桜の木の下でイケメンとモブは何をするか。

黒猫と招き猫

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本編

17.

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 「それは、なぜだ」

 手を握りしめ、前を向いてりんに問う。
 震える手は、小さな手に重なって見えて余計に自分の幼さが際だった。

 「分かってますよね?」

 それはもはやら問いかけではなかった。それほどまでに確信めいたものだった。

 私を買っているのか、否か。

 それだけではないのだろうな。

 「それに、認めないのは私だけでは、ありません」

 「       、」

 「分かって、おいででしょう?」

 あぁ、知っていた。気がついていたよ。君がここにいる、隣にいるのだから。


 私は、一人では飛べないのだから。

 その名を君が口にするなんてことをしなくても分かっていた。

 「そう、だな」

 頷いて、了承の意を示した。だが、りんの顔は見なかった。

 視界の端でピンクがまた揺れた。

 「では、教室に戻りましょうか」

 「いや、先に戻っていてくれ」

 顔を見ずにそう言うと、りんは僅かな空白をもち、去っていた。


 「君の手は小さいな」

 その背を見ながら、意味もなく問いかけたその言葉は届いたのだろうか。 
 一切の躊躇いを見せず進んでいく、りんからは読み取ることは出来なかった。

 
 ガラス窓から外を見ても、中庭しか見えなかった。
 上を見上げると、深い青空が映り込んだ。





 トン、トン

 耳にゆっくりとした足取りが入り込む。
 誰だろうか。生徒か、先生か、りんではないだろう。
 私たちが来た方から聞こえてきたそれに、なんの警戒心も抱かずに後ろを振り向いた。
 ただ、なんとなく、当たり前のように、自然に、視認しようとした。

 「おはよう~。いや、こんにちはかな~?」

 深い海を見ることになるなんて、思いもせずに。

 えっ、声がこぼれ落ちる前に怒涛の勢いで話される。

 「やーやー、昨日ぶりだねー。元気~?そういえば、集会で俺のこと見たでしょー。俺、書記なんだ~。驚いた~?」

 あまりな話し方にポカーンとしてしまう。自分でもアホ面になっているのが分かるくらい。

 そしてまたも、急激に止まった会話に困惑してしまう。

 「こ、こんにちは?」

 何も喋らないのは変な気がして、挨拶をしてみるが、シュールな感じになってしまい、戸惑っている。

 「あはは、昨日のはどうした、どうした」

 だが、こちらが消沈中なのをお構いなしにケラケラと笑っている。

 「…で、なんですか?」

 さすがに苛立ったので、早くこの場を退散しようと返答する。

 「え~、お話しようとしただけだよ~」

 面倒なやつだなと、先輩の前で重いため息を吐き出し、踵を返す。
 そろそろ教室に戻らないと先生も困るだろう。

 「え~、酷い~」

 また、わざとらしく泣き真似でしてるのだろう。そう思い、呆れた顔で振り返る。







 どっ、どっ、どっ…



 先輩と目が合う。
 
 「な~んで、皐月家の娘に敬語使われているのかな~?」

 ケラケラと笑う先輩の目は全く笑っていなかった。
 
 

 

 
 

 
 
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