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第3章 愚者の選択
11.憎悪の狼
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一鉄が放ったのは10G銅貨。相手を殺さないように手加減をした攻撃であった。
その威力は金貨や銀貨とは比べものにならないような微弱なものだったが、兵士や冒険者ではない一般人であれば、十分に昏倒させられるくらいの攻撃力はある。
「鬱陶しいぜ!」
しかし、犬科の獣人らしき男は顔面に向けて飛んできたコインを、左手でこともなさげに弾き飛ばす。
そして、そのままの勢いで跳躍して、一鉄に向けて爪で斬りかかる。
「っ……なかなか素早いじゃないか!」
一鉄は胸部を切り裂こうとしてくる爪を躱す。
獣人の男はなおも両腕を振り回して、一鉄に追撃を仕掛けてくる。
そのスピードは目を見張るほどに素早く、一鉄のレベルが大幅に上がっていなければ抵抗もできず八つ裂きになっていたに違いない。
しかし、その身体スペックに反して、男の動きは精彩を欠いており、あまり戦い慣れているようには見えなかった。
(獣人族は人間よりも身体能力が高いんだったな……訓練を受けた兵士ほどではないが、そこら辺のチンピラくらいだったら圧倒できるだろうな)
「このっ、このっ、このこのこのコノオオオオオッ! 当たりやがれえええええええっ!」
「……そんな大ぶりな攻撃にあたるかよ。俺だぞ?」
一鉄は軽くうそぶきながら爪をかいくぐり、男の懐へと潜り込んだ。そして、男の腹部へと手の平を押し当てる。
一鉄のステータス値は、いくらレベルが上がっても攻撃力は『1』のままだった。そのため、『銭投げ』を使わない打撃攻撃では相手にダメージを与えることはできない。
しかし――
「ぐふうっ!?」
手を押し当てられた途端、獣人の男は腹部に強烈な衝撃を受け、身体をくの字に折って後方へ吹き飛ばされていった。
「非殺傷銃《スタンガン・コイン》」
一鉄は、家の残骸に突っ込んでぐったりと気を失った男を眺めながらつぶやく。
繰り出したのは敵を殺すことなく鎮圧するために生み出した技だった。
『非殺傷銃』と名付けたその技は、相手の身体に手の平を押し付け、その手の中に【貯金箱】から1G銅貨を10数枚ほど取り出して【銭投げ】を発動するものである。
1G銅貨による銭投げは1発1発こそ弱かったが、それでもゼロ距離から一度に放たれたことで意識を刈り取るには十分な打撃に変わるのだった。
「う……ぐ……」
家の残骸に埋もれながら、獣人の男は力なく呻き声を上げている。
かなり痛烈な突っ込み方をしたようだが、やはり獣人族は身体が丈夫なようで、命には別状はなさそうだった。
「さて……話を聞かせてもらうとしようか。どうして俺を『獣人狩り』の仲間だと判断したのか。お前が何を知っているのか、洗いざらい吐いてもらうぜ」
「があっ……!?」
一鉄は脚を掴んで男の身体を引っ張り出した。そして、目を回している男の腹部に容赦なく靴で踏みつける。
ミャアのような子供ならまだしも、この男は立派な成人男性だ。問答無用で襲いかかってきたのだから、多少雑な扱いになっても構わない。
一鉄の攻撃力は底辺だったが、それでも完全に脱力している状態への打撃は気つけ程度にはなったらしい。踏みつけられた男はすぐに目を覚ました。
「ぐっ……俺は、負けたのか……チクショウ、みんなの仇をとれなかった……!」
「いい加減にこちらの話を聞け。俺は『獣人狩り』じゃない。むしろ、連中を追っている人間だ」
「っ……そんな言葉、信用できるわけが……!」
「お前が生きているのがその証拠だろう。俺が『獣人狩り』だったら、どうしてお前を殺さないんだよ」
「それは……」
「よく考えろ。お前の仲間を殺した連中は、相手を殺さないように気遣ってくれる奴らだったか? 獣人族の集落をこんなふうにした連中が、敵に情けをかけると思うか?」
「…………」
一鉄の説得に男はしばらく黙り込んでいたが、やがて視線を背けてポツリとつぶやく。
「本当に……アイツらの仲間じゃないんだな? 同胞を殺した仇じゃないんだな?」
「そう言っている。というか……お前はどうして俺を連中の仲間だと思ったんだよ? こんなことをするクズ共と同類扱いされるのは、さすがに不愉快だぞ?」
「そんなのっ……!」
男は噛みつくように牙を剥いたが、上から見下ろしてくる一鉄の視線と目が合うと、ぐっと言葉を飲んだ。
そして、獣の耳と尻尾をへにゃりと垂らして、力なくつぶやく。
