帝国のドラグーン

第２２話

　アルジェに入ったオルチ達を当初は市民達は歓迎した。
　だが、オルチ達が市内で金を払う事なく商品を奪い去る。歩いている者達を見るなり、因縁をつける等といった行いを始めると、市民の不満は募らせていた。
　オルチに救援を依頼した名家達も失望を隠す事が出来なかった。
　中には、オルチ達の振る舞いを改める様にいう者も居たが、オルチは耳を貸さなかった。
　
　占領したアルジェの屋敷の一つにオルチは居を構えていた。
　屋敷の一室にはオルチとフズールの他幹部達が勢ぞろいしていた。
　その中にはハサンの姿もあった。
「どうだ？　市民達の様子は？」
　オルチがそう訊ねると、幹部の一人が口を開いた。
「市民達は俺達の行いに不満を募らせているぜ。これは、その内は反乱が起こるかも知れないぜ。親爺」
　その報告を聞いて、ハサンを除いた皆驚いた様子を見せなかった。
　自分達の行いで、そうなる事が分かっているという雰囲気であった。

「……親父」
「何だ？　ハサン」
「これは、何が目的なんだ？」
　ハサンがアルジェで皆が行っている理由が分からず訊ねた。
　占領した最初はガス抜きで良いかと思っていたが、何時までも続けていたので、そろそろ止めさせるべきだと思いオルチに述べたのだが。
『若いな。わたしがこうする理由が分からないとはな』
　とだけ言ってハサンの頭を撫でたオルチ。
　オルチの行動に意味が分からず、ハサンは首を傾げるしかなかった。

「ふふふ、今話すから落ち着くのだ」
　皆が分かっている中で、一人だけ分からないハサンは疎外感を感じているのか早く聞きたそうな顔をしていた。
　オルチは苦笑いしつつ別の幹部を見た。
「そちらはどうであった？」
　オルチが訊ねると、その幹部は笑みを浮かべた。
「親爺の予想通り、スペインの親しくしていた奴らが俺らの行いを見て、スペインの奴らに接触して、援助を求めて来たぜ」
　その報告を聞いたオルチは予想通りの展開に満足そうな顔をしていた。
「これで、その内アルジェの市民がスペインの奴らを当てにして反乱を起こすだろうな。では、此処で有力者の誰かを殺せば不満が爆発するな。そうすれば」
「不満が助長され、反乱が起こる」
　オルチがそう言うと、フズールが髭を撫でつつ述べた。
「その反乱を鎮圧し、スペインの奴らを撃退すれば、このアルジェは俺達の支配下に出来るな。兄貴」
「うむ。その通りだ」
　
　フズールの言葉の言う通りという顔で頷くオルチ。
　其処でようやくハサンはオルチ達が此処アルジェで行っている事の理由が分かった。
（成程な。このアルジェを自分達で支配する為に行っているのか）
　飽くまでも、オルチ達がアルジェに来たのは、アルジェの市内に暮らしている有力者達の依頼で来ただけであった。今も駐屯しているのはスペインの脅威に備える為という名目でいるだけだ。
　その為、オルチはアルジェの支配が出来なかった。
　オルチはこれを機にアルジェを支配下に抑えるために計略を練ったのだ。
（海賊達に粗野な行いをさせて、市民の不満を募らせて、反乱を起こらせて鎮圧させて支配下に置く。その反乱を助けるために来るスペインの奴らを倒すか。どうも、俺はまだ軍略とかには疎いな）

　話を聞いて、ようやくオルチ達の行いの理由が分かったハサンは頭を掻いた。
「ハサン。これが軍略というものだ。わたしやフズールを見て学ぶのだぞ」
　オルチは優しく微笑みながら告げた。

　数日後。
　オルチはアラブ人の集団の首長であるサーリムを殺害した。
　サリームはオルチに救援を頼んだ者の一人であった。
　だが、調べてみた所、最近スペインの者達に接触していた者という事が分かったが、その事を知っているのはオルチ達だけであった。