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16.魔導船を作る

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質問に聞く。
「魔力で動く船に改修出来ないか。」
- 改修は可能です。動力として魔力を使うのであれば、魔導推進装置の魔法陣を魔核に描き、魔力を取り出し魔核に伝える魔道具、それに魔力の源となる魔晶石を作る必要があります-

「スクリューはどうする。」
- 必要ありません。魔導船ですから、魔力で動きます-

「しかし、作るのは難しそうだな。」
- 魔導動力の仕組みを理解し、創造することを想像できれば、光の精霊ですから、簡単に作れます。いっそ、この海賊船を魔導船に改修することを想像すればいいのです。それに空を飛ぶことも可能になります。その為には魔導船の仕組みを理解することです。理解出来なければ、操縦もままなりません-

「確かに。で、教えてくれるのか。」
- 承知しました。今晩、睡眠中に注入します-

「頼んだ。」
- お任せ下さい-

「ついでに、魔術の知識も注入してくれないか。」
- 私の存在意義が・・・。失礼しました。一度では負担が大きいので、数日掛狩りますが、よろしいでしょうか-

「頼む。それに、お前は拙者の大事な友人であり、相談相手だ。何を心配しているのだ。それだけでも十分なのに。」
- 嬉しく心に留めます-


魔導船が完成した。
以外に簡単だった。想像力と創造力があれば。

タカオウが獲って来たワイバーンの魔石を魔核と魔晶石に変換し、魔核に魔法陣を描いて、魔核に魔晶石から魔力を伝える魔道具を作る。魔導船の動力を作り、同様に結界発生装置を作り出した。
知識があれば簡単な仕組みだ。

船は、与平が思い描く通りに形と構造を変え、全体を硬化させると頑丈な船が完成する。
錬金術の素養と魔力があれば出来る。


処女航海に出た。
岸壁の魔導船は白く輝き、形は柔らかく丸みを帯びている。
しかも帆がない分、すっきりした美しい船形である。

操舵室に据え付けられた魔導回路で船を操る。要するに一般的な動力船と変わらない。違いは無音で進むことである。
動力船と同じく前後進レバーと舵があり、飛ぶ時の為に浮遊レバーがある。


岸壁を出航した魔導船は沖合に出ると航海試運転に入る。
帆船では到底出し得ない速度で進む。この世界では最速の船である。快適な船旅を楽しむ。揺れも無いから船酔いもしない。

次に、飛行に切り替える。浮遊レバーを押し、前進レバーを押すと白亜の船は海面から浮き上がり、音もなく高度を上げる。海上から100メートル上がると水平飛行に移った。飛行中でも振動や揺れもない。島を一周し、今度は高台上空に向かう。浮遊レバーを上げると頂上に向かう。着くと、浮遊固定させる。

一瞬考えた。『タカオウサイズの魔獣に襲われたら。』
- 結界防壁を備えています-

「自動で張れないのか。」
- 張れます-
「そうだった。魔法陣を描いた。」

- 与平殿の知識にあるはずです。何しろ建造されたのは与平殿ですから-
「頭を切り替えないと思い出せない。」
- 了解しました-

「ついでにどこかの街まで行ってみようか。方角は判るか。」

- 判ります。では、自動操縦でアーリエント王国の上空まで航行します。街から見えないよう偽装します-
「頼む。」

島から南に向かう。島が小判大になるまで高度を上げ、そこから、速度が上がる。周囲は海ばかりで、高速で進んでも実感が湧かない。小半時経った頃、微かに陸地の影が見えて来た。あれがアーリエント王国。

突然声がした。
- 大型の船がクラーケンに襲われています。助けに入りますか-
「もちろんだ。船に近づいてくれ。」

下を見ると、巨大なイカのクラーケンが船の甲板に手足を伸ばしている。船員たちが剣や木材棒で立ち向かっているが、旗色は悪い。
魔導船をクラーケンの近くに寄せて、甲板にしがみ付いているイカの手足を風刃で切り取って行くが、次々と手足が水中から出てくる。
イカの足は8本のはずだが、限がない。
きっと再生しているに違いない。

