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たけしとオズボーン家
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<あらすじ>
非魔法使いの両親から生まれた貧乏魔法使い「山田たけし」が魔高(王立魔術高等専門学院)の入学式に向かう途中、魔法使いによるテロに遭遇する。命の危険の最中、モヒカンの髪型をした男とたけし以外の時間が止まる。停止した世界の中で2人の喧嘩が始まる。その最中、たけしは地上30メートルから落下してしまうが、無傷で生還。目撃していた通行人によると、たけしの体がボールのように跳ねたと言う。また、テロは恐らく、忘れられない一味フィリップモリスか黒の絨毯ブラックカーペットという犯罪集団による犯行との情報を得る。たけしは入学式に遅れないよう、箒に乗って急いで学院に向かう。その遥か下方で、首都高をワインレッドのファントム(ロールスロイス)が、たけしに負けないぐらい飛ばしていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
-車中にて-
口と顎に沿って白髪混じりの綺麗に切り揃えられた髭を蓄えた(50代前半だろうか?)男性が、運転席の窓から顔を出し、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
男性は何もない空を眺めながら心底困っていた。
「おえええーー!」
停車した車の横の草むらから女の子の嗚咽と吐瀉物が地面に撒き散らされる音が聞こえてきた。
その音を聞いて車内にいた全員が眉間に皺を寄せながら困った表情をした。
「水を渡してくる!」
たまりかねて車中から飛び出したのは今年16歳を迎えるオズボーン家の嫡子、アーサー・圭一・オズボーンだった。
アーサーは道路脇の公園の茂みに向かって、声をかけた。
「大丈夫?水おいとくよ?」
茂みの中で苦しそうに膝をついて胸を抱えているのはアーサーの双子の妹、ヴィクトリア・未央・オズボーンだ。
「こっちきて」
未央に呼ばれて、アーサーが茂みの中に入ると、小枝や葉っぱがついて髪の毛がくしゃくしゃになった未央がいた。
いつもの未央は、澄んだ流水のように整った髪型とムラのない金髪をしていることを思うと、アーサーは未央があまりに不憫で可哀想になった。
「背中さすって」
青白い顔で俯いていた未央がアーサーを睨みつけながら言った。
「わかった、わかったからミオ。」
「はやくして」
うっ、、!ビチャビチャ!!
アーサーは目を瞑りながらミオの背中をさすった。
公園の木々には青々とした新芽が芽吹いていた。
-車中にて-
「未央は大丈夫かしら」
「大丈夫さ。ちょっと酔っただけだよ。」
「せっかく学校の入学式だって、張り切っていたのに、、」
残念そうな顔をしながら、黒いベールに包まれた公爵夫人がため息をついた。
「初めての日本の道路に目が回ってしまったんだろう」
夫人を励まそうと、笑いながら話すのはリーズ公爵位を受け継ぐオズボーン家第15代当主、フランシス・ルーベン・ゴドルフィン・オズボーン、その人だった。
「ねぇあなた?やっぱり、私不安だわ、、アーサーは心配ないと思うのだけれど、未央が学院についていけるかしら、、?」
「ハハハ!君は心配しすぎだよ!未央はアーサーよりも勉強はできないが、魔法力に関しては未央の方が強いからね。君も覚えているだろう?未央が2歳の頃に開けた穴を。」
「え、ええ、そうね。そうだったわね。」
