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2章 本編
34話 チンピラ再び
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真冬が差し迫るその日、男装姿から領主の妻に戻ったウツィアは店の鍵を閉めて角に用意された馬車に向かう。その時、意外な人物と再会を果たした。
「貴方たちは……」
「あ、きたきた」
夏が終わろうとする頃に使用料を払うよう嘘を言って近づいてきた男二人。当初、話している雰囲気からあまり悪者のように見えなかった。
「あーあのー……」
当然警戒の色は強くなる。その様子に男二人は眉を下げて困った様子だ。
「この前は悪かった。その、前のはちょっと脅かせばどうにかなると思ってやったんだよ」
「今はそういうんじゃなくて、純粋にお願いしに来たつーか」
「本当この数ヶ月色んなとこ行ったけど全部だめで、この領地……奥様しかないと思って来たんだって」
感じる限り悪意はない。反省もしているようだし、話を聞いてもいいかもしれないと思った。
「ん? 待って、気づいてるの?!」
「あー……奥様が男の格好してるってやつ?」
盛大にばれている!
なんで? もしかして実は周知の事実なの? 夫の耳に入るのも時間の問題とか? こんな勝手なことしてたら間違いなく即離縁コース!
青褪めるウツィアを見て、男二人が互いに顔を合わせる。事情を察したようだった。
「俺らそういうの結構すぐ気づくだけだから気にすんな」
「どういうこと?」
「あーっと、その前に俺らの要件を先に」
「そうだな。奥様、俺達の住んでた村が戦争で廃村になってよ。なんでもいい仕ご」
「何をしている」
今まで聞いたこともない程低い声音が降りてきた。ウツィアと男二人の間に入ったのはウェズだ。当然女装姿ではなく、着替えは済んでいる。領主として立っていた。
「旦那様? どうしてここに?」
「下がって」
既に夫の剣は抜かれていた。しかも相当怒っている。
(当然よね。ウェズから聞いてたのに取り逃がしたのだから、領主として捕まえたいに決まってる)
それにしては随分鬼気迫ってるわねと思いつつ、男二人の様子を夫越しに覗くとあまりの殺気に震え上がっていた。
「剣を持つ若い男二人、間違いないな」
「ひいいい」
「旦那様、お待ちください」
思わず声をかけるも全く聞こうとしない。
「四ヶ月ほど前に領地に侵入し、剣を抜いて脅迫をしていたな」
「ちが、いや確かに剣は抜いたけど」
「うまく逃げられたと思ったか? 悪いが今回は逃がさない。許しもしない」
(二度もウツィアを傷つけて……許さない)
「ちょ、話聞いて」
だめだ。捕まえるどころかこの場で斬りかねない。剣を持つ夫の腕に自分の腕を絡めた。
「ウェズ、待って!」
「……離れてて」
一瞬にして殺気が消える。見上げた夫が久しぶりに渋面でいたことに懐かしさすら感じるも、なんとか止めないとと頭を働かせた。
この男二人は純粋にお願いがあってきたと言った。
剣は家宝で扱い慣れていないのは一度目の時に知れている。
ウツィアが領主の妻でありながら男装して店をしていることを知って接触してきた。
領主に近い人間に接触する必要があったとか?
最初はお金を持ってそうだったから使用料云々嘘をついて近づいた。今日は確か仕事と言いかけてた気がする。どこを行ってもだめだったとも。
戦争で廃村。一度目の時は妹と祖母がどうこう言っていた。
もしかして助けが必要なの?
