなんですか!?」
だ、だって、みんな普通に何でもないように出し入れしてるよね!?それが普通じゃないってこと!?
「王宮魔術師にも匹敵する」と言われて、海組って本当にすごい人達が集まってるんだと改めて思いました。
先生や先輩達のすごさに、なんだか自分がこの組にいていいのかちょっと弱気になってきます。
フォルトを出し入れできてるって言っても、媒体のおかげな気がするし…。
そんな私の不安を見透かしたように、ルミナさんはまた言いました。
「わかっておらぬな、クリス。主の魔宝石とフォルトという最強の味方を付けておるのだ。その時点でもう普通ではなかろう?それを誇れ。王宮魔術師なんぞ目ではないであろう」
『そうだぜ、クリス!俺はクリスとだから契約をしたんだ。おまえと一緒なら誰にも負けねーぞ!』
それは言い過ぎかもしれないけど、その2人の励ましがうれしくて今日一番の笑顔でそれに頷きました。
「…っうん!ありがとう!」
そんなこんながあって、結局夕食になる時間まで中庭でルミナさんとフォルトと一緒にたくさんおしゃべりをしました。
ルミナさんは、話してみると初めて会った時の印象とは全然違っていて、ルルーシア先輩に似てるなと思いました。
話し方もどこか似ているし、わからないことがあればすぐに答えは言わないで、考えさせてくれてから教えてくれる。
なんだかもう一人先輩ができたみたいで、うれしい。
「ルルはわらわが面倒を見ておったからな、態度や言葉遣いが似ていてもおかしくはなかろう」
「えっ、ルルって、ルルーシア先輩のことですか?」
先輩の凛々しい見た目に反して、かわいい呼び方にちょっとびっくりです。
「うむ。あれがまだ赤子の時から傍におったからな。最近は呼ぶことが無くなったが、わらわの中ではいつまでもかわいいルルなのだ」
「そうだったんですね」
ルミナさんが懐かしそうに目を細めて微笑むから、小さい頃のルルーシア先輩は本当にかわいかったんだろうなと思います。
先輩の子ども時代…一体どんな風だったのでしょうか?
もっと仲良くなって、いつかそんな昔話とか訊けたらいいな。
「クリス、こんなところにいたのか」
誰かに呼ばれて振り返ると、そこにはさっきまで話題にしていた人が。
腕を組んで、ちょっと不機嫌そうな顔は相変わらずです。
「ルルーシア先輩、お疲れ様です。何かありましたか?」
「そろそろ夕食の時間だ。あと、ルミナを探しているのだが、見なかったか?」
「え…」
隣にいるルミナさんの方に振り返ると、そこには誰もいませんでした。
あれ!?いつの間にいなくなっちゃったの!?
足元で伏せているフォルトがいたずらが成功したように笑っているのが見えました。
「すみません、さっきまで一緒におしゃべりしてたんですけど…どこかに行っちゃいました」
「…なっ!?……そうか、わかった。ありがとうクリス」
ルルーシア先輩は、びっくりするとちょっとだけ暗い顔になりました。
いつもの厳しさと凛とした空気はなく、どこか苦しそうな顔です。
その顔は今日のお昼のやり取りを思い出して、なんだか気になります。
…何かあったのかな?
「他の場所を探してみるとするよ。じゃあな」
ちょっと考えている間に、ルルーシア先輩は来た道を足早に去ってしまいました。
それを見送って、フォルトと目を合わせます。
フォルトも不思議そうな顔をしていて、やっぱりルルーシア先輩の様子がいつもと違うと改めて思いました。
それに、ルミナさんもどうして先輩に会わないで消えちゃったんだろう?
そのことに首を傾げましたが、ルミナさんはいつも急に現れては唐突にいなくなるので、いつものことなのかなと思い直しました。
「フォルト、ごはん食べに行こっか」
『そうだな。今日は何が出るんだ?』
「えっとね、確かごろごろ野菜のスープと、それと……」
だから私達はすぐに気にならなくなって、今日の晩ご飯の話をしながら寮へ帰りました。
のちにこのことがちょっとした事件に繋がるとは思ってもみませんでした。
びっくりしてルミナさんに訊き返すと、何でもないように答えてくれました。
「できる。主は、魔宝石のいくつかに精霊を宿したものを人間に渡しておられる。その中の1つがわらわである」
「そうだったんですね、ルミナさんが…って、ええっ!!?」
ちょっと待って。なんかまたものすごい情報を言われた気がするのですが。
隣に座っているフォルトは、「なるほど」と納得した顔をしていて全く動じていません。
2人は何でもないような顔をしているので、びっくりしている私がおかしいのでしょうか?
いやいや、衝撃の事実だったよ!?
