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第10話 ようやく始まるダンジョン探索
しおりを挟む結局、午前中は何事もなく自習室をすることができた。
もちろん、三人組の男子生徒による襲撃がなければの話だが。
(結局、アイツらの目的はなんだったんだ?)
彼らとは面識がない。
琥珀に対するイジメはあくまでもクラス内のものだったので、坂木と呼ばれていた少年ら三人らが加担したこともなかったはず。
(だけど、雰囲気から察するにタダ事じゃなさそうだよな……絶対に関わらないようにしておこう)
「トイレ行こ」
自習室で弁当を食べてから、琥珀は席から立ち上がった。
そのまま廊下を歩いてトイレに向かうが……その途中で何者かに腕を掴まれて、空き教室に引っ張り込まれた。
「わっ!」
「さっきはよくもやってくれたな! このゴミクズ引きこもり野郎!」
「ウゲッ……」
空き教室の扉が閉まる。
そこにいたのは先ほどの三人。坂木と二人の仲間だった。
「昼休みが始まってから、ずっと待ち構えていた甲斐があったぜ……ここなら誰の邪魔も入らないからなあ!」
「うっわ……ずっと待ってたのか?」
暇かよ……とつぶやきそうになるのをすんでのところで堪える。
この状況でそんなことを言おうものなら、鉄拳制裁は免れない。
「……っていうか、さっきから僕に何の用なんだよ。僕が君達に何かしたのか?」
「……どこにやった」
「へ?」
「アイツらのことをどこにやったって言ってんだよ! お前がどっかに拉致ったんだろう!?」
「アイツらって……まさか、ウチのクラスメイトのことを言ってるのか?」
琥珀は目を丸くした。
坂木をはじめとした三人の顔は真剣そのもの。冗談を言っているような雰囲気ではない。
「僕が知るわけないじゃないか! 何の根拠でそんなことを言ってるんだよ!」
「知らないわけねえだろうが!」
「ッ……!」
坂木が壁を殴りつける。
噛みつくような……いつその暴力をこちらに向けてくるかわからない顔で。
「知ってんだよ。柊木や他の連中がお前をイジメてたことくらい。アイツらのことを恨んでたんだろ?」
「それは……」
「柊木達が行方不明になって、それと同時にお前が学校に来るようになった……無関係なわけがねえ。お前がアイツに何かしたに決まってる!」
「いや……本当に無関係なんだけど……」
言いがかりにもほどがある。
どうやら、坂木はクラスメイトの柊木と付き合いがある様子だった。
柊木翔子はクラスの女子の一人であり、クラスの男子に混じって積極的に琥珀を虐げていた女子生徒である。
「アイツをどこにやった! さっさと吐きやがれ!」
「グッ……!」
坂木が琥珀のことを強く突き飛ばす。
自分よりも十センチは大柄な男子に勢いよく押されて、琥珀が壁に頭を打ちつける。
「あ……」
後頭部に強い衝撃が走り、意識が遠のいていく。
薄闇のように暗くなっていく視界の中で、坂木と仲間二人が焦ったような顔をしているのが見えた。
〇 〇 〇
「キュウッ!?」
「どうした、の……アンバー?」
目を開けると、目の前にヘリヤの顔があった。
端正に整った美貌が琥珀の顔を覗き込んでおり、心なしか心配そうに見える。
(僕は確か、アイツに押し飛ばされて……!)
後頭部に一瞬だけ鈍痛が走るが、すぐに消えた。
ダメージを受けたのはペンギンの身体ではないので、幻痛というやつだろう。
「キュイ、キュイ」
(また召喚されたのか……人間の方の身体はどうなったんだ? まさかとは思うけど……死んじゃったりしてないよな?)
刑事ドラマなどでは、殺す気が無かったのに揉み合っているうちに被害者が後頭部を強く打って、死んでしまう場面がよくある。
琥珀自身がそうなっていないという保証はない。
(もしも死んだらどうなるんだ? 元の世界に戻れず、ずっとペンギンのままなのか?)