「ウツィア、この二人は君を害そうとしている」
答えが出たウツィアはウェズと男二人の間に入った。三人して驚きの表情に染まる。男二人に背を向け、夫を強いまなざしで見据えた。
「害そうだなんて……そんなことありません」
「何を言う。先程だって言いがかりを」
「違います! その、わ、私がお願いしてたんです!」
「え?」
「え?」
男二人が変なことを言う前にどうにかしなくては。特に男装と店の件だ。
幸いにもウェズは自分の話を聞いてくれそう。目を逸らすことなく心配に瞳の色を染めて言葉を待ってくれている。
「何を?」
「こ、この二人を私の護衛騎士にしたいんです!」
「「えええ!?」」
予想していなかった言葉に背後から素っ頓狂な声が聞こえた。目の前の視線を逸らさない夫でさえ、眦を上げて驚いている。
「この二人を……私の側仕えとして雇ってもらえませんか? お願いします」
「……」
(すごく嫌)
「……」
「……」
重い沈黙があたりを支配する。当然ウェズが納得できるものではなかった。一度目は怪我こそなかったものの、男装していたウツィアが斬られている。今回だって帯刀している時点で怪しいものだ。男二人に脅されて庇う言葉を言わされていない様子にもう一度男二人を見て確かめる。ウェズが視線をやるだけで震え上がる男二人。
ウツィアが人の悪意に敏感だということはウェズはまだ覚えていた。けれど一度愛する妻を傷つけた男たちを簡単には許せない。
「ウェズの素晴らしい領地内騎士団の話を聞きつけ剣一つだけで来たそうなんです。私にはここに来てから護衛はいませんでした。これを機に護衛騎士をつけて頂けませんか?」
「いや、それは」
「お願いします! この二人を私の護衛に!」
(私の目の前で殺人だけは絶対いや!)
妻からこんな鬼気迫るお願いをされたのは初めてだった。譲る気もなさそう。そもそもウェズはウツィアに全般的に弱い。強気で来られようと甘えた声でこられようとも断ることはできなかった。ウツィアの言うところの仲を深めている今は特にその傾向が強い。
「……騎士として適性があるか、素行に問題ないか見てから、なら」
「ありがとうございます!」
「暫く騎士団持ちになるが」
(笑顔可愛い)
「ええ、大丈夫です! 衣食住与えてあげて下さいね!」
「ああ」
(優しい……心配だけどそういうとこも好きだ)
明らかに殺気を纏っていたウェズの雰囲気が柔らかくなって、蛇に睨まれた蛙な男二人は心底安堵した。
「た、助かった……」
「本当にな……」
「貴方たちは……」
「あ、きたきた」
夏が終わろうとする頃に使用料を払うよう嘘を言って近づいてきた男二人。当初、話している雰囲気からあまり悪者のように見えなかった。
「あーあのー……」
当然警戒の色は強くなる。その様子に男二人は眉を下げて困った様子だ。
「この前は悪かった。その、前のはちょっと脅かせばどうにかなると思ってやったんだよ」
「今はそういうんじゃなくて、純粋にお願いしに来たつーか」
「本当この数ヶ月色んなとこ行ったけど全部だめで、この領地……奥様しかないと思って来たんだって」
感じる限り悪意はない。反省もしているようだし、話を聞いてもいいかもしれないと思った。
「ん? 待って、気づいてるの?!」
「あー……奥様が男の格好してるってやつ?」
盛大にばれている!
なんで? もしかして実は周知の事実なの? 夫の耳に入るのも時間の問題とか? こんな勝手なことしてたら間違いなく即離縁コース!