とりあえず、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をします。
うん、まずは整理しよう。
「ルミナさん、人間がもらった魔宝石は1つだけじゃなかったんですか?」
そう、絵本の中では石が1つずつしか描かれていなかったから、複数とは思いませんでした。
ルミナさんはその問いに顔をしかめましたが、何かに気がついて頷きました。
「ふむ。だいぶ昔の話だからな。人間達にどう伝わっていったのかは知らぬが、主はいくつもの魔宝石を渡しておられる。その時だけではない。その後もときどき人間に何の前触れもなくぽんっと渡しておられたようだ。クリスの時のようにな」
それは知らなかった事実です。
は!そう言えば、フォルトも魔宝石を見せた時『懐かしいもの持ってんなー』って言ってた。
それはつまり、私が持ってるもの以外を見たってことです。精霊王さんが持っているのを見たって言ってたのがそういう事。
気づくのが遅いよ、私…!
言葉を失っていると、ふともう1つ気がついてしまいました。とてもいまさらなことを。
ライゼンさんはどうして見ただけで魔宝石ってわかったんだろう?あの時はちょっと見ただけで触ってもいなかったし。
知識として特徴を知ってたのかな?それともどこかで見たことがあった?
ライゼンさんとの会話をところどころ思い出すと、どこかに違和感を感じました。
でも、それが何に対してなのかわかりません。
首を傾げていると、フォルトが鼻を寄せてきました。
『クリス、俺はいいと思うぜ、魔宝石。クリスの魔力にも合ってるしな』
その目は好奇心でいっぱいで、長い尻尾もふわふわと揺れています。
フォルトは魔宝石にすごく興味があるみたい。
存在を知ってるだけで、実際使っているところは見たことが無いって言ってたもんね。
「フォルト…でも、勝手にいいのかな?精霊王様に許可をもらわなくても大丈夫?」
「その点は心配いらぬ。あの方はいつでもどこにでもおられる。クリスが一言祈れば受け入れてくださるであろう。フォルトにとってもよいことでもある。むしろ喜ばれるであろう」
私の疑問にルミナさんが答えて、心配ないと頭を撫でてくれました。
ルミナさんって頭撫でるの好きなのかな?今日はずっと撫でられっぱなしだよ。
ルミナさんに頭を撫でられながら、フォルトを見つめます。
親友も頷いてくれたので、決めることにしました。
「わかりました。フォルトにとっていいことなら、魔宝石を媒体にします」
媒体があればフォルトとずっと一緒にいられるし、何よりフォルトを守ることができる。
精霊獣を守るだなんて恐れ多いことだけど、親友の休む場所の1つになればいい。
ポケットの魔宝石をもう一度取り出します。
魔宝石は、さっきと変わらず虹色が揺らめいていました。
その輝きを包み込むように両手で握って、心からの祈りを言葉にします。
「精霊王様、この魔宝石を私の親友の媒体にさせてもらいますね」
その時、柔らかな風が頬を撫でました。
あの優しい声で「いいよ」って言われた気がして、なんだか涙が出そうになりました。
次また出会えた時、たくさんお話しできたらいいなと願いました。
「さて、それでは早速媒体契約をしようか。クリス、そのまま魔宝石を握りしめておれ」
ルミナさんはそう言うと、私とフォルトの前に立ちます。お互いが手を伸ばせば届く位置です。
ルミナさんが私の握りしめた手を優しく撫でると、紋章術が私の手を中心にして展開されました。私の手と言うより、魔宝石からかもしれません。
そのまま紋章術はまるでレース編みのようにどんどん広がっていって、私とフォルトを包んでいきました。
その温かい感覚に心もぽかぽかになってきます。
「クリス、そのままフォルトを取り込むイメージだ」
フォルトとお互いに頷いて、ルミナさんに言われたとおりにイメージしてみます。
魔力を自分の中に取り込むように、フォルトを魔宝石の中へと誘導するイメージをしました。
すると、フォルトの体が光りだしてキラキラと光の粒に変わります。そして、そのまま手の中の魔宝石へと吸い込まれていきました。
「せ、成功したのかな?」
恐る恐る手の中の魔宝石を見てみたら、夕焼け色の光が強く輝いていました。これはフォルトの「色」だとわかります。
その様子を見たルミナさんは、微笑んで頷きました。
「うむ。うまくいったようだな。媒体に入っても魔法会話でフォルトと話せるからやってみるといい」
「あ、はい!」
ルミナさんに言われて、魔法会話でフォルトに呼びかけます。
するとすぐに返事が返ってきて、ほっとしました。
『魔宝石の中は何にもねーけど、広いし、すっげーあったかくて安心できるぞ。眠るにはいい場所だな!』
その弾んだ声に、魔宝石を媒体にしてよかったと思いました。
寝る時やお昼寝も離れなくても済むし、何かあってもすぐに合流できる。
あ、媒体ってフォルトだけのお部屋になるってことなのかな?