その可能性はあるし、あるいは人間側が死んだらペンギン側も死んでしまうという可能性もゼロではないが。
(大丈夫だよな? 石とか固い物にぶつけたわけじゃないし。壁に当たったくらいで死んだりするはずがないよな?)
「だいじょうぶ、だよ。私がいるよ」
「キュッ……」
不安に押し潰されそうになっていると、モチモチとした柔らかな感触が顔を包み込んでくる。
最高級のクッションのような物体。甘酸っぱい汗の香り。
すでに何度か味わったそれがヘリヤ・アールヴェントの巨乳であることに気がついた。
「怖くない、よ。だいじょうぶ。大丈夫。私がそばにいるからおびえなくて、いいよ……」
「キュウ……」
(はい……冷静になってきました)
やはり女性の乳房というのは安息の象徴なのだろう。
こうして顔を埋めているだけで、ありとあらゆる不安と恐怖が消え去っていく。
(何というか……もう、このまま死んでも良いんじゃないか?)
このおっぱいに埋もれて死ぬのであれば本望である。
最悪、人間『水島琥珀』の肉体は脳挫傷によって命を落としているだろうが、この柔らかすぎる胸と引き換えであれば惜しくはない気がした。
「ヘリヤ。大丈夫か?」
「アゲハ」
琥珀に抱擁しているヘリヤに、村上揚羽が声をかけてきた。
「さっきから騒いでたみたいだが……ペンちゃんがどうかしたのかい?」
「ペンちゃんじゃない。アンバー」
「ああ、そうだったか。呼びにくいんだよな、その名前」
「かっこいい」
ヘリヤが不服そうに唇を尖らせて抗議する。
「すまない、馬鹿にしたわけではないよ。それよりも……そろそろ私達のグループに順番が回ってくる。準備はできたか?」
「アンバー」
ヘリヤが抱擁を解いて、正面からペンギンの顔を覗き込む。
「これから、ダンジョンはいる。いっしょにいける?」
「キュイ?」
その言葉に周囲の状況を確認する。
今日は屋外に召喚されたらしい。周囲にはレンガ造りの建物が並んでおり、中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。
ヘリヤと揚羽、他のクラスメイトは街中にある広場のような場所に集まっている。
当然ながら、昨晩のように全裸で入浴中というわけではない。
クラスメイトは制服の上から胸当てやサポーターのような物を身に付けており、手には剣や槍といった武器を持っている。
「キュッ!」
そして、広場の中央には大理石らしき材質の大きな門があった。
三メートルほどの高さの門はどこかの建物に繋がっているわけではなく、何もない場所にポツリと置かれていたのである。
(アレってもしかして……ダンジョンの入口なのか!?)
「よし、それじゃあ俺達の番だ!」
「行くぜ! 油断するなよ!?」
琥珀の予想は的中する。
門が開くと、その向こうにはあるはずのない石造りの部屋が広がっていた。
クラスメイトは四~五人組のチームになって、門の中へと続々と入っていく。
「キュウ、キュウ!」
(やっぱりそうだ! ダンジョン……異世界っぽい!)
マンガやライトノベルに登場するダンジョンにはいくつかのタイプがある。
オーソドックスなのは洞窟型だが、塔や城といった建物の形をしているものもあれば、海の中や空の上にあるダンジョンもあった。
今回の場合は異次元型のダンジョンなのだろう。
あの奇妙な門は異空間に繋がっており、物理法則を無視してどこか別の空間に繋がっているのだ。
「キュウッ! キュウッ!」
初めて目にするダンジョンに琥珀は状況も忘れ、パタパタと短い両手を上下させて喜びを表現する。
そんな琥珀の姿を見やり、ヘリヤが安堵したように微笑んだ。
「アンバー、元気になった」
「ダンジョンに連れていけそうかい?」
「だいじょうぶ。つよい子だから」
「そうか? だったら良いけど……」
学校で同級生から暴行を受けた琥珀は三度目の異世界召喚を体験することになった。
教室、浴室に続いて……今度はダンジョン探索。
これまではヘリヤに抱きしめられるばかりで完全な愛玩動物扱いだったが、ようやく異世界っぽいイベントが発生したようである。
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