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記憶。想い出

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「──そういえば。ひと月後に、バーバラ王女がいらっしゃるとの連絡がありましたよ」

 いつものように、アルオの自室で朝食をとる三人。そんな中。ふと思いついたようにモンタギューから伝えられた事に、アルオは眉間の皺を思い切り深めた。

「……なんだと?」

「ひと月後に、バーバラ王女が来られます。去年は内戦がありましたから回避できましたが、今年はそうはいきません。諦めてください」

 きっぱり告げられ、アルオが頭を抱える。隣に座るリオンは、はじめて聞く名前に首を捻っていた。


 世界でも一、二を争うほどの大国とされ、強大な軍事力を誇るアーゼス王国。その現国王の九番目の娘であるバーバラ王女は、毎年、交流を深めるためだと言って、友好国であるラニーリ王国にやってくる。だがその理由は、単にアルオに逢いたいだけだということは両国ともすでに承知している。

 アルオが十代目国王に就任したとき、一度だけ友好国であるアーゼス王国に赴いた。どうぞよろしくと。そのときに、バーバラがアルオに一目惚れをしたのだ。以来、毎年のようにバーバラはやってくるようになってしまった。相手は大国のお姫様なので、誰も何も言えない。むろん、アルオとて例外ではない。アーゼス国王も、末っ子のバーバラには甘いようで、今年もよろしくとしか言ってこない。

 アルオより六歳年下のバーバラは、もう結婚していてもおかしくない年齢ではある。だが、いまだに婚約者もいないらしい。その理由は──。

(……アルオ様に正妻がいないことが原因でしょうね)

 モンタギューが紅茶を飲みながら、心で呟く。どうもバーバラの中で、本当はわたくしと結婚したいのに、ラニーリ王国の絶対である決まりごと──王族以外の血をまぜぬこと──が、アルオとの仲を引き裂いていると思い込んでいるふしがあるのだ。

『アルオ様は、本当はわたくしのことが好きなのですわ。けれどこの国が、それを邪魔しているのです。正妻がいらっしゃらないのがその証拠です』

 などと言っているのをモンタギューは聞いたことがあるので、間違いはないだろう。はたから見ていれば、アルオがバーバラに好意を抱いていないのはあきらかなのだが、どうも本人には少しも伝わっていないようだ。

 バーバラの滞在期間は、五日間。

 何事も起こらなければよいと、モンタギューは密かに願っていた。
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