「そんなの……アンタが黒髪だからに決まっているじゃないか。俺達の村を滅ぼした連中も、同じような黒髪だったから……」
その威力は金貨や銀貨とは比べものにならないような微弱なものだったが、兵士や冒険者ではない一般人であれば、十分に昏倒させられるくらいの攻撃力はある。
「鬱陶しいぜ!」
しかし、犬科の獣人らしき男は顔面に向けて飛んできたコインを、左手でこともなさげに弾き飛ばす。
そして、そのままの勢いで跳躍して、一鉄に向けて爪で斬りかかる。
「っ……なかなか素早いじゃないか!」
一鉄は胸部を切り裂こうとしてくる爪を躱す。
獣人の男はなおも両腕を振り回して、一鉄に追撃を仕掛けてくる。
そのスピードは目を見張るほどに素早く、一鉄のレベルが大幅に上がっていなければ抵抗もできず八つ裂きになっていたに違いない。
しかし、その身体スペックに反して、男の動きは精彩を欠いており、あまり戦い慣れているようには見えなかった。
(獣人族は人間よりも身体能力が高いんだったな……訓練を受けた兵士ほどではないが、そこら辺のチンピラくらいだったら圧倒できるだろうな)
「このっ、このっ、このこのこのコノオオオオオッ! 当たりやがれえええええええっ!」
「……そんな大ぶりな攻撃にあたるかよ。俺だぞ?」
一鉄は軽くうそぶきながら爪をかいくぐり、男の懐へと潜り込んだ。そして、男の腹部へと手の平を押し当てる。
一鉄のステータス値は、いくらレベルが上がっても攻撃力は『1』のままだった。そのため、『銭投げ』を使わない打撃攻撃では相手にダメージを与えることはできない。
しかし――
「ぐふうっ!?」
手を押し当てられた途端、獣人の男は腹部に強烈な衝撃を受け、身体をくの字に折って後方へ吹き飛ばされていった。
「非殺傷銃《スタンガン・コイン》」
一鉄は、家の残骸に突っ込んでぐったりと気を失った男を眺めながらつぶやく。
繰り出したのは敵を殺すことなく鎮圧するために生み出した技だった。
『非殺傷銃』と名付けたその技は、相手の身体に手の平を押し付け、その手の中に【貯金箱】から1G銅貨を10数枚ほど取り出して【銭投げ】を発動するものである。
1G銅貨による銭投げは1発1発こそ弱かったが、それでもゼロ距離から一度に放たれたことで意識を刈り取るには十分な打撃に変わるのだった。
「う……ぐ……」
家の残骸に埋もれながら、獣人の男は力なく呻き声を上げている。
かなり痛烈な突っ込み方をしたようだが、やはり獣人族は身体が丈夫なようで、命には別状はなさそうだった。
「さて……話を聞かせてもらうとしようか。どうして俺を『獣人狩り』の仲間だと判断したのか。お前が何を知っているのか、洗いざらい吐いてもらうぜ」
「があっ……!?」
一鉄は脚を掴んで男の身体を引っ張り出した。そして、目を回している男の腹部に容赦なく靴で踏みつける。
ミャアのような子供ならまだしも、この男は立派な成人男性だ。問答無用で襲いかかってきたのだから、多少雑な扱いになっても構わない。
一鉄の攻撃力は底辺だったが、それでも完全に脱力している状態への打撃は気つけ程度にはなったらしい。踏みつけられた男はすぐに目を覚ました。
「ぐっ……俺は、負けたのか……チクショウ、みんなの仇をとれなかった……!」
「いい加減にこちらの話を聞け。俺は『獣人狩り』じゃない。むしろ、連中を追っている人間だ」
「っ……そんな言葉、信用できるわけが……!」
「お前が生きているのがその証拠だろう。俺が『獣人狩り』だったら、どうしてお前を殺さないんだよ」
「それは……」
「よく考えろ。お前の仲間を殺した連中は、相手を殺さないように気遣ってくれる奴らだったか? 獣人族の集落をこんなふうにした連中が、敵に情けをかけると思うか?」
「…………」
一鉄の説得に男はしばらく黙り込んでいたが、やがて視線を背けてポツリとつぶやく。
「本当に……アイツらの仲間じゃないんだな? 同胞を殺した仇じゃないんだな?」
「そう言っている。というか……お前はどうして俺を連中の仲間だと思ったんだよ? こんなことをするクズ共と同類扱いされるのは、さすがに不愉快だぞ?」
「そんなのっ……!」
男は噛みつくように牙を剥いたが、上から見下ろしてくる一鉄の視線と目が合うと、ぐっと言葉を飲んだ。
そして、獣の耳と尻尾をへにゃりと垂らして、力なくつぶやく。
「そんなの……アンタが黒髪だからに決まっているじゃないか。俺達の村を滅ぼした連中も、同じような黒髪だったから……」
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