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記憶。想い出

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 助走した勢いで壁を走り、メガイラがいる高さまできたモンタギューは、壁を蹴った。同時に、剣を抜く。

 空に浮いたメガイラが、目を見開く。モンタギューはその手のひらにある箱に向かって、空中で剣を振り下ろした。

「──ひっ」

 メガイラが目を閉じる。手のひらにある箱が宙に投げ出された。モンタギューはすかさずそれを、剣で真っ二つに切った。地上に鮮やかにおりたったモンタギューが、剣を構えたままメガイラに視線を向ける。メガイラが、顔の前に出していた腕をさげ、モンタギューを見た。視線が交差する。今にも殺さんばかりの目を向けられたメガイラは、ぞくっとした。

(……何て。何て殺意なの。私を神族と知った上でそんな、そんな……っ)

 全身をぶるりと震えさせたかと思えば、メガイラは何故かぽっと顔を赤らめた。

 ──何でだよ。

 その場にいる何人かが、心で突っ込んだ。魔王が「男の趣味の悪さは相変わらずだのう」と肩をすくめた。メガイラは単純に、容赦のない殺意を向けてくれる男にぞくぞくする体質だった。

「に、人間にこんな屈辱を味わされたのは初めてだわ。名前を教えなさい!」

 モンタギューが「名無しです」と、低い声音で答える。メガイラは、興奮したように「ナ、ナナシね! 覚えたわよ!」と口角をあげた。

 モンタギューは殺気をまとったまま「誰か。急ぎ弓を持ってきてください」と言った。慌てたのは、臣下たちだ。

「モ、モンタギュー殿。気持ちはわかるが相手は神族であるからして」

「そんなこと、知ったこっちゃありません」

 冷徹な声音のモンタギューに、まわりが震えあがる。一部の人間しか知らないことだが、モンタギューはアルオより残酷なところがある。リオンを拐った人買いに、拷問のすえに第四公妾のことを短時間で吐かせたのは、モンタギューだ。他にも、嘘か本当か。数々のうわさが城には流れている。

 頭の回転も早いうえ、剣の腕もたつ。そんなモンタギューを止められるのは、ただ一人。

「へ、陛下! モンタギュー殿を止めてくだ──陛下……?」

 アルオは無言で気を失っているリオンの元に歩いていき、膝をついた。涙に濡れたリオンの頬にそっと触れたかと思うと、顔をうつ向かせたまま「──八つ裂きにしろ」と、低く言い放った。

 モンタギューが前を向きながら「御意」と答える。臣下たちが「あああ」と嘆きの声をあげる。

「ア、アルオ! わらわも手伝うぞ!」

 魔王の言葉に、メガイラは鼻で笑った。

「ふん。馬鹿じゃないの。私に魔法は効かないの、忘れたの? 魔法しか脳のないあんたに、一体何ができるのかしら?」
 
「──けれど、物理的な攻撃は効くのではないですか?」

 モンタギューが訊ねると、メガイラは視線をそらしながら「ど、どうかしらね」と顔を赤めた。その背後を音もなくとったアルオが、真っ直ぐに剣を振り下ろした。
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