琵琶のほとりのクリスティ

石田ノドカ

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第4章 『水とともに生きる:後編』

第4話 絵地図

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 ジブリールさんの話は、前回聞いた内容と相違なかった。
 ヴェネツィアを訪れた観光客の男の子と仲良くなって、その子と二人で描いた絵を貰って、未来の今、その絵を見つけて、思い出して、でもこの絵はヴェネツィアのもので、その子の語っていたことの意味も分からず意気消沈していた――というところまで一息に話したジブリールさんは、そこで初めて、少し湯気も収まっていたお茶に口をつけた。
 それを見たクリスさんは、すみませんね、と苦笑いしつつ小さく言いながら、一緒に準備していた急須からお茶を入れていた。こちらは未だ冷め切ってはいないようで、コップからまた新しい湯気が立ち昇った。
 例の手書きの地図に添えられているいくつかの絵は、地図上のいたるところに書き足されているようだった。
 左から、桜の木、それを眺めているような神父服の男性、お墓、漁師――といった、四つの絵が描かれてる。これが、例の男の子が書き足したというものらしい。
 それぞれ、絵の下には『桜』『聖職者』『墓場』『漁師』とご丁寧に絵の名前が書いてあった。

 ただし、日本語で。
 それも、急いで書き足したのか、絵が綺麗に描かれているのに対し、下の字の方は、桜と聖職者、それから墓場の文字が少しばかり掠れてしまっている。
 ジブリールさんの言っていた通り、一見すれば意味の分からない、共通点のない絵ばかりが並んでいる。
 嬉々としてその緑茶を楽しみ始めた向かいで、クリスさんは例の絵と文字を難しい顔で見つめている。
 そうして小さく、

「これらの文字は……」

 と零したかと思うと、目を伏せ、身体を元の姿勢に戻して座り直した。

「いえ――少し休憩をしたら、図書館へ行きましょうか。ここ近江八幡とヴェネツィアの、正しい地図が必要です」

「地図、ですか。それがあれば、この文面の意味が分かりそうなんですか?」

 そんな風に聞くと、いつものクリスさんなら笑顔で「まあ」と答えそうなものだったけれど、

「いえ、まだ。ただ、考え方なら分かるかもしれません」

 そう返す面持ちは、いつになく神妙な様に見えた。
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