夫人は当時を思い出し、我が子ながら、魔法使いとしての潜在能力の高さに身震いした。基本的に魔法使いとして生まれた子供は、自我が芽生え始める1歳後半から15歳までに偶発的になんらかの不思議な現象(最初の春)を起こすことで、魔法使いの子であると他者に認識される。未央は2歳、アーサーは4歳の時に、「最初の春」を経験している。魔法開花の時期が早ければ早いほど、基礎的な魔法のパワーが比例して強くなる傾向が認められている。
コンコン
窓をノックする音が聞こえた。リーズ公ルーベンは窓を開けた。
「もう大丈夫かね?」
「うん、大丈夫。もう何もでそうにない。」
「そうか、そしたら、父さんと母さんは後から行くから、2人で先に行ってなさい。」
「え?」
アーサーがびっくりした。
「実は学院はここから歩いていける距離にあるんだよ。ほら、地図を渡すから、自分たちで行っておいで」
ぱぁっと2人の顔が明るくなった。
「ありがとう!父さん母さん!」「行ってくる!」
2人して、車の置いてあったバッグをひっ掴み、学院の方へ走り出した。
「おい未央!サークルは何入るか決めたか!?」
「まだ決めてない!魔法の学校でしょ!?どんなところなんだろう!!」
2人の背中に向けてリーズ公ルーベンは声をかけた。
「浮かれすぎるなよ!!」
夫人は、はしゃいで駆けていった子供たちを微笑しく見守りながら、無詠唱で回復魔法ヒールを未央の腹部に飛ばしておいた。
学院が近付くにつれ、人だかりが増え、前方の大通りではパレードが開かれていた。王立魔術高等専門学院の入学式は、年に一度のお祭りだった。
ーたけし登場ー
たけしは急いでいた。
その日、東京都上空から飛行機の轟音のような激しい爆音が鳴り響いていたのを、何人もの人が証言している。
たけしが音の壁を突き破って移動していた音だった。
「あれか」
巨大なバルーンがいくつも浮いている建物があった。王立魔術高等専門学院だ。ゴシック調のレンガの建物がざっと見て7棟あり、中央にお城が鎮座していた。学院全体は高い塀で囲われており、入り口から建物まではかなり距離がある。
「入学案内にここってかいてあったけど、東京にこんな城があったとは、、」
ここは奥多摩の山の中だった。東京といえど、西東京は自然豊かな未開発地域が広がっていた。
たけしが到着した時には人が疎らになっており、奥にある1000坪はありそうのドーム型の建物に人の流れが向かっていた。
「あれが体育館か?」
たけしは箒に器用にまたがりながら、学校の案内図を見て、入学式の会場を特定した。
「これより!学長訓示!!」
学院を包んでいた楽しそうな音楽が鳴り止み、空も震えそうなほど拡張された声が学院全体に鳴り響いた。
「やばい!はじまる!」
たけしは急いで体育館の奥の森の中に着地した。
「誰にも見つかってないだろうな、、」
たけしは親から魔法は将来学ぶから、今は人前でむやみやたらに使ってはいけないと教えられてきた。そのせいもあって、魔法を練習する時や使う時は、誰にも見られないように隠れるくせがついていた。
たけしは髪の毛にかかった葉っぱを払いながら体育館入り口に小走りでむかった。
どんっ!
「いてぇ!!」
「ああ?」
入り口で別方向から走ってきた人とぶつかった。
「あ」 「あ」
モヒカンだった。
「てめぇ!」
ばきっ!
たけしの右ストレートがモヒカンにヒットした。
「ここであったが100年目じゃ!!」
「なにしやがんだ!」
「てめーもここの生徒だったとはな」
指をパキパキならしながら近づいてくるたけしにモヒカンは狼狽えた。
(うわ~周りの人めっちゃ見てる、、)
さすがに学長訓示の最中にケンカはやばかった。
「ちょ、ちょっとまて!落ち着け!お前もここの生徒だったんだな。とりあえず周りみろ!」
ざわざわ
「えーちょっとなにーケンカー?」
「おいおい、モヒカンと金髪がケンカしてるぜ笑」
「やだー」
「な?お前もせっかく魔法使いとして選ばれたんだからいきなり問題沙汰はいやだろ?一旦落ち着こうじゃないか」
(頼む、、!ひいてくれ!)
