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12話 親善試合
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「成程」
イュースが教えてくれる情報を頭にいれる数日が続いた。
帝国にとって利となる主要人物以外は全滅を望む。これが現皇帝の戦争方針だった。けど今回は王国民の三分の二が生き残る。国民全てが武力と言う点が考慮されたからか。それでも帝国の騎士団に吸収されたのは王城勤めの騎士のみで数は少ない。
ほとんどは王国に残り復興に従事している。
「帝国は代替わりの話が出始めました。あくまで噂程度のものですが」
現皇帝は好戦的で武力侵攻を進めたい人物だが、第一継承者である皇帝の息子は穏健派の宰相筆頭だ。どうやら本格的に現皇帝を退かせ、自分が皇帝になるよう画策しているらしい。ヴォックスが騎士団長になったのもその為だという。
確かにヴォックスは我が王国に武力侵攻するにあたり、王国民の三分の二の生存者を残した。一つ前の戦争ならば私を含め全滅しててもおかしくない。
「これも噂の原因の一つですか」
一枚の書面を眺めながら呟くとイュースは肯定の意図を示して頷く。
レースノワレ王国併合に伴い周辺国を踏まえて騎士を対象にした親善試合を行う。
帝国はこれから周辺国と友好関係を結ぶと言わんばかりだった。現皇帝の否定がないのは今回のレースノワレ王国民の反乱を恐れているとみていいだろう。残る三分の二の軍事力、その士気をおさめるためといったところか。
「私達が帝国騎士団に所属するだけでは心配ですか」
「恐らくは」
「……参加しましょう」
「では第二皇子殿下に御報告を致します」
「ありがとうございます」
私はここから基本出られない。ヴォックスは戦後の後処理があるから、制約でもあるのか顔を出さないし、生活全般はイュースを介してといった形だった。
「王国の最後の意地です。優勝してみせましょう」
それがせめて殿下への手向けになるように。
王国の爪痕を残す為に。
イュースが心配そうな顔をしていたが、気づかぬ振りをした。
* * *
親善試合、いくらかの王国元騎士もいて話も出来た。なにより久しぶりの外はとても新鮮だ。
「牢ではなかったのですか」
「はい、大部屋ではありましたが、おそらく帝国騎士の鍛練場を開けたのかと」
「成程」
「最初こそ反乱をと意気込んでおりましたが、想像以上に帝国が友好的だったのもあり、今では戦う意志を持つ者の方が少ないかと」
ヴォックスはこの為に奮闘していたのか。余裕がなさそうに見えていたのは不穏分子の沈静化に時間がかかっていただけだと親善試合を迎えて悟った。
「ユラレ様も伯爵位を継げてないのですよね?」
「ええ」
賓客として迎えられている間に爵位の話だけはヴォックス直々に告げられた。
爵位を継げないのは簡単な事で、私が伯爵位を持つと反乱の先頭に立つ主導権を得られるからだ。今、私の伯爵位は隣国の高爵位の人間が所持していると言う。隣国を介すると手続きがとても複雑になってしまうから、爵位を取り戻しづらい。こうした部分で細かく慎重であるのは中々といったところか。
「私が爵位を継いでようが継いでいまいが関係ありません」
「……ユラレ様が奮起なさるなら我々も共に」
そう言って去っていく同じ国の民を思いながら考える。どうしてか、今時分私を慕うという者が多かった。王女殿下を守れなかった不甲斐無い私が王国を取り戻す為に立ち上がれば共に立ち上がると言う。もしかしたら王女付きだったことが大きいのだろうか。思えば、王女殿下付きの他の護衛騎士はどこを探してもいなかった。
「ユツィ」
「……ヴォックス」
一人になった所で話しかけられる。監視の意味もあるのか、親善試合では側にいるようだ。
「逃げも隠れもしないし、反乱も起こさないよ」
「……君は何も分かっていないな」
曰く、私のカリスマ性はいくらでも王国復古の士気を高める事が出来るという。一介の騎士でしかなかった私にそこまでの先導を行うことは出来ない。王国が存在した当時ですら権限も力もなかった。あるとすれば剣の腕があるだけ。
「小言は結構。さっさと試合を始めましょう」
「……そうだな」
私が彼と距離を取ろうと口調を丁寧な形に改めると、ヴォックスはあからさまに落ち込む。眉間に皺を寄せて僅かに目尻を下げて悲しそうな顔をする。
昔の良きライバルに戻るには時間が必要だった。それも結局、この親善試合で台無しになるわけだが。
「決勝で会うのだから」
「始まってもいないが?」
「この中で強い騎士は私かヴォックスだけです。見て分かるでしょうに」
名だたる各国の騎士が揃っていたとしてもその実力は高が知れている。この試合で優勝するのは私か彼であると周囲も分かっていた。
「他の騎士の試合を見ますが、どうしますか?」
一緒に見ますかと問うと、ぱっと顔を明るくさせた。こういう顔は普段他の騎士の前では見せないだろうなと内心可愛いと思い笑ってしまう。