青褪めるウツィアを見て、男二人が互いに顔を合わせる。事情を察したようだった。
「俺らそういうの結構すぐ気づくだけだから気にすんな」
「どういうこと?」
「あーっと、その前に俺らの要件を先に」
「そうだな。奥様、俺達の住んでた村が戦争で廃村になってよ。なんでもいい仕ご」
「何をしている」
今まで聞いたこともない程低い声音が降りてきた。ウツィアと男二人の間に入ったのはウェズだ。当然女装姿ではなく、着替えは済んでいる。領主として立っていた。
「旦那様? どうしてここに?」
「下がって」
既に夫の剣は抜かれていた。しかも相当怒っている。
(当然よね。ウェズから聞いてたのに取り逃がしたのだから、領主として捕まえたいに決まってる)
それにしては随分鬼気迫ってるわねと思いつつ、男二人の様子を夫越しに覗くとあまりの殺気に震え上がっていた。
「剣を持つ若い男二人、間違いないな」
「ひいいい」
「旦那様、お待ちください」
思わず声をかけるも全く聞こうとしない。
「四ヶ月ほど前に領地に侵入し、剣を抜いて脅迫をしていたな」
「ちが、いや確かに剣は抜いたけど」
「うまく逃げられたと思ったか? 悪いが今回は逃がさない。許しもしない」
(二度もウツィアを傷つけて……許さない)
「ちょ、話聞いて」
だめだ。捕まえるどころかこの場で斬りかねない。剣を持つ夫の腕に自分の腕を絡めた。
「ウェズ、待って!」
「……離れてて」
一瞬にして殺気が消える。見上げた夫が久しぶりに渋面でいたことに懐かしさすら感じるも、なんとか止めないとと頭を働かせた。
この男二人は純粋にお願いがあってきたと言った。
剣は家宝で扱い慣れていないのは一度目の時に知れている。
ウツィアが領主の妻でありながら男装して店をしていることを知って接触してきた。
領主に近い人間に接触する必要があったとか?
最初はお金を持ってそうだったから使用料云々嘘をついて近づいた。今日は確か仕事と言いかけてた気がする。どこを行ってもだめだったとも。
戦争で廃村。一度目の時は妹と祖母がどうこう言っていた。
もしかして助けが必要なの?
「ウツィア、この二人は君を害そうとしている」
答えが出たウツィアはウェズと男二人の間に入った。三人して驚きの表情に染まる。男二人に背を向け、夫を強いまなざしで見据えた。
「害そうだなんて……そんなことありません」
「何を言う。先程だって言いがかりを」
「違います! その、わ、私がお願いしてたんです!」
「え?」
「え?」
男二人が変なことを言う前にどうにかしなくては。特に男装と店の件だ。
幸いにもウェズは自分の話を聞いてくれそう。目を逸らすことなく心配に瞳の色を染めて言葉を待ってくれている。
「何を?」
「こ、この二人を私の護衛騎士にしたいんです!」
「「えええ!?」」
予想していなかった言葉に背後から素っ頓狂な声が聞こえた。目の前の視線を逸らさない夫でさえ、眦を上げて驚いている。
「この二人を……私の側仕えとして雇ってもらえませんか? お願いします」
「……」
(すごく嫌)
「……」
「……」
重い沈黙があたりを支配する。当然ウェズが納得できるものではなかった。一度目は怪我こそなかったものの、男装していたウツィアが斬られている。今回だって帯刀している時点で怪しいものだ。男二人に脅されて庇う言葉を言わされていない様子にもう一度男二人を見て確かめる。ウェズが視線をやるだけで震え上がる男二人。
ウツィアが人の悪意に敏感だということはウェズはまだ覚えていた。けれど一度愛する妻を傷つけた男たちを簡単には許せない。
「ウェズの素晴らしい領地内騎士団の話を聞きつけ剣一つだけで来たそうなんです。私にはここに来てから護衛はいませんでした。これを機に護衛騎士をつけて頂けませんか?」
「いや、それは」
「お願いします! この二人を私の護衛に!」
(私の目の前で殺人だけは絶対いや!)
妻からこんな鬼気迫るお願いをされたのは初めてだった。譲る気もなさそう。そもそもウェズはウツィアに全般的に弱い。強気で来られようと甘えた声でこられようとも断ることはできなかった。ウツィアの言うところの仲を深めている今は特にその傾向が強い。
「……騎士として適性があるか、素行に問題ないか見てから、なら」
「ありがとうございます!」
「暫く騎士団持ちになるが」
(笑顔可愛い)
「ええ、大丈夫です! 衣食住与えてあげて下さいね!」
「ああ」
(優しい……心配だけどそういうとこも好きだ)
明らかに殺気を纏っていたウェズの雰囲気が柔らかくなって、蛇に睨まれた蛙な男二人は心底安堵した。
「た、助かった……」
「本当にな……」
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