モヒカンは冷や汗をかきながら祈った。
「それもそーだな!」
ほっ
「遅れてきた方は中に入って自分の席に静かに着席して下さい」
案内係の女の先輩がでてきて、階段の上からジロリと2人を一瞥して静かに言った。
(てめーいきなり殴りやがって、頭おかしいんじゃねーの!)
(うるせー脊髄反射じゃ)
2人が競うように会場に入りながらこそこそ話していると、後ろから愚痴が聞こえてきた。
「まったく、、!今年の新入生は金髪にモヒカンなんて、魔高もどうかなっちゃったのかしら⁉︎今年は<大転生>の子が入学するって噂があるのに、、」
先輩の愚痴を背中で受けながら、2人は真っ暗な会場の席に座った。
「なかなか元気な新入生がいるようだね。」
壇上で話していたハゲの学長が、2人の方に向けて言った。
会場には、くすくす笑い声が上がった。
スポットライトに照らされた学長が続けて言った。
「さて、今日から魔高の生徒となる諸君には、はげたおっさんの話よりも、血気盛んな同級生の方が間違いなく興味を引くだろうが、それでも君たちにとって、一生に一度しかない、魔高の新入生として、私の訓示を聞いてもらいたいのだが、どうだろうか。」
学長がそう言うと、ざわついていた会場が水を打ったように静かになった。
「ありがとう。君たちの敬意に感謝する。」
学長は愛嬌のある笑顔を見せた後に話を続けた。
「まずは新入生諸君、入学おめでとう。君たちは偉大な魔法の力をその身に宿して、本校への入学を認められた才能ある若き血潮です。これまでの義務教育が終わり、魔法の専門教育がこれから始まります。魔法とは、魔法使いとは何かをどっぷりと学ぶ7年間となるでしょう!そして一生ものの友人とライバルができることでしょう!だって7年間も一緒に暮らすんだから!」
学長のドーン・橋本が気色ばみながら物凄い興奮した様子で話しているものだから、学生たちは笑っていいのか真面目に聞いていた方がいいのか分からなかった。
遠目から見ても唾がすごい飛んでいた。
「それにあれだ!恋人なんかも作っちゃえばいいじゃない!?正直に言おう。魔法使いは魔法使いと結婚するのが過半数だ!なんでかって!?だって青春時代をほとんど魔法使いに囲まれて過ごすもんだからさ!!」
ここまで言い切ると、流石に生徒たちは歓声をあげた。
「ヒュー!」
「俺は明日にでも結婚するぜ!」
「まずは相手だろ笑」
「きゃー!」
「すごい学校ね笑」
たけしも唸った。
「最高の場所にきちまったようだな、、、えーとあいつの名前なんていうだ?」
モヒカンが嫌そうに答えた。
「橋本だよ。ドーン・橋本。」
「イカすぜ橋本ー!!!」
「うるせぇぞガキども!!!!」
会場内に響き渡るように怒声が響いた。沖・キャストレイ・玲子副学長のものだった。
「黙って聞いてろ!!」
玲子副学長の一声で会場はまた、水を打ったように静かになった。
(な、何者だよ。あのタンクトップの筋肉女は、、)
何枚か会場のガラスが割れていた。おそらく怒声によるものだと理解したモヒカンは震えた。他の生徒たちも蛇に睨まれたカエルのように小刻みに震えていた。
(じょ、上等じゃねーか、、)
たけしは強がりながらも、自分の唾を飲み込む音が、静かな会場に驚くほど大きな音で響いた気がした。ドーン・橋本は玲子副学長の怒声に少し気まずそうな表情で、話を続けた。
「うおっほん」
「、、もう話しても大丈夫かな?沖副学長?」
「しゃんとしろ!!」
「は、はいい!!」
「続けろ!!」
「はい!!」
ドーン・橋本は、少し罰が悪そうに、チラチラ玲子副学長の方を見ながら、話を続けた。
