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―― 第一章 ――
【008】母の形見
しおりを挟む学校側の話によると、屋内は危険が伴うとの判断らしい。
かといって、踏み潰されそうになった美緒からすると、屋外が安全だとも思えなかったが、確かに確率で言えば、手長の方が厄介だ。
そう考えながら空を見上げると、偵察機らしきものが飛んでいた。知識が無いから、美緒にはどこの飛行機かは分からなかったが、真っ直ぐに手長足長へと向かって言ったのが見えた。
気づけばもう、午前十二時半を過ぎていた。
通常であれば昼食の時間だが、空腹は感じない。校庭の端のブルーシートの上で体育座りしている美緒は、外で配布された給食の牛乳を見ていた。秋香は昭吾のそばに付き添っている。そういう保護者が多々いる。それを遠くから眺めながら、美緒は両腕で膝を抱きしめ、そこに額を押しつけた。
学校のみんなは無事だろうか。
高校が分かれたこれまでの友達は無事だろうか。
――お父さんは?
スマホの家族グループには、父からのメッセージは届いていない。学校の友人は、グループメッセージのやりとりが出来るアプリで確認したかぎり、無事な者が多いのだが、一番親しい北見由亜の反応は無い。個別でメッセージを送ったが、そちらにも既読はつかない。
「どうしてこんな事になっちゃったんだろう……」
美緒は、理不尽だと思った。
手長足長になんて、備えようがない。勿論秋香が持ち出してきたような災害備蓄セットは役立つし、SNSの豆知識だって重宝している。だが、予知も予見もできっこない。なにせ、怪物だ。物の怪だ。
その時ふと、美緒は亡くなった実母の事を思い出した。実母の真奈美は、只見寺の住職の一人娘で、手長足長の昔話も、真奈美から美緒は聞いた。
『悪い妖怪が現れたら、私達がお札を貼り付けないとね』
そう言って、『ざっと昔』から始まる昔話を締めくくる事が多かった。
「お札なんてただの伝承でしょ……私は弘法大師じゃないんだから……」
はぁっと美緒は溜息をついた。
「あ……」
その時美緒は、思い出した。つらつらと母の事を考えていたら、亡くなる前に渡された形見の事を思い出したのである。母は美緒に、紺色の巾着を残した。中には古びた鍵が入っている。母が言うには、代々只見寺に受け継がれてきたのだという。子から孫へと渡すものだそうで、母は祖父の岩瑛に貰ったそうだ。岩瑛も、今は美緒がそれを持っていると知っていて、大切にするようにと話していた。
「家においてきちゃった……」
美緒は手長足長の方角を見る。もう二時間ほど、手長足長は動きを止めている。
――今ならば、取りに戻れるかも知れない。
そう考えて美緒は立ち上がった。秋香達に話せば止められると思い、また心配を開けたくなかったので、一人ひっそりと学校の敷地から外へと出る。そして美緒は、自宅を目指した。
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