タカオウを呼び出した。
《タカオウ、倒せるか》
《潜られないようにしてくれれば》
《やってみよう》

与平は、イカの周囲を凍らせる。
タカオウの羽槍が、結界を破って、イカの胴体に次々とめり込んでゆく。
イカの手足が凍り付き、海に潜ろうとすると、次々と手足が千切れる。
潜られては不味い。
そこに、タカオウの羽槍の第2次攻撃が突き刺さり、流石のクラーケンも動きを止めた。
結界で包み魔力を吸い取る。
久しぶりの大量の魔力に力が漲る。

タカオウが上空から舞い降りて、イカを掴むとそのまま、跳び去ってしまった。タカオウの食料になるのだろう。

与平が甲板に降り立つと、剣や木材棒を持った船員達が集まって来た。
「お前は何者だ。」
「拙者は与平という冒険者だ。先ほどのギガントイーグルは拙者の従魔だ。もう、心配ない。」
「じゅ、従魔だと。そんなことがあるか。」
「疑うなら、もう1度呼び戻すが、いいか。」

船長帽を被った男が走り寄って来た。

「待ってくれ。皆、剣と木材棒を下ろせ。私は海洋大臣の長田だ。助けてくれたのを見ていた。感謝する。」
「与平です。アーリエント王国の船ですか。」

「錦国の貨物船だ。錦国の堺港からアーリエント王国のマリン港に向かっている途中だ。私はアーリエント王国の国王に謁見するために来た。こんなところでクラーケンに襲われることはないので、油断していた。通常なら魔導推進装置で逃げるのだが、想定外の水域だったのだ。与平殿の船は魔導船のようだが、空を飛べるとは巨大な魔石を使われているのだな。」

「ワイバーンの魔石です。」
「この船の推進装置の動力源も魔石から取り出した魔力だ。魔晶石が入手できないので、非常時だけ稼働させる。」

魔晶石が入手できないと聞いて、これ以上魔導船の事を探られるのは不味いと考えた。一刻も早くこの船から離れることを優先することにした。
「長田大臣、拙者は急用でここを通りかかったのですが、先を急ぎますので、失礼いたします。」
「待たれよ。まだ、謝礼が、」

与平は魔導船に転移すると、そのまま高度を上げ、アーリエント王国に向かって出発した。


陸地が急速に近づいてくる。かなりの高速で、内陸に向かってそのまま進んでゆく。魔導船は幾つかの村を飛び超えて行く。

- 街が見えてきました-
「あれが、アーリエント王国の街か。大きくはないな。」

― どちらかというと辺境の近くの小都市です-
「降下できるか。」

- 降下すると偽装が役に立たなくなります-
「ここまでか。島から一時で来れたな。今日は収穫が多かった。」

- はい、魔導船の速度を上げれば、半時で来れます-
「これ以上見ていても、何も判らない。帰ろうか。」

突然視界が変わり、島の上空だった。

「転移も出来るのか。」
- 与平殿が転移させたのです-

「帰ろうと思った途端、転移したのか。マナが増えると何でも出来るな。」


洞窟の岸壁に接岸させて、与平は降り立った。
処女飛行は順調であったが、貨物船を救助したのは予定外だった。
だが、怪我人や死者が出なかったので、良しとしよう。
この件は、終わったので忘れる。



数日後、ダンジョンの様子を見に行く。刀を持つ。
外に出ると、昨日の夕方も雨が降ったようで、草木が濡れ、水溜まりがあちこち出来ている。乾季から雨季になったのか、良く判らない。
畑の近くに溜池を掘るのもいいのかもしれない。

ダンジョンは温泉の先の高台から丘の方向に向かった所にあるようだ。
高台の上に転移し、林の中へと下る。
木々が茂り、蔦が纏わりつき、垂れているところもある。森、いやジャングルのようだ。
ジャングルは右側、つまり島の北側に広く続いており、幾つかの大きな魔力を感じ取れる。この島の魔獣の住処は、島の半分以上を占めるこのジャングルの中にあるのだろう。

刀で切り開きながら進む。四半時かかって、ダンジョンと印してあった場所に着いた。
洞穴に重厚な鉄の扉があり、入口となっている。
こんなところに違和感しかない扉を誰が何の為に付けたのだろうか。

開けてみようと思ったが、鍵穴があるので、諦めた。
引き返そうとしたその時、扉が軋んだ音を立てて開いた。
どうしようかと迷ったが、いざとなったら転移すればいいと考え扉の中に滑り込んだ。
入った途端、後ろで扉がガシャンと音をたてて閉まった。
退路を遮断された。
問題ない。転移できる。

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