空気より透明な私の比重

水鳴諒

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―― Chapter:Ⅱ ――

【022】事故の記憶

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 翌日の空は曇天だった。雨が降る様子は無いが、白い雲が低く低く見える。
 今日は九月最後の自由登校日だ。金曜日。

「嶺色くんは、学校行ってるのかな?」

 呟きながら、佳音は公園にいるのではないかと期待していた。自分が教室に行きたくないという理由もあるが、嶺色に会いたいという気持ちが大きい。

 さと瀬公園へと足を運ぶと、今日は茂みの迷路ではなく、灰色の猫が座るベンチの前に嶺色が立っていた。なにやら熱心に話しかけていて、こちらに気づいていない。

「そうか。本当は死ぬはずじゃないんだな。あとはきっかけだけか」

 そう聞こえた時、佳音は立ち止まった。そして驚かそうと、少し遠くから声をかける。

「嶺色くん? 猫とも話せるの?」
「っ」

 すると嶺色がビクリとした。してやったりという気持ちになりながら、佳音は横に並んで立つ。

「あー、いや。こいつは、カフェにもいただろ? 死神が普段は猫の姿をしてるんだよ」
「死神……? 猫じゃないの?」
「いや、本質は灰色のローブの男だよ」

 嶺色が不思議な事を言うものだから、佳音は反応に困りつつ、確かにカフェでもそういった風貌の男性を見た事を思い出した。交通事故に遭う直前にも目にした。

 それはそうと、佳音は今日こそはっきりさせたい事があった。

「ねぇ、嶺色くん、あの」
「ん?」
「私と付き合ってくれる?」

 勇気を出して佳音は尋ねた。胸がドクンドクンと煩い。

「……」

 沈黙した嶺色は悲痛そうな面持ちをしている。フラれるのだろうかと、佳音は覚悟しながらも続けた。

「ダメ? 両想いなんだよね?」
「……僕が、お前を抱きしめられるようになったらな」
「そんなの今でも!」

 佳音は嶺色の反応に歓喜し、横から嶺色に飛びつこうとした。
 ――だが。
 抱きつこうとした手が、嶺色の体をすり抜けた。
 そのまま前に転びそうになってから体勢を立て直し、ぎょっとして佳音は振り返る。
 それから自分の両手を見ると、透過して見えた。

「霊はよほどの事がなければ、単独じゃないと物に触れない」
「えっ……?」
「言っただろ、自分が霊だとも気づかないって」
「……な、何言って」
「よく思い出せ、お前は事故に遭って――」

 嶺色の言葉が終わる前に、佳音の脳裏に走ってきたトラックの姿がよぎった。
 確か、跳ね飛ばされたのでは無かったか。
 ノイズと赤で視界が閉まり、真っ暗になった記憶。時に緑の砂嵐が混ざり、痛いような熱いような、そんな感覚が後頭部にした。

 救急車の中、呼びかけられた声。
 搬送された病院で、紺色の術着姿だったのは江崎だ。
 それから己は暗闇に飲まれて――、そして? その後は?

 ……私はいつ退院したの? 佳音は自問自答してみたが思い出せない。
 ……そんな―― 声を出そうとした。しかし声帯が震えている感覚が無い。

 佳音の目の前が真っ暗になった。
 そうだ、自分は……事故に遭って……。

 そのまま佳音の公園に在った意識は消失した。



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