媒体に入ってしまえば私もフォルトもお互い見えないし、フォルトも誰の目にも触れない自分だけの時間とか必要だよね。
「フォルトが気持ちよく過ごせる場所になっているなら私もうれしいよ」
『おう。気に入ったぞ!』
2人でくすくす笑い合っていると、ルミナさんが優しい目で見つめてきます。
そして、再び私の手に触れてきました。
「媒体から解放する時は、中に入れた時と逆の流れを思い浮かべればよい。おめでとう、これで立派な精霊魔術師だな」
「いろいろと教えてくれてありがとうございます。精霊魔術師になるつもりはないですけど、これで寮生活は寂しくなくなりました」
「ふふふ。寂しくなくなった、か。フォルトを出し入れできるようになった今ならクリスの評価は高くなるであろう」
そう言って楽しそうに笑うルミナさんは、私が海組で微妙な立場だという事を知っていたみたいです。
確かに、フォルトを出し入れできれば評価は上がるかもしれないけど…それってそんなに重要なことなのかな?
先生や先輩達にだってできていることです。誰にでもできていることに首を傾げていると、ルミナさんが答えを導く先生のように微笑みます。
「クリス、誰にでもできていることだと思っておるのか?精霊魔術師というのはな、数も少ないし魔術師の中でも上位クラスなのだ。王宮魔術師にも匹敵するのだぞ?」
「え、ええっ!?そうなんですか!?」
だ、だって、みんな普通に何でもないように出し入れしてるよね!?それが普通じゃないってこと!?
「王宮魔術師にも匹敵する」と言われて、海組って本当にすごい人達が集まってるんだと改めて思いました。
先生や先輩達のすごさに、なんだか自分がこの組にいていいのかちょっと弱気になってきます。
フォルトを出し入れできてるって言っても、媒体のおかげな気がするし…。
そんな私の不安を見透かしたように、ルミナさんはまた言いました。
「わかっておらぬな、クリス。主の魔宝石とフォルトという最強の味方を付けておるのだ。その時点でもう普通ではなかろう?それを誇れ。王宮魔術師なんぞ目ではないであろう」
『そうだぜ、クリス!俺はクリスとだから契約をしたんだ。おまえと一緒なら誰にも負けねーぞ!』
それは言い過ぎかもしれないけど、その2人の励ましがうれしくて今日一番の笑顔でそれに頷きました。
「…っうん!ありがとう!」
そんなこんながあって、結局夕食になる時間まで中庭でルミナさんとフォルトと一緒にたくさんおしゃべりをしました。
ルミナさんは、話してみると初めて会った時の印象とは全然違っていて、ルルーシア先輩に似てるなと思いました。
話し方もどこか似ているし、わからないことがあればすぐに答えは言わないで、考えさせてくれてから教えてくれる。
なんだかもう一人先輩ができたみたいで、うれしい。
「ルルはわらわが面倒を見ておったからな、態度や言葉遣いが似ていてもおかしくはなかろう」
「えっ、ルルって、ルルーシア先輩のことですか?」
先輩の凛々しい見た目に反して、かわいい呼び方にちょっとびっくりです。
「うむ。あれがまだ赤子の時から傍におったからな。最近は呼ぶことが無くなったが、わらわの中ではいつまでもかわいいルルなのだ」
「そうだったんですね」
ルミナさんが懐かしそうに目を細めて微笑むから、小さい頃のルルーシア先輩は本当にかわいかったんだろうなと思います。
先輩の子ども時代…一体どんな風だったのでしょうか?
もっと仲良くなって、いつかそんな昔話とか訊けたらいいな。
「クリス、こんなところにいたのか」
誰かに呼ばれて振り返ると、そこにはさっきまで話題にしていた人が。
腕を組んで、ちょっと不機嫌そうな顔は相変わらずです。
「ルルーシア先輩、お疲れ様です。何かありましたか?」
「そろそろ夕食の時間だ。あと、ルミナを探しているのだが、見なかったか?」
「え…」
隣にいるルミナさんの方に振り返ると、そこには誰もいませんでした。
あれ!?いつの間にいなくなっちゃったの!?
足元で伏せているフォルトがいたずらが成功したように笑っているのが見えました。
「すみません、さっきまで一緒におしゃべりしてたんですけど…どこかに行っちゃいました」
「…なっ!?……そうか、わかった。ありがとうクリス」
ルルーシア先輩は、びっくりするとちょっとだけ暗い顔になりました。
いつもの厳しさと凛とした空気はなく、どこか苦しそうな顔です。
その顔は今日のお昼のやり取りを思い出して、なんだか気になります。
…何かあったのかな?
「他の場所を探してみるとするよ。じゃあな」
ちょっと考えている間に、ルルーシア先輩は来た道を足早に去ってしまいました。
それを見送って、フォルトと目を合わせます。
フォルトも不思議そうな顔をしていて、やっぱりルルーシア先輩の様子がいつもと違うと改めて思いました。
それに、ルミナさんもどうして先輩に会わないで消えちゃったんだろう?
そのことに首を傾げましたが、ルミナさんはいつも急に現れては唐突にいなくなるので、いつものことなのかなと思い直しました。
「フォルト、ごはん食べに行こっか」
『そうだな。今日は何が出るんだ?』
「えっとね、確かごろごろ野菜のスープと、それと……」
だから私達はすぐに気にならなくなって、今日の晩ご飯の話をしながら寮へ帰りました。
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