王女殿下を失った私がこんな所で笑うわけにはいかないのに。
「共に行く」
親善試合が始まった。
イュースが教えてくれる情報を頭にいれる数日が続いた。
帝国にとって利となる主要人物以外は全滅を望む。これが現皇帝の戦争方針だった。けど今回は王国民の三分の二が生き残る。国民全てが武力と言う点が考慮されたからか。それでも帝国の騎士団に吸収されたのは王城勤めの騎士のみで数は少ない。
ほとんどは王国に残り復興に従事している。
「帝国は代替わりの話が出始めました。あくまで噂程度のものですが」
現皇帝は好戦的で武力侵攻を進めたい人物だが、第一継承者である皇帝の息子は穏健派の宰相筆頭だ。どうやら本格的に現皇帝を退かせ、自分が皇帝になるよう画策しているらしい。ヴォックスが騎士団長になったのもその為だという。
確かにヴォックスは我が王国に武力侵攻するにあたり、王国民の三分の二の生存者を残した。一つ前の戦争ならば私を含め全滅しててもおかしくない。
「これも噂の原因の一つですか」
一枚の書面を眺めながら呟くとイュースは肯定の意図を示して頷く。
レースノワレ王国併合に伴い周辺国を踏まえて騎士を対象にした親善試合を行う。
帝国はこれから周辺国と友好関係を結ぶと言わんばかりだった。現皇帝の否定がないのは今回のレースノワレ王国民の反乱を恐れているとみていいだろう。残る三分の二の軍事力、その士気をおさめるためといったところか。
「私達が帝国騎士団に所属するだけでは心配ですか」
「恐らくは」
「……参加しましょう」
「では第二皇子殿下に御報告を致します」
「ありがとうございます」
私はここから基本出られない。ヴォックスは戦後の後処理があるから、制約でもあるのか顔を出さないし、生活全般はイュースを介してといった形だった。
「王国の最後の意地です。優勝してみせましょう」
それがせめて殿下への手向けになるように。
王国の爪痕を残す為に。
イュースが心配そうな顔をしていたが、気づかぬ振りをした。
* * *
親善試合、いくらかの王国元騎士もいて話も出来た。なにより久しぶりの外はとても新鮮だ。
「牢ではなかったのですか」
「はい、大部屋ではありましたが、おそらく帝国騎士の鍛練場を開けたのかと」
「成程」
「最初こそ反乱をと意気込んでおりましたが、想像以上に帝国が友好的だったのもあり、今では戦う意志を持つ者の方が少ないかと」
ヴォックスはこの為に奮闘していたのか。余裕がなさそうに見えていたのは不穏分子の沈静化に時間がかかっていただけだと親善試合を迎えて悟った。
「ユラレ様も伯爵位を継げてないのですよね?」
「ええ」
賓客として迎えられている間に爵位の話だけはヴォックス直々に告げられた。
爵位を継げないのは簡単な事で、私が伯爵位を持つと反乱の先頭に立つ主導権を得られるからだ。今、私の伯爵位は隣国の高爵位の人間が所持していると言う。隣国を介すると手続きがとても複雑になってしまうから、爵位を取り戻しづらい。こうした部分で細かく慎重であるのは中々といったところか。
「私が爵位を継いでようが継いでいまいが関係ありません」
「……ユラレ様が奮起なさるなら我々も共に」
そう言って去っていく同じ国の民を思いながら考える。どうしてか、今時分私を慕うという者が多かった。王女殿下を守れなかった不甲斐無い私が王国を取り戻す為に立ち上がれば共に立ち上がると言う。もしかしたら王女付きだったことが大きいのだろうか。思えば、王女殿下付きの他の護衛騎士はどこを探してもいなかった。
「ユツィ」
「……ヴォックス」
一人になった所で話しかけられる。監視の意味もあるのか、親善試合では側にいるようだ。
「逃げも隠れもしないし、反乱も起こさないよ」
「……君は何も分かっていないな」
曰く、私のカリスマ性はいくらでも王国復古の士気を高める事が出来るという。一介の騎士でしかなかった私にそこまでの先導を行うことは出来ない。王国が存在した当時ですら権限も力もなかった。あるとすれば剣の腕があるだけ。
「小言は結構。さっさと試合を始めましょう」
「……そうだな」
私が彼と距離を取ろうと口調を丁寧な形に改めると、ヴォックスはあからさまに落ち込む。眉間に皺を寄せて僅かに目尻を下げて悲しそうな顔をする。
昔の良きライバルに戻るには時間が必要だった。それも結局、この親善試合で台無しになるわけだが。
「決勝で会うのだから」
「始まってもいないが?」
「この中で強い騎士は私かヴォックスだけです。見て分かるでしょうに」
名だたる各国の騎士が揃っていたとしてもその実力は高が知れている。この試合で優勝するのは私か彼であると周囲も分かっていた。
「他の騎士の試合を見ますが、どうしますか?」
一緒に見ますかと問うと、ぱっと顔を明るくさせた。こういう顔は普段他の騎士の前では見せないだろうなと内心可愛いと思い笑ってしまう。
王女殿下を失った私がこんな所で笑うわけにはいかないのに。
「共に行く」
親善試合が始まった。
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