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2章 本編
65話 ウェズ、王城に到着する
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翌日、早馬を使ったウェズが入城した。
ウツィアがどこにいるかは分かっている。いつも会う場所としていた、城の奥にあるあの庭。
けれど当然のように庭に続く外回廊を塞ぐ者が現れた。
「来たわね」
「王女、話は後でにして下さい」
今はウツィアの元へとウェズは上擦った声で先に進みたがる。
「嫌よ。一発殴ってないもの」
ウツィアを傷つけたら殴るという宣言の為に、王女キンガは王子スポクイを伴って護衛もつけず二人だけであの庭に続く外回廊で待ち構えていた。
「え?」
「ウェズはさ、どうしてウツィアがここに連れて来られたか分かる?」
「王女が」
ええそうよとキンガが頷いた。
「あの子の能力、恐ろしいと思わない?」
「人の感情や思考、過去未来を見通すことですか」
「それだけじゃないわよ」
「まずはウツィアが作る薬。これだってすごいよね」
声を変える薬。
認識をずらす薬。
病や怪我を治す薬。
「全部理から外れている魔法そのものだわ」
「……」
「あの子は薬という形にしているだけで実際魔法を使えているわけ。いい? 私達がこうだと思っている認識が変えられるのよ」
使い方によっては国はおろか大陸すらもひっくり返る。
「病を治す薬も同じだね。起きた病という事象を否定できてしまう。これも理から外れているね。それこそ伝説上の聖女しか使えないような治癒魔法だよ」
「一度も起きたことがないけど、ウツィアが本当に望んでしまったら、薬って形にしなくても魔法として実現できるはずだわ」
「そんなこと」
「ないとは言えないでしょ。あの子が仮に伝説上の聖女そのものだとしたら、願うだけで叶える能力を持っていることになるもの」
そんな能力があれば、戦争に利用されることは明白だった。だから王女はウツィアを王城へ連れて行き、なるたけ人目に付かないよう囲い隠す。占いと称して仕事を与えていたのはカモフラージュで、王女の伝手でしか紹介がなかったのはこの為だった。
「あの子を初めて見つけた時、貴族院では雨が降っていたわ」
「……」
「みえすぎて辛いって泣いていたのよ。伝説上の聖女は聖女自身の感情で天候が変わったとされているわ」
記憶に新しい。
ウツィアが屋敷で契約結婚のことを聞いたであろう時間、急に雲行きが怪しくなった。そしてウツィアが領地を離れた途端、天候が戻った。兄の屋敷を離れる時もだ。あの時ウツィアは目に見えて心ここにあらずで、今思えば子を成さないという宣言を聞かれていただろうと思われる。
つまり、ウツィアには聖女としての力があり、それが発動した結果があの天候ではないかとウェズは考えた。思えばウツィアは特殊な力を持ちすぎていた。
「だからあの子は結婚させずに、ここにいさせるつもりだったのよ」
「それは……」
「でも僕たちはウェズならいいって思ったんだよ」
「下手に貴族の結婚相手になるより、王族の血を継ぐ私ならウツィアを守りきれると思ったからですか」
「まあ嫌な言い方すればそうね。格好良い言葉で言うなら、ウツィアに幸せになってほしいからウェズを選んだ、よ」
今でもウェズは王族の血が自身に流れていることに劣等感や嫌悪感といった不の感情を抱いている。けれどウツィアに関してだけは、この血が流れていてよかったと思えた。この血がなければウツィアには出会えなかったのだから。
兄とのこともウツィアがいたから解決した。慣れると思った孤独ですらウツィアがいれば慣れることなど有り得ないものだと気づかされる。
「まあそのへんも私の結婚で解消できるから良しよ」
「というと?」
「んーまあそろそろ話しても問題ないかしら? 東の隣国が魔法国家だって知ってるわね」
「ええ」
「そこの王子と結婚するの。ぶっちゃけそことパイプを作って魔法を我が国に認知させるわ」
そうすればウツィアの希少性が薄くなる。けれど魔法の希少性故に他国の関わりを断っていた隣国がよくこの婚姻に頷いたものだ。
「ちなみに婿養子で、この国の次の王になるの私だから」
「はい?」
スポクイではなくて? と問うとキンガは想像通りの反応をウェズがしてご満悦だった。
「そうよ。なにせウツィアの占いで王となるべくして生まれた存在と言われたのよ? 王のカードまで引いちゃうほどよ? なるしかないでしょ」
「まあそういうことだね~」
ここにきて何を暴露してくるのかとウェズは驚くばかりだ。
「ま、このへんにしましょ。つまり私が王になって守ってあげたいと思うぐらい、私にとってウツィアは大切な友達だってことよ」
「……」
「だから殴るわ」
受け入れるしかなかった。
自分の気持ちがぶれるせいでここまでこじれウツィアが傷ついたのだから、誰かに殴られるぐらいが丁度いいとさえ思える。
「歯食いしばりなさい」
けれど結局、キンガの手が痛むだけで終わった。
「ああああいったああああああ! なによおおお! 気に入らない! 癪だわ!」
「私は前もって申し上げましたよ」
六話参照である。
「うっさい! さっさと行きなさいよ!」
乱暴に庭への道を明け渡された。
