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2章 本編

64話 答え合わせ

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 手紙もなく急に訪れたウツィアに特段驚くこともなく両殿下は受け入れた。

「いきなり来たと思ったらなによ」

 顔の見えないあの人と話をして占いをした場所で王女と王子とテーブルを囲む。

「王子殿下が連れてきた顔も声も分からなかったあの方、旦那様だったの?」

 途端満面の笑みになる二人にウツィアは全部知ってたくせにと内心不満をこぼした。

「あいつと話したの?」
「いいえ。それについては一度も話したことがないの。ただ今までのことを考えるとあの方は旦那様なんだって思って」
「私とスポクイの中見ちゃいなさいよ」

 答えがあるわよと笑う王女キンガにウツィアは首を横に振った。

「しないわ」
「ならお迎えを待つのね」
「来るかしら」
「バカねえ、あいつあんたのことかなり好きよ。ちょっとしつこいぐらいにね」

 あの小競り合いなら三日ぐらい時間とれるし丁度よかったかしらとキンガが笑う。

「わざと頼んだの?」
「王室でどうにかできる問題をわざわざあいつにやらせてんじゃない」
「時間稼ぎの為に旦那様を危険に晒すなんて嫌よ」

 そこは王子スポクイが間に入った。

「出現は事実だよ。確かにあの規模は本来王室騎士が対応する内容だね。けどウェズにやってもらう為に手紙を出しんだ」
「むしろタイミング合わせたのは、あの幼馴染の婚姻の知らせよ」
「王室騎士のみ対応するにしても、ウェズは援軍として領地内騎士を出すだろうし、今と同じような形になってたと思う」

 確かに自分の領地内で起きている以上、真面目なウェズは自ら領地内騎士団を率いて出てくるはずだ。

「そうね……二人ともありがとう。私、気持ちはもう決まっているのよ」
「いいことじゃない」
「うまく話せるかしら?」
「てか、あの朴念仁と一年も結婚生活できてただけ奇跡だと思うけど」

 相変わらずウェズに対する言葉が辛辣だ。

「一年って言ってもあまり関わりはなくて……最近になってやっとって感じだったわ」
「ああ店やってたから? あいつ来てたって聞いてるけど」
「毎日来てたわ。女装して」
「は?」

 王女と王子にはウツィアが店を経営している情報も、そこにウェズが通っていたことも伝わっていた。
 けど格好については知られていなかったらしい。

「正体隠す為だと思うけど、毎日女装して通ってたわ。しかも私の推しだった」
「ちょ、意味が分からない。最初から説明してくれる?」

 事の顛末を話した。
 男装して店を始めて、常連でウツィアの推しになったのは女装していた自分の夫という事実を。
 思えば、店での交流があったからこそ、変装をしていない夫と妻としても距離を縮めていけたのかもしれない。

「あんたたち、なにしてんの?」
「それは、本当に……」

 ごもっともな話だった。気づけなかった自分が恥ずかしい。

「だからノヴァック公爵夫人がウツィアが可愛い格好してるとか言ってたわけ」

 お薬の常連がキンガに変な感想を伝えていた。

「渾身の男装だったのに可愛い……格好良いがよかったわ」
「そういえばちょっと王都から離れた地域の令嬢たちの噂に小さな王子様が接客してくれるカフェの話はあったね。ウツィアの領地だったのか」
「小さな王子様、ぶふっ」
「もう。これでも靴を改良して身長少しあげてたのよ」

 がたいはどうにもならなかったのは仕方ない。

「てか女装しているあいつの身長でばれないわけ?」
「ああ、そうね。あまり違和感なかった」
「ウェズは潜入捜査で女性の格好してる経験が何度もあるからね。認識を曖昧にする薬を使っているんだ」
「薬? え、それってまさか」
「そう。ウツィアが作ってくれてるやつ」

 王城にいる間は王子を経由して売り出していた。今でも王室が買っていたのは隣国セモツへの潜入捜査が未だあるからだと思っていたけれど違ったらしい。

「王室しか使ってないと思ってたわ」
「戦争中から今までは任務があるから僕から彼に渡っていただけさ。今では僕経由で買っては女装してウツィアの店に行ってたんだね~! 声変える薬も合わせてか。あ、化粧品も勿論君のとこだよ」
「嘘でしょ……太客が夫だった」
「衝撃に笑えるわね」

 ここまで繋がりがあると、逆にウツィアがウェズに行き着かないのが不思議なぐらいだった。

「というか、思い出すたびに恥ずかしいことばかりよ」

 そもそも自分の夫が推しとかなんだ。
 女装男装してデートもしたし。
 胸にダイブして絶壁と思った感想は事実正しかった。
 あんな必死に乗馬を領主とやってって、ウェズは全部知った上で了承してたわけだ。 
 騎士の鍛錬場で会うわけもない。目の前にいるし。
 ウェズって愛称でも気づけたかもしれない。いっそ全然違う名前にしてくれればよかったのに。
 夫とのことを色々正直に話してもいた。同一人物を目の前にして。
 穴があったら入りたい。
 というよりも、自分の作った認識をずらす薬の効能が抜群なことがすごいと思ってしまう。
 自分が被験者みたいな?

「でもあっちもあっちで素直だったでしょ」
「そうね。通常の時より女装してる方が素直だったもの……笑ってくれるようになったのもカフェで笑うようになってからだったかも。てか私、推しの好きな人、旦那様だと思ってた」

 キンガが王女らしくもなく大きく笑った。

「うける!」
「だって女騎士で領地内騎士だって言うから」

 好きな人いるとウェズに言われ、最初からウツィア自身を想像しするわけがない。
 男装した私が好きだって結論になってたけど、それはそれでバカみたいな話だ。

「でも間違いではないよ。騎士ではあるし、領地内の人間でもあるから」
「屁理屈よ」
「でもウツィアのことがどうでもいいなら女装してまで様子見に来ないよね」
「……そう、なのかな」
「あんたもそう思ってるから、わざわざ確認でここに来たんでしょ」
「……そうね」

 そう。向かい合う為にここに来た。気持ちはとっくに決まっていて、心落ち着かせる為に来ただけ。

「折角だからカードにきいてみようかな」
「ええ? いいの? 嫌なカードでたらショックじゃない?」
「カードに良いも悪いもないよ。ただそこにあるだけだから」
「ふうん?」

 こうして王女と王子を囲んでカードを引くのも久しぶりな気がした。

「あらま」
「へえ」
「……これが出るの」

 大団円。終わりの始まり。
 面白いぐらいよくできてると、この時は思わざるを得なかった。
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