「、、、え~、そういうわけで、、みなさん、7年間の学園生活で良き仲間と、競い合えるライバルと、苦しさをわかちあえる恋人を見つけてください。まぁ中にはポルポルと結婚する変わり者もいますがね。」
ドーン・橋本は威厳を取り戻すかのように、ジロリと教員席のメガネの男を睨みつけた。自然と生徒の視線もメガネの男に集まった。
メガネの男は心底疲れたような顔をして、引きつった笑顔をドーン・橋本にむけた。
「えっイケメン!」
あちらこちらから女学生の囁き声が上がってきた。
それもそのはず、橋本が睨んでいるメガネの男は、少しパーマがかった長髪に黒縁のメガネをかけた180cmはありそうな色白の男性だった。遠目から見ても9頭身はありそうなスタイルの良さに整った顔立ちが見て取れた。年は30代ぐらいだろうか。肌の艶も若いように感じられた。
「ちっ!!」
ドーン・橋本の舌打ちだった。メガネの男に視線を注いでいた女学生たちもびっくりして橋本のほうに注視した。なんせ、マイクを通して舌打ちしていたからだ。橋本はまだメガネの男を睨みつけていたが、会場の学生たちが自分に注目していることに気づき、少し照れた様子で上機嫌になった。
「まぁなんでもいいですよ。はい」
「ひとまず訓示終わり!」
高らかに橋本が叫ぶと、会場が一斉に明るくなった。
「ウノ塔とドス塔の学生は私についてきな!いくよ!」
沖・キャストレイ・玲子が声を上げ、さっさと体育館を出ていった。大勢の生徒が慌てて、自分の入る寮の名前を確認しだした。
「ふん、そんなことも覚えてないのかしら。雑魚ばっかね。」
沖の後に1番についていったのが金髪のウェーブをなびかせている小柄な少女、ヴィクトリア・未央・オズボーンだった。未央は慌てている生徒たちを横目にふふっと笑いながらさっそうと体育館を後にした。その後ろをぞろぞろと出遅れた生徒たちがついていった。
「ふーん」
たけしは金髪をなびかせている未央がちらっと視界に入って、ふーんと言った。
「き、き、きみは、スィンコ塔だね。たけし君」
「ひょわ!!」
急に後ろから声をかけられてたけしは驚いた。たけしが振り向くと後ろに背の低い白衣の男がいた。肩まで届く伸び切った髪は、脂でテカテカしながらパーマがかっていた。
「は、は、はじめまして、ペルー・仁です。ま、魔術概論の教授でで、です。」
「お、おう。よろしくな。」
「き、き、君に会えて、僕は光栄でで、です。」
ペルー・仁はきらきらした目でたけしを見つめた。
「き、き、君が、、あ、あの<大転生の子>なんだね、、!300年に一度の、、ふ、ふふ!困った事があったらなんでも、い、、言ってきなさい、、!ぼ、、僕は、け、、結構、みー、ミーハーなんだ!ひとまずき、き、君はぼ、ぼくのか、管理する、スィンコ、スィンコ塔だから、つ、つ、ついてきなさい」
「あ、はい」
たけしはよく分からなかったがペルー・仁の後についていった。体育館を出るまで、たけしを見てひそひそ話をする学生達が大勢いたが、たけしは気付かなかった。
「え、先生。他の人は居ないんですか?僕だけですか?」
「ほ、そう、、そうだね。じ、事前に配った、あ、案内に書いて、書いてあるんだが、、よ、呼んであげようかな、」
ペルー・仁はスィンコ塔に入寮する新入生リストを取り出すとリストの名前を撫でながらぶつぶつ言い出した。
「こ、こ、この声がき、聞こえた学生は、入り口でたとこ、、右、、大転生のたけし君もいる。そ、そこにきたまえ、、」
リストをしまいながらペルー・仁は興奮していた。
「ふ、ふふ、、!た、大変なこと、な、なるぞ!」
