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第2章 『祖父の写真』
第11話 日牟禮八幡宮
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横に並んで改めて、クリスさんはすらりと高身長だと分かる。
程よく引き締まった身体、って言い方はちょっとおじさんくさいけれど、女性が憧れる女性の体形をしている。
羨ましい。
素直に、そう思う。
「さて――雫さん、日牟禮八幡宮へ参ったことはありますか?」
「以前住んでいた時に、何度か。あんまり記憶にはありませんけど」
「では、面白いことを一つお教え致しましょう」
そう言うと、クリスさんは辿り着いた八幡宮の楼門前で足を止めた。
「拝観可能時間は九時からですので、未だ中へは入れませんが。上をご覧ください」
「上……?」
クリスさんに倣って、私は聳え立っ荘厳な楼門を見上げた。
そこに、何やら見知った形を見つけた。
「何あれ……亀?」
「雫さん、大正解です」
小さくぺちぺちと拍手をするクリスさん。
「こちらの楼門は、一八五八年、つまり安政五年に再建されたものになります」
「一八〇〇年代って、聞けば聞くほど途方もなくて想像出来ませんね……そんな時代に、よくこれだけ凄いものが建てられますよね」
「まったくもって同意見です。過去の技術は本当に凄いですよね。今のような機械やまともな器具すらまだないであろう時代ですから。如何に頭脳や経験でこれらを成していたのかが分かります」
クリスさんの言葉に、私は思わずぼーっと楼門を見上げたまま固まってしまう。と、
「あれ? あっちには獅子……猿もいる」
「あら、雫さん、お気付きになられたみたいですね」
クリスさんは楽し気に笑った。
「延文四年は西暦一三五九年頃でしょうか。当時『守護職』と呼ばれる方々がいたのですけれどね。その内の一人、佐々木六角という方が造営し、そこに更に佐甚五郎という方が彫刻を施したと言われています。安政二年に焼失、三年後の安政五年に再建。そこから『四方猿の御門』などと称され始めます。今し方、雫さんが見つけた猿が、まさにそれです。屋根の下に見える猿は、他の三方にも鎮座しており、計四匹の猿が屋根を支えている描写になっていることから、『四方猿の御門』という訳ですね」
「へぇ……」
「他にも、梁の先端部分には獅子、亀は欄間、その裏側には鯉を見つけることも出来るなど、他にも様々な動物が彫られています。祝い事や縁起物、厄除けなど、様々な験ぐ意味合いから、動物彫刻を施されている神社仏閣は多いようですね」
「意味は知らなくとも、見ているだけでも何だか御利益ありそうですよね。正面のバクなんか特に、如何にもな風貌ですし」
「そうですね。神社やお寺という存在が、過去から現在、どれほど神聖視され、また崇められてきたのかが分かるようでもありますよね」
そう括ると、クリスさんは本殿があるらしい本へと合掌し、瞳を閉じた。
「拝殿は叶わずとも、その方角に気持ちを向けることが大切――ここに務めておられる住職様から、以前に教えて頂いたことです。『大事なのは形式よりも心持ちだ』と」
「大事なのは心持ち……何だか、クリスさんのお仕事そのままですね」
「あら、嬉しいことを仰ってくれますね。ですが、その通り、と自分で言ってしまうには聊か恥ずかしいですが、常々意識していることではありますから、気付いて頂けて嬉しいです」
クリスさんは優しく笑った。
その横顔が、何だかとても綺麗に思えて、私は少し見惚れてしまった。
「――さて、次へ参りましょうか」
視線を戻したクリスさんが言う。
「はい!」
朝はいつも簡単なランニングを日課にしているけれど、楽しいと思える朝は、初めてかもしれないな。
程よく引き締まった身体、って言い方はちょっとおじさんくさいけれど、女性が憧れる女性の体形をしている。
羨ましい。
素直に、そう思う。
「さて――雫さん、日牟禮八幡宮へ参ったことはありますか?」
「以前住んでいた時に、何度か。あんまり記憶にはありませんけど」
「では、面白いことを一つお教え致しましょう」
そう言うと、クリスさんは辿り着いた八幡宮の楼門前で足を止めた。
「拝観可能時間は九時からですので、未だ中へは入れませんが。上をご覧ください」
「上……?」
クリスさんに倣って、私は聳え立っ荘厳な楼門を見上げた。
そこに、何やら見知った形を見つけた。
「何あれ……亀?」
「雫さん、大正解です」
小さくぺちぺちと拍手をするクリスさん。
「こちらの楼門は、一八五八年、つまり安政五年に再建されたものになります」
「一八〇〇年代って、聞けば聞くほど途方もなくて想像出来ませんね……そんな時代に、よくこれだけ凄いものが建てられますよね」
「まったくもって同意見です。過去の技術は本当に凄いですよね。今のような機械やまともな器具すらまだないであろう時代ですから。如何に頭脳や経験でこれらを成していたのかが分かります」
クリスさんの言葉に、私は思わずぼーっと楼門を見上げたまま固まってしまう。と、
「あれ? あっちには獅子……猿もいる」
「あら、雫さん、お気付きになられたみたいですね」
クリスさんは楽し気に笑った。
「延文四年は西暦一三五九年頃でしょうか。当時『守護職』と呼ばれる方々がいたのですけれどね。その内の一人、佐々木六角という方が造営し、そこに更に佐甚五郎という方が彫刻を施したと言われています。安政二年に焼失、三年後の安政五年に再建。そこから『四方猿の御門』などと称され始めます。今し方、雫さんが見つけた猿が、まさにそれです。屋根の下に見える猿は、他の三方にも鎮座しており、計四匹の猿が屋根を支えている描写になっていることから、『四方猿の御門』という訳ですね」
「へぇ……」
「他にも、梁の先端部分には獅子、亀は欄間、その裏側には鯉を見つけることも出来るなど、他にも様々な動物が彫られています。祝い事や縁起物、厄除けなど、様々な験ぐ意味合いから、動物彫刻を施されている神社仏閣は多いようですね」
「意味は知らなくとも、見ているだけでも何だか御利益ありそうですよね。正面のバクなんか特に、如何にもな風貌ですし」
「そうですね。神社やお寺という存在が、過去から現在、どれほど神聖視され、また崇められてきたのかが分かるようでもありますよね」
そう括ると、クリスさんは本殿があるらしい本へと合掌し、瞳を閉じた。
「拝殿は叶わずとも、その方角に気持ちを向けることが大切――ここに務めておられる住職様から、以前に教えて頂いたことです。『大事なのは形式よりも心持ちだ』と」
「大事なのは心持ち……何だか、クリスさんのお仕事そのままですね」
「あら、嬉しいことを仰ってくれますね。ですが、その通り、と自分で言ってしまうには聊か恥ずかしいですが、常々意識していることではありますから、気付いて頂けて嬉しいです」
クリスさんは優しく笑った。
その横顔が、何だかとても綺麗に思えて、私は少し見惚れてしまった。
「――さて、次へ参りましょうか」
視線を戻したクリスさんが言う。
「はい!」
朝はいつも簡単なランニングを日課にしているけれど、楽しいと思える朝は、初めてかもしれないな。
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