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―― 第一章 ――
【009】再会
しおりを挟む半ば走るようにして戻ったのは、いつ手長足長が来るとも分からなかったからだ。
土足のまま家の中に入り、階段を駆け上がって自分の部屋へ行く。そして学習机の抽斗から二番目を開けた。これは小学生の頃に買った物を、そのまま使っている。
「あった……」
巾着袋を両手で持ち上げ、感触で中に鍵があると分かったが、一度中身もしっかりと確認した。大切な母の形見の品であるから、これはどうしても持っていきたい。
「早く戻ろう」
そう呟いて、部屋を出て階段を引き返す。
轟音がしたのはその時だった。丁度階段の一番下まで降りた時、隣のダイニングキッチンとリビングが、屋根ごと陥没した。見ればそこには、巨大な足がある。
「っ」
――嘘。
――どうして。
――なんで今になって急に。
そんな言葉を放ちそうになったが、気配に気づかれたくなくて声を飲み込む。ポケットに入れた巾着に、無意識にブレザーの上から触れる。
すぐに足は宙に浮き、家の後ろの方向へと立ち去ったようだった。ぎこちなく壊れた部屋を見れば、先程見ていたテレビが丸めた缶のようにひしゃげていた。倒壊の危険があると確信して、青ざめたままで美緒は家を出る。
「美緒」
すると声がかかった。それは何処か驚いたような声音だった。
聞き覚えのある声音に、反射的に美緒は視線を向ける。そこには、迷彩柄の制服姿の自衛官が数名いた。その中の一人が、周囲に何か話してから、美緒へと歩みよってくる。
「悠迅先輩!」
「無事だったのか? いや……間一髪だな。お前の家と俺の家の間を足長が踏んだからな……」
ヘルメットをかぶっている悠迅は、二軒並んでいる家を見た。裏手には土手があるのだが、手長足長はそちらを越えて歩いていった様子だ。
「どうしてここに?」
「俺のいる隊にも、救助指示が出たんだ。正式に要請も降りてきた。それで土地勘があるからという事で、この周囲を俺が案内していたら……まさか自分の家が壊れる姿を見るはめになるとはな。それはともかく、美緒。無事でよかった」
つらつらと語るように言った悠迅の声は、凛としていて低音だ。昨年のゴールデンウィークの時に顔を合わせた時と変わらない、あるいはさらに大人びた存在感に、見ているだけで美緒は肩の力が抜けそうになる。会いたかった相手だ。こんな時に、誰よりもそばにいてほしいのが悠迅だ。
「白虎小に、お母さんと昭吾は避難してるの。悠迅先輩のところのおばさんは?」
「うちの母親と父親は、丁度昨日から北海道旅行に行ってるんだ。誰よりも安全かもしれない。手長足長が会津盆地から出ないとするならば、だけどな」
そう言うと悠迅は、他の自衛官に振り返った。
「民間人です。俺の幼馴染みです」
悠迅の声に、一人が口笛を吹いた。
「カノジョか?」
「違う。この緊急時に、そういう冗談を言うな、度会」
度会と呼ばれた自衛官は、くすくすと笑うと頷いた。
「悪い悪い」
「近所の小学校が避難所になっているそうだから、そこまで彼女を送りたい」
悠迅の声に、度会も含めて、その場にいた自衛官が頷いた。
「あ、あの、私一人でも大丈夫です。すぐそこですし」
「じゃあ白虎小までの案内係ということで頼む」
微苦笑した悠迅を見て、心配してくれる優しさが健在だと知り、美緒の胸が僅かに疼いた。そういうところが、好きなのだ。
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