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第2章 『祖父の写真』
第12話 何が是非ですか
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「ただいま戻りました、おばあちゃん」
「た、ただいまですっ!」
勝手口から戻った私たちは、フロアにその姿があることに気が付き、声を掛けた。
「おかえり、二人とも。雫ちゃんは今日はオフやったね。ゆっくりしいや」
そんな言葉を掛けてくれる珠子さんだけれど、何やらどこか浮かない様子。
「珠子さん……どうかなさったんですか?」
「うん? ああ、別に大したことはないんやけどね」
そんな言葉が出て来る時には決まって、あまりよくない事態であることが大半だ。
私はクリスさんと目配せし、詳しく事情を窺った。
何でも、私たちが出かけていた一時間と少しの間に友人がやって来たらしいのだけれど、そこでどうにも面妖な話を聞かされたと言うのだ。いや、聞かされた、というか見せられた、という方が正しいかな。
珠子さんは、話の流れからそのまま借り受けた、ある一枚の写真を見せてくれた。
それは横長の写真で、真ん中から上の方にかけ、どこかの風景らしいものが映っているのだけれど、問題はその他の情報。
まず一つは、無駄に柵らしいものが映り込んでしまっている点。
そして何やら、写真の下側に、真っ黒で大きな二つの丸い物体が見切れている点。
その友人の話では、これを撮ったのは昔から贔屓にしてもらっているとある家のお子さんで、当時九・十歳の、今は高校生だという。
解読を頼んだのもその子で、どうやらこの写真に関係する人物が亡くなり、遺品の整理をしていたところ発見したとのことだ。
しかし、その子とこの『淡海』とに、繋がりはない。
なら、どうしたそのような依頼――もとい、お願いが来たのかと言うと。
「で、その知り合いからの伝言や。『是非クリスにお願いしたいんや』って」
珠子さんはそう括った。
そのすぐ後で、クリスさんは何かを悟ったように溜息を吐いた。
「まったく、何が『是非お願い』ですか、わざとらしい。その知り合いというのは、谷山さんでしょう? 大方、おばあちゃんが『うちの孫に聞いてみよか』とか言ったんでしょう?」
「……まぁ堪忍やで、汐里。昔からの知り合いやし、断るに断れへんくてな。話の流れやったんや」
珠子さんはバツが悪そうに頷いた。
「はぁ……ほんとやめてくださいよ、もう。『近江のアガサ・クリスティ』なんてあだ名、私はこれ以上広めたくないのに」
呆れて肩を落とすクリスさん。
頭がキレることは確かだけれど、だからと言ってそれを誇らしげにする気がない辺り、この人らしいと言うか。
その後も少しばかりクリスさんのお説教は続き、その間ずっと、珠子さんはしゅんとしていた。
ただでさえ小さなお身体が、ハムスターのように……なんて言ったら、怒られるかな。
ともあれ、とりあえず話を聞かないことには何も出来ないからと、今度の休みにでも当人との話し合いの場を設ける運びとなった。
勿論、珠子さんのセッティングで。
『勝手な依頼を引き受けた責任は取って貰います』
というクリスさんの言葉に、珠子さんは何も返さずに頷いた。
「た、ただいまですっ!」
勝手口から戻った私たちは、フロアにその姿があることに気が付き、声を掛けた。
「おかえり、二人とも。雫ちゃんは今日はオフやったね。ゆっくりしいや」
そんな言葉を掛けてくれる珠子さんだけれど、何やらどこか浮かない様子。
「珠子さん……どうかなさったんですか?」
「うん? ああ、別に大したことはないんやけどね」
そんな言葉が出て来る時には決まって、あまりよくない事態であることが大半だ。
私はクリスさんと目配せし、詳しく事情を窺った。
何でも、私たちが出かけていた一時間と少しの間に友人がやって来たらしいのだけれど、そこでどうにも面妖な話を聞かされたと言うのだ。いや、聞かされた、というか見せられた、という方が正しいかな。
珠子さんは、話の流れからそのまま借り受けた、ある一枚の写真を見せてくれた。
それは横長の写真で、真ん中から上の方にかけ、どこかの風景らしいものが映っているのだけれど、問題はその他の情報。
まず一つは、無駄に柵らしいものが映り込んでしまっている点。
そして何やら、写真の下側に、真っ黒で大きな二つの丸い物体が見切れている点。
その友人の話では、これを撮ったのは昔から贔屓にしてもらっているとある家のお子さんで、当時九・十歳の、今は高校生だという。
解読を頼んだのもその子で、どうやらこの写真に関係する人物が亡くなり、遺品の整理をしていたところ発見したとのことだ。
しかし、その子とこの『淡海』とに、繋がりはない。
なら、どうしたそのような依頼――もとい、お願いが来たのかと言うと。
「で、その知り合いからの伝言や。『是非クリスにお願いしたいんや』って」
珠子さんはそう括った。
そのすぐ後で、クリスさんは何かを悟ったように溜息を吐いた。
「まったく、何が『是非お願い』ですか、わざとらしい。その知り合いというのは、谷山さんでしょう? 大方、おばあちゃんが『うちの孫に聞いてみよか』とか言ったんでしょう?」
「……まぁ堪忍やで、汐里。昔からの知り合いやし、断るに断れへんくてな。話の流れやったんや」
珠子さんはバツが悪そうに頷いた。
「はぁ……ほんとやめてくださいよ、もう。『近江のアガサ・クリスティ』なんてあだ名、私はこれ以上広めたくないのに」
呆れて肩を落とすクリスさん。
頭がキレることは確かだけれど、だからと言ってそれを誇らしげにする気がない辺り、この人らしいと言うか。
その後も少しばかりクリスさんのお説教は続き、その間ずっと、珠子さんはしゅんとしていた。
ただでさえ小さなお身体が、ハムスターのように……なんて言ったら、怒られるかな。
ともあれ、とりあえず話を聞かないことには何も出来ないからと、今度の休みにでも当人との話し合いの場を設ける運びとなった。
勿論、珠子さんのセッティングで。
『勝手な依頼を引き受けた責任は取って貰います』
というクリスさんの言葉に、珠子さんは何も返さずに頷いた。
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