非魔法使いの両親から生まれた貧乏魔法使い「山田たけし」が魔高(王立魔術高等専門学院)の入学式に向かう途中、魔法使いによるテロに遭遇する。命の危険の最中、モヒカンの髪型をした男とたけし以外の時間が止まる。停止した世界の中で2人の喧嘩が始まる。その最中、たけしは地上30メートルから落下してしまうが、無傷で生還。目撃していた通行人によると、たけしの体がボールのように跳ねたと言う。また、テロは恐らく、忘れられない一味フィリップモリスか黒の絨毯ブラックカーペットという犯罪集団による犯行との情報を得る。たけしは入学式に遅れないよう、箒に乗って急いで学院に向かう。その遥か下方で、首都高をワインレッドのファントム(ロールスロイス)が、たけしに負けないぐらい飛ばしていた。
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-車中にて-
口と顎に沿って白髪混じりの綺麗に切り揃えられた髭を蓄えた(50代前半だろうか?)男性が、運転席の窓から顔を出し、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
男性は何もない空を眺めながら心底困っていた。
「おえええーー!」
停車した車の横の草むらから女の子の嗚咽と吐瀉物が地面に撒き散らされる音が聞こえてきた。
その音を聞いて車内にいた全員が眉間に皺を寄せながら困った表情をした。
「水を渡してくる!」
たまりかねて車中から飛び出したのは今年16歳を迎えるオズボーン家の嫡子、アーサー・圭一・オズボーンだった。
アーサーは道路脇の公園の茂みに向かって、声をかけた。
「大丈夫?水おいとくよ?」
茂みの中で苦しそうに膝をついて胸を抱えているのはアーサーの双子の妹、ヴィクトリア・未央・オズボーンだ。
「こっちきて」
未央に呼ばれて、アーサーが茂みの中に入ると、小枝や葉っぱがついて髪の毛がくしゃくしゃになった未央がいた。
いつもの未央は、澄んだ流水のように整った髪型とムラのない金髪をしていることを思うと、アーサーは未央があまりに不憫で可哀想になった。
「背中さすって」
青白い顔で俯いていた未央がアーサーを睨みつけながら言った。
「わかった、わかったからミオ。」
「はやくして」
うっ、、!ビチャビチャ!!
アーサーは目を瞑りながらミオの背中をさすった。
公園の木々には青々とした新芽が芽吹いていた。
-車中にて-
「未央は大丈夫かしら」
「大丈夫さ。ちょっと酔っただけだよ。」
「せっかく学校の入学式だって、張り切っていたのに、、」
残念そうな顔をしながら、黒いベールに包まれた公爵夫人がため息をついた。
「初めての日本の道路に目が回ってしまったんだろう」
夫人を励まそうと、笑いながら話すのはリーズ公爵位を受け継ぐオズボーン家第15代当主、フランシス・ルーベン・ゴドルフィン・オズボーン、その人だった。
「ねぇあなた?やっぱり、私不安だわ、、アーサーは心配ないと思うのだけれど、未央が学院についていけるかしら、、?」
「ハハハ!君は心配しすぎだよ!未央はアーサーよりも勉強はできないが、魔法力に関しては未央の方が強いからね。君も覚えているだろう?未央が2歳の頃に開けた穴を。」
「え、ええ、そうね。そうだったわね。」
夫人は当時を思い出し、我が子ながら、魔法使いとしての潜在能力の高さに身震いした。基本的に魔法使いとして生まれた子供は、自我が芽生え始める1歳後半から15歳までに偶発的になんらかの不思議な現象(最初の春)を起こすことで、魔法使いの子であると他者に認識される。未央は2歳、アーサーは4歳の時に、「最初の春」を経験している。魔法開花の時期が早ければ早いほど、基礎的な魔法のパワーが比例して強くなる傾向が認められている。