ああでも、おかげで少し肩の力が抜けたかもしれない。
ウェズは小さくお礼を言って駆けだした。
ウツィアがどこにいるかは分かっている。いつも会う場所としていた、城の奥にあるあの庭。
けれど当然のように庭に続く外回廊を塞ぐ者が現れた。
「来たわね」
「王女、話は後でにして下さい」
今はウツィアの元へとウェズは上擦った声で先に進みたがる。
「嫌よ。一発殴ってないもの」
ウツィアを傷つけたら殴るという宣言の為に、王女キンガは王子スポクイを伴って護衛もつけず二人だけであの庭に続く外回廊で待ち構えていた。
「え?」
「ウェズはさ、どうしてウツィアがここに連れて来られたか分かる?」
「王女が」
ええそうよとキンガが頷いた。
「あの子の能力、恐ろしいと思わない?」
「人の感情や思考、過去未来を見通すことですか」
「それだけじゃないわよ」
「まずはウツィアが作る薬。これだってすごいよね」
声を変える薬。
認識をずらす薬。
病や怪我を治す薬。
「全部理から外れている魔法そのものだわ」
「……」
「あの子は薬という形にしているだけで実際魔法を使えているわけ。いい? 私達がこうだと思っている認識が変えられるのよ」
使い方によっては国はおろか大陸すらもひっくり返る。
「病を治す薬も同じだね。起きた病という事象を否定できてしまう。これも理から外れているね。それこそ伝説上の聖女しか使えないような治癒魔法だよ」
「一度も起きたことがないけど、ウツィアが本当に望んでしまったら、薬って形にしなくても魔法として実現できるはずだわ」
「そんなこと」
「ないとは言えないでしょ。あの子が仮に伝説上の聖女そのものだとしたら、願うだけで叶える能力を持っていることになるもの」
そんな能力があれば、戦争に利用されることは明白だった。だから王女はウツィアを王城へ連れて行き、なるたけ人目に付かないよう囲い隠す。占いと称して仕事を与えていたのはカモフラージュで、王女の伝手でしか紹介がなかったのはこの為だった。
「あの子を初めて見つけた時、貴族院では雨が降っていたわ」
「……」
「みえすぎて辛いって泣いていたのよ。伝説上の聖女は聖女自身の感情で天候が変わったとされているわ」
記憶に新しい。
ウツィアが屋敷で契約結婚のことを聞いたであろう時間、急に雲行きが怪しくなった。そしてウツィアが領地を離れた途端、天候が戻った。兄の屋敷を離れる時もだ。あの時ウツィアは目に見えて心ここにあらずで、今思えば子を成さないという宣言を聞かれていただろうと思われる。
つまり、ウツィアには聖女としての力があり、それが発動した結果があの天候ではないかとウェズは考えた。思えばウツィアは特殊な力を持ちすぎていた。
「だからあの子は結婚させずに、ここにいさせるつもりだったのよ」
「それは……」
「でも僕たちはウェズならいいって思ったんだよ」
「下手に貴族の結婚相手になるより、王族の血を継ぐ私ならウツィアを守りきれると思ったからですか」
「まあ嫌な言い方すればそうね。格好良い言葉で言うなら、ウツィアに幸せになってほしいからウェズを選んだ、よ」
今でもウェズは王族の血が自身に流れていることに劣等感や嫌悪感といった不の感情を抱いている。けれどウツィアに関してだけは、この血が流れていてよかったと思えた。この血がなければウツィアには出会えなかったのだから。
兄とのこともウツィアがいたから解決した。慣れると思った孤独ですらウツィアがいれば慣れることなど有り得ないものだと気づかされる。
「まあそのへんも私の結婚で解消できるから良しよ」
「というと?」
「んーまあそろそろ話しても問題ないかしら? 東の隣国が魔法国家だって知ってるわね」
「ええ」
「そこの王子と結婚するの。ぶっちゃけそことパイプを作って魔法を我が国に認知させるわ」
そうすればウツィアの希少性が薄くなる。けれど魔法の希少性故に他国の関わりを断っていた隣国がよくこの婚姻に頷いたものだ。
「ちなみに婿養子で、この国の次の王になるの私だから」
「はい?」
スポクイではなくて? と問うとキンガは想像通りの反応をウェズがしてご満悦だった。
「そうよ。なにせウツィアの占いで王となるべくして生まれた存在と言われたのよ? 王のカードまで引いちゃうほどよ? なるしかないでしょ」
「まあそういうことだね~」
ここにきて何を暴露してくるのかとウェズは驚くばかりだ。
「ま、このへんにしましょ。つまり私が王になって守ってあげたいと思うぐらい、私にとってウツィアは大切な友達だってことよ」
「……」
「だから殴るわ」
受け入れるしかなかった。
自分の気持ちがぶれるせいでここまでこじれウツィアが傷ついたのだから、誰かに殴られるぐらいが丁度いいとさえ思える。
「歯食いしばりなさい」
けれど結局、キンガの手が痛むだけで終わった。
「ああああいったああああああ! なによおおお! 気に入らない! 癪だわ!」
「私は前もって申し上げましたよ」
六話参照である。
「うっさい! さっさと行きなさいよ!」
乱暴に庭への道を明け渡された。
ああでも、おかげで少し肩の力が抜けたかもしれない。
ウェズは小さくお礼を言って駆けだした。
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