コンコン
窓をノックする音が聞こえた。リーズ公ルーベンは窓を開けた。
「もう大丈夫かね?」
「うん、大丈夫。もう何もでそうにない。」
「そうか、そしたら、父さんと母さんは後から行くから、2人で先に行ってなさい。」
「え?」
アーサーがびっくりした。
「実は学院はここから歩いていける距離にあるんだよ。ほら、地図を渡すから、自分たちで行っておいで」
ぱぁっと2人の顔が明るくなった。
「ありがとう!父さん母さん!」「行ってくる!」
2人して、車の置いてあったバッグをひっ掴み、学院の方へ走り出した。
「おい未央!サークルは何入るか決めたか!?」
「まだ決めてない!魔法の学校でしょ!?どんなところなんだろう!!」
2人の背中に向けてリーズ公ルーベンは声をかけた。
「浮かれすぎるなよ!!」
夫人は、はしゃいで駆けていった子供たちを微笑しく見守りながら、無詠唱で回復魔法ヒールを未央の腹部に飛ばしておいた。
学院が近付くにつれ、人だかりが増え、前方の大通りではパレードが開かれていた。王立魔術高等専門学院の入学式は、年に一度のお祭りだった。
ーたけし登場ー
たけしは急いでいた。
その日、東京都上空から飛行機の轟音のような激しい爆音が鳴り響いていたのを、何人もの人が証言している。
たけしが音の壁を突き破って移動していた音だった。
「あれか」
巨大なバルーンがいくつも浮いている建物があった。王立魔術高等専門学院だ。ゴシック調のレンガの建物がざっと見て7棟あり、中央にお城が鎮座していた。学院全体は高い塀で囲われており、入り口から建物まではかなり距離がある。
「入学案内にここってかいてあったけど、東京にこんな城があったとは、、」
ここは奥多摩の山の中だった。東京といえど、西東京は自然豊かな未開発地域が広がっていた。
たけしが到着した時には人が疎らになっており、奥にある1000坪はありそうのドーム型の建物に人の流れが向かっていた。
「あれが体育館か?」
たけしは箒に器用にまたがりながら、学校の案内図を見て、入学式の会場を特定した。
「これより!学長訓示!!」
学院を包んでいた楽しそうな音楽が鳴り止み、空も震えそうなほど拡張された声が学院全体に鳴り響いた。
「やばい!はじまる!」
たけしは急いで体育館の奥の森の中に着地した。
「誰にも見つかってないだろうな、、」
たけしは親から魔法は将来学ぶから、今は人前でむやみやたらに使ってはいけないと教えられてきた。そのせいもあって、魔法を練習する時や使う時は、誰にも見られないように隠れるくせがついていた。
たけしは髪の毛にかかった葉っぱを払いながら体育館入り口に小走りでむかった。
どんっ!
「いてぇ!!」
「ああ?」
入り口で別方向から走ってきた人とぶつかった。
「あ」 「あ」
モヒカンだった。
「てめぇ!」
ばきっ!
たけしの右ストレートがモヒカンにヒットした。
「ここであったが100年目じゃ!!」
「なにしやがんだ!」
「てめーもここの生徒だったとはな」
指をパキパキならしながら近づいてくるたけしにモヒカンは狼狽えた。
(うわ~周りの人めっちゃ見てる、、)
さすがに学長訓示の最中にケンカはやばかった。
「ちょ、ちょっとまて!落ち着け!お前もここの生徒だったんだな。とりあえず周りみろ!」
ざわざわ
「えーちょっとなにーケンカー?」
「おいおい、モヒカンと金髪がケンカしてるぜ笑」
「やだー」
「な?お前もせっかく魔法使いとして選ばれたんだからいきなり問題沙汰はいやだろ?一旦落ち着こうじゃないか」
(頼む、、!ひいてくれ!)
モヒカンは冷や汗をかきながら祈った。
「それもそーだな!」
ほっ
「遅れてきた方は中に入って自分の席に静かに着席して下さい」
案内係の女の先輩がでてきて、階段の上からジロリと2人を一瞥して静かに言った。
(てめーいきなり殴りやがって、頭おかしいんじゃねーの!)
(うるせー脊髄反射じゃ)
2人が競うように会場に入りながらこそこそ話していると、後ろから愚痴が聞こえてきた。
「まったく、、!今年の新入生は金髪にモヒカンなんて、魔高もどうかなっちゃったのかしら⁉︎今年は<大転生>の子が入学するって噂があるのに、、」
先輩の愚痴を背中で受けながら、2人は真っ暗な会場の席に座った。
「なかなか元気な新入生がいるようだね。」
壇上で話していたハゲの学長が、2人の方に向けて言った。
会場には、くすくす笑い声が上がった。
スポットライトに照らされた学長が続けて言った。
「さて、今日から魔高の生徒となる諸君には、はげたおっさんの話よりも、血気盛んな同級生の方が間違いなく興味を引くだろうが、それでも君たちにとって、一生に一度しかない、魔高の新入生として、私の訓示を聞いてもらいたいのだが、どうだろうか。」
学長がそう言うと、ざわついていた会場が水を打ったように静かになった。
「ありがとう。君たちの敬意に感謝する。」
学長は愛嬌のある笑顔を見せた後に話を続けた。
「まずは新入生諸君、入学おめでとう。君たちは偉大な魔法の力をその身に宿して、本校への入学を認められた才能ある若き血潮です。これまでの義務教育が終わり、魔法の専門教育がこれから始まります。魔法とは、魔法使いとは何かをどっぷりと学ぶ7年間となるでしょう!そして一生ものの友人とライバルができることでしょう!だって7年間も一緒に暮らすんだから!」
学長のドーン・橋本が気色ばみながら物凄い興奮した様子で話しているものだから、学生たちは笑っていいのか真面目に聞いていた方がいいのか分からなかった。
遠目から見ても唾がすごい飛んでいた。
「それにあれだ!恋人なんかも作っちゃえばいいじゃない!?正直に言おう。魔法使いは魔法使いと結婚するのが過半数だ!なんでかって!?だって青春時代をほとんど魔法使いに囲まれて過ごすもんだからさ!!」
ここまで言い切ると、流石に生徒たちは歓声をあげた。
「ヒュー!」
「俺は明日にでも結婚するぜ!」
「まずは相手だろ笑」
「きゃー!」
「すごい学校ね笑」
たけしも唸った。
「最高の場所にきちまったようだな、、、えーとあいつの名前なんていうだ?」
モヒカンが嫌そうに答えた。
「橋本だよ。ドーン・橋本。」
「イカすぜ橋本ー!!!」
「うるせぇぞガキども!!!!」
会場内に響き渡るように怒声が響いた。沖・キャストレイ・玲子副学長のものだった。
「黙って聞いてろ!!」
玲子副学長の一声で会場はまた、水を打ったように静かになった。
(な、何者だよ。あのタンクトップの筋肉女は、、)
何枚か会場のガラスが割れていた。おそらく怒声によるものだと理解したモヒカンは震えた。他の生徒たちも蛇に睨まれたカエルのように小刻みに震えていた。
(じょ、上等じゃねーか、、)
たけしは強がりながらも、自分の唾を飲み込む音が、静かな会場に驚くほど大きな音で響いた気がした。ドーン・橋本は玲子副学長の怒声に少し気まずそうな表情で、話を続けた。
「うおっほん」
「、、もう話しても大丈夫かな?沖副学長?」
「しゃんとしろ!!」
「は、はいい!!」
「続けろ!!」
「はい!!」
ドーン・橋本は、少し罰が悪そうに、チラチラ玲子副学長の方を見ながら、話を続けた。
「、、、え~、そういうわけで、、みなさん、7年間の学園生活で良き仲間と、競い合えるライバルと、苦しさをわかちあえる恋人を見つけてください。まぁ中にはポルポルと結婚する変わり者もいますがね。」
ドーン・橋本は威厳を取り戻すかのように、ジロリと教員席のメガネの男を睨みつけた。自然と生徒の視線もメガネの男に集まった。
メガネの男は心底疲れたような顔をして、引きつった笑顔をドーン・橋本にむけた。
「えっイケメン!」
あちらこちらから女学生の囁き声が上がってきた。
それもそのはず、橋本が睨んでいるメガネの男は、少しパーマがかった長髪に黒縁のメガネをかけた180cmはありそうな色白の男性だった。遠目から見ても9頭身はありそうなスタイルの良さに整った顔立ちが見て取れた。年は30代ぐらいだろうか。肌の艶も若いように感じられた。
「ちっ!!」
ドーン・橋本の舌打ちだった。メガネの男に視線を注いでいた女学生たちもびっくりして橋本のほうに注視した。なんせ、マイクを通して舌打ちしていたからだ。橋本はまだメガネの男を睨みつけていたが、会場の学生たちが自分に注目していることに気づき、少し照れた様子で上機嫌になった。
「まぁなんでもいいですよ。はい」
「ひとまず訓示終わり!」
高らかに橋本が叫ぶと、会場が一斉に明るくなった。
「ウノ塔とドス塔の学生は私についてきな!いくよ!」
沖・キャストレイ・玲子が声を上げ、さっさと体育館を出ていった。大勢の生徒が慌てて、自分の入る寮の名前を確認しだした。
「ふん、そんなことも覚えてないのかしら。雑魚ばっかね。」
沖の後に1番についていったのが金髪のウェーブをなびかせている小柄な少女、ヴィクトリア・未央・オズボーンだった。未央は慌てている生徒たちを横目にふふっと笑いながらさっそうと体育館を後にした。その後ろをぞろぞろと出遅れた生徒たちがついていった。
「ふーん」
たけしは金髪をなびかせている未央がちらっと視界に入って、ふーんと言った。
「き、き、きみは、スィンコ塔だね。たけし君」
「ひょわ!!」
急に後ろから声をかけられてたけしは驚いた。たけしが振り向くと後ろに背の低い白衣の男がいた。肩まで届く伸び切った髪は、脂でテカテカしながらパーマがかっていた。
「は、は、はじめまして、ペルー・仁です。ま、魔術概論の教授でで、です。」
「お、おう。よろしくな。」
「き、き、君に会えて、僕は光栄でで、です。」
ペルー・仁はきらきらした目でたけしを見つめた。
「き、き、君が、、あ、あの<大転生の子>なんだね、、!300年に一度の、、ふ、ふふ!困った事があったらなんでも、い、、言ってきなさい、、!ぼ、、僕は、け、、結構、みー、ミーハーなんだ!ひとまずき、き、君はぼ、ぼくのか、管理する、スィンコ、スィンコ塔だから、つ、つ、ついてきなさい」
「あ、はい」
たけしはよく分からなかったがペルー・仁の後についていった。体育館を出るまで、たけしを見てひそひそ話をする学生達が大勢いたが、たけしは気付かなかった。
「え、先生。他の人は居ないんですか?僕だけですか?」
「ほ、そう、、そうだね。じ、事前に配った、あ、案内に書いて、書いてあるんだが、、よ、呼んであげようかな、」
ペルー・仁はスィンコ塔に入寮する新入生リストを取り出すとリストの名前を撫でながらぶつぶつ言い出した。
「こ、こ、この声がき、聞こえた学生は、入り口でたとこ、、右、、大転生のたけし君もいる。そ、そこにきたまえ、、」
リストをしまいながらペルー・仁は興奮していた。
「ふ、ふふ、、!た、大変なこと、な、なるぞ!」
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彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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